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第二章「別宮編」
破天荒
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ある晴れた日に不発弾を拾った。
正直もう、どうして俺の人生にはこういう寿命を縮めるようなサプライズが続くのかと自分を呪った。
「サーク~?どうした?電池切れ??」
ライルさんが心ここに非ずの俺にそう声をかけてきた。
目の前で手をひらひらさせている。
午前中、副隊長にベッタリだったライルさんは、仕事にならないととうとう部屋を追い出されたらしい。
「電池……文献によれば化学反応で発生したエネルギーや光・熱などのエネルギーを電気エネルギーに変換する装置の事ですね?電池は化学電池と物理電池の大きく2つに分けられますが、どちらの事ですか?それともその古代科学技術知識を応用されて作られた魔力電池の事ですか?」
「えっ!?やだ何この子!?怖っ!!」
ライルさんはぎょっとして引いていた。
俺達は王宮からの物品運搬の馬車の荷物を片付けていた。
単純作業なので頭を使わなくていい事がとても助かる。
今、俺の頭の中は混沌を通り越して、宇宙だった。
考えたって無駄だ。
宇宙は人間が感知できる大きさじゃない。
そもそも宇宙というのは、高度100kmから上を差し……。
「……サーク、お前、今日は帰った方がいいよ……。サム…じゃなくて副隊長には俺から言っとくから……。」
宇宙についてぶつぶつと呟いている俺に憐れむような視線を向け、ライルさんは言った。
俺はお言葉に甘えて帰る事になった。
片付けをしている他のメンバーに詫びを言い、俺は荷物を取りに行こうと歩いていた。
「!!」
突然、物陰から手が伸びる。
俺は敏感に反応し、その手を叩き落とし身構えた。
「誰だっ!!」
「……私です。サーク。」
俺の強い反応に戸惑った様な声。
睨み付けた先には、頭からすっぽりフードを被った人物がいた。
その人物はゆっくりと顔を露にする。
流れ出る、黄金の髪。
え?
え?
改めまして、
え?
頭の芯の方から、ゴーンという重い音がした。
今日は思考が宇宙に飛びまくっている。
しかしハッと、固まっていた俺はひざま付いた。
「失礼致しました!我が君主、ライオネル殿下!!」
「サーク!静かに!目立つので立って下さい!」
あわあわと辺りを見渡し、慌てる第三王子。
俺は立つよう強く促され仕方なく立ち上がった。
王子はすぐにフードを被り直した。
え?なんで??
今日、王子が帰ってくるとか連絡あったっけ??
何故かずっと王宮の方にいるライオネル王子。
まぁ、向こうにも王子の部屋があるみたいだし、こっちに帰ってくるのだって、本来はここが王子の住まいなんだから、何か取りに帰ってきてもおかしくはない。
おかしくはないんだけど……??
「え?どういう事です!?いつ、こちらに!?」
「物資の馬車に紛れて来ました。誰も私がここに来たことは知りません。」
ゴーンと再び、頭の中で鐘が鳴った。
え??
馬車に紛れてきた??
ここに来た事は誰も知らない??
ゴーン……。
マジで宇宙が見える……。
いや、もしかしたら走馬灯なのかもしれない……。
え?
待って??
これって、ヤバくね??
とう考えても断頭台に行くルートしか検索できない。
救済ルートが見つからない。
「お待ちください?!何だって……なんだってそんな事を?!」
「だって……。」
「とにかく副隊長に報告してきます!一緒に来てください!」
「待って!サーク!私の話を聞いて?!」
「聞きますが、まずは副隊長に報告が先です!」
「お願いです……サーク……ッ!……すぐ、直ぐに帰りますから、事を大きくしないで下さい!」
泣きそうな顔で懇願してくる王子。
いやいやいやいや!
泣きたいのは俺です!
大きくどころか、既に首が飛ぶくらい、すでに大事ですから!!
「どうしてこんなことを……っ。」
風前の灯火のような自分の運命に嘆く俺。
やっとこの別宮勤務にも馴染んできたと思ったのになぁ……。
断頭を免れても、冷たい牢獄行きが関の山だ。
がっくりと項垂れる俺。
王子は頬を染めて俯き、俺の服の裾を掴んだ。
「……会いたかったんです、サーク……。私の騎士……。」
何、その「来ちゃった」的なの?
乙女オーラ全開の王子とは裏腹に、俺は命の危機を感じる。
何となくわかってましたよ……。
そういう事だろうなぁ的な?
わかってました。
わかってましたけどね?!
本日の天気、晴れ。
気温は18℃、風向き南南西、風速1m。
湿度は20%、ところにより午後、雷雨となるでしょう。
どうしてこうも、立て続けにヤバい事が起こる!?
