「欠片の軌跡」②〜砂漠の踊り子

ねぎ(塩ダレ)

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第四章「独身寮編」

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「結論から言う。シルクは諦めて、他を当たれ。」

俺は散々、長々とした隊長のよくわからないぐちゃぐちゃを聞き終わり言い切った。

「……なら、お前がいい。」

「てめえ……俺に仕出かした事、忘れたのか!?それから俺、恋人いるからマジで無理。」

「………………。」

「殿下のところに帰れ!変態ストーカー。」

まあ、それも王子に失礼だけどな。

何だかな~。
何で俺は鬼の黒騎士に甘えられてんだ??

俺とお前、お互い死を選ぶんじゃないかってぐらい揉めたよな?!
なのに何で俺?!
他にいないのか!?
甘えられる相手が!?

隊長の思考回路が全く意味不明なまま、俺は流されてよくわからない状況に付き合う。
ぐだぐだしている隊長はスンッと無表情に言った。

「なら、せめてシルクに香をつけるのをやめてもらっていいか?」

「……は??」

隊長が唐突に変な事を言い出した。
香?何の事だろう?
俺にはわからなかった。

「香って?香水とか?」

「ああ、シルクは砂漠の出身だろう?いつも何か香をつけているだろ?」

確かに西の砂漠の国では、香をしたためている人が多かった。
あの国には何か独特な匂いがある。
だが、シルクからそういったものを嗅いだ記憶はない。

「う~ん?つけてないぞ?」

「つけてるだろ?」

「いや?見たことないし、俺、同室だけど、気になった事ないぞ?」

どういう事だろう?よくわからない。
俺が嘘をついていない事は顔を見ていて理解したらしく、隊長は黙ってしまった。

西の砂漠の国。
香の匂い。

匂いの話をされ俺の中でふと、あの独特な香りが蘇った。
そして思い出す。

「……あ、そういえば砂漠の国でちょっとおかしなもの見かけたんだよな~。」

「おかしなもの?」

隊長はいつもの顔に戻ると体を起こし俺を見た。
座り直した隊長に俺も顔を向ける。

「はっきり見た訳じゃないけど、うちの国の軍か部隊の制服を着てた奴をチラッと見た。砂漠のある町の富豪の家でだ。気になって少し探ったんだが、時間もあんまりなくて、王国の美術品とかいくつか持ってるって事くらいしか調べられなかったけどな。」

これは鼠に探らせた事だ。
残念ながら、制服の者の方は見つけられなかった。

「それから西の国境検問の軍人さん達が、東から来た兵士が我が物顔をするって不満を漏らしてた。西から見て東から来たって話だから、うちの国とは断言できないし、2つを結びつけるのはどうかと思うが少し引っ掛かってる。」

「……そうか。」

隊長は考えるように黙った。
俺は横目で隊長を見た。
この顔はなんか知ってるな、そう思った。

「そっちは何か知ってんの?情報出したんだから、何かあるなら教えろよ?」

「何の話だ?」

相変わらずの知らん顔だ。
でもまあいい。

「……ま、いいか。俺だと手に余る話だったし。そっちでやってくれ。ただ、その富豪とはちょっとしたコネがあるから必要なら言ってくれ。」

さらりとそう言うと、隊長は感情のない顔を俺に向けた。

「……お前。本当に砂漠で何をしてきたんだ?シルクを見つけただけじゃなく、ずいぶん動いたんだな?」

「シルクもそれも、全部ただの成り行きだ。」

失礼な。
別に何かしようと思ってやった事じゃない。
行ってみたらシルクが行き倒れてて、その流れで色々あったってだけだし。
そんな俺に隊長は小さくため息をつく。

「本当お前は……。そのうち一部隊持ちそうなところがあるな。」

「やだよ、部隊とか。人数多すぎ。持つなら少数精鋭がいい。」

冗談として話に乗ってやると、隊長もおかしそうにそれに続く。

「シルクが一人目か。」

「それも成り行き。」

「成り行きか。」

隊長がククッと喉で笑った。
いつもの隊長の顔だ。
俺は区切りをつけるように、小さくため息をついた。
今回は流されて付き合ったが、俺達は馴れ合うような中じゃない。

「じゃ、愚痴も聞き終わったし、ごちそう様でした。」

一応、エクレアとシュークリームの礼は言う。
立ち上がった俺に隊長が言った。

「明日は副隊長にここを任せる。もし時間が許すなら、魔術本部に行く前にシルクを紹介してくれ。」

「わかった。」

ふ~ん?
すぐに動くところを見ると、砂漠の件は何か意味があるのだろう。
とはいえ俺の手におえる事ではない。
情報は渡したんだ。
後は上に任せればいい。

俺は隊長の部屋を出て行った。










暇だ、とシルクは思った。

休みをもらったが、特にすることがない。
町を見てきたらいいと主に言われたが、どう考えても迷子になりそうだ。

「案内してくれればいいのに。主の馬鹿。」

ベッドの上でゴロゴロする。
鍛練場に行きたいけど、行ったら怒られる気がする。

「あ~!暇だ~!!」

シルクが枕に突っ伏してそう叫んだ時、コンコンとノックされた。
誰だ?
シルクはドアを見る。
コンコンとまたノックされた。
ドアとは逆方向からそれは聞こえた。
シルクはガバッと振り返った。

