「欠片の軌跡」②〜砂漠の踊り子

ねぎ(塩ダレ)

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第四章「独身寮編」

悪いことは出来ない

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「なぁ、俺、言ったよな?」

俺は隊長の部屋に来ていた。
渡す物があると呼ばれて来たが、シルクにも渡すからと待っていた。
副隊長と交代のような感じで来ていたはずの隊長は、ここのところ毎日別宮にご出勤だ。

「……何の話だ?」

「だから、シルクはやめておけって。」

「シルクには稽古をつけて貰っているだけだ。」

「ならなんで毎日、こっちに来てるんだよっ!!」

「稽古がしたいからだ。」

「ほ~う?」

脳天かち割ってやろうか!?
この変態ストーカーめっ!!
とはいえストーキングまではまだしていない。
だったらこういった芽ははやく摘むに限る。

「言っただろ?あいつとあんたじゃ、恋愛観というか、そういうのが違い過ぎるって。」

「俺はシルクを愛しているとは言っていない。稽古をつけて貰っているだけだ。」

「愛って……。普通、この話の流れでその単語は出ないぞ?」

「………………。」

はい、黙りです。
俺は苛つき半分、呆れ半分でため息をついた。

「あんたってさ、意外と惚れっぽいよな……。」

「そんな事はない。」

「よくこれまで殿下一筋だったよな~。」

それともこうやってすぐ誰かに惚れては振られ、王子に戻っていただけなのだろうか?
あり得ない話ではない。

「たいちょーさん!!お願いがあります!!」

その時、ノックもなしにバンッとドアが開き、シルクが入ってきた。
その途端、傍目からもわかるほど雰囲気が明るくなる。

「どうした?シルク?」

そう当たり前のように声をかけているが、何かキラキラしたものが飛んでいる。

何より顔!
隊長、顔、ヤバい!!

というか、ノックもなしに入って来たんだから注意しなくていいのか?
他の隊員達に示しがつかないぞ?
それでいいのか?!隊長!!

しかしシルクはそんな事をお構いなしに話を進める。
わかっているのか無意識か、隊長が自分に多少甘いのを察しているようで、猫をかぶってお願いをしだす。

「武術を習いに結構な人数来てるんですが、俺一人じゃ全員を見ていられなくて……。もう少し基本が出来てくれば大丈夫だと思うのですが、今は1つ1つの動作を全員に聞かれるので少し厳しいです。もし心得のある人がいたら、しばらく手伝って欲しいのですが……。」

猫かぶりでおねだりしているが、内容自体は間違ってはいない。
確かにあの人数を一人で見るのは厳しい。
俺がいる時は手伝っているが、何しろお気楽極楽な第三別宮、体術をほぼゼロから学ぶ人間が多すぎる。

「シルク、やっぱりしばらく俺もつくよ。」

「でも主は魔術本部との事もあるでしょ?」

「……俺が付こう。」

ん~。言うと思った。
一緒にいられるいい口実だもんなー。
俺は冷め目で隊長を見つめる。

「あ、たいちょーさんは駄目です。」

だが意外な事にシルクから却下された。
無表情なりにショックを受ける隊長。
ヤベ、ちょっと面白い……。
そんな隊長にシルクはあっけらかんと言い放つ。

「たいちょーさんがいると、その場にいる皆の緊張感が凄く動きが固くなるので、かえって怪我をする恐れがあるので駄目です。」

しかも理由が最もだ。
せっかく動きを良くしようと皆に体術を学ばせているのに、動きが悪くなったり怪我をさせたんでは元も子もない。
流石に色々自覚はあるのか、隊長も最も過ぎて反論も出来ないようだ。

「……わかった。」

そう言われてしまった隊長は、目に見えて落ち込んでる。
ヤバい……面白すぎる……。
しかし仕事はきっちりこなすのが隊長の良いところだ。

「心当たりがあるから、明日連れて行こう。」 

「ありがとうございます!」

わぁっとばかりに喜ぶシルク。
自分が手伝えなくても、シルクの役に立てたのは嬉しいのか隊長の顔がまたヤバくなる。
この人って案外、好きな相手にはわかりやすい態度をするんだな??
俺の時は訳わからなかったけど、王子に対しても結構あからさまな態度をしてたし……。
まぁシルクから見たら、こういう男はただのカモだろうけどな。

「それで?俺とシルクを呼び出したのって何ですか?」

隊長観察も面白いが、いつまでもやっている訳にはいかない。
俺は呼び出された本来の目的に話を戻した。

「……ああ、これを渡そうと思った。」

隊長はそう言うと、俺達それぞれに袋を渡してきた。
開けてみると制服のようだった。

「あれ?これ……?」

俺が渡されたのは、警護部隊の制服から袖を取って丈を短くしたような武術着の様な物だった。
その上に羽織る、魔術師っぽい短めのローブのようなガウンも入っている。

「……戦闘の際、いちいち服を脱ぐ訳にも行かないだろう。ベルトに短刀がつけられるようになっている。」

「え?もしかして俺用の特注?これ?」

「……そうなるな。」

どうやら隊長は俺の戦闘スタイルを考えて、これを用意してくれたようだ。
平民出の俺がそんな事をしてもらえるとは思わず、ちょっとびっくりする。

「シルクにも同じものをと思っていたが、正式な警護部隊隊員ではないので許可が出なかった。ただ指導者と言うことで似たような物が支給された。」

シルクの手に取っている服を見る。
形は俺とほぼ同じだが、警護部隊を示す刺繍模様のない無地の物だ。
ガウンもローブぽくなく普通の上着。

シルクはしげしげとそれを眺める。
特に制服のなかったシルクは、ここのところ動きやすい私服を着ていたし、前は西の国の服を着ていたので物珍しかったようだ。
その様子がちょっと面白い。

「ふ~ん?要するに、仕事の時はこれを着ればいいんですね?」

「そういうこと。」

「戦闘スタイルを鑑み、二人には特別、隊の靴ではなく武術用のサンダルでもいい事になった。正式な場以外でなら、靴でもサンダルでも好きな方をはいてくれ。」

「ありがとうございます。」

俺は隊長に頭を下げた。
なんだか知らないうちに色々してもらってありがたいんだか申し訳ないんだか……。

でもこれで、何かいきなり起きても上半身裸にならなくて済むからありがたい。
俺は隊長ともらった制服に感謝した。











翌日、シルクと二人、新しい制服を着て鍛練場で待っていると、今日もこちらに出勤された隊長がひとりの好青年を連れてやって来た。
シルクが目を丸くしている。

「……昨日、話した手伝いをする者だ。」

「本日より、武術指導の補佐をさせて頂きます、イヴァン・エル・イニスです。よろしくお願いいたします。」

隊長に手伝いとして連れてこられたイヴァンは、雰囲気がとても明るく柔らかい、真っ直ぐな印象の青年だった。
シルクが武術の心得のある人を指定した事もあり、何かやっていたのか、ゴツくはないが良い体格をしている。

俺はほっと胸を撫で下ろした。
性格も良さそうだし、問題ないな~と思ったのだ。

が……。

何故だろう?
シルクの顔が若干ひきつっている気がする。

しかし彼の方は特に変わった様子もない。
どこかのストーカーのようなヤバさもない。
これなら大丈夫だろうと俺は思う。
そんな中、イヴァンは爽やかにシルクに挨拶した。

「よろしくお願いします。シルクさん。」

「はじめまして……。よろしくお願いします……。」

妙に歯切れの悪いシルク。
そんなシルクとは打って変わって、イヴァンはとても明るい爽やかな顔をしていた。
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