こうして俺の断頭台までのカウントダウンが、否応なしに始まったのだった。
もう会ったのだから副隊長のところに行こうと言っても、王子は聞かなかった。
多分、ここまで一人で上手く来れてしまったので、気分が高揚しているのだ。
「……もう少し、二人だけでいたら、駄目ですか?」
「駄目です。」
「意地悪ですね、サーク。こんなに苦労して主が会いに来たと言うのに。」
「お願いですから、我が君主。正式な手続きをしてからお越し下さい。」
「それはもう試しました。それで駄目だったので、こうして来たのです。」
「ですが!御身に何かあったらどうするのですか!?」
「……こうしてここに来るのは、とてもスリルがありました。」
「お願いですから、このような危険な真似はしないで下さい!皆、心配していますよ?!きっと!!」
人目につかない物陰で、ひそひと言い合う。
どうにか説得を試みようとしているが、ハイになっている王子には焼け石に水だった。
「……っ?!しっ!!」
そんな中、人の気配がして俺はさっと王子に覆い被さった。
王子を物陰に押し込み、俺の体で覆い隠す。
息を殺して、状況を見守った。
「何か、王宮に殿下がいらっしゃらないらしいぞ?」
「さっきの早馬?」
「そ。こっちでも捜索隊を組んでくれってさ。」
「王宮に閉じ込められてるから羽を伸ばしたくなったんじゃないか?何気に殿下は自由奔放なところがあるし。ここでもたまにあったじゃん。かくれんぼとか言って……。」
「あ~、そう言えば……。でも隊長が人間離れした探索力ですぐ見つけてたから、あんま気にならなかったんだよなぁ~。」
「そうそう。だから今回もそういうのだろ?何かそのうちふらっと出て来ると思うんだよなぁ~。」
「ただ、隊長がついていながら見失ったってのはちょっと心配だけど……。」
「だな。ここの所、多忙で疲れてるのか顔色悪かったもんな、隊長。」
「何かぶっ倒れそうな感じだったし。殿下の事は何でもかんでも一人でやっちゃうから、隊長に頼りすぎてたよな、俺ら。」
「そうだな……。倒れられても困るし、今回は俺らで何とか殿下を探さないとな……。」
ふたりの隊員がそんな事を話ながら通り過ぎた。
さすがは能天気でお気楽ご気楽な第三別宮警護部隊というか、運良く気づかれずに済んだ。
というか、何??
ライオネル王子ってそういう人?!
こういう事、天然でやらかす人なの?!
青ざめる俺。
すでに捜索が始まっているみたいだし、どうにか説得して副隊長の所に連れて行かないと!
「これでわかったでしょう?!皆、心配しています。これ以上、騒ぎが大きくなる前に副隊長のところに行きましょう。……殿下??」
そう言いながら王子に顔を向けた。
王子は……。
覆い被さった俺の腕の中で真っ赤になっていた。
そして言った。
「これって……壁ドンですね?!」
そういってキラキラの笑顔で俺を見上げた。
ゴーン……。
俺の中で今日何度目ともわからない鐘が鳴る。
いや、違います。
もう本当、勘弁してください。
「殿下、とにかく…。」
「命令です。サーク。これ以上騒ぎが大きくならぬよう、秘密裏に私を王宮まで送って下さい。」
「駄目です。副隊長のところに…。」
「お願いだからっ!!」
それまで穏やかだった口調が、切羽詰まったものになった。
いつもふわふわした感じの王子が強い口調でそう言った後、躊躇い気味に俯きながら懇願する。
「お願い、サーク……。もう、2度とこんな事しないから……。」
ぎゅっと俺の服の裾を掴み、泣きそうな顔で王子は言った。
別に王子の事は嫌いじゃない。
ちょっと苦手だが、色々恩もある。
第一、俺はまかりなりにもこの人の騎士なのだ。
それに、こんな顔をされて「規則なんで」って言えるか?!
「~~~~っ!!」
俺は王子に何か言おうとして、そして諦めて肩を落とした。
あ~クソっ!!
わかった、もういい。
俺はこの人の騎士だよ!
主の命には逆らえないんだよ!
断頭台だろうか何だろうが行ってやろうじゃないか!
「……はっきり言います。俺、それやったら、間違いなく処刑されます。」
「そんな事は私がさせません。」
「あなたも知ってるでしょ?政治ってのがどういうものか。」
「…………。」
「それでもやれって言うならやりますよ。どうせこの命、1度は失って、あなたに拾われたものだ。お返しします。」
「そんなつもりでは……。」
「殿下、ご命令下さい。答えます。」
「……お願い、サーク。私の騎士……。」
「承知しました。」
ここまで来たら、腹を括ろう。
そう思えてしまえば、気が楽になる。
さて。
では手始めに何から始めますかね?
