欠片の軌跡⑤〜あらがう者たち

ねぎ(塩ダレ)

文字の大きさ
57 / 99
第八章③「帰国裁判」

長すぎる名前は覚えられない

しおりを挟む
「サーク、てめぇ…。ものを知らねぇにも程があるぞ?貴族社会の事は仕方なかったにしろ、魔術関連の事なのに俺でも知ってる程度の物事も知らねぇで……裁判が終わったら、覚悟しとけよ。」

冷ややかな目で、ガスパー先生がそう言いました。
僕は涙目でぷるぷる震えます。

「可愛こぶるな!!気色ワリィ!!」

「ひいぃぃぃ~っ!!」

あああ~、裁判が終るのが怖い!
せっかく苦労して帰ってきたのに!
これが終わったら、またもガスパー先生のスパルタ政治講義が始まるなんて!!

「うっ、うっ、うっ……。俺、頑張ってるのに……。長い名前とか人の功績とか、政治的な事が苦手なだけなのに……。」

「泣くなっ!!うざってぇっ!!」

ガスパーはそう言うと、持っていた書類でスパンと俺の頭を叩いた。
痛いよ~、心が痛いよ~。
そんな俺をマダムが呆れ顔で見ている。

「悪いけどね、サーク。それは庇ってやれないね。いくら何でも酷すぎる。」

「まあまあ。ちなみにサーク、君を一生懸命教育しようとしてくれている、そのお友達の名前はわかってるのかい?」

にこやかにグレイさんがそう言った。
俺はにこにこ笑うその顔を絶望的に眺めた。

わかった……この人物腰は柔らかだけど腹黒だ……。

「……ガ、ガスパー・サジェス・……なんちゃら・ラティーマー。」

俺の答えに、ガスパーのこめかみがピクリと動いた。
悪いとは思うけど!お前の名前は長すぎるんだよ!!

「なんちゃらなんてついてねぇっ!!」

「ごめん!悪いとは思ってる!!でも何かそこは長いし読みにくくてよくわかんないんだよっ!!ファーストネームもミドルネームもファミリーネームも合ってるんだから許せよ~っ!!」

「名前間違えられて許すか!!大馬鹿野郎っ!!」

「だってあれは読めない!」

「ガスゥダールストヴィンヌイーだっ!!」

「長過ぎるっ!!そして読みづらいし!言いづらいっ!!」

「人ん家の名前にケチつけんじゃねぇっ!!」

「うわ~ん!!無茶苦茶だ~!!」

「どっちがだ!!」

悪いとは思うけど!これだから古参貴族の名前は嫌いなんだよ~!
訳わかんないし長いくせに間違うと怒るし~。

これを振ってきたグレイさんは、面白そうに俺を見ている。
マダムが呆れたようにため息をついた。

「グレイ……。アンタ、サークを気に入ったね??」

「うん。見てて飽きない。できれば手元に置いておきたいね。」

「やめときな。こいつはホロウの息がかかってる。殺されるよ。」

「そこがまた面白いじゃないか??」

「アンタね……。あ~あ、サーク。お前さん、今後はグレイに十分気をつけな。こいつは基本的には他人に興味がないから当たり障りのない男だが、酷く極端でね。気に入っちまった場合、そいつをいじめ抜いて泣かすのが好きな変態サディストだからね。」

「レッティ、嫌な言い方はやめてくれよ。ちょっと好きな子はイジメたくなるだけだよ。可愛い子が泣いてるのは可愛いだろ??」

「全く同意できないね。何度も言うけど、可愛い子は笑ってるのが可愛いんだよ。」

「趣味が合わないな~。気は合うのに。」

「ボーンに会っても、虐めるんじゃないよ?もうあいつは爺さんなんだから。」

「エアーデは昔から爺さんじゃないか??わちゃわちゃしてて可愛いけど。」

ふふふと笑うグレイさんを見て、俺は血の気が引いた。

何か、やべぇ人に目をつけられた……。

言い争っていたガスパーも、グレイさんのヤバさに気がついて青い顔をしている。
俺達は顔を見合わせて頷く。

とにかくおとなしく話を終わらせて、今後は関わらない様にしよう。

「それにしても、バンクロフト博士を呼んだのは強いと思うぞ?」

「だろ?人見知りだからどうかと思ったんだけど、来てくれるって言うからさ~。」

ガスパーが話の流れを変えようとして、ノルの話をし始めた。
俺もそれに話を合わせる。

ノルは呼ぶつもりで会った訳じゃなかったけど、とにかくそれはおいといて。

グレイさんは、おやおやとか言いながら、にこにこしている。
その顔が悪魔に見えるけど、もう目は合わせないようにしないと恐ろしい。

「お前との関わりも薄く利害関係も少ない。かと言って名の知られていない人物でもなく結構な大物だ。政治的な柵も少ないのに、第一人者の研究者として発言力もかなり高い。ちなみに博士はどんな事を話すんだ??」

「研究絡みだよ。俺もどんな事を話すかはよくわからないけど、俺の研究について、もっと国家的に支援したっていいものだって力説してた。」

ガスパーはそれを聞いて、物凄く複雑な顔をした。
まぁ、そうなるよな。

「お前の研究って……あれだよな??」

「ああ、性欲研究だよ。だから俺にもノルが何を押してくるのかさっぱりわからないんだよ。ただ、性欲を科学的なデータとして解析している事、論文にできるほどきちんとデータを取って残している事を凄く押してた。それがそんなに大事なものだとは思えないんだけどさ~。」

ガスパーは俺の性欲研究を凄く嫌悪していた。
だから宛が外れたと思って落胆させたんじゃないかと思う。
そう思ってガスパーの顔を見たら、やっぱり少し考え込んでいるようだった。

「……ゴメンな、あんまいいニュースじゃなくて。」

「いや……もし、バンクロフト博士が俺が考えてる場所をついてくるなら、かなり斬新だ。頭の固いジジイ共は虚を突かれるだろう。魔術本部とかうちの部隊の話なんかには対抗処置をしてあるだろうけど、バンクロフト博士の話には何もできないだろう。恐らく切り札になる。裁判に勢いがつくと思うぞ。」

「え??そうなの??」

「まぁ、俺の思うところを話さなくても、バンクロフト博士に関しては、向こうには手立てはないだろうけどな。」

「ふ~ん??」

よくわからないが、ガスパーはノルが何を話すか何となくわかっているらしい。
そしてそれは大きな切り札になり得るようだ。

ガスパーは証言者の順番を確認して、ノルを最後に変えた。
何だろう?俺にはノルの考えている事がさっぱりわからなかったけど、ガスパーにはわかるんだろうか??
天才の事はやっぱりそれなりに頭の回転が早い奴じゃないと瞬時に理解するのは難しいんだろうな。

「とりあえず、前半戦はこれで大丈夫だ。元々、いわれのない濡れ衣だしな。お前の無罪は確定してる様なもんだ。」

「ああ。問題は後半だ。俺の無罪証明の為に、第二王子派の多くが南の国と内通している事を証明し、逆に弾劾する。」

「……お前の持って帰ってきた証拠を見たよ。ヤバいとはわかっていたが、かなりヤバい。だから悪いとは思ったが、協力を得る為にある人達にあれは見せた。裁判中にクーデターを起こされたら堪らないからな。」

「……誰に?」

「俺のおじさんと国軍トップに内密に見てもらった。おじさん達、無言で顔を真っ赤にして怒ってた。やべぇよ。政治と軍のトップだぜ?毒蛇と大鷹が無言で怒り狂ってるんだぜ?俺、見せながら生きた心地がしなかったからな……。」

何でもないようにガスパーは言った。
おいおい、俺がシルクに証拠を持たせたのって、数日前だぞ?!
いくらシルクが早くても、俺より1日早くついたくらいだろう。
それをどうやって家に軟禁されながら、国のトップクラスに見せたんだよ?!

「凄いな、お前……。」

「何がだよ?」

「アポ無しで会いに行ったのか?軟禁されてたのに??しかもいくら代々宰相の家系だからってそれでも普通は会えないだろ?!」

「いや?普通に食事に招いたんだけど??」

「いきなり食事に招いて来てくれるのか?!国のトップにいるような人達が?!お前に会いに?!」

「そこは……まぁ、前々から色々してあってだな……。信頼を得ていたっつーか……。お前が馬鹿やっても誤魔化せるようにだな……。」

ガスパーはモゴモゴとそう言った。
何だかよくわからないが、ガスパーはずっと裏で俺を庇えるように政治的な事をしてくれていたらしい。
俺がこっち方面弱いから、本当、苦労をかけてしまっている。

「ガスパー……。ありがとな……。本当、知らない所で凄い頑張ってくれて……。」

「まぁ、宰相は俺のおじさんだし、今回は運も良かったっつーか……。」

そこまで言われて、俺ははたと気づいた。

ガスパーの家ラティーマー家は、代々王国の宰相をやっている家系だ。
そして現宰相は、ロイさんと仲良し(?)のヘビ顔のルードビッヒさんで……名前は……。

「ルードビッヒ・ゲヒルン・なんちゃら・ラティーマー……??」

「なんちゃら言うなっ!!ガスゥダールストヴィンヌイーっ!!」

「えぇっ?!お前のおじさん!ロイさんの友達の蛇の宰相さん?!」

「サーク、お前……。今!気づいたのかよっ?!信じらんねぇっ!!それから!!うちの家系に対して蛇は禁句だっ!!俺じゃなかったら殺されてるぞ!お前っ!!いいか?!今後、絶対!蛇って言うな!!皆、ああ見えて気にしてんだよっ!!」

思わぬ事が繋がった。
そしてヘビ顔の皆さんがそれを実は気にしていると言ういらぬ情報付きだ。

「なぁ、なら軍トップってアーチーさん??」

「お前っ!!ニール総元帥の事を自分の友達みたいに……っ!!」

「仕方ないだろ?!ロイさんがそう呼んでたんだよ!!」

「アーチボルド・オリ・ヒエラクス・ニール総元帥っ!!国軍トップの方だ!!お前!!2人には王宮会議で会ってるだろうがっ!!」

「仕方ないだろ?!豆粒に見えるくらい離れた場所に座らされてたんだからっ!!しかも何の興味もない10人以上いるお偉方さん全員の顔と名前を一致させるなんて!!俺にできると思うのかよっ!!」

「思わねぇよっ!!だからって!この国の宰相と国軍トップの顔と名前までわかってねぇとは思わねぇよっ!!」

「そりゃそうだ。アタシだってそれぐらいは知ってる。」

「う~ん。サーク、君は凄い人物なのか、ただの運が良いだけの馬鹿なのか……。実に興味深いね……。」

ガスパーが怒り狂い、マダムが呆れ果てる中、グレイさんだけがにこにこと、興味津々と言った感じで俺を見ていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...