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第八章②「敵地潜入」
昼下がりの休日
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昨夜は中々寝付けなかった。
久しぶりに、本当に久しぶりに、あの頃の夢が頭を掠めたからだ。
前ほど鮮明に浮かんではこないのは、やはり一つの区切りがあったからだろうか?
それでも、その感覚は覚えている。
自分の奥底に、それはこびりついている。
不安で……。
体を起こしたら、隣のベッドに主がいた。
ああ、主だ。
俺にはもう主がいるんだ。
だから何も怖くない。
怖い事が起きても、主は必ず側にいてくれる。
だから大丈夫。
それでもまだ少し不安だったから、俺はこっそり主のベッドに潜り込んだ。
すぐにバレて、頭を叩かれたけど、追い出されなかった。
主は、いつかの砂漠の夜のように、黙って手を握ってくれた。
そうしたらすぐに瞼が重くなって、それまでが嘘のように眠りに落ちた。
何だか物凄く長く寝た気がする。
シルクはそう思って体を起こした。
「………えっ?!嘘っ?!」
起き上がると、太陽はすでに傾き始めている。
もうカジノに入っていなければおかしい時間のはずだ。
「お~起きたか~。」
声の方に顔を向けると、己の主がピザを食べていた。
物凄くいい匂いだ。
キュルクルと小さく腹が鳴った。
記憶がおかしくなければ、ほぼ丸一日寝ていて何も食べてないはずだ。
これはどういう事だろう??
よくわからないまま、ベッドを抜け出して椅子に座ると、そのままテーブルに置いてあったピザを口に入れた。
「温かいお茶と冷たいお茶、どっち飲むんだ??」
「ん~、温かいの。」
のほほんとサークは言う。
そしてのんびりとお茶を入れてくれた。
シルクは黙ってそれを受け取った。
何だろう?
どうしたんだろう?
何でカジノに行かないんだろう??
そう思ったが、寝過ぎと空腹で頭が回らず、とりあえず食べる事にする。
届いたばかりなのかピザは熱々で、チーズがビヨンと伸びた。
「今日は休みになったから、気にしなくていいぞ~。」
心情を察してか、サークは言った。
そうなんだ、とシルクは思った。
サーク自身もお休みモードなのか、随分まったりしている。
色々聞きたい事はあったが、ひとまず休みならいいかとピザを堪能した。
食べながら、ピザ以外の匂いが部屋に漂っている事に気づく。
振り向くと、部屋の一角に、花束やら大きな箱やらが積まれていた。
「……何あれ??」
ピザを咥えたまま、シルクはその小さな山を指差した。
何となく予想はついたが確認する。
「ご想像通りのもんだよ。シルキーへの貢物。朝に休むって連絡したら、昼頃あれらが届いた。お大事にってカードもあったぞ?」
「モテるね、俺。」
「だな。」
口をモゴモゴ動かしながら、シルクはそれを他人事のように見ていた。
サークが普通に話していたのでシルクも普通に話しているが、何だかとても久しぶりな気がする。
ここの所、どこに行っても、どこにいても、気を使って自分とシルキーを使い分けていた。
何も考えずに素でいられるというのは、とても楽だった。
何だか忘れていた。
そんな当たり前の事が幸せな事を。
砂漠の国では、常に気を張って何かでいようとしていた。
そうしないと騙されたりするから、その場にあった自分を作り、上辺だけでも騙す方を演じなければならなかった。
それがなくなったのは、いつからだろう??
何も気にせず、自分でいられるようになったのは、どこからだろう?
