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第八章②「敵地潜入」
風向き
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シルキーはケビンが出ていくと、すぐに立ち上がった。
「どうしたんですか?トイレですか?」
「ん~ん?野暮用~。」
不思議に思って尋ねた俺に、シルキーはニヤッと意味有りげに笑った。
おいおい、今度は何を仕出かそうってんだよ、おい。
そう思ったが、シルクに任せてある部分には口出しはしないつもりなので、俺は諦めたようにため息をついて見せた。
「ありがと、ユウくん。愛してるわ。」
「はいはい。ケビンさんが迎えに来るまでには戻って下さいよ??」
「大丈夫よ、すぐに戻るから。」
シルキーはそう言うと、少しだけ控室のドアを開けて様子を伺う。
仕方なく、俺はそれを手伝う事にする。
「どこに行こうとしてます??」
「ゲストラウンジ。」
「ふ~ん。」
俺は店側に感づかれないよう範囲を絞って魔力探査をする。
まだ時間も早いせいか、さほど人の出入りはない。
「……今はそこまでの出入りはなさそうなので大丈夫ですが、時間が経てば経つほど人が増えるのでお忘れなく。」
「ありがと、ユウくん。すぐ戻るわ。」
「どうだか……。」
シルキーはウインクすると足早に歩いて行った。
何だかな~、妙な事にならないと良いけど……。
俺はそう思いつつ、ため息まじりに部屋の奥に戻り、固まった。
「……なっ?!」
一瞬、何が起きたのかわからなかった。
素早くあたりを魔力探査する。
カジノの防衛措置か何かに引っ掛かったとしてもこの際仕方がない。
それぐらいの事態だった。
しかし、何も見つからない。
俺はため息をついて、探査をやめた。
少し目を閉じる。
落ち着け、冷静になれ。
そう、自分に言い聞かせた。
慌てふためいては、大事な事を見落としかねない。
俺はゆっくり目を開いて、状況を確認し直した。
シルキーの化粧机の上に、一通の封筒が置いてある。
見覚えのない封筒。
それは絶対にさっきまでなかった物だ。
シルクと部屋に押し込まれた時もなかった。
ケビンに叱咤されている時もなかった。
そして、シルクが立ち上がった時にもなかった。
出かけるのにシルクが置いていった物ではない。
何故ならそれからシルクの気配を探知できない。
むしろ、なんの気配もついていないのだ。
誰かが置いたのなら、微かでもその痕跡があるはず。
なのにそれがない。
気持ちが悪いほど、何の痕跡もないのだ。
シルクが出ていこうとするちょっとした騒ぎの間に、それはそこに置かれた。
俺は痕跡を探る事は諦めて、その封筒に近づいた。
微かに魔術措置がされているのがわかる。
これは、痕跡を消す魔術がかけられている。
それがその場でかけられたものなのか、痕跡を消す処置のされた物を用いたのかもよくわからない。
「その場でやったにしろ、元々、気配を残さない様に処置してあったものにしろ、かなりの魔術師の仕事だ……。」
俺はその封筒を掴んだ。
痕跡を消す処置以外は、特に何か仕掛けがあったりはしない、普通の封筒だ。
危険も感知できない。
仕方なく、俺は中を引き出した。
「……………っ!!」
1枚目の紙には、タイプされた文字で1行、こう書かれている。
『傷は大丈夫でしたか?』
それはつまり、俺かシルクが怪我をしたという意味。
シルクは怪我はしていない。
したのは俺だ。
だからこの手紙は俺宛の物だ。
そして怪我をしたのはこの控室。
だから俺とシルク以外、知っている人間はいないはずなのだ。
俺は黙って、次の用紙に移った。
1枚目を後ろに送り、俺は声も出ない程驚いた。
「……………っ!!どういう事だっ?!」
2枚目の用紙は、手紙ではなかった。
カジノの見取り図。
次の用紙も、次の用紙も、カジノの見取り図だ。
階数毎にあるだけではない。
地下やシークレット階になっているところまである。
俺が鼠で探りきれていない場所まで書かれている、完璧なカジノの全見取り図だった。
これを信じるか信じないかは別として、誰が何の為に俺にこれを寄こしたと言うのか?!
そして最後の用紙に、やはり1行だけタイプされた文字があった。
『お詫びの印に。』
これをどう捉えるべきか……。
俺はしばらく考えた。
だが答えなんか出る訳がない。
どう考えても、相手に対する情報がなさすぎるのだから……。
「入っても良いかしら?」
シルキーは準備中なのか開けっ放しになっていたゲストラウンジのドアを軽くノックした。
「……お前……。」
「いるんじゃないかと思ったのよね~。ジプシーの勘って当たるのよ?」
そう言ってシルキーは笑って中に入る。
閑散とした何の音楽もないゲストラウンジには、何故か一人、ゴードンが立っていた。
「何しに来たんだよ、お前。」
「随分な挨拶ね?顔を見せに来たのに。」
クスッと笑うシルキーをゴードンは複雑な表情で見つめた。
そして無言でバーカウンターに勝手に入って行く。
「具合はもういいのかよ?お前?」
「お陰様で。心配した?」
「何で俺がお前の心配何かしなきゃならない?」
「ふ~ん。ま、そういう事にしといてあげる。」
意味深に笑うシルキーを無視して、ゴードンは勝手にカウンターの酒をグラスに注ぎ、飲み始めた。
とてもシラフではいられなかったからだ。
「お前も飲むか?」
「シードルある?」
「シードルだと?!何、可愛こぶってるんだ??」
「うるさいわね。我慢してるの。ステージ前に飲むとマネージャーが怒るから。強いとバレるでしょ。」
「なるほどな。」
ゴードンはシードルの小瓶を見つけると、そのままシルキーに投げて寄こした。
「ちょっと!危ないじゃないっ!!」
「でもちゃんと受け取っただろ?細かいこと言うな、うるせぇ踊り子だな?!」
「本当、性格悪いわよね、ゴードンさん。」
シルキーは呆れなから、受け取ったシードルを開けようとした。
だが、投げられたシードルはよく振られた様になっていて、口を捻った瞬間、溢れ出して来た。
「ちょっとっ!ヤダっ!!」
立っていたので服には溢れなかったが、手がビショビショになってしまった。
流石にまずいと思ったらしく、ゴードンがその辺のタオルを手に近づく。
シルキーはちょうどその瓶をサイドテーブルの隅に置こうとして背を向けた所だった。
「わっ!?」
「おいっ!!」
タオルを差し出そうとしたゴードンと、背を向けて屈もうとしたシルキーがぶつかる。
体勢を崩したシルキーをゴードンが後ろから抱きしめる様な形になってしまった。
「ごめんなさい?ゴードンさん?」
シルキーはそう言って離れようとした。
しかしゴードンは離さなかった。
少し乱暴に引き寄せ、そのまま後ろから抱きしめる。
「ゴードンさん、離して。」
「嫌だね。」
「暴れるわよ?アタシこう見えて腕っぷしは確かだから。」
「だろうな。野生の山猫みたいだ、お前は。」
野生の山猫というのが南の国ではどういうものを指すのかシルキーはわからなかったが、とりあえず殴られる覚悟あっての行動だというのは理解した。
なのでため息をついて、手についたシードルを振り払った。
ゴードンがタオルを差し出してくるので、それで拭く。
「そろそろ離してよ。すぐ戻るって言って出てきたの。」
「なぁ、俺じゃ駄目か?」
「え??」
「俺ならあんな優男より、スリルのある楽しみをお前にやれるぞ?」
「何か勘違いしてるみたいだけど、彼とは何にもないわよ?彼はVIPルームに招く華を探す役を演じているだけだもの。だから私も華を演じているのよ?あなたに対してもね。」
「……華を演じてないお前は、俺を選ばないか?」
シルキーはため息をついた。
もしかしてと思って様子を見に来たが、思ったより本気のようだ。
これはまずいなとシルクは思う。
どうかわそう?
