理不尽な必然―黄昏時と銀の鈴

mimahi686

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再会

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朝練、休日の練習と授業に塾とあわただしく目がまわりそうな新学期が続いていた。
雨が降って五月の中旬だというのに少し肌寒く感じる朝だった。美緒は母が用意してくれたお守りを忘れたことに気が付いた。
入学式から帰った後、母は困惑していた。そして次の日には銀の鈴のついたお守りを手渡してくれた。
「神様が美緒を守ってくれる。学校に行くときは必ず持っていくのよ」
その日以来、美緒はお守り袋を毎日身に着けていた。健太が亡くなって、母は健太の事ばかり考えていると思っていた。そして美緒のせいで健太が死んだと恨んでいると思っていた。その母が美緒の為にお守りを用意してくれたことがうれしかった。だから、お守りは大切にして言われた通り必ず忘れずに持っていた。

 美緒はごく幼い頃、知らない人がいると言って泣くことがあった。知らない人は髪の長い若い女性だったり、子供だったりと様々だったが、周りの大人には見えなかった。その時も祖母と母は銀の鈴のついたお守りを用意してくれた。美緒はずっとお守りを身に着けていた。そして身に着けるのを忘れた日には決まって怖い人がいると泣きだしていた。
弟が生まれて忙しく弟の世話をしていた母はお守りを身に着けさせることを忘れることが多くなった。美緒は知らない人が現れた時、まず健太を心配した。そして、守ろうとして健太をぎゅっと抱きしめた。すると知らない人はスーッと消えていった。健太の存在がそうさせたのか分からなかったが、そんなことが何度かあった後、知らない人は来なくなった。美緒が泣くことはなくなっていつの間にかお守りは片隅に置かれるようになっていった。母が用意してくれたお守りにつけている鈴は幼い頃と同じ銀の鈴のようだった。
 
 入学から一か月ほどすると、美緒とユリは部活と授業にも慣れてきた。放課後、部活を終えて日が沈み始めた時だった。
「ユリは随分うまくなったね。私は相変わらずかな」
「やっと、ラケットを握らせてもらえるようになったね。基礎練習がこんなに大変なんて 思わなかったな」
「そうね、選手として活躍するのは無理でも体力がついた気がする。初めの頃はつらかったけどテニス部に入って正解」
「美緒には気になる人がいるんじゃない」
「そんなことないよ」
「冗談だよ。そうやってすぐ本気にする美緒ってかわいい」
「からかったの」
 ユリはそういってふくれる美緒をまるで妹を見るような目で見つめた。そして、急に何かを思い出したようで、あわてて言った。
「あ、今日、妹と約束してたんだ。ちょっと遅れそうだから連絡してくるね。すぐ戻るから」
「うん、後は私が片づけておくよ」
「ほんと、じゃあ、お願いね」
 ユリは部室の方に走って行った。
 美緒は誰もいない校庭に一人残された。片づけと言ってももうほとんど終わっている。
 沈みかかった夕日があたりを茜色に染めている。
――きれい。こんなきれいな光景になることがあるんだ。
 毎日見慣れた校庭は赤く染まって別世界のようだった。その時、突然後ろから声がした。
「とうとう見つけた。君僕が見えてるでしょう」
 入学式の日にみた少年が美緒の前に立っていた。少年はやはり岩井先輩によく似ていた。
――ああ、やはり岩井先輩の亡くなったお兄さんだ。何故だかわからないが、亡くなっているはずの人を目の前にしても小さい頃のように怖くなかった。少年が岩井先輩と重なってすでに知人のような気がしている。
「あの、テニス部の岩井先輩のお兄さんですか」
 美緒は我ながら唐突な質問だと呆れた。
「あれ、弟を知っているの。僕は信一、弟の名前は知っているね」
「いいえ」
「弟は浩二」
 美緒は岩井先輩は浩二ということを初めて知った。信一のことが気になっているせいだろうか、岩井先輩は時折どこか寂しげに見えた。信一は入学式の日に美緒を見つけたが、その日以来見なかったことを不思議に思っているらしい。
「君、僕が怖くないの」
 美緒は小さくうなづいた。
「以前にも一度僕が見える子がいた。僕を見ると怯えたような顔を逃げ出した。何度か話しかけたけど、いつも真っ青な顔をしてあわてて立ち去って行った。しばらくして転校したことが分かった」
「そうですよね」美緒は思わずクスリと笑った。
「あれ、笑ってくれた」
 こうして信一と美緒は言葉を交わすようになった。
「美緒、帰るよ」
 遠くにユリが呼ぶ声がした。
「あ、友だちが呼んでるから、今日は帰ります。明日の黄昏時ここに来ます」
「じゃあ、また明日」
信一の顔は輝いていた。
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