その答えはとても簡単だった。
その事を思い出し、思わず声が出た。
「あ~~っ。何か、ここの所、ずっと西の国の事、思い出してる~。」
サークは食べようとしていたピザを口に咥えたまま、その言葉にピクリと一瞬、視線だけシルクに向けた。
だが何事もなかったように、またピザを食べ続ける。
シルクも食べようとしたが、何かが喉に詰まって食べれなかった。
だから、シルクは話を続けた。
サークが聞いていようと聞いていまいと、どっちでも良かった。
ただ、何でもいいから喋り続けて、喉につかえている何かを吐き出してしまいたかった。
「ここって砂漠みたいなのに!砂漠と全然違うんだよっ!だから何かこんがらがるっ!似てるから思い出すのか、全然違うから思い出すのかわかんないんだけどさっ!……砂浜って砂漠みたいじゃん?なのに海だよ??めちゃめちゃ水があるの!しかも潮風っていうの??何か知らない匂いするし!あの水は塩っぱいって言うし。塩っぱいってどういう事??塩湖なの??」
「……塩湖とは違う。海は海だ。湖じゃない。」
突然ペラペラと喋りだしたシルクに、サークは合いの手を入れるように答えた。
聞いていないかと思っていたので、シルクは少しキョトンとした。
「……違いは??」
「湖はどんなにでかくても、何日かかろうとも一周できる。海は無理だ。大陸を囲んでるものだからな。」
何だかうんちくめいた話になってきたが、どうでも良かった。
意味なんてなくていいのだ。
シルクはただ、何か喋っていたかった。
「………え??じゃあ、この大陸、全部海に囲まれた大きな島なの?!海の上に大陸が乗っかってるの??」
「乗っかってるって言い方は変だけど、確かに巨大な島みたいなもんだな。うん。」
「嘘っ?!」
「嘘って…そんな事で嘘ついてどうすんだよ??ここの港から、西の国にも行けるんだぞ?船で。」
「……は?!嘘でしょ?!」
「だから!何で嘘なんだよ??そんな嘘ついてどうすんだよ??西の国にも南よりのところに港があるんだぞ?知らなかったのか??」
「知らないよ。なら他の国にも行けるの?!」
「う~ん。確か東の国にも行くルートはあるにはあるな?実は東の国を囲む湖って、何個かの湖を経て海と繋がってんだよ。だから海伝いに行こうと思えば行ける。ただ、そんな無茶をするより、陸ルートの方が安全だし早いしコストもかからないから、実験的に繋がってるって証明で航海しただけで、航路として使われてはないな。」
「北の国にも行けるの?!」
「行けるだろうと言われてるけど、確かめた人はいないな。何度か挑戦はされてるけど、北に行けば行くほど嵐と流氷とか氷山が酷くなって、とても進めないらしい。」
「ええぇ~?!つまんない~。」
「つまんないって、お前……。」
「ならさ…?海はどこまで続いているの??」
「それもわからない。果てを探しに海に出た人で戻った人はいない。だから海がどれだけ広いか、他に陸があるのか、誰も知らない。わかってない。昔、複数の魔術師が集まって大掛かりな魔力探査した事があるんだが、ずっとずっと海だったと言われてる。ちなみにこの時、理論上は海伝いに北の国にも行けるはずだってところは見えたらしい。」
「へぇ~。」
どうでもいい話だった。
でも、何故かとても楽しかった。
シルクは少しだけ笑った。
「……ついでに言うと、海の水はどんどん塩っぱくなってると言われている。」
「……はっ?!何で?!」
「さっき、お前、塩湖の話をしてただろう?塩湖だけじゃないけど、大地の中には塩分が少しだけ含まれてる。それが雨に溶けて、川に流れて海に流れ着く。」
「え??だから逆にどんどん薄まるんじゃないの??雨が降って川の水が入って??」
「シルク、雨はどこから来ると思う??」
「空から。」
「空って?空の何から??」
「雲だろ??」
「雲はどこから来た?」
「………知らないっ!もうっ!もったいぶらないで教えてよっ!!」
「ごめんごめん。シルクはお湯を沸かすと湯気が出るのはわかるよな?それにお前は砂漠の民だ。水はほっとくと蒸発するだろ?特に陽のあたる場所に置いておいたら。」
