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7話
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冬の終わりの午後、執務室には、凛とした冷たい空気が張りつめていた。
ジョアンナは侯爵の前に立ち、静けさのなかに毅然とした光を宿していた。
「旦那様。どうか、クリスティアナ様への処分をお決めくださいませ」
言葉は穏やかだが、揺るがない芯があった。
十年もの間、この家を支え続けてきた者の声だった。
侯爵は視線を逸らし、苦しげに眉を寄せる。
「ジョアンナ……彼女はルカを産んだ女だ。処分などすれば世の目も厳しい。それに私は彼女の愛にどれだけ救われたことか……」
ジョアンナは呆れた顔をしながらも毅然とした態度で返した。
「十年前、ルカを置き去りにしたことは、世間の目より重い事実でございます」
感情を抑えた声。
それは侯爵家の妻として、揺るぎのない言葉だった。
その背後で、黙って聞いていたルカが、一歩前へ出た。
「父上、それがこの十年間侯爵領を守り続けた妻に対する言葉なのですか? 僕はその苦労をずっと間近で見て来ました。その間、貴方はただあの女に溺れていただけではありませんか」
低い、よく通る声。少年ではなく、立派に成長した男の声だった。
「そ、そんなことはない。私は戦地でやるべきことはきちんとこなしていた。そ、それに手紙は定期的に送っていた」
「手紙ですか? 愛のかけらも感じられぬ、事務的な手紙のことでしょうか? それに何故、時折王都へ報告に来ていたはずなのにこの屋敷に顔さえ出さなかったのです? 自分の本来の妻を蔑ろにするのも大概にしてください」
そして侯爵をじっと睨み続けた。
「僕は、今更クリスティアナに庇護される必要などありません。十年前に捨てられた身です。今更、あの女に息子として扱われたいとも思っておりません」
その言葉に、ジョアンナが目を見開いた。
彼女の胸に、何か熱いものが差し込む。
侯爵は、息子の確固たる態度に押され、沈黙した。
「……おまえたちの言い分は分かった。軽率には決められぬが、クリスティアナの処遇については必ず結論を出す」
「ありがとうございます、旦那様」
ジョアンナが深く礼をする。
その横で、ルカは自信を宿した瞳で父を見つめていた。
ーーーー
執務室を出て廊下を歩きながら、二人の間には静かな余韻が流れていた。
ふいに、ジョアンナの手帳がするりと落ちた。
「あっ……」
落ちるより早く、ルカがその手に収めた。
彼女の指先に触れた瞬間、二人ともわずかに固まった。
「……失礼しました。ジョアンナ」
「い、いいえ……ありがとう、ルカ」
触れた手を離したあとも、指先に熱が残っていた。
ジョアンナは顔を背ける。
ルカはその横顔を、言葉もなく見つめていた。
彼女はその視線に気づかぬ振りをした。
(十年……こんなに頼もしく成長していたのね)
胸の奥が、ひどく揺れた。
(彼はわたくしを奥様でもなく、母でもない、名前で呼んだ。ジョアンナと)
胸の中が熱くなり、顔が火照るのを感じた。
ーーーー
夕刻、ルカがジョアンナのもとを訪れた。
「母上……いや」
ルカは一度言葉を切り、まっすぐな瞳で彼女を見た。
「ジョアンナ。僕は、貴女が誇れる侯爵となりたい。そして……貴女を守れる男になりたい」
その告白めいた言葉に、ジョアンナの息が止まる。
「ルカ……」
「貴女が、誰よりも強く、そして誰よりも気高い女性だと、知っています。僕は……そんな貴女の隣に立てる人間になりたいのです」
曖昧な言い回しは一切ない。
男としての意志だった。
ジョアンナの胸は、静かに、しかし確かに震えた。
「……きっと、なれますわ。貴方なら」
その言葉は、母としてではなく、
一人の女性として返したものだった。
ルカは深く一礼し、振り返らずに歩き去る。
閉じた扉を見つめながら、ジョアンナはそっと胸に手をあてた。
