欠片の軌跡⑤〜あらがう者たち

ねぎ(塩ダレ)

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第八章③「帰国裁判」

未来予想図

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フレデリカさんはその後、師匠が話した事と同じような事を話した。
もっと俺の血の魔術とかに突っ込んで話すのかと思ったが、魔術本部に席を置く事を認められた数少ない才能ある若い魔術師だと言うに留めていた。

おそらく魔術本部としては、俺の血の魔術とかを公に記録に残すのはまだ早いと判断したのだろう。
それに今回の事で、それ故に身に危険が及ぶことも考慮されたのだと思う。

はじめは俺の能力を政治利用されないようにと保護してもらったけど、何か今はそれどころの話じゃなくなってきたもんな。
何しろ俺は純粋な人間じゃないみたいだし。
人の言葉を話して、人としての常識を持った未知の珍獣ってとこだよな。

下手にそういうのを明かしたら、戦犯とか関係なく、速攻、檻に入れられそうだ。
何かその辺も今後考えていかないといけないと思うと、先が思いやられるよ。

何となく魔術本部の意向を読み取った俺に、フレデリカさんはクスッと笑った。
この品のいい上品な人が、色んな意味で女帝だってのが、未だに信じられない。
フレデリカさんは話を終えると、また王様に挨拶をしてから証言台を去って行った。

話の内容は多分、誰の頭にも残ってないだろうけど、フレデリカさんはこの裁判でやるべき役割をきっちりやり遂げて行った。

「……すぐに会うのに、何であんなに挨拶するのかねぇ??」

立ち去るフレデリカさんを見守りながら、マダムがボソリと言った。
それをグレイさんがくすりと笑う。

「レッティは、もう少し女心を理解した方が良いと思うよ??」

「なんだいそれは??まるでアタシが女じゃないみたいじゃないか??」

「レッティほど男前な女性を僕は知らないからね。むしろ君よりエアーデの方が乙女チックだ。ああ、もちろん僕はそんな男前な君が好きだけどね。」

「腹の立つ男だね??グレイ??」

マダムは面倒臭そうに顔を顰めた。
よくわからないけれど、かつて王の集めた4人の英雄には、なんやかんや複雑なストーリーが存在していそうだ。
とは言っても、関わるのは怖すぎるので、聞かなかった事にしておこう。

法廷は女帝の退場を受けて、何となくほっとした様な雰囲気があった。
それほどフレデリカさんの存在は大きく、無意識に緊張する相手なのだろう。

俺、いつも魔術本部ではフレデリカさんにおやつもらってたのに……。
そんな事を話したら卒倒されそうだな……。

「さて、午前中の大詰めだな。」

ガスパーがそう言って立ち上がった。

「なぁ、ここまでになったんだし、ノルは呼ばなくても良くないか??人見知りだし、撤回してやってよ。」

「いいや?バンクロフト博士は午前中のメインだ。やめられたら困る。」

「メイン?!まだ何かする気かよ?!」

「きっとぶっ飛ぶような事が起こる。多分な。」

そう言ったガスパーは、ニヤッと笑った。

これ以上何をしようと言うのか俺にはわからなかったけれど、任せたのだからガスパーの思うようにやってもらうしかない。
それにノルならそんな恐ろしい事になるとは思えないし。

だが俺は、そう思った事を後々、後悔する事になった。

ノルは法廷に入ると、まず人の多さにびっくりしたらしく、ちょっと挙動不審になりながら証言台に立った。
そこですかさずガスパーが切り出す。

「こちらはノックス・リー・バンクロフト博士です。少々、口下手なところがあるとお伺いしましたので、私の方からご紹介させて頂きます。」

キョドっていたノルは、ガスパーが紹介してくれると言う事で少し安心したようだった。
ガスパーは続ける。

「バンクロフト博士は皆様ご存知の通り、古代科学技術研究の第一人者であり、数々の発見と研究、そしてそれらの技術を用いた開発は我々の生活の至る所に存在しております。例えば魔力灯、魔術師などがいなくても魔力電池を用い、簡単で安全な明かりを持ち運べる技術は、バンクロフト博士の研究によってもたらされた物です。身近すぎてお気づきでない方も多いですが、魔力電池を用いた殆どの物、いや、魔力電池そのものも博士の開発したものになります。」

おお、という声が法廷に響いた。
ノルは少し照れ臭そうに、でも誇らしげに胸を張った。

「そして知られてはいませんが、この罪人席に座っているアズマ・サークも研究者としての顔を持っています。」

ん??
俺の紹介まで何でするんだ??
しかも罪人席にって強調しなくても良くないか??

