「欠片の軌跡」②〜砂漠の踊り子

ねぎ(塩ダレ)

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第四章「独身寮編」

ハニートラップ

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午後になり、鍛練場には半数以上の隊員が集まった。
俺たちはとりあえず端でそれを見ている。
シルクは興味津々と言った様子で眺めていた。

「緊張してるか?」

「何で?」

「落ち着かないみたいだから。」

「そりゃね。こんだけ美味しそうな羊ちゃん達を目の前にしたら、落ち着かないよ~。」

「………。食うなよ?」

俺はゾッとした。
発情期は過ぎているが、こいつならやりかねん。
案の定、シルクは目を丸くした。

「えっ!駄目なの!?」

「駄目だ。マジやめて。」

「……ん~ま、いいか。食べないよ?……だって俺が食べられる方な訳だし~。」

「おいっ!!」

シルクは上機嫌である。
今後の事を考えると少し頭が痛い。
頼むからここで昼ドラのような展開は生み出さないでくれ。
俺の心配をよそに、シルクは言った。

「で?俺は何をすればいいの?」

「言われた通りにすればいい。」

「了解。」

とにかく目の前の仕事をこなそう。
俺はシルクを連れて鍛練場の真ん中に立った。

「集まってもらい、ありがとうございます。今日は皆さんの鍛練の一貫として、武術を取り入れるべきではないかと思い、指導できる者を連れて来ました。今後も指導をしてもらうかはわかりませんが、ひとまず本日はよろしくお願いいたします。」

とりあえず当たりさわりのないことを言う。
集まった隊員達は興味無さげだ。
まぁいい。
いつまでそんな顔でいられるか見ものだ。

「では、指導をする私の従者であるシルクに、自己紹介をさせます。」

俺はシルクを振り返った。
シルクはとりあえずにこやかに立っていた。

「自己紹介って聞いてないけど?何するの?」

「……踊れ。」

「どれくらい?」

「本気で。」

「いいの?」

「全員、ギンギンにしてやれ。」

「羊ちゃん達、可哀想~。仕事中だろ?」

「武術を馬鹿にしてる連中だ。お前の武器でキツイ一発、食らわせてやれ。」

「了解。」

シルクはにんまりと笑った。
俺は端により、シルクは皆の前で綺麗な動作で頭を下げた。

そして唐突に踊り出す。

はじめは皆、何が起きたのか解らず、ざわついていた。
だが次第に誰も何も言わなくなった。

音もない中、シルクの体が、腕が、指先が、滑らかに、優雅に舞う。
その足が音もなく床を蹴り、その美しさを見せつける。

口をぽかんと開けたまま目を奪われるもの、既に性的な刺激に興奮を覚え始めているもの、様々だが、確実に全員がシルクから目をそらせないでいた。

シルクは所々に武術の動きを加えて踊っていた。

何も言っていないのにそれをするシルクは、俺としても流石としか言いようがない。
全員の視線が注がれる中、シルクはだんだんと色を増していく。

妖艶に動く指先。
ちらりと皆に向けた視線。

どこからともなく、感嘆の吐息が漏れ出す。
彼らには、シルクの力など理解できないだろう。
これがどれだけ恐ろしい力なのか。
誰ももう、シルクから逃れる事はできない。
シルクは完全に彼らを魅了していた。


「……ずいぶん、怖い男を連れてきたな。」


ふと、横から声がかかる。
残念。
一人だけそれに気づいた男がいる。
俺はちらりと見やり、シルクに視線を戻した。

「ええ、皆、武術を馬鹿にしてたんで、ぶん殴ってこいと指示しました。この程度では済みませんよ?」

「それは見ものだ。」

シルクが服に手をかけた。
おお、という興奮のどよめきが起こる。
シルクがワイシャツを脱ぎ捨てると、そこは興奮のるつぼと化した。
誰もがシルクに熱狂している。


「お前は、軍隊でも作る気なのか?」

「いや?とりあえず今はシルクがいればいいですよ?」

「だから軍隊を作るのかと聞いたんだ。」

「まぁ、仰る通り、シルクの魅了の力は兵士100人を簡単に取り込めますからね。」

「お前も怖い男だな。」


隊長が喉の奥でくくっと笑った。
シルクの体は汗ばみ、高揚している。
それを皆が食い入るように見つめている。
もう彼らはシルクの思うがままだ。


「おっと、シルクがとどめを刺しますよ?」


俺はクスクスと笑ってしまった。
本気で行けとは言ったが酷なことをする。

シルクがベストに手をかけた。
皆が今か今かと前のめりになってそれを待つ。
皆に悩ましい視線を投げながら、シルクの肩からベストが滑った。

だが完全には脱がない。
半脱ぎのままシルクは舞う。

落胆と期待が最高潮に達する。


「やっちまえ、シルク。お前の勝ちだ。」


シルクがベストを完成に脱いだ。
だが、踊りは彼らに背を向けた形で終わった。

せっかくベストを脱いだのに正面を見ることもできない。
色気漂う背中のラインだけが、その目に写っていた。
歓声とどよめきがうねりをなしている。


「ここからどうする?」

「まぁ、見ていて下さい。最高のショーをお見せしますよ?隊長。」


俺はにっこりと笑って、ゆっくりシルクの横に立った。
シルクが笑いながら俺の顔を覗き込む。

「よくやった。完璧。」

「まぁね。」

「て言うか、そのタンクトップ、どうした?」

「ん?新しく買っといた。」

「いい仕事だ、最終防衛ライン。」

「乳首を守らないとね!主!」

さすがは俺の相棒、わかってんじゃん。
顔を見合わせて笑う。


「さぁ、第二段階だ。」


俺は取ってつけたような笑顔で皆の前に立った。
興奮冷めやらない隊員達は、ショーの実行者の俺を歓迎する。


「ハイハイ!皆さんお静かに!今、踊ったのが、武術指導者のシルクです。よろしくお願いします!」

俺の声に歓声が上がる。
さっきまでの興味のなさから一転、早くシルクと関わりたくて、皆、必死だ。


「え~では、今日は初日と言うこともあるので!特別な事をしたいと思います!ここにいるシルクと戦って下さい!戦闘方法は何でもいいです!もしシルクに勝つことができましたら、今夜、シルクをデートに誘えます!!出掛けるなり、食事に行くなり、好きにして下さい!!」

場に雄叫びが響く。
我も我もと収集がつかないほどだ。

「うわ~。主、悪いんだ~。」

「勝てると思っているからな、彼ら。」

「どの程度、やればいい?」

「怪我させない程度に。だが確実に傲慢な鼻をへし折ってやれ。」

「武器は?」

「そうだな……剣相手だし、棒かな?」

「了解。」

シルクは置いてあった棒を手に取ると、くるくるとデモンストレーションのように回して見せた。


「では!挑戦者はいますか!?」


俺はにっこりとそう言った。

気づきもしないだろう。
これが地獄の扉を開いた合図だったなど……。
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