欠片の軌跡⑤〜あらがう者たち

ねぎ(塩ダレ)

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第八章③「帰国裁判」

口止めの魔法

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戒厳令とは、本来は軍に属す者に口外を禁ずるものだ。この場合は国家職員全員に適応されるけど。
情報規制法はその名の通り、情報機関との取り決めだ。
法廷内に入るにあたり、規制を命じられた情報については報道を禁ずる誓約書にサインして入って来ているから、適応されたらその情報は報道できない。
秘密保持契約は一般的に誰にでも適応されるものだ。
基本的には仕事などで知り得た情報を漏らさないようにする契約だが、こちらも法廷に入るにあたり、誓約書を書いているので、施行された場合、誰もその件について話す事はできない。

「戒厳令、並びに情報規制法、秘密保持契約…全てかね…?随分、仰々しいな??」

議長もさすがに呆気に取られている。
そりゃそうだ。
ここまでするって事は、相当ヤバイ情報になる。
だがそれをするには、国家機密並みの情報であると認められなければならない。

「はい。全てです。」

「それは……少し審議が必要になるが……。」

「これら秘密保持に関わる最終決定権は、国王陛下がお持ちです。」

「しかし、いくら陛下がここにいられると言っても……。」

議長は難色を示した。
だがガスパーは構わず、上を見上げて声を張り上げた。

「国王陛下!このような場所から失礼いたします!」

ガスパーの声に、全員がジョシュア国王を見上げた。

……あれ??フレデリカさんだ??

国王の後ろには、ちょこんと頭だけ見えるボーンさんと一緒に、フレデリカさんがいた。
どうやら30年前の同窓会よろしく、一緒にいるようだ。
だからさっき、マダムはすぐに会うのにって言ってたのか。

国王はその声に、ゆっくりと立ち上がった。
その場にいた全員が頭を下げ、立っていたものは警備を担当するもの以外、人の多くが膝をついた。

「ジョシュア国王陛下!まずはこの審議にご参加頂けました事を、心よりお礼申し上げます。この様な場所からご挨拶申し上げるご無礼をどうぞお許しください。」

ガスパーは育ちのいい上流貴族らしく、スラスラと挨拶を述べた。

「私はこの審議で罪人とされますアズマ・サークの弁論人をしております、ガスパー・サジェス・ガスゥダールストヴィンヌイー・ラティーマーと申します。」

うぉっ!長いのにちゃんと言い切った!
俺なら絶対、舌噛むけどな。
やっぱり長くても自分の名前はちゃんと言えるんだな~。

「うむ、してラティーマー?戒厳令などだったな。」

国王は手短に済ませたいのか、すぐに本題に入った。
ガスパーが改めて頭を下げた。

「はい。ここまでの話をお聞きになったのなら、この後、どういった話が出るかは国王陛下はおわかりかと思います。」

「うむ、あの件に少々触れる可能性があると申したいのだな?」

「はい。なので戒厳令等情報規制が必要かと考えました。急いでおりました故、正式な手順を踏まず、申し訳ございません。失礼を承知でお願い申し上げます。戒厳令、並びに情報規制法、秘密保持契約の施行を御許可頂けないでしょうか?」

「うむ、そのようにしよう。エアーデ!!」

ジョシュア国王はガスパーの言葉に頷くと、何故かボーンさんを呼んだ。
突然呼ばれたボーンさんは、びっくりたようで派手な音と共に見えていた頭が見えなくなった。
どうもコケたらしい。

「あ~あ、狡いな~。近場で見れなかったじゃないか~。」

グレイさんがくすくす笑ってそれを見てる。
ああ何か……これまでさんざんボーンさんがグレイさんに遊ばれてただろう様子が目に浮かぶ……。

立ち上がったボーンさんは、にこやかに空気を読まない国王に前に引っ張り出された。
あ、うん。
確かにライオネル殿下のお父さんだわ、この人。
俺は物凄く血のつながりを感じてしまった。

「何すんだ!ジョシュアっ!俺は関係ねぇだろうが!!」

ボーンさんはブツブツ言っているが、ジョシュア国王は気に求めない。

「全員、規則に縛られたのでは今後、ビクビク生活せねばならぬだろう?手続きも面倒だろうしな。ここにちょうど良いのがいるので、皆に口止めの魔法をかけてやろう。」

は??

俺も、ボーンさんも、おそらくその意味がわかるものは、完全に固まった。
国王は良い事を思いついたとばかりに満面の笑みだ。

いやいやいやいや、ちょっと待ってくれ?!
口止めの魔法だって?!
それって高度精神魔法のひとつだぞ?!

人の神経に作用する魔術や魔法の中でも、長期間の影響を与えたり相手の精神に深く入り込むような精神魔術は、高度な上に適応能力と膨大な魔力がいる。
だから俺はラニに会った時それを聞いてびっくりしたんだ。

魔術学校でも、入学時の検査で精神魔術適応能力を測られる。
もしも少しでも適応性があれば、その度合いによって色々と優遇されるのだ。
高度精神魔術の適応者はそれだけ少ないからだ。
残念ながら、俺は適応者と言えるほど高度精神魔術の力はなかった。
簡易的なものや精神魔術者の補佐的な事をする能力はあったみたいだけど、それはそこまで珍しいものじゃない。
ただ上級補佐資格を取ると、医療系の就職なんかにちょっと有利になるんだけどな。

とにかく、長期影響を与える様な高度な精神魔術や魔法を使える人というのは少ない。
元々の性質の違いから確かに魔術より魔法の方が精神に影響を与えやすいと言え、ビショップクラスの魔法師であるボーンさんが高度精神魔法を使えるのはわかる。

だがそんな高度精神魔法をこの人数にやるだって?!
何を考えているんだ?!国王は!!

「はぁ~。これだから世間知らずのお坊ちゃんは嫌なんだよ。」

マダムが呆れ返ったように言った。
それをグレイさんが笑う。

「すまんね。後でシメておくよ。」

「そうしとくれ。全く、魔術や魔法で何でも簡単にできると思ってるんだから、たまったもんじゃないよ。何だって制限があるし不可能も限界もある。あの調子じゃ、ボーンやフリッカに慣れすぎてて、王宮で無茶苦茶言ってんだろ?アイツ?」

「ええ。普通の魔術師や魔法師はできないと何度もお話してはいるんですけどね。元ロイヤルシールドのリロイさんも色々とできてしまう人だったものだから感覚がおかしくなってるんだよ、ジョッシュは。」

マダムとグレイさんの愚痴のレベルがヤバイ。

いやでもマダムたちの言いたい事は俺も言いたい。
魔法や魔術に対する無茶振りは、たまに度を超えている事がある。
そんなに何でもかんでもできるってんじゃないってのに……。

でも二人の愚痴を聞いてしまうと、逆に王様の気持ちもわかってしまう。

ビショップのボーンさんに、女帝フレデリカさん、そして元ロイヤルガード長のロイさん……。
自分の身近にいた魔法師や魔術師がそんだけ伝説級の凄い人ばかりだったら、魔法や魔術に対する感覚もおかしくなるって……。

そんな中、ボーンさんが国王を怒鳴りつけてる。
いくら仲がいいとはいえ、一応、相手は国王で公の場なんだけど……良いのか……ボーンさん……。

「アホかぁ~っ!てめぇは?!この人数に口止めするって、どんだけ大変だと思ってやがるっ!!俺の魔力は多い方だが!無尽蔵じゃねぇっ!!この後だってあんのによ~!!」

「でも皆が喋らないようにこれから生活したりするのは大変ではないか?それなら喋ろうとするとふと忘れてなんだっけってなった方が良いではないか??」

「いいか悪いかじゃねぇ!!こっちの負担も考えろってんだっ!!」

う~ん、ボーンさんの誰にでも分け隔てなくぶっきらぼうな所は好きだけど、ここ、厳格な法廷の場なんですけど??
皆さんポカーンとしてるか、真っ青になってるんだけど……。

言い出したガスパーも、訳のわからない展開に固まっている。
そりゃな?ガスパーはガチガチの貴族社会でしか生きてこなかったもんな……。
だからって、何故俺をけったいなものを見るような目で見てくる?!

