「欠片の軌跡」②〜砂漠の踊り子

ねぎ(塩ダレ)

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第四章「独身寮編」

メランコリック

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ああああぁ~。

何でこうなった?
何でこうなったんだ!?

俺は頭を抱えてしゃがみこんでいる。
隊長は無表情にストレッチをしている。

だいたいだ。
こいつは何を考えているんだ!?

シルクに惚れて、俺とのいざこざは忘れたのか!?
何で平気で絡んでくるんだ?
てめえが良くなったからって、こっちの気持ちはお構いなしか!?
そう思うと、沸々と怒りが込み上げてきた。

ああ、そうだな?
やはり俺には、こいつをぶん殴る権利がある!!

「……準備はいいか?」

「ああ。」

憎悪を溜めてゆらりと立ち上がった俺に、隊長は言った。
ぜってーぶん殴る!!

しかし答えた瞬間、隊長が打ってきた。

「うわっ!!」

間一髪避けられたが拳が重い。
身体強化もしてないのに、これを当てられたら洒落にならない。

捕まれそうになった手を逆に掴んで体制を崩そうとするが、重くて俺には動かせない。
体幹が弱いとシルクに散々、言われたことを思い出す。

捕まれたら体格差から考えても押さえ込まれて負ける。
拳の方もまともに一発食らったらそれだけで駄目だろう。

かといって、俺にはシルクのようにバネがある訳でもない。
距離を取って早さで攻めるなんて事も出来ない。

……ん??
これって、打つ手がなくないか?!

だんだん顔が青ざめていく。

「待て待て待て待てっ!!やっぱ無理っ!!」

俺はただただ、逃げ回りながら叫んだ。
冗談じゃない。
こんなの無理だ、不利すぎる。
だというのに、目の座っている隊長は淡々と言う。

「……なら、負けを認めるな?」

「そうじゃなくて!やっぱこの勝負無しでっ!!」

「……却下だ。」

隊長が蹴って来るので、大きく距離を取る。
却下って何!?
あんた、俺が不利なのわかってて挑発しただろ?!
なのになんだそれは?!
横暴だ!職権乱用だ!!

「……何をぼうっとしている!?死にたいのか!?」

「少しは手加減しろっ!!」

「断るっ!!」

……は??
断るって何??

え?ナニコノ人?

何かまた鬱憤貯まってるんですか!?

そうなんですか?
そうなんですね!?

忘れてた……。
この人、色々拗らせた人だった。

多分、俺の事もシルクの事も、何か色々よくわからない方向に悩みすぎて、ぐちゃぐちゃに拗らせたに違いない。
それの吐き出し口が見つからなくて、今、現在、この状況になって変なスイッチ入りやがった。

俺は歴然とした力の差の中、とにかく必死で防御と逃げに徹しながら叫ぶ。


「何でテメェは!!ぐちゃぐちゃになった感情の吐き出し口にいつも俺を選ぶんだよっ!!」


前回、もめにもめたというのに何故また俺を選ぶ?!

しかし目が据わって自分の中に入り込んで集中している隊長に俺の声は届かない。
鬼神モードに入ってないからまだいいが、この拗らせ変態モードに入った隊長に負けたら、確実に何をされるかわからん!!

死ぬ気で隊長の拳を腕でガードしたが、衝撃と痛みで体の軸がぐらつく。
だが止まったら袋叩きにされる。
とにかく足を止めたら駄目だ。

ガードしてもシールド使ってないからマジで痛い。
俺、魔術使えない状況ではただの糞だな。
頑張って強くなったつもりでいたけれど、全くダメダメだ。

どうする!?
何か手は本当にないのか!?

魔術が使えないのがこんなに痛手だとは……。

……いや、使えばいいんじゃないか?

必死に応戦する中、俺ははたと気がついた。
術として使ったら駄目なだけて、魔力を使ったらいけない訳じゃない。

元々、俺は魔術兵だ。
隊長のよう騎士ナイトでも、シルクのような武術士でもない。

だから、同じ戦い方をする必要はないんだ。

できるかできないかはわからない。
だが、やるしかない。

俺は自分の中の魔力に集中した。
それはシルクの中に見た核のように綺麗に纏まってはいなくて、不確かな霧のように俺の中を漂ってる。
形のないそれは掴もうとしても逃げ失せてしまう。

だったら、霧を集めるにはどうしたらいい?

