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第八章③「帰国裁判」
二人の女神
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サークが体を痙攣させながら目を閉じた時、ウィルとシルクはほぼ同時に動いた。
他のものは何一つ目に入っていなかった。
自分の最も大切な人が、苦しみながら息を引き取ろうとしている事に意識の全てが奪われていた。
だから、周りの声も、引き止める腕にも気付かず、本能のままその人の下に行こうとした。
「……あっ!!」
だが、瘴気の壁にぶち当たり、シルクは反射的に身を引いた。
皮膚が爛れ、喉を焼く様な濃厚な瘴気の前に、それ以上進む事が出来なかった。
「サークっ!!」
その声に顔を向ける。
自分の横を、ウィルが駆け抜けて行った。
え?!
シルクは固まる。
濃厚な瘴気の中に、ウィルが走り込んで行ったのだ。
「ウソ……何で?!」
シルクは後を追おうとした。
だがやはり瘴気の壁にぶち当たり、皮膚の焼かれる感覚や息のできない毒の空気に、体が反射的に後退りする。
「嫌だっ!俺も行くっ!俺の主なんだっ!!」
シルクは泣き叫んだ。
けれど何度試してもそれ以上進む事ができない。
ウィルは行けるのにどうして自分は行けないのか?!
俺の主なんだ!
愛してるんだ!!
主が自分の世界の全てなんだ!!
なのに、進む事ができない。
主の為に死など恐れないのに、こんなにも愛しているのに、こんなにも主を必要としているのに、進む事ができない。
「何でだよっ!何で……っ!!」
愛情が足りないのか?!
それとも恋人じゃないからなのか?!
主は恋人として自分を選んでくれなかったけれど、相棒として誰よりも側に置いてくれた。
それが主の愛情だった。
形は違えど、深く愛されてる自覚があった。
「嫌だっ!何でだよっ!!」
悲痛な叫びを上げて、何度も瘴気の壁に入ろうとするシルクを誰かが抱き止めた。
「もうよせ、シルクっ。」
「嫌だっ!離してっ!!主の所に行くっ!!」
「シルク……。」
「嫌だ!一人にしないで!主!俺も連れてってっ!!」
シルクがそれ以上、瘴気に触れて傷付かぬ様、ギルは固く抱きしめた。
暴れるシルクを力の限り押さえつける。
普段なら体術であっさり剥がされてしまいかねないが、取り乱したシルクは小さな子供と同じだ。
散々暴れて泣き喚いてやがて力が抜けた
「……ヤダよ……どうして……何で俺は行けないの……?」
ボロボロと泣き崩れるシルクを、ギルはただ抱きしめた。
その足元には、誰のものかわからないブローチが落ちていた。
「サークっ!」
ウィルが駆けつけた時、サークの意識は殆どなかった。
痛みからなのか体を時より激しく痙攣させ、血を吐いている。
「サークっ!!」
ウィルはその体を抱き起こし、強く腕の中に抱きしめた。
その目が薄っすら開く。
「サークっ!!」
「……ウィル?」
「サーク……っ!!」
薄っすらと開かれていた目は、信じられないものを見たと言うように見開かれた。
何か言おうとして激しく痙攣し、身を捩ってまた血を吐いた。
それを支えようとすると、振り払われた。
「……何で……頼む……離れてくれ……っ!」
「断るっ!」
ウィルは無理やり弱ったサークを抱きしめた。
血がつこうが呪われようが、どうでも良かった。
それをヒューヒューと掠れた息をしながらサークが拒む。
「……ウィル……巻き込みたくない……頼む……っ。」
「断るっ!」
「……お願いだから……お前まで……呪われてしまう……。」
「構わないっ!」
何でこんなにも弱っているのに、自分を拒むのかウィルには信じられなかった。
呪いが何だというのか?