「……何なんだ??あれは……。」

「あ~うん、ごめん。ギルドではあれぐらいは通常運転だよ……。世界はああやって回ってるんだ……。」

王様だとかそんなのは関係ない。
規則と礼儀を建前としてる貴族社会しか知らないガスパーには理解不能だよな……。
何か申し訳ない……。

「ボーン。面倒だからやっちまいな。」

マダムが立ち上がり、上を見上げて言った。
ボーンさんはそう言われて、アワアワしている。

「でもよ、ババア……。」

「わかってる。ジョシュア、その代わりこの城にあるエリクサー、全部ジジイに飲ませな。あんたがやろうとしている事は本来ならそれでも足りない事だ。だいたい、そのジジイは遊びに来ている訳じゃない。何しに来たかはわかっているだろう?ん?」

淡々と告げたマダムに、国王が目に見えてシュンとした。
周りは国王陛下に堂々と意見するマダムを何者だと二度見三度見している。
ボーンさんは控えめに言った。

「だがよ……これは後に響くぞ?良いのか?」

「仕方ないさ、このままごねてても話が進まない。それにその事を考えてもやっておいた方が良さそうだしね。後の事は気にしなくていいさ。サークが何とかするだろ?」

……はい??

何で急に俺が出てくるの??
え?何させようとしてます??マダム??
と言うか、後の事って何?!

突然、話を振られて焦る俺とは裏腹に、ボーンさんは納得したようだ。

「わかった。やるよ、やりゃあ良いんだろ?!全く、俺は死にかけだってのにのジジイ使いが荒い連中だな?!」

「すまん……エリクサーは準備させる。」

「エリクサーつったって、そんなにガボガボ飲めるかっての!全く……。」

「ボーン、私も補助するわ。」

そこでフレデリカさんが言った。
ここに来てやっと周りは、このおかしな寸劇が恐ろしく凄い魔法を使うか使わないかと言う話なのだと全員が理解した。
国王があんまりにも気軽に言ったものだから皆誤解していたが、あのフレデリカ・アーバン・ラウィーニアが補助を申し出る様な事なのだとわかったからだ。
そしてそれを行うと言うあのちまいジジイ、もといドワーフは誰なのかとざわついている。
ボーンさん本人はそんな事は気にも止めない。

「それはいいけどよ、オメェも大丈夫か?」

「ボーンが飲みきれない分のエリクサーをもらうわ。」

フレデリカさんにそう言われ、ボーンさんは深くため息をついた。
どうやらやる事にしたらしい。

マジか?!
この人数に高度精神魔法をやるのか?!

俺はこの人数に精神魔術の初歩の1つである眠りを施せと言われても出来るかできないかわからない。
精神魔術はかける相手の精神力の抵抗もあるので、人によって作用の出方がまちまちで不確実なのに物凄く魔力を食うから効率がとても悪いのだ。

それを躊躇なく、わかったの一言でこの人数に口止めをかけると言いきるんだから恐ろしい。
ただの面白いオッサンだと思っていたボーンさんが、本当にこの世に数人しかいない大魔法師ビショップなのだと実感した。

「あ~、今日、ここにいる人たちは物凄く幸運だね。何しろビショップの中でもなかなか表舞台には出てこない寡黙なるエアーデの魔法をかけてもらえるのだから。」

グレイさんが何だか不機嫌そうに言った。

「エアーデの魔法はビショップの中で最も美しいと言われてるんだ。……それを……たまたまこの法廷に来ただけの連中が……僕だって滅多にかけてもらった事がないというのに……何もしてない連中がエアーデに魔法を施してもらうなんて……。」

グレイさん……顔、怖いです……。
そして論点が変です……。
皆、別に掛けて欲しくてかけられる訳じゃないのに……。

何だか大変な事になったな、と俺は思っていた。
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