欠片の軌跡⑤〜あらがう者たち

ねぎ(塩ダレ)

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第八章②「敵地潜入」

休日の過ごし方

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俺は考えた。
俺は心理的にも発情期的にもシルクの支えにはなれない。
俺にあるものと言えば、無駄なうんちくぐらいだ。

精神不安か……。

精神不安って事は、おそらくセロトニンを分泌させられれば少しは和らぐよな?
そうか……セロトニンか……。


「シルク。朝デートしよう。」

「へっ?!」


ふさぎ込むシルクに俺は唐突にそう言った。
言われたシルクは素っ頓狂な声を上げる。
そして目をパチパチさせて俺を見上げた。

「何、言ってんの??主??頭、大丈夫!?」

「え??あ~、デートって言ったから変な顔してるのか。散歩だよ散歩。朝散歩。」

そう言い換えると、シルクはホッとした顔をしてから、んん??と考え、そして言った。

「……朝デートなら行ってあげる。」

どっちだよ、オイ。
突っ込みたかったがここは堪える。
言い方は何でも良いのだから。
幸い、シルクが早起きしてくれたもんだから、まだ十分、朝と呼べる時間だ。

「それじゃすぐ支度しよう。」

「支度??」

「お前、そのまま外に出たらシルキーとして追っかけまわされて、散歩どころじゃないだろうが。」

「そっか……。でもどうするの??」

「とりあえずこれかな?」

俺はそう言って、シルクの髪をスルリと撫でた。
シルクの白い髪が真っ黒に変わる。
ちょうど大きな鏡が壁に掛けてあり、シルクは目を丸くした。

「わっ?!何これっ?!」

「後はシルキーじゃなくて、いつものシルクとしての服を着れば良いだろ??」

「え~?!いくら髪の色が違っても、それじゃバレるよっ!!」

「え??ならどうするんだ??」

「任せてっ!」

シルクはそう言うと、にこにこしながらプレゼントされた箱を漁った。
それは使わないものとして分けられていた方の箱だった。
その中から、シルクがジャーンとばかりに1つの服を取り出す。
今度は俺が目をシパシパさせた。

「……は?!え?!それ着る気か?!」

「だってデートだし~♪」

マジか……。

そう言って意気揚々とシルクが掲げたのは、ユニセックスではなく完全に女性物の、エキゾチックなワンピースだった……。







あぁ、寝不足の目に朝日が眩しい……。
そして砂浜の白い砂も眩しい……。
考えてみれば、俺は日陰の生物だ……こんなに陽の光を浴びたら死んでしまう……。

「ダーリンっ!見てみて~ヤドカリがいる~っ!!本物初めて見た~!可愛い~っ!!」

朝散歩として、俺達はホテルの裏にあるビーチを歩いた。
というか、俺はいつからあいつのダーリンになったんだろう??
シルクは砂浜でキャッキャしている。
散歩って、静かに歩くものじゃなかったっけ??
はしゃぐシルクが眩しくて直視できない。(寝不足で目が開かない)
色々眩しくて気絶しそうだ。(眠い)

セロトニンを出すには日光浴、特に朝日を浴びると良いと論文にあったと思う。
後はよく食べ運動してよく寝る。
笑う事も良いとあったかな??
なら、笑ってるからいいのか、うん。

シルクは大型のヤドカリを掴もうとして、何故か身の部分に手を伸ばしたので挟まれそうになり、大笑いしている。
貝の部分を掴めと言うと両手にヤドカリを持って満面の笑みを浮かべた。
何かそのまま食べそうでちょっと怖い。

それにしても黒い髪のシルクって何か変だ。
何で黒にしたんだろう??
しかも胸があるし。
変だ。
めちゃくちゃ変だ。

シルクはエキゾチックなワンピースを着た上、面白がって胸に詰物をした。
黒髪で小振りだがおっぱいがある。

あいつは誰なんだ??