「イヴァンっ!?」

窓の外にイヴァンがいて、窓を開けて欲しいとジェスチャーしている。
マジ!何やってんだ!あいつ!!
ここ、3階っ!!
シルクは慌てて窓を開けた。

「うわ~焦った!落ちるかと思いました!!」

飛び込んできたイヴァンは勢い余って、シルクを抱きしめた。
シルクは乱暴に押し退ける。

「何やってんだよ!!馬鹿なのか!?」

「ちょっと思い付いてやってみたんですけど、予想より怖かったです!」

「ドアから来いよ!ドアからっ!!」

「だって、ドアだと開けてもらえる確信がなかったので。」

「だからって窓から来るか!?死にたいのか!?」

「……死んでもいいですよ?シルクさんに会えるなら。」

さらりと言って笑うイヴァンに、シルクは鳩尾に一発食らわせてやった。

「ゴホッ……っ!容赦ないですね?」

「は?手加減してなかったら、口から内臓出たぞ、お前。」

「ご容赦、ありがとうございます……。」

「何の用だよ?全く。」

「デートに誘いに来ました。」

爽やかに笑ってそう言うイヴァン。
シルクはギロッと睨みつけた。

「断る。」

「なら、1日一緒にここにいます。」

「……脳天カチ割って、外に捨てる。」

「酷いな。」

「何なんだよ!本当に~!!」

飄々と笑うイヴァンに、シルクはジタバタと文句を言った。
そんなシルクを見て、イヴァンがおかしそうに笑う。

「ふふっ。デートは冗談として、町を案内しようかと思って。まだ歩いた事ないですよね?」

「……うん。」

「なら行きませんか?」

「めちゃくちゃ強引だな、お前。」

「そうでもしないと、シルクさん、来てくれないでしょ?」

確かにドアから来てこれを言われら、相手にせず普通に断っていたと思う。
町に行ってみたいのも事実だ。
だがそうすると、こいつの手の上で思い通りに動かされたようで腹立たしい。

「町に、凄く美味しいフライドチキンの店があるんですよ。」

それを聞いて思い出した。
砂漠の国で、主がたまに町の肉屋のフライドチキンが食べたいと言っていた事を。

「……それって、肉屋の?」

「あれ?知ってるんですか?」

「食べたことはない。……主が、たまに食べたがってたから……。」

「なら行ってみませんか?お土産に買って帰る事も出来ますし。」

シルクは少し考えた。
行きたい。正直、行きたい。
だがここで行くというのは、完全にイヴァンの思う壺だ。

「サークさん、喜ぶと思いますよ?」

それを知ってか知らずか、イヴァンはさらりとサークの名前を出す。
シルクは真っ赤になって睨みつけた。

「……お前って本当!やっぱり狡い男だな!!」

「サークさんの名前を出したのは、卑怯だと認めます。でもあなたを動かすために、僕は手段なんか選んでいられる立場じゃないです。何よりシルクさんに町を見てもらいたいんです。ここにも美味しいものも、いいところもたくさんあります。せっかくこの町に来てくれたんです。ここを好きになって欲しい。どうか僕にこの町を案内させてもらえませんか?」

卑怯なのに紳士的なイヴァン。
シルクは大きくため息をついた。

「……わかったよ。ここに居座られても困るし。行く。案内してくれ。」

「ありがとうございます。何か見たいものとかありますか?」

そう言われ、シルクは少し考えた。
見たいところはある。
この国に来たら、必ず見ようと思っていた場所が……。

「……外壁が見たい。」

外壁……。
そう言われ、イヴァンはきょとんとした。
だが、やがて苦笑した。
その意味がわかったのだろう。
本当に察しが良くてムカつくとシルクは思う。

「手強いな~。サークさんは。」

「うるさいな~。早く行くぞ!!」

シルクはそうやって言葉の裏の話をしてくるイヴァンが嫌いだった。
サークに関しては率直すぎる自分も悪いのだろうが、イライラする。

顔をしかめて赤くなったシルクにぐいぐいと背中を押され、イヴァンは部屋を追い出される事になったのだった。
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