「この罪人席にいるアズマ・サークは性欲の研究を致しておりまして、バンクロフト博士とは行っている研究とは内容も恥ずかしながら取るに足りませんが、お互い研究者と言う事で知り合い、今日、お越し頂く運びとなりました。」

んんん??
さっきから罪人を強調してるな?
しかも俺の研究をちょっと馬鹿にした言い方をしている。

周りはそれに同調して失笑した。
ノルはそれに気づいて顔を顰めている。
何となく薄ら笑った様な雰囲気に、とうとうノルが自ら口を開いた。

「ご紹介にありましたバンクロフトです。まず僕は、僕の大事な友人が罪人として扱われている事が我慢なりません。」

話しだしたはいいが、ちょっと切り出し方から普通じゃない。
少し焦った俺をガスパーが手で制した。
黙って見てろって事らしい。

「それに、彼の研究は貴方方にそんな風に嘲笑われる様なものじゃない!全く!どうしてこうも彼の研究の重要性は理解されないんだっ!」

ノルは憤慨したようにそう言った。
法廷内はノルの剣幕に唖然とし、静まり返っている。
どうやらガスパーの俺を下げる様な言い回しは、口下手なノルに日をつける為のものだったようだ。
少し感情的になっているノルは勢いづいて続ける。

「良いですか?!今、社会の婚姻率、出生率がどうなっているか、皆さんご存知ないんですか?!」

ノルは唐突にそう切り出した。

俺は面食らってしまく。
出生率?まさかそんな所に繋げてくるとは思わなかった。
ノルの言葉を受け、ガスパーの口角が上がる。

「資料をお持ちの方は、お手持ちの資料の最終ページをご覧ください!……バンクロフト博士、こちらをお使い下さい。」

ガスパーは素早かった。
すぐさまそう叫びながらノルに資料を渡す。

ノルは渡された資料に目を通し、満足したように頷いた。
その資料は傍聴席にも配られていたようで、パラパラと紙を捲る音がする。

俺も慌ててガスパーの席に置いてあったそれをひっ掴んで最終ページを見た。
そこには近年の婚姻率や出生率などの資料があった。
配る資料を確認した時はなかったので、今朝、ガスパーが法定人に頼んで新たに加えた資料なのだろう。

「この資料の通り、年々、出生率は下がっています。この原因は同性婚が増えた事、晩婚化が進んだ事と言われています。」

うん、確かにそうだよな。
その辺は知っている人もいるようで、うんうんとノルの話を聞いている。

でも俺の研究は別に同性婚や晩婚化を批判する為のものじゃない。
むしろ色々な性欲の発現メカニズムや増減の変化を数値化し、そこから様々な性事情の解明や適応、対応を行う為の研究なんだけどな~。
裁判の為とは言え、そういう使われ方をするのは悲しいな~。

「しかし!私はそこは問題ないと思っています!」

ノルの宣言にまた法廷がざわめく。

「同性婚や晩婚は科学技術、魔術・魔法医療の技術が進めば、同性・晩婚での妊娠もしくは体外妊娠出産が可能となり、いずれ問題は解決します!!それに現段階でも!……⑥のグラフを見てください!…同性婚や晩婚で子供を持てないご夫婦の多くは!養子縁組などに積極的に参加し!子育てに大きく貢献していますっ!!」

⑥の資料は孤児と養子縁組についての資料で、同性婚や晩婚の夫婦が養子縁組を積極的に行っている事を示していた。

「出生率が下がっているのに、孤児院等に預けられる子供の数はさほど下がっていません。ですが養子縁組が増えた事により、孤児として育つ子供は減っています。この事から同性婚や晩婚の夫婦は、形を変えて子供を持ち少子化の中で子供を保護する役割を担っています。社会的に誤解を受けていますが、彼らは問題ではありません。むしろカバーしてくれている存在です。そして残念ながら大きな原因の1つは別の所にあります。⑦の資料を見てください。」

⑦の資料を見る。
ハッとした。
ノルが何を言おうとしているかやっとわかった。

「少子化はむしろ、このグラフにある小さな数値の方に原因があります。これは異性、同性に関わらず、性に対して興味の持てない、あっても積極的になれない人の数です。今、社会には性に対して興味の無い人口が徐々に増えてきているのです。また性であり愛を感じにくくなった事で、子育てへの意欲の低下傾向があり孤児の比率は増えています。出生率は低下し、その中で性に対して興味の無い人口が増えてくる。それは今は目立たない数ですが、母数が減っていく中で徐々に増えている数というのは、見た目よりも早い速度で増えていると言うことです。それこそが少子化の正体です。我々はゆっくりと生殖本能を捨て、絶滅に向かっているのです。」

俺にはその言葉の意味がわかった。
だが、おそらく多くの人にその危機感は伝わらないだろう。
それでもノルの言葉に、少しは何かを感じたと思う。

「確かにそこまでの危機はまだ皆さんには感じにくいでしょう。ですが古代科学技術を研究していると、かつてナグラロクが起こる前の人類が、同じ問題に直面していた事を示唆するものが見つかる事があります。それは近い未来、我々が直面する問題だと私は見ています。現にこうして、種としての生殖活動の減退は現れています。少子化の問題はとても難しい。同性婚や晩婚化が責められますが、いずれ解決できる問題であり大きな原因ではありません。むしろ彼らには愛があります。愛し合う欲求があります。技術が発展すれば必ず解決できます。ですがその欲求がない場合にはとても難しくなってきます。」

ノルはそこまで言うと、言葉をきった。
少しの間を置いて息を吐き出すと話し始める。

「私は性的欲求がない人を責めるつもりはありません。それはアズマ・サークの意としているものとも異なります。肉体的な問題か精神的な問題かはさておき、それはその人のアイデンティティでもあります。私もそう言ったタイプに近い人間です。責めを負う事ではありません。ですがそう言った人達が何らかのきっかけで少しでも興味を持った時、心と体の機能がついていかなかったらどうでしょう?またそうした状況が続いた社会では、興味があっても身体的に繁殖に体がついてこない事が起こりえます。その場合もどうでしょう?何の研究もされておらず情報も対処法も治療法もなかったら?もし自分がその状況になったら、もし自分の子供や大切な人だったらと考えてみて下さい。」

俺はびっくりしていた。
何だか色々、びっくりしていた。

だが、生殖本能がないのは生まれがわかった今となっては仕方のない事だと思うが、あの頃の俺には本当に切実な事だった。
だから普通の人間に生まれても、それが欲しいと思っても、俺のように得ることのできない人が今後出てくると思うと居たたまれなかった。

本当に本人に興味がないなら別だが、持てるなら持ちたいと俺のように望む人がいるなら、あんな思いはして欲しくなかった。
自分を欠陥品だと思う日々は、やはりどんなに日常生活が充実していても、どこが満たされなかった。

「私は少子化問題に関して、同性婚も晩婚も性的欲求が無い人も責めるつもりはありません。ですが、そう言った人達が何らかの助けを必要とした時、何の研究もされていなかったら手助けをする事はできません。アズマ・サークの研究は、現段階でその唯一の信頼できる根拠に基づいたデータです。その研究に基づき、性欲を安全に増幅させる装置も既に作られています。邪な目で見られがちの研究ではありますが、いずれ彼の研究は大きな意味を持つ。私はそう確信しています。」

ノルの見ていた世界。
その先の未来。

俺には見えなかったそれは、思ったよりも重くて切なくて。
何でノルが俺の馬鹿みたいな研究を馬鹿にせず、あんなにも押してくれていたのかわかった。

ノルにはそんな世界が見えていたのだ。

俺はただただ驚いて、ぼんやりとノルを見ていた。
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