(わたくしはもう……彼を子としては見られないのかもしれない)
その気づきが、彼女の頬に熱を灯した。
ーーーー
こうして……
ジョアンナとルカの、静かで確かな新しい関係が動き出した。
いつかルカが侯爵位を継ぎ、
彼女を正式な妻として迎える未来へと。
ーーーー
朝の光がまだ柔らかい頃、ジョアンナは静かに侯爵家の執務室の扉を叩いた。
昨夜から続く不穏な空気を断ち切るように、彼女は毅然とした表情で言った。
「旦那様。クリスティアナ様への処分はお決まりですか」
侯爵は驚いたように瞬きをした。
「……ジョアンナ。あの女性は、私の……せめて、行く場所くらいは……」
「その甘さが、今の混乱を招いたのですわ」
彼女はまっすぐ彼を見た。
白い結婚だからこそ彼女は遠慮なく言える。
「貴方がクリスティアナ様を保護すること自体を否定はいたしません。でも、侯爵家の正妻の座を狙わせるのは許せませんわ。わたくしを傷つけたという問題ではありません。この侯爵家を、貴方を、そして……ルカまで巻き込んだのですもの」
ルカの名を出すと、侯爵の眉がわずかに沈んだ。
同時に、部屋の外にいたルカは拳を握りしめた。
彼女が自分の心配をしてくれている、それだけで胸が熱くなる。
侯爵はしばらく沈黙していたが、やがて疲れた声で言った。
「……分かった。彼女を侯爵家からは遠ざける。だが、完全には見捨てられない。私にはその責任がある」
ジョアンナは小さく息をついた。
望む最大値ではなかったが、最悪ではない。彼女は丁寧に頭を下げた。
「ご決断、感謝いたしますわ。わたくしは、貴方を恨んではおりません。元より白い結婚なのですもの。ただ……ルカだけは巻き込まないでください」
その言葉に、扉の外のルカの心臓が跳ねた。
(ジョアンナ……やはり、貴女は……)
ーーーー
その日の夕暮れ。
侯爵はクリスティアナを呼び出し、静かに告げた。
「……この家を出て、領地の外れで暮らすことにする。おまえと二人でだ。侯爵位は……いずれ、ルカに継がせるつもりだ」
「え……? わたくしは、旦那様の妻に……」
クリスティアナの表情は、一瞬にして強張った。
彼女は侯爵夫人の座を夢見てここに来たのだ。
侯爵と共に隠れるように生きる未来を望んだことなど、一度もない。
「……どうして、あの女を追い出さないのです! わたくしのほうが、よほど侯爵夫人に相応しいのに。それにあの子はわたくしの産んだ子供です! 何のためにわざわざあんな何もない国境沿いに行ったのか……」
高ぶる声に、侯爵はようやく悟った。
彼女は、私という男を愛したのではない。
侯爵夫人という立場を、愛していたのだ。
肩がわずかに落ちる。
「……そうか。私は、罰を受けているのだな。自分が蒔いた種だから、背負おう」
「旦那様……!」
「おまえにはもう帰る場所がないのだろう。ついてくるなら、勝手にしろ。ただし……もう以前のような関係には戻れない」
その声に愛情はなかった。
クリスティアナは唇を噛みながらも、他に行く場所もない、従うしかなかった。
彼女はその場に膝をついた。
ーーーー
庭を歩いていたルカのもとへ、ジョアンナが現れた。
彼女は夕焼けを背に、どこか疲れたように微笑んだ。
「終わりましたわ。旦那様は……クリスティアナ様と領地の外れに移られるそうです」
「……ジョアンナ。それで、貴女は?」
「わたくしは自由になります。白い結婚ですもの。いずれ正式に解放されるでしょう」
淡々としているのに、どこか寂しげで。
ルカは抑えきれずに、その手を取った。
「……僕は、貴女を幸せにしたいだけです。僕自身の手で」
ジョアンナは驚いたように目を見開いた。
その頬が、ゆっくりと赤く染まっていく。
「ルカ……」
その声音は、かすかに震えていた。
彼女の中で、何かが変わり始めた瞬間だった。
やがてルカが侯爵位を継ぐ未来は、静かに、それでも確実に音をたてて近づいていた。
ジョアンナは侯爵の前に立ち、静けさのなかに毅然とした光を宿していた。
「旦那様。どうか、クリスティアナ様への処分をお決めくださいませ」
言葉は穏やかだが、揺るがない芯があった。
十年もの間、この家を支え続けてきた者の声だった。
侯爵は視線を逸らし、苦しげに眉を寄せる。
「ジョアンナ……彼女はルカを産んだ女だ。処分などすれば世の目も厳しい。それに私は彼女の愛にどれだけ救われたことか……」
ジョアンナは呆れた顔をしながらも毅然とした態度で返した。
「十年前、ルカを置き去りにしたことは、世間の目より重い事実でございます」
感情を抑えた声。
それは侯爵家の妻として、揺るぎのない言葉だった。
その背後で、黙って聞いていたルカが、一歩前へ出た。
「父上、それがこの十年間侯爵領を守り続けた妻に対する言葉なのですか? 僕はその苦労をずっと間近で見て来ました。その間、貴方はただあの女に溺れていただけではありませんか」
低い、よく通る声。少年ではなく、立派に成長した男の声だった。
「そ、そんなことはない。私は戦地でやるべきことはきちんとこなしていた。そ、それに手紙は定期的に送っていた」
「手紙ですか? 愛のかけらも感じられぬ、事務的な手紙のことでしょうか? それに何故、時折王都へ報告に来ていたはずなのにこの屋敷に顔さえ出さなかったのです? 自分の本来の妻を蔑ろにするのも大概にしてください」
そして侯爵をじっと睨み続けた。
「僕は、今更クリスティアナに庇護される必要などありません。十年前に捨てられた身です。今更、あの女に息子として扱われたいとも思っておりません」
その言葉に、ジョアンナが目を見開いた。
彼女の胸に、何か熱いものが差し込む。
侯爵は、息子の確固たる態度に押され、沈黙した。
「……おまえたちの言い分は分かった。軽率には決められぬが、クリスティアナの処遇については必ず結論を出す」
「ありがとうございます、旦那様」
ジョアンナが深く礼をする。
その横で、ルカは自信を宿した瞳で父を見つめていた。
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執務室を出て廊下を歩きながら、二人の間には静かな余韻が流れていた。
ふいに、ジョアンナの手帳がするりと落ちた。
「あっ……」
落ちるより早く、ルカがその手に収めた。
彼女の指先に触れた瞬間、二人ともわずかに固まった。
「……失礼しました。ジョアンナ」
「い、いいえ……ありがとう、ルカ」
触れた手を離したあとも、指先に熱が残っていた。
ジョアンナは顔を背ける。
ルカはその横顔を、言葉もなく見つめていた。
彼女はその視線に気づかぬ振りをした。
(十年……こんなに頼もしく成長していたのね)
胸の奥が、ひどく揺れた。
(彼はわたくしを奥様でもなく、母でもない、名前で呼んだ。ジョアンナと)
胸の中が熱くなり、顔が火照るのを感じた。
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夕刻、ルカがジョアンナのもとを訪れた。
「母上……いや」
ルカは一度言葉を切り、まっすぐな瞳で彼女を見た。
「ジョアンナ。僕は、貴女が誇れる侯爵となりたい。そして……貴女を守れる男になりたい」
その告白めいた言葉に、ジョアンナの息が止まる。
「ルカ……」
「貴女が、誰よりも強く、そして誰よりも気高い女性だと、知っています。僕は……そんな貴女の隣に立てる人間になりたいのです」
曖昧な言い回しは一切ない。
男としての意志だった。
ジョアンナの胸は、静かに、しかし確かに震えた。
「……きっと、なれますわ。貴方なら」
その言葉は、母としてではなく、
一人の女性として返したものだった。
ルカは深く一礼し、振り返らずに歩き去る。
閉じた扉を見つめながら、ジョアンナはそっと胸に手をあてた。
(わたくしはもう……彼を子としては見られないのかもしれない)
その気づきが、彼女の頬に熱を灯した。
ーーーー
こうして……
