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季節はすっかり夏になり、蝉の鳴き声と
暑さで目覚ましよりも先に起きるように
なった。起きてからまず1階に降りて洗
面所に向かい、冷たい水で顔を洗う。そ
の後、リビングに行って朝食を食べる。
親は僕よりも先に家を出るため基本、朝
は会わない。よく寂しくないか、と聞か
れるが別に寂しいとは思わない。毎日こ
うというわけではないし、全く会えない
というわけでもない。ちゃんと僕のこと
を考えてくれていることは知っているか
らとくに不満はない。
トースターで焼いたパンの上にマーガリ
ンを塗って食べる。焼きたてのパンにマ
ーガリンの香り。キッチンにあったバナ
ナも食べて十分にお腹を満たす。
朝食後、着替えて学校へ行く準備をする
。今日からプール開きでさっそく僕のク
ラスは水泳がある。最近暑くて仕方がな
い。絶対に気持ちいいだろうな。
家を出て学校に着き、上履きに履き替え
ていると横からランドセルを叩かれた。
「よっ!」
「なんだ、紘希か」
「今日水泳だぜ」
「うん、楽しみだね」
「優人って泳げんの?」
「うーん、得意ってほどじゃないけど、水泳は好きだよ」
「じゃあタイムはかろうぜ」
「えぇ~競争とかあんまり好きじゃないんだけど…」
「でもさ、たぶんあいつに勝負挑まれると思うぜ」
「あいつ?」
「春近」
「えぇ……」
春近(はるちか)は僕と同じクラスの奴で
クラスのボス的な存在らしい。いつも同
じ奴らと行動していて、クラスにいる見
た目が地味そうな子に絡んで嫌がらせを
するあまり好かれないタイプの人間。僕
はまだ話したことがないけど、紘希が言
うには面倒だからあんまり関わらない方
がいいらしい。確かにめんどくさそうだ
。極力あの辺には近づかないでおこう。
そう思っていたのに、
「おい、俺と勝負しろよ」
待ちに待った水泳の時間なのにこんなに
気分が下がることが今まであっただろう
か。紘希が言っていた通り春近は僕に声
をかけてきた。まわりも僕達のことを見
ていた。
「お前転校してきたんだろ?俺とお前、どっちが速く泳げるか勝負しようぜ」
どうやら春近は転校してきた得体の知れ
ない僕が自分よりすごい奴なのかを知り
たいようだ。転校生ではあるけど、それ
で勝負しようってどういうことだよ。
「あぁ~…僕、泳ぎは速くないけど」
「そんなの勝負しねぇとわからないだろ」
「いや、たぶん君の方が速いって」
「おい!誰か審判しろよ」
僕の話を無視して春近はプールの中に勢
いよく入った。勝負する気満々の様子。
僕に拒否権はないのか?
僕もめんどくさいと思いながらプールに
入り、スタートの合図が出るのを待った
。適当に泳いで負ければいいか。
いや、でも。
勝ったら褒めてくれるかな?
スタートのホイッスルが鳴った。
水中に潜って壁を強く蹴る。
鼻から泡が出てくる。
強く、速く、先を見ながら泳ぐ。
壁をタッチした。
水面から顔を出すと、隣には誰もいない
。後方を見ると、春近はまだ泳ぎ終えて
いなかった。呼吸が荒い。
勝った、僕。
「優人~っ!!お前めっちゃ速いじゃん」
泳ぎ終えた僕の元へ紘希が駆け寄って来
た。他の人もわらわらと集まり、僕に声
をかけてくれた。少ししてから春近も泳
ぎ終えたが、何も言わず不服そうな顔で
プールから出て行った。春近の取り巻き
も慌てて春近の後を追って出て行った。
「お前はじめにあんなこと言って勝ったから春近に目つけられたぞ~」
「ははっ、そうかもね」
「なんかめんどくさそうにしてたじゃん。なんでちゃんと勝負したんだよ」
「……喜びそうだから?」
「なんだそれ」
紘希は不思議そうな表情をうかべていた
。正直、負ければいっか!という気持ち
でいたけど、僕の気持ちは関係なく考え
たとき、あの人の顔が浮かんだ。たぶん
あの人は僕が勝ったら喜ぶんだろうなぁ
と思っていたら不思議と速く泳げた。
はじめにああ言った手前、春近には喧嘩
を売る形になってしまったが、結果が出
てしまったものはしょうがない。
今日のことをあの人に話そうっと。
さて、今日のおやつは何だろう?
暑さで目覚ましよりも先に起きるように
なった。起きてからまず1階に降りて洗
面所に向かい、冷たい水で顔を洗う。そ
の後、リビングに行って朝食を食べる。
親は僕よりも先に家を出るため基本、朝
は会わない。よく寂しくないか、と聞か
れるが別に寂しいとは思わない。毎日こ
うというわけではないし、全く会えない
というわけでもない。ちゃんと僕のこと
を考えてくれていることは知っているか
らとくに不満はない。
トースターで焼いたパンの上にマーガリ
ンを塗って食べる。焼きたてのパンにマ
ーガリンの香り。キッチンにあったバナ
ナも食べて十分にお腹を満たす。
朝食後、着替えて学校へ行く準備をする
。今日からプール開きでさっそく僕のク
ラスは水泳がある。最近暑くて仕方がな
い。絶対に気持ちいいだろうな。
家を出て学校に着き、上履きに履き替え
ていると横からランドセルを叩かれた。
「よっ!」
「なんだ、紘希か」
「今日水泳だぜ」
「うん、楽しみだね」
「優人って泳げんの?」
「うーん、得意ってほどじゃないけど、水泳は好きだよ」
「じゃあタイムはかろうぜ」
「えぇ~競争とかあんまり好きじゃないんだけど…」
「でもさ、たぶんあいつに勝負挑まれると思うぜ」
「あいつ?」
「春近」
「えぇ……」
春近(はるちか)は僕と同じクラスの奴で
クラスのボス的な存在らしい。いつも同
じ奴らと行動していて、クラスにいる見
た目が地味そうな子に絡んで嫌がらせを
するあまり好かれないタイプの人間。僕
はまだ話したことがないけど、紘希が言
うには面倒だからあんまり関わらない方
がいいらしい。確かにめんどくさそうだ
。極力あの辺には近づかないでおこう。
そう思っていたのに、
「おい、俺と勝負しろよ」
待ちに待った水泳の時間なのにこんなに
気分が下がることが今まであっただろう
か。紘希が言っていた通り春近は僕に声
をかけてきた。まわりも僕達のことを見
ていた。
「お前転校してきたんだろ?俺とお前、どっちが速く泳げるか勝負しようぜ」
どうやら春近は転校してきた得体の知れ
ない僕が自分よりすごい奴なのかを知り
たいようだ。転校生ではあるけど、それ
で勝負しようってどういうことだよ。
「あぁ~…僕、泳ぎは速くないけど」
「そんなの勝負しねぇとわからないだろ」
「いや、たぶん君の方が速いって」
「おい!誰か審判しろよ」
僕の話を無視して春近はプールの中に勢
いよく入った。勝負する気満々の様子。
僕に拒否権はないのか?
僕もめんどくさいと思いながらプールに
入り、スタートの合図が出るのを待った
。適当に泳いで負ければいいか。
いや、でも。
勝ったら褒めてくれるかな?
スタートのホイッスルが鳴った。
水中に潜って壁を強く蹴る。
鼻から泡が出てくる。
強く、速く、先を見ながら泳ぐ。
壁をタッチした。
水面から顔を出すと、隣には誰もいない
。後方を見ると、春近はまだ泳ぎ終えて
いなかった。呼吸が荒い。
勝った、僕。
「優人~っ!!お前めっちゃ速いじゃん」
泳ぎ終えた僕の元へ紘希が駆け寄って来
た。他の人もわらわらと集まり、僕に声
をかけてくれた。少ししてから春近も泳
ぎ終えたが、何も言わず不服そうな顔で
プールから出て行った。春近の取り巻き
も慌てて春近の後を追って出て行った。
「お前はじめにあんなこと言って勝ったから春近に目つけられたぞ~」
「ははっ、そうかもね」
「なんかめんどくさそうにしてたじゃん。なんでちゃんと勝負したんだよ」
「……喜びそうだから?」
「なんだそれ」
紘希は不思議そうな表情をうかべていた
。正直、負ければいっか!という気持ち
でいたけど、僕の気持ちは関係なく考え
たとき、あの人の顔が浮かんだ。たぶん
あの人は僕が勝ったら喜ぶんだろうなぁ
と思っていたら不思議と速く泳げた。
はじめにああ言った手前、春近には喧嘩
を売る形になってしまったが、結果が出
てしまったものはしょうがない。
今日のことをあの人に話そうっと。
さて、今日のおやつは何だろう?
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