「うん。」
「曇ってさ、簡単に言うと湯気なんだよ。蒸発した水は空に登って雲になるんだ。」
「う~ん?それで??」
「雨を降らせるような雲を作るなら、たくさんの水が蒸発しないとならない。陽の光もたくさん当たってさ。さて、それはどこだと思う??」
「………海??」
「そう。海から水が蒸発して、雲になって雨を大陸に降らす。でも雨は塩っぱくないよな??つまり、海からは塩気は残して水分だけが蒸発して雲になる。雲になって雨を降らせて、大地の塩を少しだけ溶かして川に運んで海に出る。でも、また蒸発するのは水だけだ。それがずっと続いたら??」
「……だんだん塩っぱくなる??」
「そ。ただ、大地から溶けだす塩分なんて大した事ないから、川の水も塩っぱくないだろ??塩っぱくなり続けてると言われてるけど、それは気が遠くなるくらい長い時間で考えた場合だよ。でも、理論的には塩っぱくなり続けてると言える。」
「へぇ~。変なの~。」
「あははっ!変だよな?そんな事、知らなくても良い事だけど、でも少しだけ楽しいだろ??」
「少しだけね。」
シルクは「少しだけ」を強調して答えた。
だって本当に、そんな事どうでも良かったのだ。
そんな事、知らなくったって生きていけるのだ。
なのに何故か楽しくて仕方がない。
内容が楽しいんじゃない。
どうでもいい事を話している事が楽しいのだ。
「……元気出たか??」
ふと、サークがそう言って、紙ナプキンでシルクのほっぺたを擦った。
知らないうちに、ソースか何かがついていたのだろう。
優しい顔で微笑まれ、シルクは一瞬、呆けてしまった。
次の瞬間、カッと顔が赤くなった。
ソースがついていた事じゃない。
そんな風に主に心配をかけ、こんなふうに扱われた事が恥ずかしかったのだ。
変なうんちく話も、不器用なこの人の優しさなんだ。
それに気付いてしまい、どうしようもなく恥ずかしかった。
「……主の馬鹿…。」
「えっ?!何で?!酷くない?!」
「主の馬鹿っ!人たらしっ!!」
「ええええええぇっ?!」
「大嫌いだあぁぁっ!!」
「何でだよっ!おいっ?!」
シルクは自分の気持ちに収集がつかなくなって、口悪く叫んだ。
いきなり罵られ、サークは目を白黒させる。
え?!何で?!
何で罵られるの?!俺?!
サークは訳がわからず、半泣きになったシルクにオロオロするばかりだった。
久しぶりに、本当に久しぶりに、あの頃の夢が頭を掠めたからだ。
前ほど鮮明に浮かんではこないのは、やはり一つの区切りがあったからだろうか?
それでも、その感覚は覚えている。
自分の奥底に、それはこびりついている。
不安で……。
体を起こしたら、隣のベッドに主がいた。
ああ、主だ。
俺にはもう主がいるんだ。
だから何も怖くない。
怖い事が起きても、主は必ず側にいてくれる。
だから大丈夫。
それでもまだ少し不安だったから、俺はこっそり主のベッドに潜り込んだ。
すぐにバレて、頭を叩かれたけど、追い出されなかった。
主は、いつかの砂漠の夜のように、黙って手を握ってくれた。
そうしたらすぐに瞼が重くなって、それまでが嘘のように眠りに落ちた。
何だか物凄く長く寝た気がする。
シルクはそう思って体を起こした。
「………えっ?!嘘っ?!」
起き上がると、太陽はすでに傾き始めている。
もうカジノに入っていなければおかしい時間のはずだ。
「お~起きたか~。」
声の方に顔を向けると、己の主がピザを食べていた。
物凄くいい匂いだ。
キュルクルと小さく腹が鳴った。
記憶がおかしくなければ、ほぼ丸一日寝ていて何も食べてないはずだ。
これはどういう事だろう??
よくわからないまま、ベッドを抜け出して椅子に座ると、そのままテーブルに置いてあったピザを口に入れた。
「温かいお茶と冷たいお茶、どっち飲むんだ??」
「ん~、温かいの。」
のほほんとサークは言う。
そしてのんびりとお茶を入れてくれた。
シルクは黙ってそれを受け取った。
何だろう?
どうしたんだろう?
何でカジノに行かないんだろう??