呪いなど、夜の宝石に生まれた自分にとったら向き合うために生まれてきたのだから、何の問題もないというのに。
「……ウィルが構わなくても……俺が構うっての……お願い……ウィル……離れて……。」
「嫌だ!絶対に離れないっ!!」
「……皆が攻撃しにくいだろ……ウィルがいたら……頼むよ……。」
「一人でなんか逝かせない……っ!!」
「……ウィル……お願い……愛してるんだ……。」
「俺だって愛してるっ!!だから誰がなんと言おうと!絶対に嫌だっ!!お前の頼みでもそれは受け入れられないっ!!」
ここまで来て自分を拒むサークが腹立たしかった。
一緒に逝こうと言ってくれれば、どんなに良いか……。
それでも最後までサークはウィルの身を案じた。
「……お願い……。」
「サーク……?サークっ?!」
その言葉を最後にサークは目を閉じてしまった。
その体はぐったりしていて、たまにビクッビクッと腕や足が痙攣するだけとなった。
愛しい瞳は、もう開かれる事はないのではないかと思えた。
感じたことのない絶望が胸に重くのしかかる。
「……サーク……っ!!」
ウィルはただ、サークを抱きしめた。
愛しくて、苦しくて、切なかった。
愛しているんだ……。
出会ったのは偶然だった。
自分の性的欲求と、周りから求められる性的役割が違ってとても悩んでいた。
そういう事を求められる事も、そして違う自分の性的欲求のどちらも否定して生きてきた。
自分の性的思考をおかしいと思いながらも、望まない役割を試みても消す事が出来なかった。
誰かに溺れるように愛されたかった。
それは子供の頃に見た、親しかった大人とその恋人の影響だったのかもしれない。
仲の良かった竜の世話役さんはとても優しかった。
穏やかで、暖かくて、自由だった。
竜の巣に住んでいるその人は、村の皆とは何か違って、どこか空気のような掴み所のない人だった。
彼には恋人がいた。
村の人間ではない、いや、人間ですらない恋人がいた。
竜人様と呼ばれるその人は、とても徳が高い竜で、竜なのに人になれる人だった。
竜は皆、大きいお母さんの子供だけれども、その竜人様は直属の子供だと言う事だった。
違いはよくわからない。
俺を見つけると、いつも邪魔な小僧と言って首根っこをつまみ上げてきた。
でも口ではそう言いながら、自分を好いていてくれる事は知っていた。
子供に妬くなと世話役さんが恋人をたしなめ、三人でよく過ごした。
ある時、いつものように世話役さんの小屋を訪ねると、二人が愛し合っていた。
俺は見てはいけないものだと思って急いで隠れた。
それはとても激しく、雄々しく、人の交わりよりも本能的な性だった。
見てはいけないと思ったのに目が反らせなくて、深く激しく愛されている世話役さんの顔があまりにも生々しく、そして何よりも綺麗だった。
見とれていると竜人様が気づいて薄く笑った。
その顔は雄々しくてぎょっとしてしまった。
しぃ、と口元に指を当ててみせたので、これは知ってはいけない事だったのだと子供心に思った。
そして音を立てないようにして、急いで来た道を帰った。
それからしばらく竜の巣に行けなかった。
どんな顔をすればいいのかわからなかった。
でも同時に、あんなふうにいつか自分も誰かに愛されたいと願った。
それを心の奥の方に隠してずっと生きてきたのだ。
外界調査員として外の世界に入り込み、王族の調査と言う名目で貴族の身分を偽り王宮騎馬隊に入った。
貴族達は性に対して秘密裏にしたがるくせに、とても奔放だった。
それに刺激され、自分で自分の欲求を満たすくらいはしてもいいのかもしれないと思った。
だが下手にそういう物を買うのも、貴族社会ではどこで何が繋がっているかわからない為、外界調査員としても慎重にならざるおえなかった。
そんな時だ、彼の噂を聞いたのは。
第三別宮警護部隊に入った平民の魔術師が、そう言った研究者で開発品などを売ってくれるらしいと。
貴族との繋がりもなさそうなその人物に目をつけた。
