3 / 5
ep3
しおりを挟む
僕はインタビューを終え、控室へと戻った。そこには、会長が待っていた。
彼は、岡山から東京へと僕を連れてきてくれた人だ。
彼のおかげで今もフィギュアスケートを続けられている。
「舞斗、オリンピック2連覇か。感慨深いよ。……あの日のこと、後悔はしていないか?」
——あの日のこと。
「舞斗、お母さんしばらく退院できないの。だから、しばらくはこのおじさんにお世話になるのよ」
そう言われ、僕は彼に手を引かれ東京へやって来た。
8歳の僕は混乱していた。母の親戚?それとも見知らぬ怪しい人?
だが東京に着くと、彼は言った。
「舞斗くん。今日から君は僕の家で暮らす。そして僕が指導するクラブで練習するんだ。慣れないことも多いだろうが、一緒に頑張ろう」
その時、ようやく気づいた。
——僕はスカウトされたのだ。母に“迎えに行く”と嘘をつかれ、才能を買われて東京に呼ばれたのだと。
「おじさん! 嘘ついたんだろ? お母さん、本当は迎えに来ないんだ! 僕、岡山に帰るよ。フィギュアなんかしたくない。お母さんと一緒にいたいんだ!」
涙ながらに訴える僕に、彼は落ち着いた声で答えた。
「そんなことはない。お母さんは休養しているだけだ。体調が良くなれば必ず迎えに来る。……そうだ、世界ジュニアで優勝すれば、きっと会えるはずだ。だから練習を頑張ろう」
その言葉を信じ、僕は必死に練習した。
そして迎えた世界ジュニア選手権。
見事優勝を果たした僕は、インタビューを終えると客席へ駆け込んだ。
「お母さん! お母さん!」
必死に探した。だが、母はいなかった。
その場に座り込んだ僕に声をかけたのは、チームメイトの一ノ瀬リサと後藤記者だった。
「舞斗! ここにいたのね。表彰式始まるわよ」
「心配したぞ」
僕の様子を見たリサが、そっと尋ねた。
「……お母さん、来てなかったの?」
僕は俯いて、声も出なかった。
「でもさ、世界大会っていってもジュニアだけじゃないよ? オリンピックならきっと来てくれるんじゃない?」
彼らの言葉は慰めだったのかもしれない。
けれど僕はそれを信じた。
——ならばオリンピックで勝てばいい。
1度では足りないかもしれない。ならば2度。2連覇をすれば必ず——。
そう信じて滑り続け、僕はその夢を叶えたのだ。
「後悔はしていません。会長について来なかったら、今の僕はいません。本当に感謝しています」
僕がそう告げると、会長は満足そうに頷いた。
「……でも、たまに思うんです。もしあの日、母のもとを離れなければ、ずっと一緒にいられたのかもしれないって」
その瞬間、会長の表情が険しく変わった。
僕が母の話をする時、彼はいつも嫌そうな顔をする。
「舞斗。君はこれまで自分のために滑ったことがない。母親に会えるかもしれない、その想いだけでここまで来た。だが、オリンピックで二度勝った今も彼女は現れなかった。それが答えだ。もう母親を探すのはやめなさい」
胸を突き刺す言葉だった。
——わかっている。もう母は迎えに来ないことを。
僕はついに決意した。
待つのをやめよう。諦めよう。
心にそう誓ったのだ。
彼は、岡山から東京へと僕を連れてきてくれた人だ。
彼のおかげで今もフィギュアスケートを続けられている。
「舞斗、オリンピック2連覇か。感慨深いよ。……あの日のこと、後悔はしていないか?」
——あの日のこと。
「舞斗、お母さんしばらく退院できないの。だから、しばらくはこのおじさんにお世話になるのよ」
そう言われ、僕は彼に手を引かれ東京へやって来た。
8歳の僕は混乱していた。母の親戚?それとも見知らぬ怪しい人?
だが東京に着くと、彼は言った。
「舞斗くん。今日から君は僕の家で暮らす。そして僕が指導するクラブで練習するんだ。慣れないことも多いだろうが、一緒に頑張ろう」
その時、ようやく気づいた。
——僕はスカウトされたのだ。母に“迎えに行く”と嘘をつかれ、才能を買われて東京に呼ばれたのだと。
「おじさん! 嘘ついたんだろ? お母さん、本当は迎えに来ないんだ! 僕、岡山に帰るよ。フィギュアなんかしたくない。お母さんと一緒にいたいんだ!」
涙ながらに訴える僕に、彼は落ち着いた声で答えた。
「そんなことはない。お母さんは休養しているだけだ。体調が良くなれば必ず迎えに来る。……そうだ、世界ジュニアで優勝すれば、きっと会えるはずだ。だから練習を頑張ろう」
その言葉を信じ、僕は必死に練習した。
そして迎えた世界ジュニア選手権。
見事優勝を果たした僕は、インタビューを終えると客席へ駆け込んだ。
「お母さん! お母さん!」
必死に探した。だが、母はいなかった。
その場に座り込んだ僕に声をかけたのは、チームメイトの一ノ瀬リサと後藤記者だった。
「舞斗! ここにいたのね。表彰式始まるわよ」
「心配したぞ」
僕の様子を見たリサが、そっと尋ねた。
「……お母さん、来てなかったの?」
僕は俯いて、声も出なかった。
「でもさ、世界大会っていってもジュニアだけじゃないよ? オリンピックならきっと来てくれるんじゃない?」
彼らの言葉は慰めだったのかもしれない。
けれど僕はそれを信じた。
——ならばオリンピックで勝てばいい。
1度では足りないかもしれない。ならば2度。2連覇をすれば必ず——。
そう信じて滑り続け、僕はその夢を叶えたのだ。
「後悔はしていません。会長について来なかったら、今の僕はいません。本当に感謝しています」
僕がそう告げると、会長は満足そうに頷いた。
「……でも、たまに思うんです。もしあの日、母のもとを離れなければ、ずっと一緒にいられたのかもしれないって」
その瞬間、会長の表情が険しく変わった。
僕が母の話をする時、彼はいつも嫌そうな顔をする。
「舞斗。君はこれまで自分のために滑ったことがない。母親に会えるかもしれない、その想いだけでここまで来た。だが、オリンピックで二度勝った今も彼女は現れなかった。それが答えだ。もう母親を探すのはやめなさい」
胸を突き刺す言葉だった。
——わかっている。もう母は迎えに来ないことを。
僕はついに決意した。
待つのをやめよう。諦めよう。
心にそう誓ったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
黒に染まった華を摘む
馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。
高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。
「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」
そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。
彼女の名は、立石麻美。
昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。
この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。
その日の放課後。
明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。
塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。
そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。
すべてに触れたとき、
明希は何を守り、何を選ぶのか。
光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる