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ep4
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僕は、母のことを諦め、もう引退してしまおう。そう決意し、アイスリンクへと向かった。
鬼塚スケートクラブと大きく書かれた看板の下を通り、ドアを開けると、女性たちの悲鳴が聞こえてきた。
「舞斗くん!オリンピック2連覇おめでとうございます。」
僕と同じクラブに所属する後輩選手たちが一気に僕の元に祝福の言葉をかけてくれた。
「サインお願いします!」
「花束受け取ってください!」
サインを書きながら、ふと上を見上げると、大きな横断幕がかかっていることに気づいた。
"祝オリンピック2連覇 佐藤舞斗選手"
僕は、本当に成し遂げてしまったのだ。周りの人々からの祝福の言葉や出来事によってより実感させられる。
皆が羨む偉業を成し遂げたのにも関わらず、僕は、何故満足していないのだろう。
自分にも分からないのだ。
「よ!リサ、何見てんだよ。」
アイスリンクにある大きな柱の後ろで彼と彼の周りにいる女子選手たちを覗き見ていたリサにチームメイトの青木が話しかけてきた。
「いや、何も見てないし。」
青木に見られていたことを恥ずかしく思ったリサは、唇を噛み締め、高速瞬きをしながら否定した。
「分かりやすいな、お前。そんなに気になるんだったら話しかけに行けよ。」
「あんなに周りに女子がいたら話しかけたくても話せないでしょ。」
そう。彼は、異常にモテる。そのことに気づいていないのが罪なのである。
リサと舞斗が初めて出会ったのは、8歳の頃だった。
「今日から一緒に練習することになった佐藤舞斗くんです。舞斗くん、皆んなに自己紹介しようか。」
先生にそう言われた彼は、
「さ、さ、さとうまいとです。ヨロシクオネガイシマス。」
聞き取れるギリギリの声量で挨拶してくれたことを昨日のように覚えている。
彼がこのクラブに来る前に、会長からモンスターが来ると言われていた。
そのためここにいた全ての子たちがどんな怪物が来るのか怯えていた。
だが私の前にいる彼は、怪物とは程遠い。今から考えると、私たちが思い描いていた怪物ではなく、天才という意味でのモンスターであることに後々気づくこととなる。
「舞斗!よろしくな!分からないことがあれば、なんでも言えよ。」
チームメイトのある少年が彼に声をかけたのだが、彼は、無言でその少年を睨めつけた。
彼は、誰とも会話をしない少年だった。だが、モンスターの如く、試合では、必ず優勝していたのだ。
そんな彼を良く思わないチームメイトたちは、次第に彼をイジメるようになったのだ。
そんなある日。
アイスリンクのロッカー前にあるベンチに座り込み、俯いているモンスターを見つけた。私は、思わず駆け寄り、話しかけた。
「どうしたの?」
私の言葉にも彼は、何も返さない。いつものことだった。ふと視線を下に向けると、彼が裸足であることに気づいた。
「もしかして靴、隠されたの?」
すると、彼が静かに頷いたのだ。彼が私の言葉に反応してくれた。幼い私にとってそんな小さなことが嬉しかったのだ。
「ほんとアイツら、そういうことするよね。気にしなくて大丈夫だからね。」
そう言って私は、彼に予備の靴を貸してあげた。
「ありがとう」
彼が見たことのない笑顔で私に微笑みかけてくれたのだ。
そのとき思った。
彼のためならなんでもしてあげようと。
初めて感じたこの感情は、恋なのか?
そんなことは、この当時は、気づいてもいなかった。
そして、そのことがきっかけで私は、彼と多くの話をするようになった。
フィギュアスケートを始めるきっかけ、岡山から東京まで来た経緯、オリンピック2連覇を目指す理由など彼の全てを知っている。
私たちは、他の誰よりも分かり合っていると思っていた。
彼がはじめてのオリンピックで優勝するまではね。
鬼塚スケートクラブと大きく書かれた看板の下を通り、ドアを開けると、女性たちの悲鳴が聞こえてきた。
「舞斗くん!オリンピック2連覇おめでとうございます。」
僕と同じクラブに所属する後輩選手たちが一気に僕の元に祝福の言葉をかけてくれた。
「サインお願いします!」
「花束受け取ってください!」
サインを書きながら、ふと上を見上げると、大きな横断幕がかかっていることに気づいた。
"祝オリンピック2連覇 佐藤舞斗選手"
僕は、本当に成し遂げてしまったのだ。周りの人々からの祝福の言葉や出来事によってより実感させられる。
皆が羨む偉業を成し遂げたのにも関わらず、僕は、何故満足していないのだろう。
自分にも分からないのだ。
「よ!リサ、何見てんだよ。」
アイスリンクにある大きな柱の後ろで彼と彼の周りにいる女子選手たちを覗き見ていたリサにチームメイトの青木が話しかけてきた。
「いや、何も見てないし。」
青木に見られていたことを恥ずかしく思ったリサは、唇を噛み締め、高速瞬きをしながら否定した。
「分かりやすいな、お前。そんなに気になるんだったら話しかけに行けよ。」
「あんなに周りに女子がいたら話しかけたくても話せないでしょ。」
そう。彼は、異常にモテる。そのことに気づいていないのが罪なのである。
リサと舞斗が初めて出会ったのは、8歳の頃だった。
「今日から一緒に練習することになった佐藤舞斗くんです。舞斗くん、皆んなに自己紹介しようか。」
先生にそう言われた彼は、
「さ、さ、さとうまいとです。ヨロシクオネガイシマス。」
聞き取れるギリギリの声量で挨拶してくれたことを昨日のように覚えている。
彼がこのクラブに来る前に、会長からモンスターが来ると言われていた。
そのためここにいた全ての子たちがどんな怪物が来るのか怯えていた。
だが私の前にいる彼は、怪物とは程遠い。今から考えると、私たちが思い描いていた怪物ではなく、天才という意味でのモンスターであることに後々気づくこととなる。
「舞斗!よろしくな!分からないことがあれば、なんでも言えよ。」
チームメイトのある少年が彼に声をかけたのだが、彼は、無言でその少年を睨めつけた。
彼は、誰とも会話をしない少年だった。だが、モンスターの如く、試合では、必ず優勝していたのだ。
そんな彼を良く思わないチームメイトたちは、次第に彼をイジメるようになったのだ。
そんなある日。
アイスリンクのロッカー前にあるベンチに座り込み、俯いているモンスターを見つけた。私は、思わず駆け寄り、話しかけた。
「どうしたの?」
私の言葉にも彼は、何も返さない。いつものことだった。ふと視線を下に向けると、彼が裸足であることに気づいた。
「もしかして靴、隠されたの?」
すると、彼が静かに頷いたのだ。彼が私の言葉に反応してくれた。幼い私にとってそんな小さなことが嬉しかったのだ。
「ほんとアイツら、そういうことするよね。気にしなくて大丈夫だからね。」
そう言って私は、彼に予備の靴を貸してあげた。
「ありがとう」
彼が見たことのない笑顔で私に微笑みかけてくれたのだ。
そのとき思った。
彼のためならなんでもしてあげようと。
初めて感じたこの感情は、恋なのか?
そんなことは、この当時は、気づいてもいなかった。
そして、そのことがきっかけで私は、彼と多くの話をするようになった。
フィギュアスケートを始めるきっかけ、岡山から東京まで来た経緯、オリンピック2連覇を目指す理由など彼の全てを知っている。
私たちは、他の誰よりも分かり合っていると思っていた。
彼がはじめてのオリンピックで優勝するまではね。
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