欠片の軌跡⑤〜あらがう者たち

ねぎ(塩ダレ)

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第八章③「帰国裁判」

ものを知らぬと責められる

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朝、俺は第三別宮警護部隊の制服に袖を通した。
公の場に着て行けるような服はこれしかないし、何よりこれを着なければ意味がない。
部屋のドアがノックされ、グレイさんが顔を覗かせた。

「サーク、準備はいいかい?」

「はい。よろしくお願いします。」

俺の中央王国側の身元預かり人をグレイさんが引き受けてくれた。
グレイさんは一応、男爵の爵位がある貴族だ。
だから身分的にそれが可能だった。

何より大きいのは、彼が古くからジョシュア王の執事であり現執事長である事だ。
これは裏を返せば、国王が彼に俺の身分預かり人になる事を許した、つまり国王が俺を預かっている事を意味していた。

「………似合わないね。」

ギルド側の身元預かり人は当然ながらマダムだ。
客賓別館の玄関で待っていたマダムは、俺を見るなりそう言った。
言われてみればマダムとはかなりよく会っているのに、制服で会うのは初めてかもしれない。
にしたって、似合わないはないだろう、似合わないは。

「酷くないですか?俺、毎日、これを着て仕事してたんですけど??」

ロイヤルシールドのローブや部隊統一の制服ならまだしも、ギルが俺とシルク用に作ってくれた変形型の制服だ。
確かに今日は公の場だから、ローブ型のガウンまでちゃんと着てるから何となく魔術師っぽくもあるんだけどさ。
そしてふと、魔術師っぽいと似合わないと自分でも思っている事に少しびっくりした。

「……俺って、何なんですかねぇ??」

自分自身の存在がよくわからなくなり、思わず呟いた。
そんな俺にマダムは怪訝そうな顔をする。

「は??何言ってんだい?この子は??」

「まあまあ、とにかく馬車に乗ってくれ。」

グレイさんが苦笑して俺達を馬車に促した。
流石に馬車はもう王族専用の物ではなかったが、国賓用の物なのでさほど豪華さは変わらない。

と言うか、いくら広いからと言って、敷地内を馬車で移動するってどうなんだろう??
何か変な感じだ。
やっぱり俺は、いくら身分が上がっても、貴族生活には馴染めそうもないなと思った。









「………え??何で??」

「何だよ?文句あんのかよ??」

俺が王宮裁判所について罪人控室に入ると、何故かガスパーがいた。

いつもは粋がった着崩し方をしている制服を物凄くぴっちりと着込み、帯剣してメガネなんかかけてるもんだから、俺は物凄くアワアワしてしまった。
会うのが久しぶりなのもそうだし、何かこんなぴっちりしているガスパーを見るのも落ち着かないし、何か別人みたいだし、変に色気があるし……。

「落ち着けよ!何なんだ!お前はっ?!」

「仕方ないだろ?!まさかお前が弁論人で来るとは思ってなかったんだよっ!」

そう、身元預かり人と並んで裁判席に座り、俺と共に戦う相棒である弁論人としてそこにいたのがガスパーだった。

イヴァンは弁論人については何も言っていなかった。(多分わざとだ)
だから俺はてっきり、隊長であるギルが来ると思っていたのだ。

「お前、この件に関わらない様に家に軟禁されてるんじゃなかったのか?!」

「うるせぇな。俺だって何もしないで軟禁されてたんじゃねえっての。それなりに動いてたし、説得出来る材料も揃えた。まぁ、最終的には啖呵切っちまったけどよ。」

「はぁ?!お前、それ、大丈夫な訳?!」

「別に裁判に負けなきゃ何の問題もねぇよ。」

「負けたら??」

「一族から勘当されるな。」

「ええええええぇ?!」

「うるせぇっ!!負けなきゃ何の問題もねぇっつってんだろ?!それとも何か?!てめぇはこの裁判、負けるつもりなんか?!」

「いや……負けないけど……。」

「だったら何の問題もねぇだろうが。いちいちうるせぇな。……久しぶりに会ったってのに……。」

急にそう言われ、微妙な空気が流れる。

あ、うん、まあ……。
久しぶりなんだけどさ~。

今の今まで喧嘩腰で話してたのに、ガスパー……。
いきなりツンからデレに入らないでくれ……。

それこそ久しぶりなんだから……。
心臓に悪いだろうが……。

ガスパーはそれまでのヤンキーっぽい雰囲気から一転、ちょっと顔を赤らめ、淋しげに不貞腐れている。

え?!これ、どうしたらいいの?!
イヴァンとは躊躇なくハグしたんだけどさ?!
ガスパーとハグってしていいのかな~?!

「……お帰り。無事で何よりだ。……馬鹿。」

ガスパーはそっぽを向いたままそう言った。
耳が真っ赤で、俺は片手で目元を覆って天井を見上げた。

うわぁぁぁ!!

