欠片の軌跡⑤〜あらがう者たち

ねぎ(塩ダレ)

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第八章③「帰国裁判」

男子部屋の攻防戦

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「……や、やっと帰ってこれた……。」

俺はパタンと独身寮のベッドに倒れ込んだ。
それをおかしそうにイヴァンが見ている。

「お帰りなさい。サークさん。」

「うん、ありがとう。」

「て言うか、寮に帰ってくるとは思ってなかったです。ウィルさんはどうしたんです?」

「今日はシルクと過ごしたいんだって。俺、フラレたの。」

「あ、あ~。なるほど。」

イヴァンは微妙な声を上げて苦笑した。

シルクとウィルがこれからしばらくいなくなる事は、すでに警護部隊にも話が通っていた。
ギルが許可したのだが、それはもう、女神信仰者たちには晴天の霹靂だった。
物凄い騒ぎになったと、ライルが大笑いして話してくれた。

そりゃな、自分の女神を確保したライルにとったら笑い事だろうけど、彼らにとったら大事だぞ?
笑わないでやってくれよ。

その時、寮の部屋のドアがノックされた。
イヴァンの顔を見たが首を傾げている。
誰だろう??

「はい?」

「俺だ。邪魔しても良いか?」

おっと、と俺は体を起こした。
イヴァンがドアを開けると、ギルが酒瓶と袋を抱えて立っている。

「ははは!隊長もフラレたクチですね?」

「……うるさいぞ、イヴァン。」

どうやら、ギルもシルクに会いに行って断られたらしい。
俺が王宮から帰ってくるのだから、まさかウィルがこっちにいるとは思わなかったんだろう。

「……久しぶりだな、ギル。」

「ああ……。」

抱えていた荷物をテーブルに置いたギルにそう声をかけた。

俺とこいつは、あの日以来会っていない。
何だか微妙な感じで、何を言っていいのかわからない。

とりあえず立ち上がると、ギルが腕を広げた。
う~ん、ハグしろって事なんだろうけど……。
何となく、気持ちがざわざわする。
イヴァンもいるので変に躊躇もしてられず、仕方なく応えた。

「……っておいっ!!」

「会いたかった……ずっと……。」

ギルは俺が腕を回すとぎゅっと抱きしめてきた。
明らかに友人に対するハグじゃないよな?!
イヴァンが微妙な無表情でそれを見ている。
ギルは気にする事も無く、ぎゅっと強く抱きしめ、感慨深げに目を閉じていた。

「……いい加減に離せよ?!」

「ご挨拶だな。俺がどれだけ心労を重ねたと思っている?」

「それは悪かったよ!でもこれはおかしいだろうがっ!!」

「……前から思ってたんですけど、お二人って、どういう関係なんですか??」

イヴァンが遠い目をしながら言った。
それに答えるように、やっとギルが体を離して俺の顔をのぞき込んだ。

「……サークはサークだな。」

「何だそれは??意味がわからん……。」

俺はちょっとそわそわして急いで側を離れた。
微妙にイヴァンの方に行って椅子に座る。
そんな俺をちらりとイヴァンが見て、とりあえずとギルの持ってきた袋の中身を出し始めた。

「隊長ってずっと殿下一筋だったじゃないですか?いつサークさんに乗り換えたんです??そしてサークさんからいつシルクさんに乗り換えたんです??……ってちゃんと乗り換えてなさそうですけど……。」

イヴァンから袋から出てきたコーンポタージュとフライドチキンを手渡され、何も考えずにかぶりつこうとしていた俺は盛大にむせた。
まぁ、ギルが持ってきたのに何も言われてないのに食べようとした天罰だと思おう……。

「……って言うか!!お前!!俺のベッドに座るなっ!!」

話を振られたギルはどんな顔をしているのかと思ったら、相変わらずの無表情で当然のように俺のベッドに腰掛けていた。
慌てて立ち上がり退かそうとしたら、無表情のまま、駄々をこねる子供のようにベッドに寝転んでしまった。

「寝るな~っ!!俺のベッドが穢れる~っ!!」

「……隊長って……サークさんが絡むと、常識を逸脱した行動が目立ちますよね……。」

ギルはベタンとベッドに張り付いて引っ張っても剥がれない。
イヴァンが半ば白目を向いてそれを見ている。

何なんだ?!何なんだこいつは?!
今日は一段とおかしくなってやがるっ!!

