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「あははははっ!」
「笑うほど面白い話じゃないよ…」
「いやぁ、坊やはその子を騙したってことね」
「騙してなんかないよ!本当に勝つとは思わなかったんだ」
今日の出来事を話すと、魔女様は声を出
して笑った。
学校が終わると僕は家に帰る前に魔女様
の家に寄る。これがすっかり習慣になっ
てしまった。でも魔女様は毎日ここへ来
る僕を見ても嫌がる顔をしなかった。む
しろ喜んで出迎えてくれた。……婆やさ
んはそうではないみたいだけど。
婆やさんはなんだかんだ家に入れてくれ
るけど、魔女様と僕の会話には一切はい
ってこない。いつも部屋の隅にあるイス
に座って本を読んだり、いつも魔女様が
用意してくれるお菓子を食べている。婆
やさんと仲良くなるにはまだまだ時間が
かかりそうだ。
「じゃあ、坊や明日から大変なんじゃない?その子に目をつけられたんでしょう?」
「あんまり面倒くさいことはしたくないんだけどなぁ」
「坊やは小学生らしい発言をしないよね」
「そうかな?」
「子どもだけど大人っぽいよね」
「僕はまだ子どもだよ」
「そうだね、こんなに美味しそうにお菓子を食べるんだからまだ子どもよね」
魔女様はクスッと笑った。
何故笑われたのかよくわからなかった
が、とくに気にせず僕は目の前のお皿に
のったシュークリームを頬張った。大き
な一口でサクサクの生地を噛むと、中か
らは黄色いカスタードクリームがたっぷ
り出てくる。なんとかクリームがこぼれ
ないように綺麗に食べ終えることができ
た。魔女様は人差し指を動かし、キッチ
ンからティーポットを運んできた。
ふよふよと浮いたティーポットは部屋ま
で来ると、そのまま魔女様が使っていた
カップにお茶を注いだ。注ぎ終えると、
そのままテーブルに静かに着地。
魔女様の家に通い出してから少しだけわ
かったことがある。ひとつは魔法が使え
ること。魔女様曰く、家の中では今のよ
うな簡単な魔法を使うが、外では目立つ
からあまり使わないらしい。たぶん、外
での噂は魔女様の耳にも届いているのだ
ろう。あと、魔女様はあまり甘い物が食
べられない。いつも用意してくれるお菓
子は僕に喜んでもらうためのものであっ
て、魔女様はあまり手を出さない。たま
に魔女様も一緒に食べることがあるが、
1個で十分らしい。
「魔女様、質問してもいい?」
「坊やは質問が大好きだね。今日は何が聞きたいの?」
「魔女様って生まれたときから魔女だったの?」
「いや、違うかな。ある日突然なったの」
「そんなことあるの?」
「詳しくは話せないけど、はじめから魔女だったわけじゃないよ」
「じゃあ、いつから?」
「確か~…20歳になってからじゃなかったかな?」
「ということは、魔女様って今120歳ってこと?」
「そうよ~私こう見えてお婆ちゃんなのよ?」
笑って話す魔女様を見るととてもお婆ち
ゃんとは思えない。皺ひとつない綺麗な
容姿。これも魔法で見た目を変えている
のかな?