まだ日も浅いから、そう大きな繋がりもないだろうと。
第三別宮には例の馬小屋があって、そこの管理も仕事の一つだったのでちょうど良かったのだ。
だから人伝に手紙を渡し合う算段を立てた。
その場に現れた彼を見て、心臓が跳ね上がったのをよく覚えている。
物陰から見ておかしな人物だったらそのまま帰ろうと思っていたのに、きょろきょろと自分を探す彼はとても純朴で、貴族達にはいないタイプだった。
見た目も悪い所はないけれど、何か秀でで良い部分もない、とても普通の目立たない感じの男だった。
なのに、ひと目見た瞬間に激しく惹かれた。
どこにもそんな部分は見えないのに、竜人様と同じ、雄々しくて激しい魂の熱の様なものを感じた。
俺は別に竜人様が好きだった訳じゃない。
どちらかと言えば、初恋は世話役さんの方だ。
彼だって、竜人様とは全く違う。
あんなに人離れした様な美しさもなければ力強さもない、ごく一般的な庶民の男性と何も変わらない。
なのに惹かれた。
一目で恥ずかしいくらい惹かれてしまって、しばらく声がかけられなかった。
深呼吸して落ち着きを取り戻し、やっと声をかけた。
俺を初めて見た彼のきょとんとした顔は、とても可愛かったのを覚えている。
ドキドキした。
これから彼に頼まなければならない性的な商品も、それを他でもない彼に頼むという事が物凄くいけない事のようで、混乱しすぎてあの日の事を思い出していた。
愛されたいと思った。
流れで彼に教えを請い、彼は色々手解きをしてくれた。
だが、自分が俺に触れようとはしなかった。
おそらく商売としてきちんと一線を引いているのだと思った。
少し寂しくて、体が熱を持て余していた事もあり、大胆にも誘う視線を投げかけた。
でも、彼は応えなかった。
俺の目を見て、どこか哀しそうに笑う。
それを見て応えるものがないからだと気づいた。
彼にはたとえその気になったとしても、応えようがないのだ。
応えたいと思ってもそれに応えるものを持てない事に悩む彼と、求められる役割と自分の欲求が異なる事に悩む自分。
勝手な話だが妙に深い繋がりを持てた気がして気持ちが高まり、彼に見つめられながらはしたなく欲望を開放した。
当たり前だが人前で自分の本当の性を開放したのは初めてだった。
それが彼の前で良かったと思った。
たとえ結ばれなくても、初めて俺の本当の性を開放してくれた男が彼で良かったと。
一目惚れしたのだ。
たとえ叶わなくても、初めての男が彼であった事を、ずっと覚えていようと思った。
「恋人になれるなんて……思ってなかったよ……サーク……。」
意識のないサークを抱きしめて、ウィルはそうこぼした。
他のものは何一つ目に入っていなかった。
自分の最も大切な人が、苦しみながら息を引き取ろうとしている事に意識の全てが奪われていた。
だから、周りの声も、引き止める腕にも気付かず、本能のままその人の下に行こうとした。
「……あっ!!」
だが、瘴気の壁にぶち当たり、シルクは反射的に身を引いた。
皮膚が爛れ、喉を焼く様な濃厚な瘴気の前に、それ以上進む事が出来なかった。
「サークっ!!」
その声に顔を向ける。
自分の横を、ウィルが駆け抜けて行った。
え?!
シルクは固まる。
濃厚な瘴気の中に、ウィルが走り込んで行ったのだ。
「ウソ……何で?!」
シルクは後を追おうとした。
だがやはり瘴気の壁にぶち当たり、皮膚の焼かれる感覚や息のできない毒の空気に、体が反射的に後退りする。
「嫌だっ!俺も行くっ!俺の主なんだっ!!」
シルクは泣き叫んだ。
けれど何度試してもそれ以上進む事ができない。
ウィルは行けるのにどうして自分は行けないのか?!
俺の主なんだ!
愛してるんだ!!
主が自分の世界の全てなんだ!!
なのに、進む事ができない。
主の為に死など恐れないのに、こんなにも愛しているのに、こんなにも主を必要としているのに、進む事ができない。
「何でだよっ!何で……っ!!」
愛情が足りないのか?!
それとも恋人じゃないからなのか?!
