欠片の軌跡⑤〜あらがう者たち

ねぎ(塩ダレ)

文字の大きさ
7 / 99
第八章②「敵地潜入」

躓き

しおりを挟む
VIPルームから戻ってきたシルキーは、昨日とは違い複雑な顔をしていた。

「おそらく明日も呼ばれますから、服装には気を配るように。それから、状況によっては夜のステージ数を減らして、同伴等をお願いします。減った分、希望があれば昼間のステージを用意する。それでいいかな?」

「……わかりました。」

ケビンさんはあまり口調や態度を変えなかったが、メイン担当者が控室に送ってきて今後の事を伝えてきたと言う事は、どうやらシルキーはVIP達のお眼鏡にかかったようだ。
目はつけていたが俺の方も人と話したりしていたので、危険がないか程度にしか見ていなかった。
でもまあ、よく我慢したよ、シルキー。

「……ユウくん!!浄化してっ!!」

ドアが締まりケビンの気配が消えた瞬間、シルキーは不機嫌そうに言った。
まぁ、そうなるよな。
俺は乾いた笑いを浮かべながら、全身を浄化してやった。
それが済むと、シルキーはポイポイと服を脱ぎ捨てた。

「シルキーさん。ちょっとは恥じらいを持ってください……。」

「いいじゃないっ!!もうこれ、着てたくないのっ!!」

「せっかくもらったのに~。」

「ヒギンズ教授には悪いけど!ユウくんも浄化してくれたけど!でも無理っ!!」

シルキーはそう言うと、浄化魔術だけでは満足できなかったらしく、濡れたタオルで体を拭き始めた。

「珍しいですね、シルキーさんがそこまで拒絶反応するなんて。」

シルキーは今日、VIPルームに入った。

対人スキルの高いシルキーだ。
問題なく、周りに気に入られた。

問題は気に入られすぎた事だ。
一人の年配の男が、シルキーを酷くお気に召してしまったのだ。
確かにしつこいしねちっこいし、推薦者の彼や周りが助けようとすると、それを跳ね除けて独占したがり、ちょっと厄介だなとは思った。

だがシルキー、いやシルクは男の扱いには慣れている。
生きる為に一時は色まがいの事だってやっていたのだ。

だから良くも悪くも許容範囲が広いと言うか、華としてそれはそれと割り切って相手をする事ができる。

なのにこれである。
一体どうしたんだろう?

