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第二章「別宮編」
新しい朝
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朝日が差し込む謁見室。
そこはただ静かで、重厚だった。
真新しい制服。
膝をつき、頭を垂れる俺の前に、正装の第三王子がゆっくりと近づく。
剣が抜かれ、その刃が静かに肩に乗った。
「ハクマ・サーク。ライオネル・ミスル・サバール・クインサーの名において、そなたを我が騎士と命ずる。」
「我、ハクマ・サークは、君主の名の元に、その剣、その盾となることを誓います。」
あの日から、こうなることが決まっていたのだろうか?
それとも、もっと前から…。
「荷物はここに置いておけばいいよ!後、それから…。」
称号の授与が終わり、俺は世話担当だと言うライルという人に案内されていた。
「何か嬉しいな~!今まで俺が一番下っぱみたいなもんだったら、後輩が出来るなんて!!」
にこにこと話すライルさんを見て、俺は言い様のない親近感を覚えていた。
知ってる。
この感覚、絶対知ってる!
にこ~!としているこの先輩。
…しっぽをぶんぶん振ってる幻が見える!
「どうした?何かわからないか?」
小首を傾げるその頭に、正直、耳があるようにしか見えない。
い、犬だ。
犬系男子だ!
絶対そうだ!!
どうやら俺は、犬系男子と縁が深いらしい。
ただライルさんは中型犬だ。
青年期ぐらいの一番、元気がいいヤツ!
何か懐かしさで泣きそうだ。
「大丈夫か?」
「すみません。なつかれていた大型犬の子犬を急に思い出しまして…。」
「え!?犬飼ってるのか!?」
「いえ、飼ってはいないのですが…。」
「可愛いよな!犬って!!」
嬉しそうにしっぽをぶんぶん振るライルさんに、あんたの方が可愛いよとはとても言えなかった。
良かった。
本当に良かった。
ライルさんがいい人で本当に良かった!
平民上がりの騎士になるのだから、正直、全員に無視されることも覚悟していた。
「困った事があれば、何でも俺に言えよ!」
誇らしげに胸を張り、そう言ってくれたライルさんに、俺は深く感謝した。
後で干し肉買ってきますね!!
粗方案内をしてもらい、仕事の説明を受ける。
基本的には朝礼があって、そこで指示を受けるらしい。
とはいえ入りたての下っぱの仕事は基本的、掃除と雑用だとライルさんが笑った。
それから、部屋を持っている隊長と副隊長に挨拶に行く事になった。
「あ、やっぱりいないや。」
まず訪れた隊長の部屋は、ノックしても反応がなかった。
「隊長はさ、基本、殿下についてるから、居ないんだよ。」
「そうなんですね。」
「殿下には、常に2~3人の人がつくんだ。午前、午後で交代するから、1日6人くらい同行担当になるんだ。」
「なるほど。」
「外出される際は、直近、周近が6人ずつ、外周警護はその時々で変わる感じかな。」
「勉強になります。」
「と言うか、サーク。俺にまでそんな固くならなくていいよ。もっと楽に話してくれた方が俺も嬉しいし。」
ぱぁ~と明るくなるような笑顔で、ライルさんは言った。
ヤバい。
新しい先輩の中型犬は天使だ。
今まで可愛いが小悪魔な子犬しか見てなかったから心が洗われる。
……ジャーキー買わないと!!
俺はそう、心に誓った。
次に副隊長の部屋を尋ねた。
「入って。」
ノックするとそう言われた。
ドアを開け、一礼する。
「失礼します!」
中に入ると、物凄い書類の山の向こうに女性が座っていた。
「も~見てよ!!この書類の山!!ギルが殿下にベッタリで、ちっとも仕事しないから、全部こっちに回ってくる!!」
彼女はそう言って立ち上がった。
「新しく来た子ね?」
「本日より配属になりました、ハクマ・サークです。若輩者ですが、日々精進し、1日も早く隊の力になれるよう、努めて参りますので、ご指導の程、よろしくお願いいたします。」
そう挨拶をして、頭を下げる。
体を起こすと、きょとんとした様子で俺を見ていた。
え?何かしくじった!?
内心、狼狽えていると、小気味いい笑い声が響いた。
「やだ、ちょっと!!平民から騎士になった子だって聞いてたから、色々大変だろうと思って、挨拶の言葉とか教えた方がいいかなって思ってたのに!完璧じゃない!!」
「お、恐れ入ります。」
「笑ってごめんなさい。私は副隊長、サマンサ・マニ・ウォーレン。よろしくね。」
副隊長はそう言って、手を差し出した。
握手だと思って握ったら、引っ張られてハグされた。
目を白黒させた俺を笑ってバンバン叩く。
「ちょうどいいわ!二人とも!ちょっと書類の整理を手伝ってよ!!」
なんだかパワフルな人だ。
でも屈託がなくて、とても心地いい。
「副隊長はね、隊の肝っ玉母さんて言われてるんだよ!」
ライルさんがこそっと耳打ちした。
「ラ~イル!聞こえてるわよ!!」
「わっ!すみません!!」
「だいたい、未婚の女性を捕まえて、母さんてなんなのよ。せめて姐さんぐらいにして欲しいわ!!」
副隊長はめちゃくちゃカッコいいと俺は思った。
そこはただ静かで、重厚だった。
真新しい制服。
膝をつき、頭を垂れる俺の前に、正装の第三王子がゆっくりと近づく。
剣が抜かれ、その刃が静かに肩に乗った。
「ハクマ・サーク。ライオネル・ミスル・サバール・クインサーの名において、そなたを我が騎士と命ずる。」
「我、ハクマ・サークは、君主の名の元に、その剣、その盾となることを誓います。」
あの日から、こうなることが決まっていたのだろうか?