「わかった!!座ってもいいから寝るな!!体を起こせ!!俺のベッドに寝転ぶなっ!!」

俺よりガタイもいいのでどうにも動かせず、俺は諦めて座る事を許す。
その瞬間ギルは体を起こすと、ヒョイと俺の腕を掴んで隣に座らせた。

「ぎゃああぁぁぁっ!!触るなっ!ベッドの上で俺に触んじゃねぇっ!!」

「暴れるな。押し倒すぞ?」

「ひぃっ?!」

ジタバタするが下手にもがくと本当に押し倒されそうだ。
俺は仕方なくそのままじっとしていた。
イヴァンが完全に白目を向いている。

「タ~ス~ケ~テ~。イヴァン~。」

棒読みの小声で助けを求める。

何なんだよ、今日は?!
厄日か?!
厄日なのか?!

俺が半泣きになっているとため息をつきながら白目を黒目に変え、イヴァンは机を動かしてそれを俺の前に設置した。

ナニコレ??
なんで俺の前にテーブル置くの??

ここでこのまま諦めて飲み食いしろって事??
どうするつもりなのかと思ったら、トスンとイヴァンまで俺の横に座った。

訳がわからない。
俺は目を白黒させてイヴァンを見た。

「?!?!?!」

「これしか方法がなさそうだったんで。」

つまり??
ギルを俺から離すのは無理そうだが、だからといってこのままだと俺が可愛そうだから横に座るって事か??

「……え??何、この状態??」

両脇にギルとイヴァンってどういう事??
シルクとウィルに囲まれるのは慣れてるしいいけど、こんなガタイのでかい男二人に囲まれるって、嬉しくないし、罪人として取り調べでも受けてる気分だ。

「サークさんが悪いんですから諦めて下さい。俺に手助けできるのはこれが精一杯なんで。」

「は?!俺が悪いの?!」

「まったく、サークさんは無自覚に魔性だから本当、困ります。」

「俺が悪いの?!ねぇ?!」

「はい。多分、サークさんが悪いんです。」

まったく意味がわからない。
そして納得もいかない。
何故、俺が悪い事になる?!
この間ギルは何も言わず、俺にもたれ掛かっていた。

「……要するに、隊長はサークさんに出会ってしまった為に魔性に魅入られ、そこからおかしくなってしまったと言う事なんでしょう。」

「ちょっと待てっ!!違うから!!俺は魔性とかじゃないから!!話せないけど!!こいつとは色々あってだな?!」

「でも突き詰めれば、その色々あってもサークさんの魔性のせいでしょ??」

イヴァンはこれ以上はどうにもできませんと言った顔で、テーブルから串焼きを手に取ると齧り始めた。
なんでそうなるんだよ!!
言えないけど!こいつとはちょっと色々あったんだよっ!!
怖い思いもしたし!トラウマにもなったしっ!!

「お前も何か言えよ!!お前のせいで誤解されてんだぞっ?!俺っ!!」

俺は横のギルの頭を引っぱたいた。
ギルはうっすらと目を開くと、俺の後ろに片手をついて、顔をのぞき込んできた。

「近い近い近い近いっ!!」

「……あながち間違ってないから、何も言わなかった。」

「違ぇだろうが!!殿下が俺を私の騎士って言うようになって、俺に八つ当たりで勝負仕掛けてきてっ!!俺がぶん殴ったら!何故かそれで目覚めたんだろうがっ!!」

「え?!何です?!その変態的エピソードは?!」

イヴァンが軽く吹いてそう言った。
ギルは澄まして手酌で飲みだしている。
くそう、都合が悪くなると黙りやがってっ!!

「知ってんだろ?!師匠が指導に来て部隊全体でトーナメント試合があったの?!あの最後に俺と師匠が試合するはずだったのに、こいつが乱入して「殿下のお気に入りの新参者は潰す」って勢いだったのに、試合で5年ぶりに殴られたとか言って!!俺がぶっ倒れてから目を覚したら!!何故か執着され始めてたんだよっ!!」

「あ~、あの時ですか??へ~??」

イヴァンは今は警護部隊に所属しているが、いずれロイヤルソードに移る事がほぼ決まっているので、あの頃は殿下についてほぼ王宮での仕事しかしていなかった。
だからこっちにいなかったし、それを見てもいないのだ。

「殴られて好きになるとか……隊長って実はMっ気もあったんですね……。いや、違うか。ドSだから、殴られたら倍にして返したくなったのか……??」

イヴァンが変な事をブツブツ言っている。
そしていつの間にかグラスに注いでいた酒を一気に煽った。

そう言えばシルクにも投げ飛ばされてるしな?
意外とMっ気もあるのかもな、ギルって。

よくわからないが誤解は解けたようだ。
俺も安心してグラスに酒を注いで舐めはじめる。

「……なら、なんでそのまま、サークを好きなままでいてくれなかったんだよ?!俺とシルクさんの邪魔しやがって……。」

「おい、イヴァン、素が混ざってるぞ?!」

ダンッとグラスをテーブルに戻したイヴァンが言った。

しまった……。
忘れていたが、ギルとイヴァンはシルクを取り合った間柄だった……。

これは泥沼になるなぁと内心頭を抱える。
ギルはそんなイヴァンをちらりと見、酒を煽った。

「……シルクとの事は、こいつに手酷くフラレた後の話だ。」

「手酷くフラレたって何だよ!!あんな変態的で猟奇じみたアプローチで!!俺がお前を好きになるとでも思ったのかよ?!」

思わず我鳴った俺を、ギルが真顔で見てくる。
ち、近い……近いからっ!!

「……紳士的にアプローチしたら、お前は俺を好きになったのか?」

「それは……。」

どうなんだろう??
俺自身もよくわからない。

紳士的にアプローチしてきていたら、俺はギルを好きになったのだろうか??

ギルの事は嫌いじゃない。
あんな事があったのに一緒にいられるのだから、多分、嫌いではないんだ。
それでも突き放せずにこうして側にいるのは、たまに変態的に甘えて来られても応えてしまうのは、俺がギルをそれなりに好きだからなのだろうか??
どうだろう??

だが、少なくともあの頃のギルには変態で怖いやつってイメージしかないからな……。
イヴァンも興味深く俺を見つめている。

「……わからん……俺、あの時、好きな人いたし……。」

「え?!そんな頃から、ウィルさんと恋愛関係だったんですか?!」

「いや……ウィルとも出会ってたけど……あの時、好きだったのは別の人で……。」

だんだんしどろもどろになってきた。

ちょっと待ってくれ?!
なんでこんなむさい男三人で寄り集まって、恋バナしてんだよ?!
やめてくれよっ!!

俺は恥ずかしさがピークに達して、グラスの酒を一気に煽った。

「……その辺は、俺も詳しく聞きたい……。いつ、ウイリアムと出会った?いつ、そう言う仲になった?!」

「俺とウィルの事はどうでも良いだろ?!詮索するなよっ!!」

「いや駄目ですっ!!僕もあの日の納得できる答えが欲しい!!いい機会です!!今日はとことん三人で話し合いましょうっ!!」

ギルに詰め寄られ、イヴァンはやる気に漲って、ドンと酒瓶をテーブルについた。

え?!マジで?!

こうして久しぶりの男子部屋は、酒も入って、お互いの攻防ありの泥沼カオス状態と化していったのだった。
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