そう思ったが、寝過ぎと空腹で頭が回らず、とりあえず食べる事にする。
届いたばかりなのかピザは熱々で、チーズがビヨンと伸びた。
「今日は休みになったから、気にしなくていいぞ~。」
心情を察してか、サークは言った。
そうなんだ、とシルクは思った。
サーク自身もお休みモードなのか、随分まったりしている。
色々聞きたい事はあったが、ひとまず休みならいいかとピザを堪能した。
食べながら、ピザ以外の匂いが部屋に漂っている事に気づく。
振り向くと、部屋の一角に、花束やら大きな箱やらが積まれていた。
「……何あれ??」
ピザを咥えたまま、シルクはその小さな山を指差した。
何となく予想はついたが確認する。
「ご想像通りのもんだよ。シルキーへの貢物。朝に休むって連絡したら、昼頃あれらが届いた。お大事にってカードもあったぞ?」
「モテるね、俺。」
「だな。」
口をモゴモゴ動かしながら、シルクはそれを他人事のように見ていた。
サークが普通に話していたのでシルクも普通に話しているが、何だかとても久しぶりな気がする。
ここの所、どこに行っても、どこにいても、気を使って自分とシルキーを使い分けていた。
何も考えずに素でいられるというのは、とても楽だった。
何だか忘れていた。
そんな当たり前の事が幸せな事を。
砂漠の国では、常に気を張って何かでいようとしていた。
そうしないと騙されたりするから、その場にあった自分を作り、上辺だけでも騙す方を演じなければならなかった。
それがなくなったのは、いつからだろう??
何も気にせず、自分でいられるようになったのは、どこからだろう?
その答えはとても簡単だった。
その事を思い出し、思わず声が出た。
「あ~~っ。何か、ここの所、ずっと西の国の事、思い出してる~。」
サークは食べようとしていたピザを口に咥えたまま、その言葉にピクリと一瞬、視線だけシルクに向けた。
だが何事もなかったように、またピザを食べ続ける。
シルクも食べようとしたが、何かが喉に詰まって食べれなかった。
だから、シルクは話を続けた。
サークが聞いていようと聞いていまいと、どっちでも良かった。
ただ、何でもいいから喋り続けて、喉につかえている何かを吐き出してしまいたかった。
「ここって砂漠みたいなのに!砂漠と全然違うんだよっ!だから何かこんがらがるっ!似てるから思い出すのか、全然違うから思い出すのかわかんないんだけどさっ!……砂浜って砂漠みたいじゃん?なのに海だよ??めちゃめちゃ水があるの!しかも潮風っていうの??何か知らない匂いするし!あの水は塩っぱいって言うし。塩っぱいってどういう事??塩湖なの??」
「……塩湖とは違う。海は海だ。湖じゃない。」
突然ペラペラと喋りだしたシルクに、サークは合いの手を入れるように答えた。
聞いていないかと思っていたので、シルクは少しキョトンとした。
「……違いは??」
「湖はどんなにでかくても、何日かかろうとも一周できる。海は無理だ。大陸を囲んでるものだからな。」
何だかうんちくめいた話になってきたが、どうでも良かった。
意味なんてなくていいのだ。
シルクはただ、何か喋っていたかった。
「………え??じゃあ、この大陸、全部海に囲まれた大きな島なの?!海の上に大陸が乗っかってるの??」
「乗っかってるって言い方は変だけど、確かに巨大な島みたいなもんだな。うん。」
「嘘っ?!」
「嘘って…そんな事で嘘ついてどうすんだよ??ここの港から、西の国にも行けるんだぞ?船で。」
「……は?!嘘でしょ?!」
「だから!何で嘘なんだよ??そんな嘘ついてどうすんだよ??西の国にも南よりのところに港があるんだぞ?知らなかったのか??」
「知らないよ。なら他の国にも行けるの?!」
「う~ん。確か東の国にも行くルートはあるにはあるな?実は東の国を囲む湖って、何個かの湖を経て海と繋がってんだよ。だから海伝いに行こうと思えば行ける。ただ、そんな無茶をするより、陸ルートの方が安全だし早いしコストもかからないから、実験的に繋がってるって証明で航海しただけで、航路として使われてはないな。」
「北の国にも行けるの?!」
「行けるだろうと言われてるけど、確かめた人はいないな。何度か挑戦はされてるけど、北に行けば行くほど嵐と流氷とか氷山が酷くなって、とても進めないらしい。」
「ええぇ~?!つまんない~。」
「つまんないって、お前……。」
「ならさ…?海はどこまで続いているの??」
「それもわからない。果てを探しに海に出た人で戻った人はいない。だから海がどれだけ広いか、他に陸があるのか、誰も知らない。わかってない。昔、複数の魔術師が集まって大掛かりな魔力探査した事があるんだが、ずっとずっと海だったと言われてる。ちなみにこの時、理論上は海伝いに北の国にも行けるはずだってところは見えたらしい。」
「へぇ~。」
どうでもいい話だった。
でも、何故かとても楽しかった。
シルクは少しだけ笑った。
「……ついでに言うと、海の水はどんどん塩っぱくなってると言われている。」
「……はっ?!何で?!」
「さっき、お前、塩湖の話をしてただろう?塩湖だけじゃないけど、大地の中には塩分が少しだけ含まれてる。それが雨に溶けて、川に流れて海に流れ着く。」
「え??だから逆にどんどん薄まるんじゃないの??雨が降って川の水が入って??」
「シルク、雨はどこから来ると思う??」
「空から。」
「空って?空の何から??」
「雲だろ??」
「雲はどこから来た?」
「………知らないっ!もうっ!もったいぶらないで教えてよっ!!」
「ごめんごめん。シルクはお湯を沸かすと湯気が出るのはわかるよな?それにお前は砂漠の民だ。水はほっとくと蒸発するだろ?特に陽のあたる場所に置いておいたら。」
「うん。」
「曇ってさ、簡単に言うと湯気なんだよ。蒸発した水は空に登って雲になるんだ。」
「う~ん?それで??」
「雨を降らせるような雲を作るなら、たくさんの水が蒸発しないとならない。陽の光もたくさん当たってさ。さて、それはどこだと思う??」
「………海??」
「そう。海から水が蒸発して、雲になって雨を大陸に降らす。でも雨は塩っぱくないよな??つまり、海からは塩気は残して水分だけが蒸発して雲になる。雲になって雨を降らせて、大地の塩を少しだけ溶かして川に運んで海に出る。でも、また蒸発するのは水だけだ。それがずっと続いたら??」
「……だんだん塩っぱくなる??」
「そ。ただ、大地から溶けだす塩分なんて大した事ないから、川の水も塩っぱくないだろ??塩っぱくなり続けてると言われてるけど、それは気が遠くなるくらい長い時間で考えた場合だよ。でも、理論的には塩っぱくなり続けてると言える。」
「へぇ~。変なの~。」
「あははっ!変だよな?そんな事、知らなくても良い事だけど、でも少しだけ楽しいだろ??」
「少しだけね。」
シルクは「少しだけ」を強調して答えた。
だって本当に、そんな事どうでも良かったのだ。
そんな事、知らなくったって生きていけるのだ。
なのに何故か楽しくて仕方がない。
内容が楽しいんじゃない。
どうでもいい事を話している事が楽しいのだ。
「……元気出たか??」
ふと、サークがそう言って、紙ナプキンでシルクのほっぺたを擦った。
知らないうちに、ソースか何かがついていたのだろう。
優しい顔で微笑まれ、シルクは一瞬、呆けてしまった。
次の瞬間、カッと顔が赤くなった。
ソースがついていた事じゃない。
そんな風に主に心配をかけ、こんなふうに扱われた事が恥ずかしかったのだ。
変なうんちく話も、不器用なこの人の優しさなんだ。
それに気付いてしまい、どうしようもなく恥ずかしかった。
「……主の馬鹿…。」
「えっ?!何で?!酷くない?!」
「主の馬鹿っ!人たらしっ!!」
「ええええええぇっ?!」
「大嫌いだあぁぁっ!!」
「何でだよっ!おいっ?!」
シルクは自分の気持ちに収集がつかなくなって、口悪く叫んだ。
いきなり罵られ、サークは目を白黒させる。
え?!何で?!
何で罵られるの?!俺?!
サークは訳がわからず、半泣きになったシルクにオロオロするばかりだった。
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