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第一章「外壁警備編」

別れの曲

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「サークさん!!サークさん!!」

「はいはい。」

「良いですか~!?もし、ちんこが立つような事があったら~、直~ぐに俺の所に来てくらさいね~!!」

「何でだよ!!」

「そりゃ~ずっと近くで、先輩のちんこの具合を見守ってきたのはぁ~!俺だから~!!」

「いや、見守るなよ。」

「ちんこが立ったら~色々と教えてあげないといけないことがあるから~!!」

「要らねぇよ。」

「だめです~だって、サークさん~童貞で~処女だから~!!」

「お前、そろそろ黙れ!!」

「らいじょ~ぶです~!!おれが~全~部、教えてあげますから~!!」

「ぎゃ~!!襲われる!!」


へべれけになったリグに絡まれ、俺は悲鳴を上げた。
逃げたいが、リグは終盤から俺の腕に抱きついて、全く離してくれない。
この発言はさすがにぎょっとしたが、ぐだぐたのリグは、俺を見上げて、えへへと笑った。
酔っぱらっているせいか、何だか可愛らしい。

ま、リグは後輩としてそれなりに可愛いんだよな。

中身は節操なしの獣だけど!
中身は節操なしの獣だけど!!
(大事な事なので~以下略)

電池が切れはじめたのか、俺の腕に掴まったまま、うとうとしている。

「モテモテだな、サーク。」

「からかわないで下さい。班長。」

「ま、今日は我慢してやれ。」

「まぁ、あの顔見てますからね。」

「説得するの大変だったのなんの。」

「お疲れ様です。」

俺の横に腰かけた班長は、特に何も言わず、酒を嘗めていた。
宴もほぼ終わり、半数以上が帰ってしまい、残っているのは少数だった。
パチパチと松明が燃えている。

改めて、全体を見る。

俺の職場だった場所。
別に特別な思い入れはないけれど、何でもない毎日を過ごした、大切な場所だ。


「頑張れよ。」


班長がボソッと言った。
その一言に、たくさんの言葉が詰まっていて、鼻の奥がつんとした。
何も言わない俺の頭を、ぐりぐりとと撫でる。

「お~い!!後片付けはこっちでやるから、お前ら帰っていいぞ~!!」

残って飲んでいた連中が、俺らにそう声をかけてきた。
班長が手を上げて、礼を言った。

「じゃ、帰るとするか。」

班長は残っていた酒を一気に飲み干すと、立ち上がった。

「帰るのは良いですが、こいつどうするんです?」

くっついたまま、スースーと寝息を立てているリグの頬をつつく。
起きる感じではない気がした。

「せっかくだから、持ち帰ればいいだろ?熱烈なアプローチもされたんだし。」

ぷぷぷっと吹きながら、班長はニヤニヤしている。
何を言ってるんだか。
俺は班長を睨んだ。
とはいえ、今日は放置して帰る気にはなれない。
諦めたようにため息をつき、俺はリグを揺さぶった。

「おい、リグ。おぶってやるから、離せ。」

「うわーやさしー。」

「蹴っ飛ばしますよ、班長?」

リグは寝ぼけた感じで腕を離し、俺の背中に乗っかった。
えへへと笑って、首に腕を回してきた。
今日のリグは何か調子が狂う。



いつも通っていた道を、3人で歩く。
何か話したいような、何も言う必要がないような。

ここで3人で過ごした日々が、確かにそこにあった。

「…先輩、もう大丈夫です。」

街中を歩いていると、いつの間にか目を覚ましたリグが、そういって背中から降りた。

また明日。
この言葉が使えない時、人はなんて言えばいいんだろう?


「サークさん!俺は、サークさんの事、大好きですよ!!」


リグが突然、そう言った。

「先輩はちんこは立ちませんが、腕は立ちます!!」

「お、おう。」

「エロい研究してるし、遅刻するし、サボるし、良いとこないけど!」

「酷くないか!?」

「でももう!絶対に死なないで下さい!!」

「リグ…。」

「死ぬなら、性具の特許を俺に譲ってからにしてください!!」

「おい!!」

「これからは、遅刻したら駄目ですよ!!」

「わかった。」

「研究に没頭して徹夜したり!!ご飯食べなかったりしたら駄目ですよ!!」

「うん。」

「それから…それから…。」

「うん。わかった。ありがとな。リグ。」

色々言っているうちに、リグの目には涙が溢れていて、それでも泣かないと決めていたんだろう。
まだ言いたい事はあったようだが、ぐっと歯を噛み締めて、堪えていた。

俺はリグに手を伸ばしかけて、やめた。
リグが頑張って堪えてるものを、壊してしまいそうな気がしたから。
代わりに班長がリグの頭を、ぽんぽんと叩いた。

「ほれ。」

「何ですか?」

「俺とリグからの餞別。」

ぶっきらぼうに班長から渡された袋を開ける。
中には杖が入っていた。

「無くしたって言ってただろ?」

俺はそれを強く握った。
言いたい事は、たくさんあった。
でも、何が言いたいのかもわからなかった。


「…ありがとう、ございました!!」



それを言うのが精一杯。

俺はそのまま2人に背を向けた。
早足は駆け足に代わり、暗い夜道をとにかく走った。






「おい、もういいぞ。」

サークの姿が見えなくなると、班長はリグの頭を、ぽんぽんと叩いた。
そのままリグはしゃがみこみ、嗚咽を洩らして泣いた。

「よく頑張った。よく頑張ったよ、お前は。」

泣くリグの隣にしゃがんで、班長は小さくため息をついた。

「は、班長…。」

「なんだ。」

「今更気付いた…。」

「うん。」

「俺、冗談じゃなくて…先輩のこと…。」

「…それ以上言ったら、ぶん殴る。」

リグはそのまま、地面に突っ伏して動かなかった。


「…全く、どいつもこいつも…手の掛かる息子達だなぁ。」


班長はため息をつきながら、仕方なくその頭を撫でてやった。
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