久しぶりすぎて、ガスパーのデレの威力が凄い!
俺!どうしたらいいんだ?!

俺にはウィルって言う心に決めた人がっ!!
でもこのガスパーを邪険にしてしまって、俺は人として許されるのか?!

「……お前……何してんだよ??」

「久しぶりすぎて、ガスパーが眩しくて泣いてる。」

「は?!はぁっ?!何だよそれ?!」

「ヤバい……久しぶりすぎて、ガスパーが可愛く見える……俺、どうしたらいいの……?!」

「かっ可愛いって………っ!!」

あまりにも俺が何も言わないので、不審そうにガスパーが振り返り文句を言ったがそれどころではない。

俺は人として、どう対応すべきなんだ?!

ガスパーは可愛いよ!
しかも俺に何でだか惚れてんのも知ってるよ!

でも俺にはウィルがいるんだよ!!

これは突き放すべきなのか?!
とりあえずハグぐらいはすべきなのか?!
でもそれって問題ありじゃないか?!

うわぁ~っ!!どうしたらいいの?!
恋愛偏差値低すぎて、俺にはわからないよっ!!

しかしこのままと言う訳にもいかず、どうしたもんだろうと顔を戻すと、今度はガスパーは首まで赤くしてテーブルに突っ伏していた。

「……え?!ガスパー??大丈夫か?!」

「お前……お前……自分が何を言ったか、自覚あんのかよ?!サークっ?!」

「へ?!俺、何か変な事言ったか?!言ったなら謝るよ!ごめんっ!!」

「~~~っ!!無自覚っ!!無自覚かよっ!!もういいっ!馬鹿野郎っ!!」

「ええええええぇっ?!」

こんな感じで久しぶりの再会をジタバタしていると、手続きに行っていたマダムとグレイさんが部屋に入ってきた。
そして入るなり、マダムは顔をしかめ、グレイさんはおやおやと笑った。

「あんたらね……これから裁判なんだよ?わかってんのかい??」

「まあまあ、レッティ。青春は甘酸っぱいものだよ。羨ましい。」

人を読むマダムとグレイさんに何が見えたかは知らないが、とにかく下手にツッコまないでおこう。
それが一番だ、うん。




とりあえずマダムとグレイさんが来たので、ガスパーも気持ちを切り替えてくれた。
挨拶を交した後、軽く打ち合わせをする。

「とりあえずお前の南の国の軍を攻撃した件については、俺が全体の流れを説明して、その部分について部隊員1人同行していた御者から1人、後、ライオネル殿下が証言する。証言者は予備として隊員と同行してたメイドさん達が控えているから、要求があったら出す。で、てめぇの人となりなんかの証言として、宮廷魔術師代表としてロナンド様、魔術本部からラウィーニア様……。」

「は??ラウィーニア様??」

「フレデリカの事だよ。フレデリカ・アーバン・ラウィーニア。……アンタまさか、フレデリカがラウィーニアって事、知らなかったのかい?サーク??」

「え?ええええええぇ?!嘘っ?!」

「アンタ、それでよくこの国所属の魔術師やってたよ……ラウィーニアの名を知らないなんてさ。」

「知ってますよ!でもそれがフレデリカさんと繋がってなかっただけで!!」

ラウィーニア様と言うのは、宮廷魔術師総括として実績を残した人だ。
むしろこの人がいての魔術師総括とも言える。

昔はとりあえずとばかりに王宮に集められていた魔術師をきちんと組織化し、魔術師本部と連携させ、王宮内に魔術研究所を設立し、各地の魔術学校の特色は残したまま教育基盤を統一し、学校による卒業者の知識や技術の差をなくした事で、何となくだった魔術師の社会地位の確立に貢献した人だ。
俺が魔術学校を出たから、のほほんと魔術師か魔術兵として生きていけると呑気に構えていたのも、ラウィーニア様の功績あっての事だ。

「嘘だろっ?!そんな凄い人だった訳?!」

しかもジョシュア現国王が即位する功績になった、西央戦争を鎮めた立役者4人の一人でしょ?!
そんでもって、今は世界各地の魔女を組織する女帝だよ?!
何なのそれ?!マダムじゃないけど!フレデリカさん、情報量多すぎっ!!

がっくりと項垂れる俺を、ガスパーが冷たい目で見てくる。

「お前……ヤバいな。ちなみに自分の師匠のフルネーム、わかってっか??どんな業績のある人なのかも……??」

すみません、わかりません。
でも、ひとまずそれは後でもよくない??

半泣きになる俺を、ガスパーは冷ややかに軽く軽蔑し、マダムは呆れてため息をつき、グレイさんは我関せずとにこやかに固まっていた。
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