それとも、もっと前から…。
「荷物はここに置いておけばいいよ!後、それから…。」
称号の授与が終わり、俺は世話担当だと言うライルという人に案内されていた。
「何か嬉しいな~!今まで俺が一番下っぱみたいなもんだったら、後輩が出来るなんて!!」
にこにこと話すライルさんを見て、俺は言い様のない親近感を覚えていた。
知ってる。
この感覚、絶対知ってる!
にこ~!としているこの先輩。
…しっぽをぶんぶん振ってる幻が見える!
「どうした?何かわからないか?」
小首を傾げるその頭に、正直、耳があるようにしか見えない。
い、犬だ。
犬系男子だ!
絶対そうだ!!
どうやら俺は、犬系男子と縁が深いらしい。
ただライルさんは中型犬だ。
青年期ぐらいの一番、元気がいいヤツ!
何か懐かしさで泣きそうだ。
「大丈夫か?」
「すみません。なつかれていた大型犬の子犬を急に思い出しまして…。」
「え!?犬飼ってるのか!?」
「いえ、飼ってはいないのですが…。」
「可愛いよな!犬って!!」
嬉しそうにしっぽをぶんぶん振るライルさんに、あんたの方が可愛いよとはとても言えなかった。
良かった。
本当に良かった。
ライルさんがいい人で本当に良かった!
平民上がりの騎士になるのだから、正直、全員に無視されることも覚悟していた。
「困った事があれば、何でも俺に言えよ!」
誇らしげに胸を張り、そう言ってくれたライルさんに、俺は深く感謝した。
後で干し肉買ってきますね!!
粗方案内をしてもらい、仕事の説明を受ける。
基本的には朝礼があって、そこで指示を受けるらしい。
とはいえ入りたての下っぱの仕事は基本的、掃除と雑用だとライルさんが笑った。
それから、部屋を持っている隊長と副隊長に挨拶に行く事になった。
「あ、やっぱりいないや。」
まず訪れた隊長の部屋は、ノックしても反応がなかった。
「隊長はさ、基本、殿下についてるから、居ないんだよ。」
「そうなんですね。」
「殿下には、常に2~3人の人がつくんだ。午前、午後で交代するから、1日6人くらい同行担当になるんだ。」
「なるほど。」
「外出される際は、直近、周近が6人ずつ、外周警護はその時々で変わる感じかな。」
「勉強になります。」
「と言うか、サーク。俺にまでそんな固くならなくていいよ。もっと楽に話してくれた方が俺も嬉しいし。」
ぱぁ~と明るくなるような笑顔で、ライルさんは言った。
ヤバい。
新しい先輩の中型犬は天使だ。
今まで可愛いが小悪魔な子犬しか見てなかったから心が洗われる。
……ジャーキー買わないと!!
俺はそう、心に誓った。
次に副隊長の部屋を尋ねた。
「入って。」
ノックするとそう言われた。
ドアを開け、一礼する。
「失礼します!」
中に入ると、物凄い書類の山の向こうに女性が座っていた。
「も~見てよ!!この書類の山!!ギルが殿下にベッタリで、ちっとも仕事しないから、全部こっちに回ってくる!!」
彼女はそう言って立ち上がった。
「新しく来た子ね?」
「本日より配属になりました、ハクマ・サークです。若輩者ですが、日々精進し、1日も早く隊の力になれるよう、努めて参りますので、ご指導の程、よろしくお願いいたします。」
そう挨拶をして、頭を下げる。
体を起こすと、きょとんとした様子で俺を見ていた。
え?何かしくじった!?
内心、狼狽えていると、小気味いい笑い声が響いた。
「やだ、ちょっと!!平民から騎士になった子だって聞いてたから、色々大変だろうと思って、挨拶の言葉とか教えた方がいいかなって思ってたのに!完璧じゃない!!」
「お、恐れ入ります。」
「笑ってごめんなさい。私は副隊長、サマンサ・マニ・ウォーレン。よろしくね。」
副隊長はそう言って、手を差し出した。
握手だと思って握ったら、引っ張られてハグされた。
目を白黒させた俺を笑ってバンバン叩く。
「ちょうどいいわ!二人とも!ちょっと書類の整理を手伝ってよ!!」
なんだかパワフルな人だ。
でも屈託がなくて、とても心地いい。
「副隊長はね、隊の肝っ玉母さんて言われてるんだよ!」
ライルさんがこそっと耳打ちした。
「ラ~イル!聞こえてるわよ!!」
「わっ!すみません!!」
「だいたい、未婚の女性を捕まえて、母さんてなんなのよ。せめて姐さんぐらいにして欲しいわ!!」
副隊長はめちゃくちゃカッコいいと俺は思った。
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