「……隙が多いぞっ!!サークっ!!」

隊長が殴ると見せかけて掴みかかってきた。
俺はその手首を掴んで、ぶら下がるようにして、隊長の股の下を潜って後ろに抜けた。

集中しろ。
隊長の攻撃を避けつつも、自分自身に集中しろ。

霧は大気を漂ってるんだ。
なら動かす為には、大気全体を動かさないと駄目だ。

大気を動かすのは、空気であり、風だ。

だが風が強すぎたら、霧は散り散りになってしまう。
全体を緩やかに動かして纏めればいい。

さんざん動いて呼吸が苦しい。
はぁ…と大きく息を吐いた。

そうだ、呼吸だ。

俺の中の大気をゆっくり穏やかに動かすには、呼吸を意識すればいい。
俺は呼吸に意識を集中させた。

隊長が打ってくるが、距離を取りながら呼吸をする。

鼓動。
呼吸。
空間。
時間。

集中する中に見える全て。

体の中で散り散りだった魔力が、ゆっくりまとまり始めた。


これか。


俺はやっと理解した。

しかし、長いこと見えなかった答えを見つけ気が緩んだのだろう。
隊長の拳が重く衝撃を与えた。
腕でガードはしたが、その拳は重く、俺は対応しきれず吹っ飛んでぶっ倒れてしまった。

「惜しかったな、サーク。」

「……こんちくしょうっ!!」

やっと答えを見いだせても間に合わなかった。
俺は体を起こしながら、苛立たしく床を叩いた。














「ほら、口を開け。」

「…………。」

「何でも言うことを聞く約束だろ?」

「……そんな約束はしてない。」

「いいからこっちを向いて口を開け。」

「………一回だけだからな…。」

「口を開け、サーク。」

「…………。」

俺は仕方なく口を大きく開けた。
口にズブッとそれがねじ込まれた。


「~~~っ!!終わり!もうやらないっ!!」


俺は口の中の物を飲み込んで、隊長が持っていたエクレアを引ったくるとモゴモゴ食べ始めた。

何なんだ!?
何でこんな羞恥プレイをさせられなければならないんだ!?

この変態野郎~っ!!

俺は食べながら隊長を睨み付けた。
隊長は俺が食べているのを横に座ってただ見ている。

「旨いか?」

「旨いよ!……こんな状況じゃなかったら!」

もうやだ、泣きたい。

負けた俺は、罰ゲームよろしく何でも言うことを聞くと言うことを盾に、隊長にエクレアを食べさせてもらうという羞恥プレイを要求された。
はじめは膝の上に座れと言われたが、エクレアを食うか、膝の上に座るかのどちらか一つだと言ったら、食わせる方を選びやがった。

何なの!?
何でこんな罰ゲームを思い付くの!?
変態なの!?
ああ、変態だったな、知ってる!!

「ほら、食べた!もう終わり!!」

恥ずかしさと苛立ちでそう言い切る。
さっさと立ち去った方がいい。
じゃないとイライラが止まりそうもない。

「シュークリームもあるぞ?」

「………食べる。」

しかしすかさず差し出されるシュークリーム。
俺は隊長からシュークリームを受け取った。
だって仕方ないだろ!?
俺の給料じゃ滅多に買えないスイーツを盾にとられたら!!

「……旨そうに食うな。」

「見てんな、変態。」

腹を立てながらもむぐむぐとシュークリームを頬張る。
そんな俺の様子をしげしげと見ていた隊長は、少し悲しげに目を細めると、何故かこてんと俺の肩に頭を預けた。
甘いものを食べてイラつきが収まってきた俺は、仕方なくそれを受け入れた。
何か相当、貯まってたんだろうな。

でもな……?

「……あんま俺に懐かないでくれる?俺、あんたにトラウマあるし、恋人もいるから。」

「……すまん。」

「で、今度は何ぐちゃぐちゃ拗らせてんだよ?」

「……お前が好きだった。」

「知ってる。」

「シルクも好きだ……。」

「できれば俺の事もシルクの事も諦めて欲しいんだけど。」

「シルクがイヴァンと話してると苛立たしく感じる。」

「ん~。それはな~?仕事でもあるし~難しいな~。」

まぁ、そういう事だよな……。

シルクとイヴァン。
仕事上の関係を抜きにしても、あの二人はそれなりにいい雰囲気である。

イヴァンはシルクを好きな事を隠さないし、邪険にしているものの何だかんだシルクも憎めない奴とは思っているようだ。

俺としてはそこで纏まってくれた方がいい。

発情期の事もある。
シルクが無節操な事をする前にちゃんと相手が決まった方がいいし、拗らせ大魔王の隊長よりイヴァンの方がシルクには合ってる。
イヴァンはシルクを縛ったりせず自由にさせているけど、要所要所で上手くシルクをコントロールしているように見えるからだ。

何よりイヴァンはシルクを大事にしている。
いいように扱われながらもいつも笑顔でシルクのわがままや意志を尊重し、宝物のように扱っている。
あの性格なら、今後もシルクを大事にしてくれるだろう。
一応、腕っ節もそれなりにあるみたいだから、ストッパーとしても期待できそうだし。
だから俺としては本当、このまま落ち着いてくれる方が安心だしありがたいのだが……。

「……俺はお前を傷つけた。次はもう傷つけたくはない……。だから自粛を心掛けてはいるが、シルクとイヴァンを見ていると、どうしたらいいかわからなくなる……。」

「う~ん。あんたの愛情表現て、かなり独特だしメチャクチャ一方的だからな~。自粛してるのはいい判断なんだよな~。でもな~。」

何で俺、こいつの恋愛相談受けてるんだろう?
手に着いていたクリームを舐め、俺はため息をついた。
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