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第八章③「帰国裁判」
自己主張の強い隠し玉
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「国の政治状況を見るにはどこを見るか?それは政治そのものを見る事も大切ですが、もう一つ。経済、つまり金の流れを見れば見えてくるものです。」
突然、つらつらと俺がそんな事を話し始めたので、法廷内はぽかんとした雰囲気が流れた。
「私はライオネル殿下の友好訪問に同行していましたから、どんな形であれ王宮に接触するのは流石に危険がありました。ですので国のもう一つの顔、経済面から状況を探る事にしました。」
ここは有識者陪審員席の人達がとても興味深げに聴き入っていた。
わからない人にはこの部分はわからないが、わかる人間にとったら物凄く理に適った行動だからだ。
「まず、南の国は経済大国です。その為、経済の中心に株式があります。中央王国にもありますが、あまり一般的ではありません。株式と言うものを簡単に説明しますと、何かをする為にそれをする個人や組織が信用を売りに出し買ってもらい資金を集め、売上が出た際に配当金としてそれを買ってくれた相手に返す様なものです。利益が出る見込みのあるものに先行投資をし、見返りを受けると言うものです。これが銀行預金や単なる資金援助でないのは、一口いくらで、一口につき売上のどの程度の配当をするかを取り決めがなされ、ある種の商品として売られていると言う事です。安定してずっと利益を出す個人や組織の株を何口も持っていれば、そこが売上を出し続けていれば何もしなくてもお金がずっと入ってくると言う仕組みです。ただこれは信用を買ったのであり、株を買ってもそこが売上を出せなければ金をドブに捨てたのと同じになるリスクもありますけどね。」
傍聴席からは複雑な感じのため息が漏れた。
残念ながら、一度買えばずっと遊んで暮らせる夢のような話ではないんだな、これが。
まぁ確かにカジノのVIPルームにいる富豪たちのように、その収入だけで暮らしている人間もいる事にはいるんだけど、それは潤沢な資金と経済の流れを読む鋭い感覚を持ち合わせていてこそ可能なだけだ。
「私は南の国でその株式経済の中心となっている大株主達が集まる、カジノのVIPルームから情報を集めました。中々面白い事がわかりましたよ。」
くすくす笑うと、フレッチャー公爵以外の原告席の第二王子派の方々は青を通り越して土気色をした顔で俺を見ていた。
まぁな、身に覚えがあるもんな~。
「南国株式市場は国外からの投資も受け入れています。ですのでこの中央王国の貴族でも結構、大口の株主になっている方もいるんですよ。とはいえ国の状況が直接見れない分、あまり目新しいものには手出しはし難いですからね。基本的には国の絡んでいる様な所に投資されている様ですね。例えば軍事関連への投資とか……。確かに南の国は軍事強化に力を入れていますので、軍事関連ならそう簡単には潰れませんし、配当も安定して見込めますからね。でも他国の軍事関連に投資するのは本来は御法度ですし、それでも様々な規制を掻い潜って投資をしている者たちを、面白い連中だと笑っていましたよ。軍事関連は安定しているし戦争が起こればボロ儲けだけれども、南の国がどこと戦争をするつもりなのか考えないのかねって。……ねぇ、ミード伯爵?」
俺の問いかけに、ミード伯爵はビクリと震えた。
フレッチャー公爵に見捨てられた上、俺からこんな事を暴露されたんじゃ、泣きっ面に蜂もいいところだよな。
「あぁ、勘違いされないで下さいね?上手い具合にやっておられましたが、ミード伯爵だけでなく親南派の貴族の皆さん南の国の軍事関連の株は全員持ってられますから。中央王国貴族は中々の大口相手でありがたいと、南国軍事王手のバジェル子爵が感謝していたそうです。」
俺がにっこり笑うと、ミード伯爵はガクガクと体を震わせて廃人の様になっていた。
可愛そうだが仕方がない。
