「欠片の軌跡」②〜砂漠の踊り子

ねぎ(塩ダレ)

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第四章「独身寮編」

リア充に爆弾を

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「おはようございます。朝食を3つ包んでもらえますか?」

サークは食堂の朝食コーナーでそう声をかけた。
昨夜、シルクは戻って来なかった。
どうなったかは知らない。
知らない割には、何を買っているのだろう?
ただ不思議と確信があったのだ。

「あ~あ。世話が焼ける……。」

がっくりと肩を落としたサークだが、正しくはまわりの人間が手がかかるのではなく、自身が世話焼きだと言う事実に気づいていなかった。









ギルが目を覚ますと、自分の上に生まれたままの姿のシルクがいた。
何か重いとは思っていたがこれか、と思った。
狭いソファーにふたり、1つの毛布をかけて寝ていた。

「おはよ。たいちょーさん。」

先に目が覚め、寝顔を見ていたらしいシルクはひどく幸せそうに笑っていた。
ギルはシルクの頭を撫で額にキスをした。

「ああ。おはよう。……体は平気か?」

「凄くいいよ?たくさん美味しいモノ食べさせてもらったから。」

ニッと笑う顔。
何を食ったというのかは聞かないでおく。
ギルは天井を仰いだ。

「朝からやめてくれ。このまま抱きたくなる。」

「抱いてくれていいのに。」

シルクはそう悪戯に微笑み、指でギルの筋肉の割れ目をなぞった。

「……悪戯が過ぎるぞ?」

「だってしたいんだもん。」

妖艶な恋人の無邪気な発言に、ギルの理性は試される。
口から覗く八重歯が旨そうだと思った。
キスぐらいはいいか……と口付ける。
だが軽い挨拶のキスは、だんだんと濃密になっていき、このままだと止まらなくなると頭の片隅で思った。
そう、口付けてしまった段階でアウトだった。
このままもう一度あの快楽に飲まれたいとシルクを抱き締めた。

……その時。

部屋のドアがドンドンと乱暴に叩かれる。
居留守を使う様に黙っていたが、ドアノブがガチャガチャ回された。
一応鍵を閉めておいて正解だった。
だが相手はそんな事では引き下がらない。


「おい馬鹿ども、いるんだろ!?さっさと服を着ろ!ドア、ぶち破るぞ?!」


完全に不機嫌なその声に、ふたりは顔を見合わせる。
そしておかしそうに笑い合った。

「……怒られちゃった。」

「だな。」

二人は仕方なく体を起こし、服を身につけた。








「お前ら馬鹿なの!?この部屋が何の為の部屋か知ってる?このソファーが何の為にあるかわかってる!?」

朝早く、早番でもないのに部屋を訪ねて来たのはサークだった。
ぷりぷり怒りながら、珍しく杖を使ってあちこちを浄化して回る。

「いいか馬鹿ども!自分達がわかんなくったって、このままじゃ誰か部屋に入ったら一発でここで何が行われたかバレるぞ!?」

最後の仕上げとばかりに部屋の空気を浄化すると、サークは二人掛けでない方のソファーに座った。
はぁ、と大きくため息をつく。

「……つかシルク!お前いつまでそんな格好でいる気だ!?」

シルクはズボンだけ履いて、毛布を肩からかけている。
その体には色々な後が見え、サークは頭を抱えた。

「シルク……てめえ……。数日は人前でガウン脱ぐなよ……?!隊長も後先考えろ!!」

「……すまん。」

「も~。それより主~、これ食べていいのぉ??」

「~~~ぁっ!!いいよ!食えよ!!」

脳天気なシルクに、ああああぁ~と呻き声を上げてサークが天井を仰ぐ。
ギルはすまないと思いながらも笑ってしまった。

「……すまんな、サーク。」

「モー、ドーデモイーー。」

何から突っ込んでいいのやらわからなくなったサークは、抑揚のない声を上げ、思考を停止させた。
そこにもぐもぐとマイペースに朝食を食べるシルクが言った。

「主~、食べないならもらっていい?俺、凄くお腹減ってるんだ~。」

「お~好きにしろ~。」

本当にもうどうでも良くなったサークは脳天気な自分の従者にそう答える。
ギルは申し訳ないと思いつつ、買ってきてもらった朝食を食べ始めた。

「……旨いな。」

「毎度お馴染み、いつもの食堂の朝食ですが?」

「ふふっ。たくさん運動したからだよね~。ギル?」

シルクがけろっと言った。
サークは何か言おうと口を開きかけたが諦めた。
仲睦まじく朝食を食べる二人を前に、はぁ、とまたため息をついて額を押さえる。

「……つかさ?最後までした訳?」

思わず出たサークのストレートな言葉に、ギルが吹き掛ける。
慌てて口を押さえて事なきを得たが危うかった。
だと言うのに、ここでもシルクの能天気さが炸裂する。

「え?知りたいの~?主のエッチ~。」

「うるさい。聞かれた事に答えろ。」

「うふふっ♡したよ~、凄い気持ちよかった!!」

「……ブッ!」

「お前……よくあの鬼殺し入ったな?」

「?!」

「うんとね~?つがいだから大丈夫なんだよ~。……て言うか?!何で主がギルのデカチン知ってんの!?」

「おい、サー……ッ!」

「あ~俺、こいつに襲われかけた事あるんだわ。」

「……は?はあぁぁっ!!?」

ギルは今度は完全に噎せた。
慌てたあまりゲホゲホと咳き込む。
その横でシルクがガタンと立ち上がった。
顔がヤバいなぁとサークは他人事の様に思った。

「ちょっと……どういう事だ!?ギル!?」

それまでのラブラブっぷりはどこへやら。
ギンッとシルクがギルを睨みつける。
その眼は完全に暗殺武術の完全継承者だ。

「……俺……主に何かあったら殺すって……言ったよな!?」

一気に殺伐とした空気に包まれる隊長室。
あ~、殺人現場になりそうだな~とサークは呑気に思う。
サッと伸ばされたシルクの腕が、確実にギルの首の血管を押さえようとする。
それにじたばたとギルは抵抗した。
ギルとてシルクの実力は肌感でわかっている。
さすがの鬼の黒騎士も演舞継承者相手では焦りまくり、必死な視線をサークに送る。

「おい!サークっ!!」

「隠してても仕方ないだろ?後でバレてもめても面倒くさいし。」

しかし必死なギルとは裏腹に、サークはいけしゃあしゃあとしている。
そこに暗殺者の顔をしたシルクが静かに畳み掛けた。

「ギル……短い付き合いだったね……。」

シルクの眼は完全にイッてしまっている。
その指が確実に急所を捉えて、やっとサークは止めに入った。

「ま~シルクも落ち着けよ?」

「落ち着ける訳ないだろ!!主を傷つけたんだ!!」

「まぁそうなんだけどさ。未遂だったし、殴ってやったし、過去の話なんだし。なによりその問題は俺とこいつの問題なんだ。お前が口出す事じゃない。」

「でも!!」

「俺だって、お前たちの問題に口出ししなかっただろ?だからシルク、お前も口を出すな。それは俺とこいつの問題だ。」

「……主……。」

「ただその事を後から知って、お前らがごちゃごちゃするのは嫌だから今教えたんだよ。」

「……主は大丈夫なの?」

「大丈夫も糞もないだろ?俺もこいつも、それはずっと背負ってくんだよ。ただ見ての通り、今はよくも悪くもない人間関係は保ててるってこと。」

「…………。」

「俺が知りたいのは、シルク。お前はこの話を聞いても、ちゃんとそいつを愛してやれるか?それとももう見捨てるのか?」

「……わかんない。」

「俺が話したのはお前らに幸せになって欲しいからだよ。だから変な遺恨を残したくなかった。荒治療なのはわかってる。でも他にいい方法が思い浮かばなかった。」

「サーク……。」

そこまで来て、何故サークがこんな時にわざわざ訪ねてきたのかギルは理解した。
それが彼なりのケジメであり許しなのだ。

ギルは立ち上がった。
そしてサークに頭を下げた。

「あの時は本当にすまなかった……。俺は無自覚にお前が好きで……押さえられなかった……。未遂とはいえ、性欲のないお前に無理強いしようとし、本当に申し訳なかった……。」

そんなギルをシルクは見つめる。
サークは手をひらひらさせて見せた。

「あ~、だからそれはもう何回も聞いたから。わかったから。もうそれは終わり。俺はむしろ、それがあったから今回、シルクの事、スゲー傷付けないようにしてくれたのが嬉しかったよ。ま、やりすぎで、シルクがお前にその気がないと思って泣いてたのが可哀想だったけどさ。」

「ちょっと?!主?!」

その言葉にシルクが真っ赤になった。
サークはニヤッと笑う。

「……泣いたのか?」

「しっ!知らないよ!もう!!」

ツンツンしだしたシルクを見て、サークは笑った。
少し安心したように笑った。

「……で?シルク?お前、ちゃんとこいつを愛してやれるか?」

「それは……。」

「ちなみにこいつ、結構、面倒くさい男だぞ?それでもいいのか?」

「……面倒臭い男……。」

「隊長も。俺、ずっと言ってたよな?シルクは束縛を嫌うって。しかも知っての通り、発情期はあるし、無節操だし。性欲はかなりあるけど大丈夫か?遅漏だろ?あんた?」

思わず言ったサークの言葉に、ギルがまた慌てる。
それにきょとんとした顔でシルクが答えた。

「え?たいちょーさん、普通だったよ?」

「……なにそれ?マジで!?」

「うん。」

「何だそれ?ちょっと詳しく聞かせろよ?!」

「その話はもういいだろ!!」

ギルは耐えきれず、赤面して顔を覆った。
鬼の黒騎士の思わぬ反応にサークとシルクは顔を見合わせ、ニヤッと笑った。

「ま、そういうことで~。後はふたりで話し合ってくれ。俺は朝飯食ってくる。」

言いたい事を言い終え、サークは満足した。
そして立ち上がった。
ドアを開け、もう一度だけ振り返る。


「俺は、さ?ふたりの幸せを願ってるよ。」


サークはそう言って部屋を出て食堂に向かった。

その後、ふたりが何を話したのかは知らない。
サークが知ってるのは、おそらく別れないだろうって事だった。
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