8 / 42
8話
しおりを挟む
次の日、わたくしはまずお父様の執務室を訪れ、遠慮なく切り出した。
「お父様、伯父様が言っていた陛下からの縁談というのは、はっきり申しまして嘘ですわね。昨日アンを連れてエドガー卿のお屋敷に伺って、すべて確認いたしましたの」
「まあミリアン、落ち着きなさい。あれは嘘というより、陛下と兄上の願いと言うべきだな」
「え、陛下と伯父様の?」
お父様はふっと遠くを見るような、どこか困った表情をされた。
「兄上と陛下は昔から仲が良くてな。陛下がこうしてくれぬか、と言えば、兄上は断れない。
そして兄上が勧めてくれば、弟である私もそう簡単には反対できんのだ」
「まあ、伯父様ったら」
わたくしが呆れたように言うと、お父様は肩をすくめた。
「陛下はな、先の北方戦線で大きな功績を挙げたエドガー卿に爵位と領地そして屋敷を与えられた。だが彼は元は平民、領地経営などすぐに出来るはずもない。だから優秀な家令を付けたが、それだけでは心許ないとお感じになったらしい」
そして続けられる。
「貴族としての立ち居振る舞いも、学ばせたといっても完璧ではない。ゆえに、そばで導いてくれる妻がいてくれれば安心だと陛下はお考えになった。そこへ彼が慕っている女性がいるので一度でいいから会わせて欲しいと、陛下に願い出た。聞けば、自分が心を許している公爵の姪ではないか、これは丁度良いと陛下が兄上に話してな。二人で先走ってしまわれたようだ」
わたくしは思わずため息をついた。
『つまり……話を盛ったのは陛下と伯父様だったのね』
わたくしはやっと理解した。
「お父様、これでようやく、伯父様があの日あれほど鼻高々だった理由がわかったわ。
ようは陛下もぐるだったのね」
父は驚いた顔をした。
「ミリアン、いくらなんでもそれは陛下に対して不敬だぞ」
「ごめんなさい。つい言い過ぎましたわ」
そんなわたくしにお父様は優しい眼差しを向けられた。
「ミリアン。……彼の支えになってやれないか?」
その問いかけに、今日はなぜか素直な気持ちが胸に広がった。
「……確かに、今の彼には支えが必要ですわね」
少し考え、わたくしはすっと背筋を伸ばした。
「でしたらお父様。このお話、いっそ王命としてわたくしにお与え下さいませ。そうであれば、わたくし全身全霊で彼を支えてみせますわ」
父は少し呆れたお顔をなさった。
「全く、お前と言う奴は。少し本音を見せたと思ったら相変わらず、素直じゃないな」
お父様は声を上げて笑われた。
「だって……そちらのほうが、わたくしらしさを発揮できますのよ」
わたくしは赤く火照る頬を隠すように後ろを向いた。
「ではお父様、あとのことは伯父様と相談なさってこのお話、進めて下さい」
わたくしは執務室を後にした。
私室に戻り、部屋を整えているアンにわたくしは先ほどのお父様とのやり取りを全て話し、これからはアンにも一緒に協力して欲しいとお願いをした。
すると、アンはお父様と同じように呆れた顔をした。
「全く、相変わらずお嬢様はツンデレなんですから。これではエドガー卿がお気の毒ですね」
「だって、仕方ないじゃない。これがわたくしなんだから」
「あら、そこで開き直りますか」
「開き直っているわけではないの、ただ……」
「はい。お嬢様のお気持ちはよく分かりました」
アンは呆れながらもいつもの優しい笑顔を向けてくれた。
「お父様、伯父様が言っていた陛下からの縁談というのは、はっきり申しまして嘘ですわね。昨日アンを連れてエドガー卿のお屋敷に伺って、すべて確認いたしましたの」
「まあミリアン、落ち着きなさい。あれは嘘というより、陛下と兄上の願いと言うべきだな」
「え、陛下と伯父様の?」
お父様はふっと遠くを見るような、どこか困った表情をされた。
「兄上と陛下は昔から仲が良くてな。陛下がこうしてくれぬか、と言えば、兄上は断れない。
そして兄上が勧めてくれば、弟である私もそう簡単には反対できんのだ」
「まあ、伯父様ったら」
わたくしが呆れたように言うと、お父様は肩をすくめた。
「陛下はな、先の北方戦線で大きな功績を挙げたエドガー卿に爵位と領地そして屋敷を与えられた。だが彼は元は平民、領地経営などすぐに出来るはずもない。だから優秀な家令を付けたが、それだけでは心許ないとお感じになったらしい」
そして続けられる。
「貴族としての立ち居振る舞いも、学ばせたといっても完璧ではない。ゆえに、そばで導いてくれる妻がいてくれれば安心だと陛下はお考えになった。そこへ彼が慕っている女性がいるので一度でいいから会わせて欲しいと、陛下に願い出た。聞けば、自分が心を許している公爵の姪ではないか、これは丁度良いと陛下が兄上に話してな。二人で先走ってしまわれたようだ」
わたくしは思わずため息をついた。
『つまり……話を盛ったのは陛下と伯父様だったのね』
わたくしはやっと理解した。
「お父様、これでようやく、伯父様があの日あれほど鼻高々だった理由がわかったわ。
ようは陛下もぐるだったのね」
父は驚いた顔をした。
「ミリアン、いくらなんでもそれは陛下に対して不敬だぞ」
「ごめんなさい。つい言い過ぎましたわ」
そんなわたくしにお父様は優しい眼差しを向けられた。
「ミリアン。……彼の支えになってやれないか?」
その問いかけに、今日はなぜか素直な気持ちが胸に広がった。
「……確かに、今の彼には支えが必要ですわね」
少し考え、わたくしはすっと背筋を伸ばした。
「でしたらお父様。このお話、いっそ王命としてわたくしにお与え下さいませ。そうであれば、わたくし全身全霊で彼を支えてみせますわ」
父は少し呆れたお顔をなさった。
「全く、お前と言う奴は。少し本音を見せたと思ったら相変わらず、素直じゃないな」
お父様は声を上げて笑われた。
「だって……そちらのほうが、わたくしらしさを発揮できますのよ」
わたくしは赤く火照る頬を隠すように後ろを向いた。
「ではお父様、あとのことは伯父様と相談なさってこのお話、進めて下さい」
わたくしは執務室を後にした。
私室に戻り、部屋を整えているアンにわたくしは先ほどのお父様とのやり取りを全て話し、これからはアンにも一緒に協力して欲しいとお願いをした。
すると、アンはお父様と同じように呆れた顔をした。
「全く、相変わらずお嬢様はツンデレなんですから。これではエドガー卿がお気の毒ですね」
「だって、仕方ないじゃない。これがわたくしなんだから」
「あら、そこで開き直りますか」
「開き直っているわけではないの、ただ……」
「はい。お嬢様のお気持ちはよく分かりました」