「それと最近は不動産も人気の様ですね?メートランド子爵?南の国はやはり海が売りですので、別荘を買うにしてもやはり海の見える場所が人気で内陸地は不人気なのですが、この所、中央王国の貴族達が別荘として不人気な内陸地をバンバン買ってくれて助かると、南国不動産王ボイド伯爵が仰っていたそうです。あぁでも、さすがは公爵と言いますか、フレッチャー公爵やグリステン公爵は海辺の古城を買われたとか……。流石ですね~!やはりバカンスに行くにしても南の国なら海がなければ寂しいですからね!多少中心都市から離れても、海側の方が断然栄えてますし!」
はははと大げさに笑ってみる。
貴族が別荘を持っていることなど別に珍しい事ではない。
だがそれは普通、国内での話だ。
他国に別荘を持つというのは、その国に関連した役職についていたとしてもかなり珍しい。
旅行やバカンスならホテルで済む。
むしろ別荘は管理費もかかるし、生活に必要な従者を全て自分で用意しなければならないのだから、面倒だし維持費もかかる。
そこにある種の生活拠点を置く気でもない限りは、他国の別荘は自分の財産的にはマイナスでしかない。
「南国株式に南の国の別荘、親南派の皆さんは本当に南の国が大好きなんですね~。それに随分お金に余裕がありそうだ。他国に別荘なんて維持費がかかりすぎますし。あ、だから皆さん南国株式をお持ちなんですね~。向こうのお金は向こうで回るように~。あぁびっくりした。これを知った時は一瞬、皆さんは南の国に住むつもりなのかと思ってしまいましたよ~。」
メートランド子爵はもう、顔面蒼白で幽霊みたいだ。
ただ一人、フレッチャー公爵だけが憤怒をまとって静かに燃え上がっている。
俺は構わず続けた。
「いやでも、住んでないうちは競争の激しい業界への投資は避けた方が良いですよ。メートランド子爵?確かに競争の激しい業界はいい時は利益効率がとても良いですが、何しろ株価は生き物に例えられますからね?生き死にがあるんですよ。死に目の株式をいつまでも持っていると、大損しますよ?ウォーカー男爵が笑ってました。あの船会社は確かに良かったが、裏で色々無茶をしていたから、じきに政府の取り調べが入るだろうって。早く売りたいところでまとまって買ってくれてありがたかったと仰ってました。」
俺の言葉に、メートランド子爵は慌てて立ち上がった。
あ~あ、立ち上がっちゃった。
これじゃその株持ってますって認めたも同然だよな??
ニヤッと俺が笑うと、愕然とした様子でドサリと椅子に座り込んだ。
「他にも競争の激しい業界の株を買われている方がいたから油断された様ですね?グリステン公爵をはじめ、そう言った方は何らかの情報収集手段を南の国に持っているんですよ。……あぁ、それでそう言った方々はこの場に来ていないんですかね??俺が南の国にいたって情報でも掴んだのかな??掴んでいたなら、俺が何らかの情報を持ってこの裁判に望むだろう事は予想できますからね?」
やれやれとお手上げのポーズを取ると、本当に人間とは思えない顔でフレッチャー公爵がワナワナと身を震わせた。
あんまり頭に血を登らせない方がいいですよ?
それなりにお年なんですから。
「その証明についてですが、まだ証明はありません。ですが先程、国王陛下が密命で手に入れられた件の裁判の際には、おそらく皆さんの財政事情も事細かに調べられると思いますので、嘘でない事はおわかり頂けると思いますよ?流石に債権や土地所有権の証書は処分してしまったら、南の国に逃亡しても一文無しになっちゃいますもんね?たかが紙切れ1枚ですけど、結構大事な命綱ですからね。」
「……言わせておけば……たかだか移民の魔術師の癖に……っ!!」
苦々しく、フレッチャー公爵が吐き捨てた。
それににっこり笑って答える。
「おとなしく成すすべ無く言いなりになると思ったでしょう?移民で平民の私など?対象に対するリサーチが足りなさすぎですよ。私がほいほい破天荒な行動を起こす事は、結構有名だと思ったんですけどね?何しろ王宮会議にかけられる問題児ですからねぇ、私は。だから一部の貴族議員の皆さんは、目障りな目の上のたんこぶだと頭を痛めていたのでしょう?だからどうにか私を追い出したくて、前回の裁判、親南派以外の協力者も多かったんですよ。いくら何でも裁判は原告だけでは行なえませんものね?第一王子派側の被告代理はブロンソン侯爵を中心とするメンバーですかね?王宮会議の時、始終ずっと物凄い厄介者を見るように私を見ていましたから。まぁその辺は裁判記録が残っているでしょうから、わざわざこちらで調べる必要もないでしょう。」
さらりと言ってやると、フレッチャー公の窪んだ眼が暗くギラギラと怒りに燃えた。
すでにこの場は、俺の罪に対する審議から第二王子派の反逆行為に対する公開処刑に変わっていた。
陪審員席では何人かが資料を見返すパラパラと言う音が聞こえている。
禍々しい緊張感が法廷内を包んでいた。
「……貴様の言っている事は、矛盾がないようで矛盾ばかりだ……。違うか?アズマ・サーク?」
それでも、さすがは古くから王宮に住み着く古狸だ。
フレッチャー公爵は激昂を押し殺してそう言った。
「お前の話には何の裏付けもない。レオンハルド・ドイルが持ってきた紙切れは別案件だろう?だとしたら、お前の話は口だけで、何の裏付けも証拠もない。我々の主張を何の裏付けも証拠もないと言うのなら、お前の話もそれと同じだ。違うか?」
う~ん。
痛いところを突かれるな~。
俺は少しだけ苦笑いした。
参ったな?流れは完全にこっちにあるんだし、そのまま流してくれればいいのに……。
ガスパーがちらりとどうする?と言った目で俺を見た。
確かにもう話はした。
人の記憶は塗り替えられない。
たとえこの件を証拠不十分と取り下げたからと言って、与えた印象は変えられない。
だから取り下げてもいい。
彼らの罪状は、次の裁判で決まるのだからここで無理をする必要はない。
だがせっかく集めたのに、フレッチャー公爵に言い返されて取り下げるって癪だよな~。
その時、傍聴席で誰かが立ち上がった。
俺はそれに顔を向ける。
彼はとても冷静な顔で俺を見て頷いた。
う~ん、出来れば巻き込みたくなかったんだよな~。
とは言え、立ち上がった時点でもう注目を集めている。
こうなるともう、今更座れって言っても、あいつはなんだってなるよな~。
う~ん、口止めの魔法もかかってるしな~。
俺は仕方なく彼に頷き返した。
「議長、その件で南の国から証言者を招いています。許可頂ければ、彼に証言をお願いしたく思います。」
「南の国の?それを証明できるかね?」
俺はちらりと目をやった。
彼は頷いた。
「出来ます。ただし、かなりの大事になります。それでもよろしいですか?」
議長達は顔を見合わせた。
状況が飲み込めず、困惑しているようだ。
フレッチャー公爵は彼の顔を見たが、南の国の重役ではないと思ったのだろう
ならば押さえ込めると判断した様だ。
「私は構いませんよ、議長。南の国から連れてきた証言者だとしても、どこの馬の骨ともしれぬ者。それを信頼できる身分の証があると言うのなら、見せて貰おうではありませんか?」
あ~あ、言っちゃったよ。
彼が何者かも知らないで……。
俺が眉を潜めて彼をみると、何がおかしいのか笑っている。
結構、図太い神経してるよな、あいつ。
俺は諦めてため息をついた。
「では!緊急証言人として、南国籍イグナチウス・バフル・ティーナン・エズラ氏の入廷を許可願います!!」
俺がそのフルネームを言うと、貴族達は一斉に驚きと困惑の声を上げた。
名前に「バフル」と「ティーナン」が入ってたらそうなるよな~。
おいそれと使える名じゃないからな。
流石にこれにはフレッチャー公爵の顔も土気色に変わった。
もしかしたら知ってるのかもな。
イグナスの事情を。
ライオネル殿下や俺と同じく、グレゴリウス皇太子が血眼で探している人間だからなぁ。
当のイグナスはするすると優雅に歩き、傍聴席との間の手すりに手をついて笑った。
「で?これはどこから入ればいいんだい?サーク?」
「いいからちょっと待ってて下さい。皆、今、パニックに落ちいってますから。」
「ずっと聞いてたけど、面白い裁判だね?参加できて嬉しいよ。」
「俺は出来れば参加させたくなかったんだけどね。」
俺とイグナスが軽い感じで話しているのを、ワナワナした顔でガスパーが睨んでいる。
