MAITO〜氷上で輝く彼の数奇な運命〜オリンピック2連覇後も選手を続ける理由

むつらら

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ep1

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「佐藤選手の得点、290.58。最終順位は――1位です!」

 アナウンスが響いた瞬間、会場は大きな波のように揺れた。観客が一斉に立ち上がり、歓声と拍手が渦を巻く。実況席のアナウンサーたちも身を乗り出し、大声を張り上げていた。

 隣にいた鬼塚コーチは、僕が壊れてしまうのではと思うほど強く抱きしめてくる。
「ま、まいと!」
「せ、せんせい……」
 彼女は泣きながら、首にかけていたブランド物のストールで目元を拭った。こんなふうに褒められ、抱きしめられるのは、いつ以来だろう。思い出せないほど遠い昔のように感じる。

 やがて「キス・アンド・クライ」を後にし、僕はインタビューエリアへと向かった。控室へ続く廊下を歩く途中、これまで競い合ってきた選手たちが次々に声をかけてくれる。

「君はクレイジーだ!」
「もう一生勝てないよ!」
「マ・イ・ト! マ・イ・ト!」

 海外の選手たちは奇声にも近い声量で叫び、僕に花束やタスキ、わけのわからない被り物までかぶせてくる。

「ハハハ!」
「マイト、最高だよ!」

 スマホを向けられ、僕は即興で変なポーズを取った。その様子を見て、さらに人が集まってくる。
「写真、お願いします!」
「ずっと憧れていました!」
「僕もオリンピックチャンピオンになります!」

 求められるまま、僕は全員と写真を撮った。その中から次のチャンピオンが生まれることを、心から願った。
「君が次の王者になることを期待しているよ」

 これ以上の幸福はないと思った。こんなにも多くの人々に祝福され、もう引退しても悔いはない。そう思えるほどの歓喜に包まれていた。

 ――だが、心の奥底では、なぜかざわつきが収まらなかった。
 表面では確かに喜んでいた。だが深いところで、何かが欠けている気がしてならなかったのだ。

 やがてインタビューエリアに着くと、記者たちが口々に祝福の言葉を投げかけてくれた。
「佐藤選手、オリンピック二連覇おめでとうございます!」

 その声でようやく実感が押し寄せた。長年の夢――オリンピック二連覇を、本当に成し遂げたのだ。記者によれば、フィギュアで二連覇は実に66年ぶりの快挙らしい。

 けれど、正直なところ僕にとっては、その数字などどうでもよかった。

 熱気に満ちる記者席の中で、一人の記者が静かに問いを投げかけてきた。
「佐藤選手、今後の進退についてお聞かせ願えますか?」

 僕は迷いなく答えた。
「そうですね。今のところ、オリンピック後も現役を続けようと思います。滑れる限り、全力を尽くしたいと思っています」

 ざわめく記者席。その記者はさらに冷静に続けた。
「その言葉を全国民が待っていました。私も嬉しいです。――最後に、今後の目標をお聞かせいただけますか?」

 その一言に、僕は言葉を失った。

 オリンピック二連覇という夢を果たしても、僕の最大の目標はまだ叶っていない。
 競技を続ける意味はあるのか。
 追い求めているものは、本当に手に入るのか。

 答えのない問いが、心の奥で鳴り響いていた。
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