100年目の魔女

夜宮 咲

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都会と違って高いビルや建物がない田舎

の空は青くて広い。

季節は夏にはいろうとしている。

最近少し蒸し暑い。昨日まで長袖を着て

いた人達が半袖を着ている。僕も半袖を

着てみたが、念のため上に薄手のシャツ

を羽織って学校へ行った。

昨日の帰り際、ルナ……いや、ルナさん

と言うべきか?ルナさんは残ったクッキ

ーを紙に包んで持たせてくれた。

魔女の家と考えるとあまりいい響きでは

ないのだろうが、僕はあの時間を苦に感

じることはなかった。それに、クッキー

も美味しかったし。

教室の扉を開けるとクラスメイトが朝か

ら元気に騒いでいた。

自分の席に向かうと斜め前で紘希を中心

に人が集まっている。


「はよーっ優人!」

「おはよう」


紘希は僕に気がつくと必ず「おはよう」

と言ってくれる。話している途中に入っ

て邪魔にならないかな、と思いなんとな

く自分からは声をかけないようにしてい

る。それに、僕は紘希のようにすごく明

るい性格というわけではないから入りづ

らいという気持ちもある。昨日のサッカ

ーも魔女に会いに行くっていう用事があ

ったから断ったけど、そもそも運動は得

意じゃない。どちらかというと読書とか

絵を描くとか、そういうのが好き。

紘希はいい奴だけど、僕とタイプが違う

。仲は良いんだけど、何かに誘われたら

遠慮してしまう。紘希にはちょっと申し

訳ないけど。好みは人それぞれだからし

ょうがないこと、気にするなと自分に言

い聞かせる。

今日も授業を受けて、昨日やったテスト

が返却された際に点数が良かった僕の名

前が呼ばれてクラス内で僕は頭が良いと

いうイメージがついた。給食で出たひじ

きご飯が美味しすぎておかわりをしたり

、掃除中友達とふざけあって笑ったりし

ていたらあっという間に放課後。

紘希たちと一緒に帰り、商店街の手前で

わかれる。家がある方へゆるい坂を登り

終えて少し歩くと見覚えのある家に着く

。古くて大きな外国風の家。昨日、家に

帰って気づいたことがある。僕の家から

魔女の家まではあまり距離がない。

歩いてだいたい15分。自転車で行けば5

分で着く距離にある。それに、学校の帰

り道にあるから必ずここを通る。


また来てしまった。

ルナさんは、「またおいで」と言ってく

れたが、こんな3日連続で行ってもいい

のだろうか。

色々考えてみたが、結局ドアの前に立っ

ていた。インターフォンがなかったため

、何回かドアを叩いてみた。


「こんにちはーっ…」


返事も何も返ってこない。

もう1度ドアを叩こうとした途端、突然

ドアが開いた。驚いて思わず一歩後ろに

下がる。ドアの向こうには、ルナさ

ん……ではなく、お婆さんが立っていた

。僕より少し背が高いぐらいの小柄な

お婆さんは、僕をジロジロと見ていた。


「…なんだい」

「あ……あの、またおいでって言ってたから、来ちゃいました…ごめんなさい」


なんか、睨まれてる…?

気のせいかもしれないがよく分からない

圧を感じて咄嗟に謝ってしまった。


「あれっ?坊や来てたの?」


奥から現れたルナさんが僕に気づく。


「入って!退屈してたところなのっ」


お婆さんを押しのけてルナさんは僕を

家の中に連れ込んだ。

昨日と同じ部屋でルナさんはニコニコし

ながら僕にお菓子とお茶を用意してくれ

る。お婆さんも部屋の隅にある大きなイ

スに腕と足を組んで座っていた。


「あ、あの…ルナさん」

「なぁに?」

「あのお婆さんは…」

「あぁ!ここに一緒に住んでいるのよ。ね、婆や?」


ルナさんが明るい声で婆やさんにむかっ

て言ったが、婆やさんは「ふんっ!」と

言ってソッポを向く。


「婆やはちょっと気難しい人なのよ。本当はちゃんと優しい人だから、怖がらないでね」

「はい…」


僕を見ていた時のあの顔つきは絶対に僕

のことを嫌っているような気がする。


「今日はチョコレートプリンだよ~」


ツヤツヤしたプリンが目の前に置かれる

。「いただきます」と言ってからスプー

ンを手に持ち、一口分すくって食べた。

甘さ控えめのチョコレートだが、横に添

えられていたホイップクリームの甘さで

ちょうどいい具合になっている。

これはパクパクと食べられる。


「ランドセルってことは、学校帰りだよね?坊やの家はここから近いの?」

「そんなに離れてないです」

「へぇ~…というかそれ!」

「それ?」

「敬語!なんか嫌だからやめてよっ」

「えぇ…でも年上だし…」

「私はもっとフレンドリーな感じで話したいのっ!敬語だったら友達じゃないでしょっ!」

「わかった、これでいい?ルナさん」

「あ、ルナさんはやめて。そこは魔女様って言って」

「なんで!?なんかおかしいんだけど!?」

「そこはどうしても、うん、色々あるのよ」

「めんどくさ…」

「そんなことを言う坊やにはもうお菓子を用意してあげません」

「ごめんなさい」


可笑しなやりとりに笑ってしまう。

ルナさ…魔女様もケラケラと笑っている

。しばらく魔女様と談笑し、あまり遅く

なると親が心配するためそろそろ家を出

る。魔女様は僕が帰る姿を家の中の窓か

ら見送ってくれた。

昨日まではまだどこかで緊張している部

分があったけど、今日はすごく楽しかっ

た。こっちに越してきてからあんなに笑

って誰かと話したのは初めてかもしれな

い。

明日もまた行こう。

それに、いろんな話を聞きたい。

今日はなんだか楽しい1日だったな。

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