あ~あ、後で怒鳴られるな~。
何でそんな大事な事を黙ってたんだって。
イグナスを出した事で色々な方面から後でお説教を食らう事が予想できて、俺はげんなりしてため息をついた。
突然、つらつらと俺がそんな事を話し始めたので、法廷内はぽかんとした雰囲気が流れた。
「私はライオネル殿下の友好訪問に同行していましたから、どんな形であれ王宮に接触するのは流石に危険がありました。ですので国のもう一つの顔、経済面から状況を探る事にしました。」
ここは有識者陪審員席の人達がとても興味深げに聴き入っていた。
わからない人にはこの部分はわからないが、わかる人間にとったら物凄く理に適った行動だからだ。
「まず、南の国は経済大国です。その為、経済の中心に株式があります。中央王国にもありますが、あまり一般的ではありません。株式と言うものを簡単に説明しますと、何かをする為にそれをする個人や組織が信用を売りに出し買ってもらい資金を集め、売上が出た際に配当金としてそれを買ってくれた相手に返す様なものです。利益が出る見込みのあるものに先行投資をし、見返りを受けると言うものです。これが銀行預金や単なる資金援助でないのは、一口いくらで、一口につき売上のどの程度の配当をするかを取り決めがなされ、ある種の商品として売られていると言う事です。安定してずっと利益を出す個人や組織の株を何口も持っていれば、そこが売上を出し続けていれば何もしなくてもお金がずっと入ってくると言う仕組みです。ただこれは信用を買ったのであり、株を買ってもそこが売上を出せなければ金をドブに捨てたのと同じになるリスクもありますけどね。」
傍聴席からは複雑な感じのため息が漏れた。
残念ながら、一度買えばずっと遊んで暮らせる夢のような話ではないんだな、これが。
まぁ確かにカジノのVIPルームにいる富豪たちのように、その収入だけで暮らしている人間もいる事にはいるんだけど、それは潤沢な資金と経済の流れを読む鋭い感覚を持ち合わせていてこそ可能なだけだ。
「私は南の国でその株式経済の中心となっている大株主達が集まる、カジノのVIPルームから情報を集めました。中々面白い事がわかりましたよ。」
くすくす笑うと、フレッチャー公爵以外の原告席の第二王子派の方々は青を通り越して土気色をした顔で俺を見ていた。
まぁな、身に覚えがあるもんな~。
「南国株式市場は国外からの投資も受け入れています。ですのでこの中央王国の貴族でも結構、大口の株主になっている方もいるんですよ。とはいえ国の状況が直接見れない分、あまり目新しいものには手出しはし難いですからね。基本的には国の絡んでいる様な所に投資されている様ですね。例えば軍事関連への投資とか……。確かに南の国は軍事強化に力を入れていますので、軍事関連ならそう簡単には潰れませんし、配当も安定して見込めますからね。でも他国の軍事関連に投資するのは本来は御法度ですし、それでも様々な規制を掻い潜って投資をしている者たちを、面白い連中だと笑っていましたよ。軍事関連は安定しているし戦争が起こればボロ儲けだけれども、南の国がどこと戦争をするつもりなのか考えないのかねって。……ねぇ、ミード伯爵?」
俺の問いかけに、ミード伯爵はビクリと震えた。
フレッチャー公爵に見捨てられた上、俺からこんな事を暴露されたんじゃ、泣きっ面に蜂もいいところだよな。
「あぁ、勘違いされないで下さいね?上手い具合にやっておられましたが、ミード伯爵だけでなく親南派の貴族の皆さん南の国の軍事関連の株は全員持ってられますから。中央王国貴族は中々の大口相手でありがたいと、南国軍事王手のバジェル子爵が感謝していたそうです。」
俺がにっこり笑うと、ミード伯爵はガクガクと体を震わせて廃人の様になっていた。
可愛そうだが仕方がない。
「それと最近は不動産も人気の様ですね?メートランド子爵?南の国はやはり海が売りですので、別荘を買うにしてもやはり海の見える場所が人気で内陸地は不人気なのですが、この所、中央王国の貴族達が別荘として不人気な内陸地をバンバン買ってくれて助かると、南国不動産王ボイド伯爵が仰っていたそうです。あぁでも、さすがは公爵と言いますか、フレッチャー公爵やグリステン公爵は海辺の古城を買われたとか……。流石ですね~!やはりバカンスに行くにしても南の国なら海がなければ寂しいですからね!多少中心都市から離れても、海側の方が断然栄えてますし!」
はははと大げさに笑ってみる。
貴族が別荘を持っていることなど別に珍しい事ではない。
だがそれは普通、国内での話だ。
他国に別荘を持つというのは、その国に関連した役職についていたとしてもかなり珍しい。
旅行やバカンスならホテルで済む。
むしろ別荘は管理費もかかるし、生活に必要な従者を全て自分で用意しなければならないのだから、面倒だし維持費もかかる。
そこにある種の生活拠点を置く気でもない限りは、他国の別荘は自分の財産的にはマイナスでしかない。
「南国株式に南の国の別荘、親南派の皆さんは本当に南の国が大好きなんですね~。それに随分お金に余裕がありそうだ。他国に別荘なんて維持費がかかりすぎますし。あ、だから皆さん南国株式をお持ちなんですね~。向こうのお金は向こうで回るように~。あぁびっくりした。これを知った時は一瞬、皆さんは南の国に住むつもりなのかと思ってしまいましたよ~。」
メートランド子爵はもう、顔面蒼白で幽霊みたいだ。
ただ一人、フレッチャー公爵だけが憤怒をまとって静かに燃え上がっている。
俺は構わず続けた。
「いやでも、住んでないうちは競争の激しい業界への投資は避けた方が良いですよ。メートランド子爵?確かに競争の激しい業界はいい時は利益効率がとても良いですが、何しろ株価は生き物に例えられますからね?生き死にがあるんですよ。死に目の株式をいつまでも持っていると、大損しますよ?ウォーカー男爵が笑ってました。あの船会社は確かに良かったが、裏で色々無茶をしていたから、じきに政府の取り調べが入るだろうって。早く売りたいところでまとまって買ってくれてありがたかったと仰ってました。」
俺の言葉に、メートランド子爵は慌てて立ち上がった。
あ~あ、立ち上がっちゃった。
これじゃその株持ってますって認めたも同然だよな??
ニヤッと俺が笑うと、愕然とした様子でドサリと椅子に座り込んだ。
「他にも競争の激しい業界の株を買われている方がいたから油断された様ですね?グリステン公爵をはじめ、そう言った方は何らかの情報収集手段を南の国に持っているんですよ。……あぁ、それでそう言った方々はこの場に来ていないんですかね??俺が南の国にいたって情報でも掴んだのかな??掴んでいたなら、俺が何らかの情報を持ってこの裁判に望むだろう事は予想できますからね?」
やれやれとお手上げのポーズを取ると、本当に人間とは思えない顔でフレッチャー公爵がワナワナと身を震わせた。
あんまり頭に血を登らせない方がいいですよ?
それなりにお年なんですから。
「その証明についてですが、まだ証明はありません。ですが先程、国王陛下が密命で手に入れられた件の裁判の際には、おそらく皆さんの財政事情も事細かに調べられると思いますので、嘘でない事はおわかり頂けると思いますよ?流石に債権や土地所有権の証書は処分してしまったら、南の国に逃亡しても一文無しになっちゃいますもんね?たかが紙切れ1枚ですけど、結構大事な命綱ですからね。」
「……言わせておけば……たかだか移民の魔術師の癖に……っ!!」
苦々しく、フレッチャー公爵が吐き捨てた。
それににっこり笑って答える。
「おとなしく成すすべ無く言いなりになると思ったでしょう?移民で平民の私など?対象に対するリサーチが足りなさすぎですよ。私がほいほい破天荒な行動を起こす事は、結構有名だと思ったんですけどね?何しろ王宮会議にかけられる問題児ですからねぇ、私は。だから一部の貴族議員の皆さんは、目障りな目の上のたんこぶだと頭を痛めていたのでしょう?だからどうにか私を追い出したくて、前回の裁判、親南派以外の協力者も多かったんですよ。いくら何でも裁判は原告だけでは行なえませんものね?第一王子派側の被告代理はブロンソン侯爵を中心とするメンバーですかね?王宮会議の時、始終ずっと物凄い厄介者を見るように私を見ていましたから。まぁその辺は裁判記録が残っているでしょうから、わざわざこちらで調べる必要もないでしょう。」
さらりと言ってやると、フレッチャー公の窪んだ眼が暗くギラギラと怒りに燃えた。
すでにこの場は、俺の罪に対する審議から第二王子派の反逆行為に対する公開処刑に変わっていた。
陪審員席では何人かが資料を見返すパラパラと言う音が聞こえている。
禍々しい緊張感が法廷内を包んでいた。
「……貴様の言っている事は、矛盾がないようで矛盾ばかりだ……。違うか?アズマ・サーク?」
それでも、さすがは古くから王宮に住み着く古狸だ。
フレッチャー公爵は激昂を押し殺してそう言った。
「お前の話には何の裏付けもない。レオンハルド・ドイルが持ってきた紙切れは別案件だろう?だとしたら、お前の話は口だけで、何の裏付けも証拠もない。我々の主張を何の裏付けも証拠もないと言うのなら、お前の話もそれと同じだ。違うか?」
う~ん。
痛いところを突かれるな~。
俺は少しだけ苦笑いした。
参ったな?流れは完全にこっちにあるんだし、そのまま流してくれればいいのに……。
ガスパーがちらりとどうする?と言った目で俺を見た。
確かにもう話はした。
人の記憶は塗り替えられない。
たとえこの件を証拠不十分と取り下げたからと言って、与えた印象は変えられない。
だから取り下げてもいい。
彼らの罪状は、次の裁判で決まるのだからここで無理をする必要はない。
だがせっかく集めたのに、フレッチャー公爵に言い返されて取り下げるって癪だよな~。
その時、傍聴席で誰かが立ち上がった。
俺はそれに顔を向ける。
彼はとても冷静な顔で俺を見て頷いた。
う~ん、出来れば巻き込みたくなかったんだよな~。
とは言え、立ち上がった時点でもう注目を集めている。
こうなるともう、今更座れって言っても、あいつはなんだってなるよな~。
う~ん、口止めの魔法もかかってるしな~。
俺は仕方なく彼に頷き返した。
「議長、その件で南の国から証言者を招いています。許可頂ければ、彼に証言をお願いしたく思います。」
「南の国の?それを証明できるかね?」
俺はちらりと目をやった。
彼は頷いた。
「出来ます。ただし、かなりの大事になります。それでもよろしいですか?」
議長達は顔を見合わせた。
状況が飲み込めず、困惑しているようだ。
フレッチャー公爵は彼の顔を見たが、南の国の重役ではないと思ったのだろう
ならば押さえ込めると判断した様だ。
「私は構いませんよ、議長。南の国から連れてきた証言者だとしても、どこの馬の骨ともしれぬ者。それを信頼できる身分の証があると言うのなら、見せて貰おうではありませんか?」
あ~あ、言っちゃったよ。
彼が何者かも知らないで……。
俺が眉を潜めて彼をみると、何がおかしいのか笑っている。
結構、図太い神経してるよな、あいつ。
俺は諦めてため息をついた。
「では!緊急証言人として、南国籍イグナチウス・バフル・ティーナン・エズラ氏の入廷を許可願います!!」
俺がそのフルネームを言うと、貴族達は一斉に驚きと困惑の声を上げた。
名前に「バフル」と「ティーナン」が入ってたらそうなるよな~。
おいそれと使える名じゃないからな。
流石にこれにはフレッチャー公爵の顔も土気色に変わった。
もしかしたら知ってるのかもな。
イグナスの事情を。
ライオネル殿下や俺と同じく、グレゴリウス皇太子が血眼で探している人間だからなぁ。
当のイグナスはするすると優雅に歩き、傍聴席との間の手すりに手をついて笑った。
「で?これはどこから入ればいいんだい?サーク?」
「いいからちょっと待ってて下さい。皆、今、パニックに落ちいってますから。」
「ずっと聞いてたけど、面白い裁判だね?参加できて嬉しいよ。」
「俺は出来れば参加させたくなかったんだけどね。」
俺とイグナスが軽い感じで話しているのを、ワナワナした顔でガスパーが睨んでいる。
あ~あ、後で怒鳴られるな~。
何でそんな大事な事を黙ってたんだって。
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