2 / 5
ep2
しおりを挟む
「先輩、僕……聞いてはいけないことを聞いてしまったでしょうか?」
インタビューを終えた記者席で、入社1年目の如月は焦った表情で先輩記者・後藤に駆け寄った。
「なんでそう思う?初めてにしては上出来だったと思うぞ」
パソコンを打ちながら、後藤は淡々と答える。
甲子園出場経験のある体育会系で、失敗をお世辞でごまかすような人間ではない。だから今日の如月の取材は、確かに良かったのだろう。
だが如月は納得できなかった。
質問のあと、佐藤選手が一瞬考え込んだように見えたのだ。記者として選手の心を無視したのではないか。自分は失格ではないのか——。
落ち込む如月の隣に腰を下ろし、後藤はぽつりと言った。
「お前も立派な記者になったな」
「僕は失敗しました。記者失格です」
「そう思うなら、舞斗の歴史をもっと勉強すればいい」
その言葉に背中を押され、如月は身を乗り出す。
「先輩!佐藤選手について教えてください!」
後藤は嬉しそうに笑い、語り始めた。
——佐藤舞斗は岡山出身。8歳で東京の鬼塚スケートクラブに移籍した。
3歳でスケートを始め、すでにシングルアクセルを跳んでいたという天才児だった。5歳で全ての三回転ジャンプを習得。だがその年、両親が離婚し、母子家庭となった。
フィギュアスケートは金がかかる競技だ。母は生活のために朝から深夜まで働き詰めだったが、ある日倒れてしまう。働けなくなった母に代わり、舞斗は「おじさん」と呼ばれる人物と共に東京へ行くことになる。
「お母さんと一緒がいい!」と泣き叫ぶ彼に、母は言った。
『あなたは必ず金メダルを獲る人。東京へ行けば、もっと良い環境でスケートができる。大丈夫、必ず迎えに行くから』
母を信じ、舞斗はその男性に連れられて上京した。
如月は首を傾げる。
「そのおじさんって誰なんですか?」
後藤がパンフレットを指さす。
そこには「スケート連盟会長」と記されていた。
会長は舞斗を自宅に住まわせ、衣食住も、クラブのレッスン費も全て負担したという。なぜ彼だけが特別扱いを受けたのかは、誰にも分からない。
「舞斗はずっと母親を探している。だから世界大会での優勝にこだわっているんだ」
父親のような眼差しを浮かべる後藤に、如月は静かに答えた。
「僕も、佐藤選手が母親と再会できることを願っています」
こうして二人は、佐藤舞斗の母を探す決意を固めた。
インタビューを終えた記者席で、入社1年目の如月は焦った表情で先輩記者・後藤に駆け寄った。
「なんでそう思う?初めてにしては上出来だったと思うぞ」
パソコンを打ちながら、後藤は淡々と答える。
甲子園出場経験のある体育会系で、失敗をお世辞でごまかすような人間ではない。だから今日の如月の取材は、確かに良かったのだろう。
だが如月は納得できなかった。
質問のあと、佐藤選手が一瞬考え込んだように見えたのだ。記者として選手の心を無視したのではないか。自分は失格ではないのか——。
落ち込む如月の隣に腰を下ろし、後藤はぽつりと言った。
「お前も立派な記者になったな」
「僕は失敗しました。記者失格です」
「そう思うなら、舞斗の歴史をもっと勉強すればいい」
その言葉に背中を押され、如月は身を乗り出す。
「先輩!佐藤選手について教えてください!」
後藤は嬉しそうに笑い、語り始めた。
——佐藤舞斗は岡山出身。8歳で東京の鬼塚スケートクラブに移籍した。
3歳でスケートを始め、すでにシングルアクセルを跳んでいたという天才児だった。5歳で全ての三回転ジャンプを習得。だがその年、両親が離婚し、母子家庭となった。
フィギュアスケートは金がかかる競技だ。母は生活のために朝から深夜まで働き詰めだったが、ある日倒れてしまう。働けなくなった母に代わり、舞斗は「おじさん」と呼ばれる人物と共に東京へ行くことになる。
「お母さんと一緒がいい!」と泣き叫ぶ彼に、母は言った。
『あなたは必ず金メダルを獲る人。東京へ行けば、もっと良い環境でスケートができる。大丈夫、必ず迎えに行くから』
母を信じ、舞斗はその男性に連れられて上京した。
如月は首を傾げる。
「そのおじさんって誰なんですか?」
後藤がパンフレットを指さす。
そこには「スケート連盟会長」と記されていた。
会長は舞斗を自宅に住まわせ、衣食住も、クラブのレッスン費も全て負担したという。なぜ彼だけが特別扱いを受けたのかは、誰にも分からない。
「舞斗はずっと母親を探している。だから世界大会での優勝にこだわっているんだ」
父親のような眼差しを浮かべる後藤に、如月は静かに答えた。
「僕も、佐藤選手が母親と再会できることを願っています」
こうして二人は、佐藤舞斗の母を探す決意を固めた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
黒に染まった華を摘む
馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。
高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。
「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」
そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。
彼女の名は、立石麻美。
昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。
この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。
その日の放課後。
明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。
塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。
そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。
すべてに触れたとき、
明希は何を守り、何を選ぶのか。
光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる