十番目の愛

夜宮 咲

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鏡月 五希の愛は空っぽで(6)

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その日、予想外の事が起きた。


「来週、この令嬢と見合いをしなさい」


珍しくお父様の書斎に呼ばれて何かと思えば、

僕に見合いの話しがあるらしい。

お父様のそばに立っている黒田が言うには、写真にいる女性は海外に会社をもつ社長の娘なんだとか。


「それは、この方と結婚しろということですか?」

「令嬢はお前を気に入っているらしい。向こうは私の取引き先でもある。あまり機嫌を悪くさせたくはない」

「…わかりました、来週ですね」

「一応聞くが、今、交際している者はいるのか」

「えっ」

「もしいるなら別れろ。もう相手は決まっているんだ」


ここで反論しても無駄だ。

お父様の言うことは絶対命令と同じ。


「いませんよ」

「……そうか。用はそれだけだ」

「はい、失礼します」


僕は会釈をして書斎から出た。

僕は嘘をついた。

でも仕方のないこと。

ここで争えば僕の人生が終わる。

別に彼女を捨ててしまってもいい。

新しい愛する人ができるから。

そして、愛する人から愛される。

今より数が減るだけ。


そうとなれば、さっそく彼女達に別れを告げなくては。

ほとんどは学校で伝えられるからいいとして、

問題は夢乃だ。

いや、夢乃に問題はない。

ただこの前の貼り紙の件がまだ解決されていない。

夢乃に早く別れを告げなければ、

また何者かによって暴露されるかもしれない。

よりによってこのタイミングだ。

まぁ、この事はお父様達と僕しか知らないから他に情報が漏れていることはない。

夢乃も僕が優しく言えば理解してくれるはずだ。








「……お見合い、ですか」


事は早めにと思い、

その日の夜に僕はさっそく夢乃に伝えた。

見合いのこと、相手はお父様の取引き先の娘であること、だから僕達は別れなければいけないこと。

全てを説明してから僕は夢乃の手をそっと握りしめる。


「僕は夢乃と一緒がいい。でも、お父様に決められてしまった以上、従うしかない……理解してくれるかい?」

「……」


夢乃は顔を伏せて黙っていた。

突然別れを告げられて気持ちが追いつかないのだろう。


「ごめんね、夢乃……でも、僕はこれからも夢乃のことが好きだよ」

「………私も、五希さんのことが好きです」

「うん、わかってるよ」

「本当に、私は五希さんのことを愛していました…」


夢乃は僕が握る手を離す。


「私、ずっと片想いをして…勇気をもって告白をしたんです。両想いだと分かった時、嬉しい気持ちで胸がいっぱいになりました…」


夢乃は胸の前で祈るように手を握りしめながら言った。


「私達が会えるのは夜の12時まで。まるでシンデレラになったみたい……王子様に愛される時間、そしてその愛に答えるお姫様…あなたと過ごす時間は私にとって至福の時…」


幸せそうな顔をしながら語る夢乃だったが、次の瞬間から目つきが変わった。


「…でも、五希さんは私を愛してくれていなかった」

「何を言っているんだ、僕はちゃんと夢乃を愛してー…」

「じゃあ、この女性方は誰なんですか?」


夢乃はポケットから何かを取り出し、

それを思いっきり上空へ投げ飛ばした。

空から何枚もの紙がバラバラと落ちてくる。

地面に落ちたそれを拾って確認する。


「これは…」


落ちてきた紙は全て写真だった。

それも僕が色んな彼女と写っている写真。


「これっ、なんで…!どこで撮ったんだこれ!!」

「さぁ、どこなんでしょう」

「とぼけるな!!隠れて盗撮していたのか!?」

「盗撮なんてしていません。その写真、私宛に届いたんです。誰が送ったのか分かりませんが……」

「は………?」



落ち着け。

落ち着くんだ。



「だから私、試したんです。この紙で」


夢乃の手には例の貼り紙があった。


「お前だったのか…」

「あの写真が合成の可能性もありますから……でも、その様子だとやっぱり事実みたいですね」

「違う!いや、違くはないけど…でも、本当に愛していたんだ!」

「五希さん」


夢乃は僕の顔に手をあてた。

僕は動揺してその場にしゃがみ込む。

それでも夢乃は手をあてたまま、

上から僕を見下ろしながら言った。


「五希さん、それは愛じゃなくてただの浮気ですよ」

「そうじゃない、愛を…」

「五希さんの愛って何?」

「愛は…」


愛?

あれ?

僕は知っているはずだ。

わかる。

わかるはずなのに…。


「愛……僕は愛していたんだ、僕は、ただ愛されたくて…いや、愛されたいじゃなくて、そうじゃなくて………」


あれ?

頭の中がぐちゃぐちゃだ。

僕は愛の意味を知ったんだ、本当に。

それで愛する事の素晴らしさを知って…。



「……可哀想な五希さん。あなたは誰かに愛されたかったんですね」


夢乃は哀れむように僕を抱きしめた。


「愛されたかった………?」


僕が?

違う、僕は愛されたかったんじゃない。


「私、本当にあなたのことを愛していたんですよ」

「夢乃…」

「でも、愛する人に裏切られてしまったから」


夢乃は立ち上がった。

そして満面の笑みを浮かべた。


「この写真、旦那様にもお届けしました」

「え…………?」


夜12時。

魔法がとける時間。

星空の下でシンデレラの笑顔は輝いていた。





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