完全に頭が混乱する。
それがシルクとわかっていながら、寝不足の頭は誰なのか理解が追いつかない。
混乱している俺の元に、シルクがパタパタかけてきた。
そして強引に腕を組まれる。

「も~!何してるんだよ~っ!!デートしようって言ったの、ダーリンじゃんっ!!」

「寝不足でフラフラするんだよ……。つか、ダーリンって何?!」

シルクはニッと笑った。
どうやらそこはスルーらしい。

「なら俺が支えて歩いてあげる~。」

「あ、うん。ありがとう。」

そんな感じで俺とシルクは浜辺を散歩した。
途中シルクは、止めるのも聞かず海に入り、海の水をすくって軽く飲んだ。
予想以上にしょっぱかったので、物凄い悲鳴を上げる。
舐めるぐらいにしろよ、全く。
運良く近くで生ココナッツを割ってジュースを売っているおじいさんがいたのでジュースを買って飲んだ。
規則的な波の音が気持ちいい。(眠い)
ジュースを飲んでいる間、シルクはじっとその音を聞いていた。

朝方なので、浜辺付近はジョギングをする人や、遠くにサーフィンをする人が波を待っているくらいで、まだそんなに人はいなかった。
フラフラ散歩しているうちに、海水浴なのかだんだん人が出てきたので、俺達はホテルに帰る事にした。

とりあえず、朝日を浴びるミッションはクリアした。






「あ~~駄目だ、シルク、ごめん。少し寝かせてくれ……。」

部屋に入ってすぐ俺は言った。
可能なら今すぐベッドにダイブしたい。

「ん~??俺のベッドで一緒にお昼寝するんならいいよ??」

シルクはいたずらっぽく笑って答えた。
それが悪ふざけだといつもならわかるのだが、いかんせん眠すぎた。
眠すぎて何でも良かった。

「わかった。」

「え?!嘘っ?!」

俺はそのままシルクの使っているメインベッドに向かって歩いていき、ぽすんと倒れ込んだ。
腕を組んでいたシルクは道連れになって、ボフッと顔からベッドに突っ込まされる。

「も~っ!ベッドに誘うならもっと色っぽくしてよっ!!」

そう文句を言いながら起き上がったが、横に倒れている己の主は、そのまますうすうと寝息を立てている。
どうやら本当に眠くて限界だったらしい。
押し倒されるでもなく、腕を組んだまま道連れにベッドに倒れて顔を打ち、そして何もしないでそのまま横で寝てしまう相手に、シルクはムスッと頬を膨らませた。

「も~っ!!主のバカっ!!」

シルクはベッドの上で胡座を組み、プンスカとハラを立てた。
せっかく色気のあるワンピースを着て歩いてあげたというのに、ずっと半眼で時よりガクッと居眠りをしていた。

そしてこれである。

ベッドに連れ込めたのはいいが、完全に熟睡している。
これでは悪戯のしようがない。
口を半開きにしてぐっすり眠っているサークの顔を眺めていると、だんだん怒りも収まり、クスッと笑った。
ほっぺたをつんつん突いてみる。

「主ったらいけないんだ~。婚約者がいるのに俺と同衾しちゃって~。」

突いても起きないのでむにむに触ってみた。
流石に何か感じたのか、眠ったまま手でほっぺたを擦っている。
意識はないが、これはこれで面白いかもしれない。

「主~?わかってる~??俺、発情期起こりそうなんですけど~??」

一応、朝食の後、薬は飲んだ。
だから残念ながら発情期に入っても発情は起こらない。
笑って寝顔を見守り、鼻をつんつん突いた。
手がまた、むず痒そうに鼻を擦る。
それを見て、えへへと笑う。

「可愛い~。」

ごろりと横になり、子供みたいに無防備な寝顔を間近で見つめる。
すうすうと規則正しい呼吸音。
それはさっき浜辺で聞いた、静かな波の音に似ていた。
寄せては返す波のように、吸っては吐いての呼吸音が繰り返される。
それを聞いているうちにシルクの瞼もだんだんと重くなり、気づいた時にはシルクも眠りに落ちていた。

部屋には小さな呼吸音が2つ、静かに響いていた。
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