主は恋人として自分を選んでくれなかったけれど、相棒として誰よりも側に置いてくれた。
それが主の愛情だった。
形は違えど、深く愛されてる自覚があった。
「嫌だっ!何でだよっ!!」
悲痛な叫びを上げて、何度も瘴気の壁に入ろうとするシルクを誰かが抱き止めた。
「もうよせ、シルクっ。」
「嫌だっ!離してっ!!主の所に行くっ!!」
「シルク……。」
「嫌だ!一人にしないで!主!俺も連れてってっ!!」
シルクがそれ以上、瘴気に触れて傷付かぬ様、ギルは固く抱きしめた。
暴れるシルクを力の限り押さえつける。
普段なら体術であっさり剥がされてしまいかねないが、取り乱したシルクは小さな子供と同じだ。
散々暴れて泣き喚いてやがて力が抜けた
「……ヤダよ……どうして……何で俺は行けないの……?」
ボロボロと泣き崩れるシルクを、ギルはただ抱きしめた。
その足元には、誰のものかわからないブローチが落ちていた。
「サークっ!」
ウィルが駆けつけた時、サークの意識は殆どなかった。
痛みからなのか体を時より激しく痙攣させ、血を吐いている。
「サークっ!!」
ウィルはその体を抱き起こし、強く腕の中に抱きしめた。
その目が薄っすら開く。
「サークっ!!」
「……ウィル?」
「サーク……っ!!」
薄っすらと開かれていた目は、信じられないものを見たと言うように見開かれた。
何か言おうとして激しく痙攣し、身を捩ってまた血を吐いた。
それを支えようとすると、振り払われた。
「……何で……頼む……離れてくれ……っ!」
「断るっ!」
ウィルは無理やり弱ったサークを抱きしめた。
血がつこうが呪われようが、どうでも良かった。
それをヒューヒューと掠れた息をしながらサークが拒む。
「……ウィル……巻き込みたくない……頼む……っ。」
「断るっ!」
「……お願いだから……お前まで……呪われてしまう……。」
「構わないっ!」
何でこんなにも弱っているのに、自分を拒むのかウィルには信じられなかった。
呪いが何だというのか?
呪いなど、夜の宝石に生まれた自分にとったら向き合うために生まれてきたのだから、何の問題もないというのに。
「……ウィルが構わなくても……俺が構うっての……お願い……ウィル……離れて……。」
「嫌だ!絶対に離れないっ!!」
「……皆が攻撃しにくいだろ……ウィルがいたら……頼むよ……。」
「一人でなんか逝かせない……っ!!」
「……ウィル……お願い……愛してるんだ……。」
「俺だって愛してるっ!!だから誰がなんと言おうと!絶対に嫌だっ!!お前の頼みでもそれは受け入れられないっ!!」
ここまで来て自分を拒むサークが腹立たしかった。
一緒に逝こうと言ってくれれば、どんなに良いか……。
それでも最後までサークはウィルの身を案じた。
「……お願い……。」
「サーク……?サークっ?!」
その言葉を最後にサークは目を閉じてしまった。
その体はぐったりしていて、たまにビクッビクッと腕や足が痙攣するだけとなった。
愛しい瞳は、もう開かれる事はないのではないかと思えた。
感じたことのない絶望が胸に重くのしかかる。
「……サーク……っ!!」
ウィルはただ、サークを抱きしめた。
愛しくて、苦しくて、切なかった。
愛しているんだ……。
出会ったのは偶然だった。
自分の性的欲求と、周りから求められる性的役割が違ってとても悩んでいた。
そういう事を求められる事も、そして違う自分の性的欲求のどちらも否定して生きてきた。
自分の性的思考をおかしいと思いながらも、望まない役割を試みても消す事が出来なかった。
誰かに溺れるように愛されたかった。
それは子供の頃に見た、親しかった大人とその恋人の影響だったのかもしれない。
仲の良かった竜の世話役さんはとても優しかった。
穏やかで、暖かくて、自由だった。
竜の巣に住んでいるその人は、村の皆とは何か違って、どこか空気のような掴み所のない人だった。
彼には恋人がいた。
村の人間ではない、いや、人間ですらない恋人がいた。
竜人様と呼ばれるその人は、とても徳が高い竜で、竜なのに人になれる人だった。
竜は皆、大きいお母さんの子供だけれども、その竜人様は直属の子供だと言う事だった。
違いはよくわからない。
俺を見つけると、いつも邪魔な小僧と言って首根っこをつまみ上げてきた。
でも口ではそう言いながら、自分を好いていてくれる事は知っていた。
子供に妬くなと世話役さんが恋人をたしなめ、三人でよく過ごした。
ある時、いつものように世話役さんの小屋を訪ねると、二人が愛し合っていた。
俺は見てはいけないものだと思って急いで隠れた。
それはとても激しく、雄々しく、人の交わりよりも本能的な性だった。
見てはいけないと思ったのに目が反らせなくて、深く激しく愛されている世話役さんの顔があまりにも生々しく、そして何よりも綺麗だった。
見とれていると竜人様が気づいて薄く笑った。
その顔は雄々しくてぎょっとしてしまった。
しぃ、と口元に指を当ててみせたので、これは知ってはいけない事だったのだと子供心に思った。
そして音を立てないようにして、急いで来た道を帰った。
それからしばらく竜の巣に行けなかった。
どんな顔をすればいいのかわからなかった。
でも同時に、あんなふうにいつか自分も誰かに愛されたいと願った。
それを心の奥の方に隠してずっと生きてきたのだ。
外界調査員として外の世界に入り込み、王族の調査と言う名目で貴族の身分を偽り王宮騎馬隊に入った。
貴族達は性に対して秘密裏にしたがるくせに、とても奔放だった。
それに刺激され、自分で自分の欲求を満たすくらいはしてもいいのかもしれないと思った。
だが下手にそういう物を買うのも、貴族社会ではどこで何が繋がっているかわからない為、外界調査員としても慎重にならざるおえなかった。
そんな時だ、彼の噂を聞いたのは。
第三別宮警護部隊に入った平民の魔術師が、そう言った研究者で開発品などを売ってくれるらしいと。
貴族との繋がりもなさそうなその人物に目をつけた。
まだ日も浅いから、そう大きな繋がりもないだろうと。
第三別宮には例の馬小屋があって、そこの管理も仕事の一つだったのでちょうど良かったのだ。
だから人伝に手紙を渡し合う算段を立てた。
その場に現れた彼を見て、心臓が跳ね上がったのをよく覚えている。
物陰から見ておかしな人物だったらそのまま帰ろうと思っていたのに、きょろきょろと自分を探す彼はとても純朴で、貴族達にはいないタイプだった。
見た目も悪い所はないけれど、何か秀でで良い部分もない、とても普通の目立たない感じの男だった。
なのに、ひと目見た瞬間に激しく惹かれた。
どこにもそんな部分は見えないのに、竜人様と同じ、雄々しくて激しい魂の熱の様なものを感じた。
俺は別に竜人様が好きだった訳じゃない。
どちらかと言えば、初恋は世話役さんの方だ。
彼だって、竜人様とは全く違う。
あんなに人離れした様な美しさもなければ力強さもない、ごく一般的な庶民の男性と何も変わらない。
なのに惹かれた。
一目で恥ずかしいくらい惹かれてしまって、しばらく声がかけられなかった。
深呼吸して落ち着きを取り戻し、やっと声をかけた。
俺を初めて見た彼のきょとんとした顔は、とても可愛かったのを覚えている。
ドキドキした。
これから彼に頼まなければならない性的な商品も、それを他でもない彼に頼むという事が物凄くいけない事のようで、混乱しすぎてあの日の事を思い出していた。
愛されたいと思った。
流れで彼に教えを請い、彼は色々手解きをしてくれた。
だが、自分が俺に触れようとはしなかった。
おそらく商売としてきちんと一線を引いているのだと思った。
少し寂しくて、体が熱を持て余していた事もあり、大胆にも誘う視線を投げかけた。
でも、彼は応えなかった。
俺の目を見て、どこか哀しそうに笑う。
それを見て応えるものがないからだと気づいた。
彼にはたとえその気になったとしても、応えようがないのだ。
応えたいと思ってもそれに応えるものを持てない事に悩む彼と、求められる役割と自分の欲求が異なる事に悩む自分。
勝手な話だが妙に深い繋がりを持てた気がして気持ちが高まり、彼に見つめられながらはしたなく欲望を開放した。
当たり前だが人前で自分の本当の性を開放したのは初めてだった。
それが彼の前で良かったと思った。
たとえ結ばれなくても、初めて俺の本当の性を開放してくれた男が彼で良かったと。
一目惚れしたのだ。
たとえ叶わなくても、初めての男が彼であった事を、ずっと覚えていようと思った。
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意識のないサークを抱きしめて、ウィルはそうこぼした。
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