シルクはシルキーの顔で答えた。
「ごめんなさい。華としてなら話は別だけど……。華を演じてないアタシは、もう、心に決めた人がいるのよ……。」
そう、はっきりと言った。
ゴードンの腕から力が抜けたので、するりとその腕から抜ける。
「なるほどな、誰にもなびかない訳だ。」
「うん。ごめん。」
いつもと少し違う口調に、ゴードンは苦笑いした。
素で応えてくれたのだと思った。
それが例え断りの返事だとしても、シルキーは華を演じずに応えてくれたのだと。
「わかった。もう行け。」
シルキーはそのまま、ゲストラウンジのドアに向かった。
だが、そこで一度だけ振り向いて言った。
「昨日、お見舞いにステージ衣装をくれた人がいたの。名前はなかったわ。でも今日、それを着て踊るわ。」
「へぇ……。」
「アタシの事、よく見てくれてる人だと思う。そういう衣装だったもの。だから精一杯踊るつもりよ。アタシ。」
「そうか。」
「だから、今日のステージは見に来てね?今後は来たくなかったら来なくていいから。」
「ああ、わかったよ。シルキー。」
「ありがと、ゴードンさん。それじゃ……。」
シルキーはそれだけ言うと、もう振り返らずに足早に出て行った。
早足で控室に戻る途中、シルキーは人とぶつかりそうになった。
考え事をしていて少し気がそれていたのだ。
それでも運動神経も反射神経も人一倍優れているので、ぶつからずに済んだが慌てて謝った。
「あら!ごめんなさいっ!すみませんっ!!」
シルキーの口調ではあったが、頭を下げ丁寧にシルクは謝った。
しかし相手は、とても不機嫌そうに舌打ちした。
何だよ、こっちだけが悪い訳じゃないのに、お互い様だろ?!
とシルクは心の中で思ったが、顔にも態度にも出さなかった。
「すみませんでした。」
もう一度謝り、頭を下げる。
相手はやはり何も言わす、無視して歩いて行ってしまった。
多少カチンとくる対応をされたが、それどころではない。
早いところ戻らないと、付き人に、下手をしたらケビンに何を言われるかわかったものじゃない。
なのでシルクは顔をあげ、急いで控室に向かった。
だが……。
「…………気に入らない…っ!」
その相手が少し歩いてから振り返り、そう言った事をシルキーは知らなかった。
風向きは音もなく、変わり始めていた。
「どうしたんですか?トイレですか?」
「ん~ん?野暮用~。」
不思議に思って尋ねた俺に、シルキーはニヤッと意味有りげに笑った。
おいおい、今度は何を仕出かそうってんだよ、おい。
そう思ったが、シルクに任せてある部分には口出しはしないつもりなので、俺は諦めたようにため息をついて見せた。
「ありがと、ユウくん。愛してるわ。」
「はいはい。ケビンさんが迎えに来るまでには戻って下さいよ??」
「大丈夫よ、すぐに戻るから。」
シルキーはそう言うと、少しだけ控室のドアを開けて様子を伺う。
仕方なく、俺はそれを手伝う事にする。
「どこに行こうとしてます??」
「ゲストラウンジ。」
「ふ~ん。」
俺は店側に感づかれないよう範囲を絞って魔力探査をする。
まだ時間も早いせいか、さほど人の出入りはない。
「……今はそこまでの出入りはなさそうなので大丈夫ですが、時間が経てば経つほど人が増えるのでお忘れなく。」
「ありがと、ユウくん。すぐ戻るわ。」
「どうだか……。」
シルキーはウインクすると足早に歩いて行った。
何だかな~、妙な事にならないと良いけど……。
俺はそう思いつつ、ため息まじりに部屋の奥に戻り、固まった。
「……なっ?!」
一瞬、何が起きたのかわからなかった。
素早くあたりを魔力探査する。
カジノの防衛措置か何かに引っ掛かったとしてもこの際仕方がない。
それぐらいの事態だった。
しかし、何も見つからない。
俺はため息をついて、探査をやめた。
少し目を閉じる。
落ち着け、冷静になれ。
そう、自分に言い聞かせた。
慌てふためいては、大事な事を見落としかねない。
俺はゆっくり目を開いて、状況を確認し直した。
シルキーの化粧机の上に、一通の封筒が置いてある。
見覚えのない封筒。
それは絶対にさっきまでなかった物だ。
シルクと部屋に押し込まれた時もなかった。
ケビンに叱咤されている時もなかった。
そして、シルクが立ち上がった時にもなかった。
出かけるのにシルクが置いていった物ではない。
何故ならそれからシルクの気配を探知できない。
むしろ、なんの気配もついていないのだ。
誰かが置いたのなら、微かでもその痕跡があるはず。
なのにそれがない。
気持ちが悪いほど、何の痕跡もないのだ。
シルクが出ていこうとするちょっとした騒ぎの間に、それはそこに置かれた。
俺は痕跡を探る事は諦めて、その封筒に近づいた。
微かに魔術措置がされているのがわかる。
これは、痕跡を消す魔術がかけられている。
それがその場でかけられたものなのか、痕跡を消す処置のされた物を用いたのかもよくわからない。
「その場でやったにしろ、元々、気配を残さない様に処置してあったものにしろ、かなりの魔術師の仕事だ……。」
俺はその封筒を掴んだ。
痕跡を消す処置以外は、特に何か仕掛けがあったりはしない、普通の封筒だ。
危険も感知できない。
仕方なく、俺は中を引き出した。
「……………っ!!」
1枚目の紙には、タイプされた文字で1行、こう書かれている。
『傷は大丈夫でしたか?』
それはつまり、俺かシルクが怪我をしたという意味。
シルクは怪我はしていない。
したのは俺だ。
だからこの手紙は俺宛の物だ。
そして怪我をしたのはこの控室。
だから俺とシルク以外、知っている人間はいないはずなのだ。
俺は黙って、次の用紙に移った。
1枚目を後ろに送り、俺は声も出ない程驚いた。
「……………っ!!どういう事だっ?!」
2枚目の用紙は、手紙ではなかった。
カジノの見取り図。
次の用紙も、次の用紙も、カジノの見取り図だ。
階数毎にあるだけではない。
地下やシークレット階になっているところまである。
俺が鼠で探りきれていない場所まで書かれている、完璧なカジノの全見取り図だった。
これを信じるか信じないかは別として、誰が何の為に俺にこれを寄こしたと言うのか?!
そして最後の用紙に、やはり1行だけタイプされた文字があった。
『お詫びの印に。』
これをどう捉えるべきか……。
俺はしばらく考えた。
だが答えなんか出る訳がない。
どう考えても、相手に対する情報がなさすぎるのだから……。
「入っても良いかしら?」
シルキーは準備中なのか開けっ放しになっていたゲストラウンジのドアを軽くノックした。
「……お前……。」
「いるんじゃないかと思ったのよね~。ジプシーの勘って当たるのよ?」
そう言ってシルキーは笑って中に入る。
閑散とした何の音楽もないゲストラウンジには、何故か一人、ゴードンが立っていた。
「何しに来たんだよ、お前。」
「随分な挨拶ね?顔を見せに来たのに。」
クスッと笑うシルキーをゴードンは複雑な表情で見つめた。
そして無言でバーカウンターに勝手に入って行く。
「具合はもういいのかよ?お前?」
「お陰様で。心配した?」
「何で俺がお前の心配何かしなきゃならない?」
「ふ~ん。ま、そういう事にしといてあげる。」
意味深に笑うシルキーを無視して、ゴードンは勝手にカウンターの酒をグラスに注ぎ、飲み始めた。
とてもシラフではいられなかったからだ。
「お前も飲むか?」
「シードルある?」
「シードルだと?!何、可愛こぶってるんだ??」
「うるさいわね。我慢してるの。ステージ前に飲むとマネージャーが怒るから。強いとバレるでしょ。」
「なるほどな。」
ゴードンはシードルの小瓶を見つけると、そのままシルキーに投げて寄こした。
「ちょっと!危ないじゃないっ!!」
「でもちゃんと受け取っただろ?細かいこと言うな、うるせぇ踊り子だな?!」
「本当、性格悪いわよね、ゴードンさん。」
シルキーは呆れなから、受け取ったシードルを開けようとした。
だが、投げられたシードルはよく振られた様になっていて、口を捻った瞬間、溢れ出して来た。
「ちょっとっ!ヤダっ!!」
立っていたので服には溢れなかったが、手がビショビショになってしまった。
流石にまずいと思ったらしく、ゴードンがその辺のタオルを手に近づく。
シルキーはちょうどその瓶をサイドテーブルの隅に置こうとして背を向けた所だった。
「わっ!?」
「おいっ!!」
タオルを差し出そうとしたゴードンと、背を向けて屈もうとしたシルキーがぶつかる。
体勢を崩したシルキーをゴードンが後ろから抱きしめる様な形になってしまった。
「ごめんなさい?ゴードンさん?」
シルキーはそう言って離れようとした。
しかしゴードンは離さなかった。
少し乱暴に引き寄せ、そのまま後ろから抱きしめる。
「ゴードンさん、離して。」
「嫌だね。」
「暴れるわよ?アタシこう見えて腕っぷしは確かだから。」
「だろうな。野生の山猫みたいだ、お前は。」
野生の山猫というのが南の国ではどういうものを指すのかシルキーはわからなかったが、とりあえず殴られる覚悟あっての行動だというのは理解した。
なのでため息をついて、手についたシードルを振り払った。
ゴードンがタオルを差し出してくるので、それで拭く。
「そろそろ離してよ。すぐ戻るって言って出てきたの。」
「なぁ、俺じゃ駄目か?」
「え??」
「俺ならあんな優男より、スリルのある楽しみをお前にやれるぞ?」
「何か勘違いしてるみたいだけど、彼とは何にもないわよ?彼はVIPルームに招く華を探す役を演じているだけだもの。だから私も華を演じているのよ?あなたに対してもね。」
「……華を演じてないお前は、俺を選ばないか?」
シルキーはため息をついた。
もしかしてと思って様子を見に来たが、思ったより本気のようだ。
これはまずいなとシルクは思う。
どうかわそう?
シルクはシルキーの顔で答えた。
「ごめんなさい。華としてなら話は別だけど……。華を演じてないアタシは、もう、心に決めた人がいるのよ……。」
そう、はっきりと言った。
ゴードンの腕から力が抜けたので、するりとその腕から抜ける。
「なるほどな、誰にもなびかない訳だ。」
「うん。ごめん。」
いつもと少し違う口調に、ゴードンは苦笑いした。
素で応えてくれたのだと思った。
それが例え断りの返事だとしても、シルキーは華を演じずに応えてくれたのだと。
「わかった。もう行け。」
シルキーはそのまま、ゲストラウンジのドアに向かった。
だが、そこで一度だけ振り向いて言った。
「昨日、お見舞いにステージ衣装をくれた人がいたの。名前はなかったわ。でも今日、それを着て踊るわ。」
「へぇ……。」
「アタシの事、よく見てくれてる人だと思う。そういう衣装だったもの。だから精一杯踊るつもりよ。アタシ。」
「そうか。」
「だから、今日のステージは見に来てね?今後は来たくなかったら来なくていいから。」
「ああ、わかったよ。シルキー。」
「ありがと、ゴードンさん。それじゃ……。」
シルキーはそれだけ言うと、もう振り返らずに足早に出て行った。
早足で控室に戻る途中、シルキーは人とぶつかりそうになった。
考え事をしていて少し気がそれていたのだ。
それでも運動神経も反射神経も人一倍優れているので、ぶつからずに済んだが慌てて謝った。
「あら!ごめんなさいっ!すみませんっ!!」
シルキーの口調ではあったが、頭を下げ丁寧にシルクは謝った。
しかし相手は、とても不機嫌そうに舌打ちした。
何だよ、こっちだけが悪い訳じゃないのに、お互い様だろ?!
とシルクは心の中で思ったが、顔にも態度にも出さなかった。
「すみませんでした。」
もう一度謝り、頭を下げる。
相手はやはり何も言わす、無視して歩いて行ってしまった。
多少カチンとくる対応をされたが、それどころではない。
早いところ戻らないと、付き人に、下手をしたらケビンに何を言われるかわかったものじゃない。
なのでシルクは顔をあげ、急いで控室に向かった。
だが……。
「…………気に入らない…っ!」
その相手が少し歩いてから振り返り、そう言った事をシルキーは知らなかった。
風向きは音もなく、変わり始めていた。
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