100年目の魔女

夜宮 咲

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ルナと名乗った女性と出会った次の日、

僕は新しい学校へ通うことになり、担任

の先生に紹介された。僕は窓際の一番後

ろの席に座ることになった。休み時間中

、僕の席のまわりにはたくさん人が集ま

り質問攻めの嵐になった。

あまりにも質問の数が多くて途中から面

倒に感じてしまったけど、自分に興味を

持ってくれているわけだし、少なくとも

僕と仲良くなろうとしてくれていると思

えば嬉しいことだ。

そのため友達づくりには困らなかったし

、何人か話せる友達ができた。とくに、

僕の斜め前の席に座る紘希(ひろき)は、

明るくて気さくないい奴だった。クラス

の中心的な存在のようで、彼のまわりに

はいつも人が集まっていた。


「優人、次の時間体育だから一緒に行こうぜーっ!」

「うん」


学校は家から歩いて20分ぐらいのところ

にある。以前通っていた学校よりは少し

小さい校舎が建っていて全校生徒の数も

少ない方だと思うが、他校に比べればこ

こは多い方らしい。

教室で体操服に着替えて紘希と他の友達

に案内されながら体育館に向かう途中、

昨日のことを思い出す。"ルナ"と名乗る

あの女性は僕に「この家のことがわかっ

たらまたおいで」と言った。あの家には

何か秘密があるということなのか、それ

ともあの人がただ面白がって言っただけ

?ここに来たばかりの僕にわかるわけな

いだろう。

僕は試しにあの家について紘希に聞いて

みることにした。


「ねぇ、紘希」

「んぁ?どうした?」

「あのさ、この町に大きな家がある場所ってわかる?」

「大きな家?」

「ちょっと古くて、外国の家みたいなところで、壁に葉っぱが巻きついてるような…」

「あぁ~、もしかして魔女の家のことか?」


魔女の家?


「どういうこと?」

「あの家には魔女がいるって町中で言われてるんだ。あの家には女の人が住んでるらしいんだけど、その女の人は若くて住人がみんな見惚れてしまうほど綺麗なんだってさ。でも、その美しさは何年経っても崩れないうえに見た目も全く変わらない。次第に町の住人は女の人を怪しい目で見るようになって、いつしかその女の人は魔女と呼ばれるようになったんだ」

「紘希はその魔女を見たことあるの?」

「ないね。あの家から人が出てくるところなんて誰も見たことがないし、みんな気味が悪いってあの辺には近づかないんだ」

「へぇ…」


じゃあ、昨日のあの人は魔女…。


「まぁ、噂だけどな。優人も気をつけろよ~魔女に襲われるかもしれねぇからな!」


紘希はからかいながら言った。

あの人が言っていた"この家のことがわ

かったら"というのはこの事なのだろう

か。一応、あの家がどういう場所なのか

はわかったが、今の話を聞くと本当にあ

の家に行っていいのか迷う気持ちがある

。魔女なんて本のなかでしか見ないし、

都市伝説のような噂もなんだか怪しいし

。でも、まだ慣れていない土地でなんだ

か不安だし。一体どうすればいいんだ?








初登校を無事に終えた僕は紘希たちから

公園でサッカーをしないかと誘われたが

断った。学校を出てそのまま僕はあの家

へ向かった。紘希が言っていた通り、こ

の家の近くは人通りが少ない。来る途中

、誰ともすれ違わなかった。

そんなに恐ろしい家なのか…?

僕が家に入るか入らないかで迷っている

と、聞き覚えのある声がした。


「やぁ、坊や」

「ぅわっ!?」

「そんなに驚く?」


昨日の女性はまた僕の背後に立っていた

。今日は真っ白なワンピース姿で全体的

に膨らみを強調したデザイン、レースも

施してある。宝石のようなキラキラした

髪飾りもつけていて豪華だった。

まさに、魔女のような美しさ。


「昨日ぶりだね。どうしてここへ?」


昨日の女性 ー ルナは僕に問う。


「昨日、あなたが言ったから来た」

「ってことは、わかったんだ?この家のこと」

「うん、たぶん」

「立ち話もあれだから、中に入りなよ」


僕はルナに腕を掴まれて家に入った。

家に入るとは思わなかったから、心の準

備ができていなかった僕は若干戸惑いな

がらも拒否できず、そのまま家の中に連

れ込まれてしまった。

ルナに「ここで待ってて」と言われ、僕

は案内された部屋のイスに座った。家の

中は高級そうな家具が揃っていて、写真

でよく見るヨーロッパの家って感じだっ

た。とりあえず座ったイスもふかふかで

気持ちいい。部屋の至るところに植物が

置いてあって部屋中が緑に包み込まれて

いる。キョロキョロと部屋中を見渡して

いると、ドアを開けてルナが入ってきた

。テーブルの上に持ってきたティーセッ

トとお菓子を並べ、自分もイスに座ると

、ニコニコしながら僕を見た。


「さて、約束のお菓子も準備したし、さっそく坊やのお話しを聞こうか」

「えぇっと…」

「あ、食べながらでもいいよ。お腹空いてるでしょ?」

「あ、じゃあ、いただきます…」


緊張をほぐすために僕はテーブルに用意

されたお菓子を手に取った。しっとりめ

の大きなクッキーにゴロゴロはいったチ

ョコはすごく甘かった。クッキーを1枚

食べ終えてから僕は紘希から聞いた例の

噂を話すことにした。


「ここは魔女の家なんですか?」

「なんでそう思うの?」

「友達から聞いたんです。ここには魔女が住んでいるから、近づかない方がいいって」

「その話を聞いて、坊やはどう思った?」

「ただの噂だし、正直あまり…」

「へぇ~」

「でも、噂が本当ならあなたは魔女ってことですよね?」

「まぁ、そうなるね」

「本当に魔女なんですか?」


魔女はティーカップに注いだ紅茶を一口

飲むと、クスッと笑った。そして、カッ

プを置いてまた僕に視線をむけた。


「そう、私は魔女。この町に住み続ける"100年目の魔女"よ」

「"100年目の魔女"……?」

「魔女になってから100年経つから"100年目の魔女"」


ルナは僕を見つめながらそう言った。

今、僕の目の前には魔女が座っていて、

僕はその魔女と会話をしている。

非現実的な状況に困惑する。


「……本当に、あなたが魔女?」

「信じられない?」

「だって、魔女ってもっと年寄りで顔がしわくちゃで悪い人みたいな感じのイメージだから…」

「こんなに美人な魔女だとは思わなかった?」

「自分で言うんですか…」

「あら、自分に自信を持って何が悪いの?」


ルナはキョトンとした顔で言った。

確かに綺麗だが、相当な自信がないとそ

んなこと堂々と口にはできない。


「これで坊やはこの家のことを知ったわけだけど、どう?私のこと怖くなった?」

「……怖くはないです。まだ知らないことは多いけど」

「……気が向いたらいつでもおいで。ほら、またお菓子を用意してあげるからさ」


ルナは笑って言いながらクッキーを1枚

食べた。魔女と言いつつも、そんなに悪

い人ではないのかもしれないな。

僕はもう1枚クッキーを手に取り、今度

はゆっくり味わいながら口に頬張った。

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