「欠片の軌跡」②〜砂漠の踊り子

ねぎ(塩ダレ)

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第四章「独身寮編」

後ろ髪

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「あれ?シルク?何で襟足の髪、結んでるんだ?伸ばすのか?」

朝、身支度をしていると、サークにそう声をかけられた。
振り返り、サークを見る。
同じように身支度を始めたサークは、上半身裸になっていて、その胸には大きな傷がある。
王子を守って死にかけた時の傷らしい。
恋人とはその王子なのだろうか?
もしそうなら人に明かせない恋人というのも筋が通る。

シルクはため息をついた。
サークに聞けばいいだのヘタレだの言ったが、それは自分も同じようだ。

「どうした?」

返事をしないので、サークが不思議そうに首を傾げた。
自分と同室だというのに、着替えを共にしていると言うのに、サークは平然としている。
本当に何とも思われていないのだと身に沁みる。

「……昔ね、言われたんだ。」

「何を?」

「もしも、絶対に叶わない事があって、それでもその未練を捨てきれなかったら、後ろ髪を伸ばせって。」

「何で?」

「知らない。おまじないなんじゃない?」

「ふ~ん?」

本当は知っている。
だがシルクはサークに教えなかった。

それが捨てきれないなら後ろ髪を伸ばせ。
長くなれば、ひょっとしたらその髪に、それが絡まるかもしれないから……。












シルクは頭がぐるぐるしていた。
鍛練場の上座に立ち、準備運動を兼ねた基礎トレーニングをする隊員達を眺める。

「マイクっ!!背中が曲がっている!楽をしようとするな!」

その中を練り歩きながら、細かい指導を入れる青年。
シルクの武術指導の補佐をしに来た、イヴァンという青年。

シルクは彼を知っていた。

どれぐらい知っているかと言えば、彼の臨戦態勢のいちもつの大きさまで知っていた。
そう、イヴァンがどんなセックスをするのかも……。

う~ん。
これってどうなんだろ?

自分のセックスに対する感覚がここの国では特殊なのだ。
だったら、一夜限りの関係に対しても、感覚が違うかもしれない。

長い友人と突然一夜限りの関係を結んでも、やぁ、昨日は意外と良かったな!ははは!と言って、それまで通りの友人として何の問題もなく付き合って行ける感じで大丈夫だろうか?
一夜限りと言っても口上で、関係を結んだのだからと恋人気取りになったりするのだろうか?
下手をしたら、一夜限りの関係を持った事をネタに、脅されたりするかもしれない。
お国柄がわからないうちに、安易に手をつけるべきではなかったな~と思った。

「シルクさん、終わりました。」

その声に、ギクッとする。
顔を上げると、爽やかな笑顔があった。
爽やかすぎて、シルクには相手が何を考えているのか全く理解できない。

「……あ~、うん。なら走り込みさせて。とりあえず別宮一周。」

「わかりました。」

イヴァンはそう言うと全体に指示を出し、渋る連中の尻を叩いて送り出した。
それをぼんやりシルクは見ていた。

見ていたのだが……。

はたと気がつく。
彼が戻って来て、自分の横にたった。

気まずい。
二人きりだ。

シルクは変な緊張の中に立たされた。

「……ぷっ!……ははは!シルクさん!顔に出すぎです!」

そんな中、イヴァンが堪え切れないとばかりに吹き出した。
そしておかしそうに笑い出す。
シルクはムッとしながらも、毅然としてみせた。

「……何の事だか?」

「ふふっ、僕、そんなに信用できませんか?」

「……知らない。」

「知らないって顔、できてませんよ?」

「……………。」

「約束は守ります。他でもないあなたとの約束ですから、何があろうと絶対に……。」

少し含みのある言い方。
シルクはちらりとイヴァンを見る。
信じていいのだろうか?
シルクは見極めつかねていた。

そんなシルクをイヴァンもちらりと見やる。

「……何か意外だな。シルクさんはもっとドライかと思ってた。」 

「~~~っ!仕方ないだろ!俺の感覚と、この国の感覚が違うって教えたの、お前じゃん!?ここではどうとらえたのかわからなくなって悪いのかよ!?」

思わず抗議したシルクを、イヴァンはぽかんと眺めた。
しまったと口を押さえるシルク。
それを見たイヴァンは太陽みたいに笑った。

「あはは!そっちが素ですか?」

「うるさいな~!!」

「嬉しいな、素で喋ってもらえて。」

それこそ素で嬉しそうに笑うイヴァン。
シルクはカチンときて、反射的に蹴りを放った。

「うわっ?!シルクさん!本気はやめて下さい!」

「こんなの本気じゃない。」

本気ではない。
本気ではないけれど、当たらないとも思っていなかった。
予想外にイヴァンはシルクの蹴りを軽々とガードしてしまい、妙に腹立たしく感じたシルクはもっと強く打ってやれば良かったと思う。
ムッとするシルクを見つめ、イヴァンは少し悲しげに笑った。

「……僕ね、あの後、後悔したんです。」

「は?」

「もっとちゃんと……。ちゃんとシルクさんと仲良くなってから、こうしたかったのにっなって……。」

冗談の延長で話す様な声色の中にある、嘘のない真実。
シルクはその意味に気づいたが、素知らぬフリをした。

「一回は一回だ。」

「わかってますよ。だからこそって言うのかな?」

「知らん。」

「ふふっ。それでいいですよ。あの夜の事は、僕にとって大切な思い出です。綺麗なまま箱に入れて、墓場まで持っていきます。」

「……ふ~ん。」

「だから安心して下さい。」

イヴァンは悪いヤツには見えない。
嘘をつくのも下手そうだ。
シルクは横目でちらりとイヴァンを見た。
屈託なく笑うその顔を信じてもいいのかもしれない。

「そんな訳で改めまして、シルクさん。よろしくお願いします。」

「……こき使ってやる。」

「喜んで。」

にこにこ笑うイヴァンを、変なヤツだなとシルクは思った。
呆れているようなシルクを、イヴァンがじっと見つめる。

「……後ろ髪、伸ばされてるんですね?」

「何か皆、聞くな?変なのか?」

「いいえ?似合うと思いますよ?シルクさんの白い髪、綺麗ですから。」

「ならいいだろ?」

シルクの結び始めた髪を皆が気にした。
おそらく結んでいる事よりも、シルクと接点を持ちたくて、「今日の髪型可愛いね」的なノリで言ってくるのだ。
それにうんざりしていたシルクは小さくため息をつく。
誰もこの髪の本当の意味なんてわからない。
それでいいのだ。

「……サークさんですか?」

「は?」

「その後ろ髪、サークさんですか?」

なのにさらりとイヴァンは言った。
そう言った理由に気づき、シルクは真っ赤になる。

こいつ!意味を知ってるっ!!

誰も気づかないと思っていた事。
隠している自分の想いを暴かれた事が恥ずかしく、シルクは手で顔を覆った。

「あ~~っ!!そうだよ!!悪いかっ!!」

「意外と純情なところもあるんですね、シルクさん。」

「人の純情に土足で踏み込むな!!」

「そこはごめんなさい。」

イヴァンは馬鹿にするでもなくそう言った。
けれど、知られたくなかった本心。
見てみぬふりをする事もできたのに、イヴァンはあえてそれに踏み込んできた。
こいつ、後で叩きのめすとシルクは心に誓う。

「……僕も伸ばそうかな?後ろ髪。」

「は?何でだよ?」

「だって、絡みとれるかもしれませんから。僕の未練を。」

「……お前は絶対、伸ばすな。」

「え~、酷いな~。」

明るく笑うイヴァン。
お前の未練なんか知るか!!
シルクは顔が赤いまま、彼を睨み付けた。
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