アンは呆れながらもいつもの優しい笑顔を向けてくれた。
41
あなたにおすすめの小説
隣国のモフモフ騎士団長様、番ではない私でよろしいのですか?
こころ ゆい
恋愛
ジャスミン・リーフェント。二十歳。
歴史あるリーフェント公爵家の一人娘だが、
分厚い眼鏡に地味な装い、常に本を読んでいる変わり者。皆が自分のことをそう言っているのは知っていた。
モーリャント王国の王太子殿下、コーネル・モーリャントとの婚約が王命で決まってから十三年。王妃教育を終えても婚姻は進まず、宙ぶらりん状態。
そんな中、出席した舞踏会でいつも通り他の女性をエスコートする王太子殿下。
それだけならまだ良かったが、あろうことか王太子の連れた女性が事件を巻き起こす。その最中で言い渡された婚約破棄。
「....婚約破棄、お受けいたします」
そのあと、ジャスミンは一人旅に出てある人物と出会った。
これは、婚約破棄された女性が獣人国で知らぬうちに番と出会い、運命に翻弄されていく物語。
行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました
鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。
けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。
そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。
シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。
困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。
夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。
そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。
※他投稿サイトにも掲載中
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
25番目の花嫁 ~妹の身代わりで嫁いだら、冷徹公爵が私を溺愛し始めました~
朝日みらい
恋愛
王都の春。
貴族令嬢リリアーナ・エインズワースは、第一王子ライオネル殿下との婚約を一方的に破棄された。
涙を見せないことが、彼女に残された唯一の誇りだった。だが運命は、彼女を思いがけない方向へ導く。
「氷の公爵」と呼ばれる孤高の男、ヴァレンティーヌ公爵。
二十四人の花嫁候補を断り続けた彼の元へ、「二十五番目の花嫁」として赴いたリリアーナ。
家の体裁のための結婚――そう割り切っていたはずなのに、氷のような瞳の奥に垣間見えた孤独が、彼女の心に小さな炎を灯してゆく。
姉の陰謀で追放されました
たくわん
恋愛
魔力なしと断じられ、姉の陰謀で侯爵家を追放されたリディア。辿り着いた辺境の村で絶望の淵に立った時、彼女の中に眠っていた「聖癒の魔法」が目覚める。
傷ついた村人を救ったリディアは、冷酷無慈悲と恐れられる辺境伯ルカの目に留まり、専属治癒師として城に迎えられる。凍てついた心を持つ辺境伯との出会いが、リディアの運命を大きく変えていく――。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?
Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。
簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。
一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。
ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。
そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。
オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。
オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。
「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」
「はい?」
ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。
*--*--*
覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾
★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。
★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓
このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。
第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」
第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」
第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」
どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ
もしよかったら宜しくお願いしますね!
【完結】婚約解消を言い渡された天使は、売れ残り辺境伯を落としたい
ユユ
恋愛
ミルクティー色の柔らかな髪
琥珀の大きな瞳
少し小柄ながらスタイル抜群。
微笑むだけで令息が頬を染め
見つめるだけで殿方が手を差し伸べる
パーティーではダンスのお誘いで列を成す。
学園では令嬢から距離を置かれ
茶会では夫人や令嬢から嫌味を言われ
パーティーでは背後に気を付ける。
そんな日々は私には憂鬱だった。
だけど建国記念パーティーで
運命の出会いを果たす。
* 作り話です
* 完結しています
* 暇つぶしにどうぞ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる