欠片の軌跡⑤〜あらがう者たち

ねぎ(塩ダレ)

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第八章②「敵地潜入」

寝不足

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一夜明け、サークは目の前のシルクを見ながら、昨日の涙は何だったのだろうと思った。
幻だったのだろうか……。

目覚めたシルクは信じられないほど元気だった。「嘘みたいにすっごい寝たっ!めちゃくちゃスッキリしてるっ!!」と朝から大きな声を出し、本を読んでいたせいで寝不足のサークは、ゆっくり朝寝坊したかったのに「食べ物出して!」と叩き起こされて死んだ目をしている。

「……なぁ……俺、寝ていいか??」

「ダメ。起きてて!一人じゃつまんないっ!!」

そう言ってシルクは、サークに温め直させたケバブをサラダと一緒にパンに挟み、モリモリ食べている。

ちなみにそれで3つ目だ。
どんだけ食うんだ??
発情期前って腹が減るのか??
よくわからない。

サークは寝ぼけ眼で甘めのカフェオレをも飲みながら、目の前のチーズを摘んだ。

「……っ!!ケッ…ケホッっ!!」

「ヤダ、何だよ?主~、汚いな~??」

「このチーズ……っ!!」

「チーズ??」

サークは物凄い顔をして、じたばたした後、カフェオレを一気に飲んだ。
シルクは訳がわからなくてそのチーズを食べてみる。

「あっ!ヤギのチーズだ~!!」

嬉しそうにシルクは言うと、食べていた手作りサンドにそれを加えた。
サークが信じられないものを見るような目でそれを見ている。

「何??苦手??」

「かなり苦手……。」

「ええ~?!美味しいのに~?!」

生まれ育った環境の違いがあるので仕方がないが、サークがかなり苦しんだそれを、シルクは美味しそうに食べる。
見た目は白いフレッシュチーズでとても美味しそうなのだが、サークはヤギの独特な癖がどうしても受け入れられなかった。

「変なの~。」

「俺は牛のミルク派なんだから仕方ないだろ……。」

そう言ってサークはケバブをそのまま口に放り込んだ。
口をモゴモゴ動かしながら、思い出したようにコトリと小瓶をテーブルに置いた。

「忘れないうちに渡しとくわ。」

「……ありがと。」

「ん。」

眠くてサークは大あくびをした。
結局、こっちに戻ってから本の続きを読み始め、読み切ってしまった。
気づけば日の出まで数時間だった。

シルクはそれをそっと手に取った。
サークが昨日取ってきた抑制剤の薬瓶だ。
複雑な表情でそれを見つめる。

「……なんかまたこれ飲むとは思わなかった。」

ギルと出会って自然発生的な発情期がなくなったので、もう起こらないと思っていた。
つがいと出会っても、離れてしまえばまたこうして起こるのだと言う事実がとても嫌だった。

サークはと言うと、シルクが複雑な表情をしているのにも気づけないほどとにかく眠かった。
とりあえずとばかりにパンに蜂蜜をかけ齧る。
少し食べたら寝ようと考えていたからだ。

起きているにしても、せめて横になってゴロゴロしなければ身が持たない。
そんな状態の為、小瓶を見つめるシルクに深く考えないまま言ってしまった。

「一応、今後は持って歩けよ?それからさ~、考えたんだけど、今後はお前、ギルの側から離れるなよ?何かあっても、いちいち俺について来なくていいからさ。」

蜂蜜を付け足しつけたし、パンを噛りながらサークは言った。
腫れぼったい目を開けていられなくて、シパシパさせる。
シルクの顔から笑みが消えた。

「何だよ、それ……。」

「怒るなって。変な意味じゃないんだよ。今後、チームで別れるならお前はギルのいる方に入った方がいいよなって話。俺がいるから俺の方にって考えなくていいって事だよ。チームなんだから別々の班になったってお前は俺の部下だろ??むしろ、お前は俺の片腕なんだ。もしもの時、俺がその場にいなくても俺の意志を汲んでお前が周りに指示してもらえると助かるんだが?どうだ?」

シルクは俯いて黙ってしまった。
そんなに凹む事かな??
サークは頭を掻きながら、コーヒーを入れ直した。
働いていない頭で、ミルクと砂糖を加えてぐるぐるかき回す。

「何で凹むんだよ~シルク?もしもの時の話だよ。別に常に俺から離れろって言ってる訳じゃないよ?いざって時、お前がそうやって動いてくれると助かるって話だし。それに正直、発情の事は俺にはわからない。今回は直ぐに薬が取りに行けたけど、今後そうじゃない事も起こり得るだろ?その時、俺じゃお前の不安は取り除いてやれないから、ギルといた方がいいよなって思ったんだよ。俺じゃお前が苦しんでても何もできない。なら、できるだけそうならないで済む方向で動いた方がいいと思うんだけど??」

シルクは黙ったまま俯いてる。
参ったなとサークは思った。
ちょっと直球過ぎたかもしれない。
コーヒーを飲みながら、サークは困ってしまった。

「………して…。」

「え??」

「殺して……。」

「は??え??ちょっと?何っ?!」

「主についていくのにこの体質が邪魔だっ!!でも俺にはどうにもできないっ!!だからいっそ殺してっ!!」

「待て待て待て待てっ!!いきなりどうした?!お前っ?!極論すぎるだろうっ!!」

何なんだ?!ヤンデレか?!
ヤンデレなのか?!

突然叫ばれ、サークは狼狽した。
寝ぼけていた頭は、ガツンと殴られたように目が覚める。
そして直ぐにサークは自分のミスに気づいた。

シルクは今、発情期前で精神的に不安定なのだ。

そんな時にこんな話をしたら、こうなるのは当たり前だった。
シルクは俯いたままプルプル震えて言った。

「主、わかってない……っ!!カイナの民が誓いを立てた意味をわかってないっ!!どうしてわかってくれないのっ?!前にも言ったじゃんっ!置いて行くなら死ねって言ってくれた方がいいってっ!!……お願い!主っ!俺が連れて歩くには不合格ならっ!!ここで死ねって言ってよっ!!お願いっ!!」

「落ち着けっ!シルクっ!!悪かった!悪かったから!!死なれたら困るからっ!!」

「俺は主の剣であり盾であり影なんだよ……主は影を離して歩くのかよ……。俺の事片腕だって言うのに……腕を切り離して歩くのかよ……。」

「ごめん、悪かったよ。お前があまりにも辛そうだっから……ゴメンな?」

「俺もどうしていいかわかんないよ……。」

シルクの情緒不安定は今回どうも酷いらしい。
確かにつがいに出会ってから、初めて離れての自然発生的な発情期なのだ。
俺も発情期の事はわからないが、シルク自身もわからない事が多いのだ。
本人も色々考えてしまっているところに、わざわざこんな不安定にさせる話をすべきではなかった。
寝ぼけていたとはいえ、不適切だった。
サークは俯いているシルクの足元に膝ま付き、その震える手を握った。

「ごめん、ごめんな?」

「ごめん……わかってるよ……。主が言ってる事……。でも俺は誓いを立てたんだよ……主に……。他の誰かじゃ駄目なんだよ……主が俺の全てなんだよ……なのに……俺の体じゃ迷惑かけてるのもわかってるよ……。どっちもわかってるよ……でも……。何か訳がわからないよ……俺……何かおかしい……。」

「大丈夫、落ち着け。お前は変じゃない。ちょっと不安定なだけだ。不安定なお前に、混乱させる様な話をしてごめんな?配慮が足らなかった。」

シルクは少しグズグズ言いながら首を振る。
そのまま近くの紙ナプキンで鼻をかんだ。

「おい、そんな硬い紙で鼻なんかかむなよ。」

少し歩いて、サークは備え付けのティッシュを持ってきて、シルクの前に置いた。
それをわさわさ取ってシルクは顔を覆った。

こう言う不安定な時は、どうするのが良いんだろう??
サークはその様子を見守りながら、考えていた。
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