俺は考え始めた。
正直もう、どうして俺の人生にはこういう寿命を縮めるようなサプライズが続くのかと自分を呪った。
「サーク~?どうした?電池切れ??」
ライルさんが心ここに非ずの俺にそう声をかけてきた。
目の前で手をひらひらさせている。
午前中、副隊長にベッタリだったライルさんは、仕事にならないととうとう部屋を追い出されたらしい。
「電池……文献によれば化学反応で発生したエネルギーや光・熱などのエネルギーを電気エネルギーに変換する装置の事ですね?電池は化学電池と物理電池の大きく2つに分けられますが、どちらの事ですか?それともその古代科学技術知識を応用されて作られた魔力電池の事ですか?」
「えっ!?やだ何この子!?怖っ!!」
ライルさんはぎょっとして引いていた。
俺達は王宮からの物品運搬の馬車の荷物を片付けていた。
単純作業なので頭を使わなくていい事がとても助かる。
今、俺の頭の中は混沌を通り越して、宇宙だった。
考えたって無駄だ。
宇宙は人間が感知できる大きさじゃない。
そもそも宇宙というのは、高度100kmから上を差し……。
「……サーク、お前、今日は帰った方がいいよ……。サム…じゃなくて副隊長には俺から言っとくから……。」
宇宙についてぶつぶつと呟いている俺に憐れむような視線を向け、ライルさんは言った。
俺はお言葉に甘えて帰る事になった。
片付けをしている他のメンバーに詫びを言い、俺は荷物を取りに行こうと歩いていた。
「!!」
突然、物陰から手が伸びる。
俺は敏感に反応し、その手を叩き落とし身構えた。
「誰だっ!!」
「……私です。サーク。」
俺の強い反応に戸惑った様な声。
睨み付けた先には、頭からすっぽりフードを被った人物がいた。
その人物はゆっくりと顔を露にする。
流れ出る、黄金の髪。
え?
え?
改めまして、
え?
頭の芯の方から、ゴーンという重い音がした。
今日は思考が宇宙に飛びまくっている。
しかしハッと、固まっていた俺はひざま付いた。
「失礼致しました!我が君主、ライオネル殿下!!」
「サーク!静かに!目立つので立って下さい!」
あわあわと辺りを見渡し、慌てる第三王子。
俺は立つよう強く促され仕方なく立ち上がった。
王子はすぐにフードを被り直した。
え?なんで??
今日、王子が帰ってくるとか連絡あったっけ??
何故かずっと王宮の方にいるライオネル王子。
まぁ、向こうにも王子の部屋があるみたいだし、こっちに帰ってくるのだって、本来はここが王子の住まいなんだから、何か取りに帰ってきてもおかしくはない。
おかしくはないんだけど……??
「え?どういう事です!?いつ、こちらに!?」
「物資の馬車に紛れて来ました。誰も私がここに来たことは知りません。」
ゴーンと再び、頭の中で鐘が鳴った。
え??
馬車に紛れてきた??
ここに来た事は誰も知らない??
ゴーン……。
マジで宇宙が見える……。
いや、もしかしたら走馬灯なのかもしれない……。
え?
待って??
これって、ヤバくね??
とう考えても断頭台に行くルートしか検索できない。
救済ルートが見つからない。
「お待ちください?!何だって……なんだってそんな事を?!」
「だって……。」
「とにかく副隊長に報告してきます!一緒に来てください!」
「待って!サーク!私の話を聞いて?!」
「聞きますが、まずは副隊長に報告が先です!」
「お願いです……サーク……ッ!……すぐ、直ぐに帰りますから、事を大きくしないで下さい!」
泣きそうな顔で懇願してくる王子。
いやいやいやいや!
泣きたいのは俺です!
大きくどころか、既に首が飛ぶくらい、すでに大事ですから!!
「どうしてこんなことを……っ。」
風前の灯火のような自分の運命に嘆く俺。
やっとこの別宮勤務にも馴染んできたと思ったのになぁ……。
断頭を免れても、冷たい牢獄行きが関の山だ。
がっくりと項垂れる俺。
王子は頬を染めて俯き、俺の服の裾を掴んだ。
「……会いたかったんです、サーク……。私の騎士……。」
何、その「来ちゃった」的なの?
乙女オーラ全開の王子とは裏腹に、俺は命の危機を感じる。
何となくわかってましたよ……。
そういう事だろうなぁ的な?
わかってました。
わかってましたけどね?!
本日の天気、晴れ。
気温は18℃、風向き南南西、風速1m。
湿度は20%、ところにより午後、雷雨となるでしょう。
どうしてこうも、立て続けにヤバい事が起こる!?