ジョアンナとルカの、静かで確かな新しい関係が動き出した。
いつかルカが侯爵位を継ぎ、
彼女を正式な妻として迎える未来へと。
ーーーー
朝の光がまだ柔らかい頃、ジョアンナは静かに侯爵家の執務室の扉を叩いた。
昨夜から続く不穏な空気を断ち切るように、彼女は毅然とした表情で言った。
「旦那様。クリスティアナ様への処分はお決まりですか」
侯爵は驚いたように瞬きをした。
「……ジョアンナ。あの女性は、私の……せめて、行く場所くらいは……」
「その甘さが、今の混乱を招いたのですわ」
彼女はまっすぐ彼を見た。
白い結婚だからこそ彼女は遠慮なく言える。
「貴方がクリスティアナ様を保護すること自体を否定はいたしません。でも、侯爵家の正妻の座を狙わせるのは許せませんわ。わたくしを傷つけたという問題ではありません。この侯爵家を、貴方を、そして……ルカまで巻き込んだのですもの」
ルカの名を出すと、侯爵の眉がわずかに沈んだ。
同時に、部屋の外にいたルカは拳を握りしめた。
彼女が自分の心配をしてくれている、それだけで胸が熱くなる。
侯爵はしばらく沈黙していたが、やがて疲れた声で言った。
「……分かった。彼女を侯爵家からは遠ざける。だが、完全には見捨てられない。私にはその責任がある」
ジョアンナは小さく息をついた。
望む最大値ではなかったが、最悪ではない。彼女は丁寧に頭を下げた。
「ご決断、感謝いたしますわ。わたくしは、貴方を恨んではおりません。元より白い結婚なのですもの。ただ……ルカだけは巻き込まないでください」
その言葉に、扉の外のルカの心臓が跳ねた。
(ジョアンナ……やはり、貴女は……)
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その日の夕暮れ。
侯爵はクリスティアナを呼び出し、静かに告げた。
「……この家を出て、領地の外れで暮らすことにする。おまえと二人でだ。侯爵位は……いずれ、ルカに継がせるつもりだ」
「え……? わたくしは、旦那様の妻に……」
クリスティアナの表情は、一瞬にして強張った。
彼女は侯爵夫人の座を夢見てここに来たのだ。
侯爵と共に隠れるように生きる未来を望んだことなど、一度もない。
「……どうして、あの女を追い出さないのです! わたくしのほうが、よほど侯爵夫人に相応しいのに。それにあの子はわたくしの産んだ子供です! 何のためにわざわざあんな何もない国境沿いに行ったのか……」
高ぶる声に、侯爵はようやく悟った。
彼女は、私という男を愛したのではない。
侯爵夫人という立場を、愛していたのだ。
肩がわずかに落ちる。
「……そうか。私は、罰を受けているのだな。自分が蒔いた種だから、背負おう」
「旦那様……!」
「おまえにはもう帰る場所がないのだろう。ついてくるなら、勝手にしろ。ただし……もう以前のような関係には戻れない」
その声に愛情はなかった。
クリスティアナは唇を噛みながらも、他に行く場所もない、従うしかなかった。
彼女はその場に膝をついた。
ーーーー
庭を歩いていたルカのもとへ、ジョアンナが現れた。
彼女は夕焼けを背に、どこか疲れたように微笑んだ。
「終わりましたわ。旦那様は……クリスティアナ様と領地の外れに移られるそうです」
「……ジョアンナ。それで、貴女は?」
「わたくしは自由になります。白い結婚ですもの。いずれ正式に解放されるでしょう」
淡々としているのに、どこか寂しげで。
ルカは抑えきれずに、その手を取った。
「……僕は、貴女を幸せにしたいだけです。僕自身の手で」
ジョアンナは驚いたように目を見開いた。
その頬が、ゆっくりと赤く染まっていく。
「ルカ……」
その声音は、かすかに震えていた。
彼女の中で、何かが変わり始めた瞬間だった。
やがてルカが侯爵位を継ぐ未来は、静かに、それでも確実に音をたてて近づいていた。
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