「……あいつ!あの男を思い出すのよっ!!耐えらんないっ!!」

体を拭き終わったシルクは、ちょっと涙目になって俺を見上げた。

ああ、と思う。

シルクに刻まれた、消えないスティグマ。
俺は何も言わず椅子に座っているシルクを抱きしめた。

「嫌ならやめよう。無理するな。別の方法を考えればいい。大丈夫。」

そう、耳元で囁いた。
シルクが何を言わんとしているかはわかる。
わかるから無理強いさせる気はなかった。

シルクはぎゅっと抱きついてきたが、やがて顔を上げた。

「ん~ん。大丈夫よ、ユウくん。」

「話したでしょう?自分を犠牲にしないで下さい。」

「本当よ?だって、アタシにはユウくんがついてるもの。だから大丈夫。」

そう言って笑うシルキーに俺は何も言えなかった。
とりあえず、今ここでその話をしても仕方がない。
ステージが終わってホテルに帰ってからもう一度話そう。

「わかりました。この話はホテルに戻ってからにして、今はステージに集中しましょう。」

「わかったわ。何か食べるものある?」

そう言われ、俺は買い出しに行っておいた物を出した。
シルキーは今日も何故かトルティーヤを手に取った。

「もしかして、気に入ってます?トルティーヤ??」

「そうかも。さっと食べやすいし。野菜も食べれるし。……ん?!野菜がない?!今日のこれ何??」

「今日のは辛くないやつを選んできました。今、食べてるのはブリトーですね。ハムとチーズの。野菜が入ってるのが良いなら、こっちにチキンがありますよ。」

「これ、熱々のが食べたい~。チーズがとろけてないとヤダ~っ!後、昨日の辛いのも食べたい~。」

「……わがままですね?!昨日は辛いって文句言ったのに?!」

「ミルクは??」

「……牛のでよければ…。」

「えええぇ~?ヤギのは~?!」

「だから!こんな所にヤギのミルクは売ってませんっ!!」

「なら牛ので我慢するから!コレの熱々なのと昨日の辛いのも買ってきて~!すぐに~!!」

「えええええぇぇっ?!」

シルキーは途端にわがままを言い出した。

まぁそれで不安定な気持ちが落ち着くなら、頑張るか。
俺は仕方なく、もう一度急いでトルティーヤの売店に走ったのだった。









舞台袖から、シルキーのステージが終わるのを見ていた。
裏方さん達も隙を見てシルキーのステージを見てくれている。

誰かがぽんぽんと俺の肩を叩く。
振り返ると、大道具さんが次のステージ準備に入りながら笑っていた。

「今日も良かった!シルキーのステージっ!!」

さっき話していたお姉さんも、そう言って笑顔を見せてくれる。
ステージチェンジでバタバタする中、こうして声をかけてもらえるのは嬉しい。
シルキーもニコニコと裏方さんに挨拶とお礼を言っている。

「お疲れ様です!シルキーさん!とても良かったですっ!!」

俺はそう言って、戻ってきたシルキーにタオルと水を渡した。
シルキーは水を飲み干すと、タオルに顔を埋める。

広い舞台。
色々なセットや小道具、バックダンサー等の演出をする人もいる中、シルキーは特に何もせずに一人で踊る。

もったいないとも言われるが、シルキーの場合、余計なものはない方がいい。
どうせあっても、踊りが始まれば視線はシルキーに集中してしまい、他のものなど見えはしない。
シルキーはそう言うダンサーだった。

そこも珍しく、話題と注目を集めるのだろう。
忙しそうにするスタッフの邪魔にならないよう端により、控室に戻る。

今日はこれで終わりだ。
何だかんだ、1日が終わるとホッとする。
それはシルクも同じなのだろう。

最後のステージが終わり控室に入ってしまうと、シルクの顔に戻って笑った。
その時だった。

「……痛っ!!」

まだ気を抜くなよと言おうとして、俺は手に痛みを感じた。
シルクも慌てて俺に駆け寄る。

「ユウくん?!……ヤダっ?!嘘でしょ?!」

ポタリ、と赤い雫が垂れた。
手のひらが切れて出血している。
俺は何も言えなくなって固まっていた。

まさか……。
そんな事があり得るのか……っ?!

手のひらの傷を見つめながら固まっている俺に、シルクは動揺した。
だがすぐに気を取り直して、タオルを俺の手の傷口に押し当てた。
そんなに深い傷ではないので、傷自体はどうというものでもない。

問題は、何故それが起きたかだ。

「ユウくん……。」

シルクが心配そうに俺を見つめる。
俺は魔術で傷を治し、笑って頷いてみせた。

あまり俺が動揺しているのを見せるのは良くない。
だが俺は今、自分に起きた事が信じられなくて、どうそれを捉えていいのかわからなかった。
ちょうど送迎の馬車が来たと言われたので、俺達は急いで荷物を纏めて馬車に乗り込む。

「何があったの……?主……。」

馬車の中、俺が音消しの術を使ったのを確認してから、シルクは不安そうに聞いいてきた。

俺自身それをどう言っていいのかわからないが、シルクには話しておかなければならない事態だった。
俺は努めて冷静に口を開いた。

「……鼠が殺された。」

「え……?」

「血の魔術の鼠だ。目に見えるものじゃない……。普通の魔術とも質が違うものだから、そう簡単に感知できるものじゃないんだ……。」

それを聞いて、俺が何故ここまで動揺したのかシルクは理解したのだろう。
少しの間、何も言えずに黙っていた。

「……今までも……そう言う事ってあったの?」

シルクが控えめにおずおずと聞いてくる。
どう答えるべきか悩んだが、俺は正直に話した。

「……いや、初めてだ。血の魔術で作った動物が殺されると、自分の身にこういった事が起こる事も、俺は知らなかった。」

「……………。」

「何かが見てるようだって話はしたよな?」

「うん……。」

「殺されたのは、その何かを探させていた鼠だ。」

「……なら……。」

「ああ。……何かは確実に俺達を見てる。しかもそれは、俺の血の魔術を感知して、仕留められるような相手だ……。」

シルクはそれを聞いて押し黙った。
俺もそれ以上、何も言えなかった。

血の魔術が見破られるとは思っていなかった。
そんな事、今まで無かったし、起こるとも思っていなかった。
自分の認識が甘かったとしか言いようがない。

そして……。

俺達はどうやら、想像以上に厄介な相手に見張られているようだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...