こうして俺の断頭台までのカウントダウンが、否応なしに始まったのだった。
もう会ったのだから副隊長のところに行こうと言っても、王子は聞かなかった。
多分、ここまで一人で上手く来れてしまったので、気分が高揚しているのだ。
「……もう少し、二人だけでいたら、駄目ですか?」
「駄目です。」
「意地悪ですね、サーク。こんなに苦労して主が会いに来たと言うのに。」
「お願いですから、我が君主。正式な手続きをしてからお越し下さい。」
「それはもう試しました。それで駄目だったので、こうして来たのです。」
「ですが!御身に何かあったらどうするのですか!?」
「……こうしてここに来るのは、とてもスリルがありました。」
「お願いですから、このような危険な真似はしないで下さい!皆、心配していますよ?!きっと!!」
人目につかない物陰で、ひそひと言い合う。
どうにか説得を試みようとしているが、ハイになっている王子には焼け石に水だった。
「……っ?!しっ!!」
そんな中、人の気配がして俺はさっと王子に覆い被さった。
王子を物陰に押し込み、俺の体で覆い隠す。
息を殺して、状況を見守った。
「何か、王宮に殿下がいらっしゃらないらしいぞ?」
「さっきの早馬?」
「そ。こっちでも捜索隊を組んでくれってさ。」
「王宮に閉じ込められてるから羽を伸ばしたくなったんじゃないか?何気に殿下は自由奔放なところがあるし。ここでもたまにあったじゃん。かくれんぼとか言って……。」
「あ~、そう言えば……。でも隊長が人間離れした探索力ですぐ見つけてたから、あんま気にならなかったんだよなぁ~。」
「そうそう。だから今回もそういうのだろ?何かそのうちふらっと出て来ると思うんだよなぁ~。」
「ただ、隊長がついていながら見失ったってのはちょっと心配だけど……。」
「だな。ここの所、多忙で疲れてるのか顔色悪かったもんな、隊長。」
「何かぶっ倒れそうな感じだったし。殿下の事は何でもかんでも一人でやっちゃうから、隊長に頼りすぎてたよな、俺ら。」
「そうだな……。倒れられても困るし、今回は俺らで何とか殿下を探さないとな……。」
ふたりの隊員がそんな事を話ながら通り過ぎた。
さすがは能天気でお気楽ご気楽な第三別宮警護部隊というか、運良く気づかれずに済んだ。
というか、何??
ライオネル王子ってそういう人?!
こういう事、天然でやらかす人なの?!
青ざめる俺。
すでに捜索が始まっているみたいだし、どうにか説得して副隊長の所に連れて行かないと!
「これでわかったでしょう?!皆、心配しています。これ以上、騒ぎが大きくなる前に副隊長のところに行きましょう。……殿下??」
そう言いながら王子に顔を向けた。
王子は……。
覆い被さった俺の腕の中で真っ赤になっていた。
そして言った。
「これって……壁ドンですね?!」
そういってキラキラの笑顔で俺を見上げた。
ゴーン……。
俺の中で今日何度目ともわからない鐘が鳴る。
いや、違います。
もう本当、勘弁してください。
「殿下、とにかく…。」
「命令です。サーク。これ以上騒ぎが大きくならぬよう、秘密裏に私を王宮まで送って下さい。」
「駄目です。副隊長のところに…。」
「お願いだからっ!!」
それまで穏やかだった口調が、切羽詰まったものになった。
いつもふわふわした感じの王子が強い口調でそう言った後、躊躇い気味に俯きながら懇願する。
「お願い、サーク……。もう、2度とこんな事しないから……。」
ぎゅっと俺の服の裾を掴み、泣きそうな顔で王子は言った。
別に王子の事は嫌いじゃない。
ちょっと苦手だが、色々恩もある。
第一、俺はまかりなりにもこの人の騎士なのだ。
それに、こんな顔をされて「規則なんで」って言えるか?!
「~~~~っ!!」
俺は王子に何か言おうとして、そして諦めて肩を落とした。
あ~クソっ!!
わかった、もういい。
俺はこの人の騎士だよ!
主の命には逆らえないんだよ!
断頭台だろうか何だろうが行ってやろうじゃないか!
「……はっきり言います。俺、それやったら、間違いなく処刑されます。」
「そんな事は私がさせません。」
「あなたも知ってるでしょ?政治ってのがどういうものか。」
「…………。」
「それでもやれって言うならやりますよ。どうせこの命、1度は失って、あなたに拾われたものだ。お返しします。」
「そんなつもりでは……。」
「殿下、ご命令下さい。答えます。」
「……お願い、サーク。私の騎士……。」
「承知しました。」
ここまで来たら、腹を括ろう。
そう思えてしまえば、気が楽になる。
さて。
では手始めに何から始めますかね?
俺は考え始めた。
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