「いいなぁ、僕も魔法が使えたらなぁ」
「あら、どうして魔法が欲しいの?」
「そりゃあ…誰だって欲しいと思うでしょ。魔法があれば何だってできるんだから」
「坊やはどんな魔法が欲しいの?」
「どんな……」
いざ考えてみるとパッと出てこない。
ファンタジー系の本を読むと魔法陣とか
出てくるけど、そこまで大規模な魔法は
望んでいないし、かと言って空を飛ぶと
か瞬間移動とかありきたりな魔法が欲し
いわけでもない。なんか、あまりないよ
うな……特別なものが欲しい。でも、そ
れが何なのか、言葉にはできない。
「他の人にはないような魔法、とか?」
「へぇ~!なんかいいね、かっこいい」
魔女様は手を合わせて言った。なんとな
く言ってみただけだけど、褒められてい
るような感じで少し嬉しかった。
残りのシュークリームは箱に入れて持た
せてくれた。魔女様はいつも2階の窓か
ら帰る僕を見送ってくれている。たまに
手を振ると微笑みながら手を振りかえし
てくれる。
家に居るときよりも学校にいるときより
も魔女様と過ごすあの時間が1番好きか
もしれない。この町に来てから、あの場
所で過ごすことが僕の楽しみの一部にな
っている。まだまだ知りたいことはある
し、魔女様とお話したい。楽しいことは
この先もたくさんある。
魔女様が持たせてくれたシュークリーム
は見つからないように冷蔵庫の奥にしま
い、次の日に親が家を出てからこっそり
朝食後のデザートとして食べた。
そして、僕は今日も学校へ行く。
「笑うほど面白い話じゃないよ…」
「いやぁ、坊やはその子を騙したってことね」
「騙してなんかないよ!本当に勝つとは思わなかったんだ」
今日の出来事を話すと、魔女様は声を出
して笑った。
学校が終わると僕は家に帰る前に魔女様
の家に寄る。これがすっかり習慣になっ
てしまった。でも魔女様は毎日ここへ来
る僕を見ても嫌がる顔をしなかった。む
しろ喜んで出迎えてくれた。……婆やさ
んはそうではないみたいだけど。
婆やさんはなんだかんだ家に入れてくれ
るけど、魔女様と僕の会話には一切はい
ってこない。いつも部屋の隅にあるイス
に座って本を読んだり、いつも魔女様が
用意してくれるお菓子を食べている。婆
やさんと仲良くなるにはまだまだ時間が
かかりそうだ。
「じゃあ、坊や明日から大変なんじゃない?その子に目をつけられたんでしょう?」
「あんまり面倒くさいことはしたくないんだけどなぁ」
「坊やは小学生らしい発言をしないよね」
「そうかな?」
「子どもだけど大人っぽいよね」
「僕はまだ子どもだよ」
「そうだね、こんなに美味しそうにお菓子を食べるんだからまだ子どもよね」
魔女様はクスッと笑った。
何故笑われたのかよくわからなかった
が、とくに気にせず僕は目の前のお皿に
のったシュークリームを頬張った。大き
な一口でサクサクの生地を噛むと、中か
らは黄色いカスタードクリームがたっぷ
り出てくる。なんとかクリームがこぼれ
ないように綺麗に食べ終えることができ
た。魔女様は人差し指を動かし、キッチ
ンからティーポットを運んできた。
ふよふよと浮いたティーポットは部屋ま
で来ると、そのまま魔女様が使っていた
カップにお茶を注いだ。注ぎ終えると、
そのままテーブルに静かに着地。
魔女様の家に通い出してから少しだけわ
かったことがある。ひとつは魔法が使え
ること。魔女様曰く、家の中では今のよ
うな簡単な魔法を使うが、外では目立つ
からあまり使わないらしい。たぶん、外
での噂は魔女様の耳にも届いているのだ
ろう。あと、魔女様はあまり甘い物が食
べられない。いつも用意してくれるお菓
子は僕に喜んでもらうためのものであっ
て、魔女様はあまり手を出さない。たま
に魔女様も一緒に食べることがあるが、
1個で十分らしい。
「魔女様、質問してもいい?」
「坊やは質問が大好きだね。今日は何が聞きたいの?」
「魔女様って生まれたときから魔女だったの?」
「いや、違うかな。ある日突然なったの」
「そんなことあるの?」
「詳しくは話せないけど、はじめから魔女だったわけじゃないよ」
「じゃあ、いつから?」
「確か~…20歳になってからじゃなかったかな?」
「ということは、魔女様って今120歳ってこと?」
「そうよ~私こう見えてお婆ちゃんなのよ?」
笑って話す魔女様を見るととてもお婆ち
ゃんとは思えない。皺ひとつない綺麗な
容姿。これも魔法で見た目を変えている
のかな?
「いいなぁ、僕も魔法が使えたらなぁ」
「あら、どうして魔法が欲しいの?」
「そりゃあ…誰だって欲しいと思うでしょ。魔法があれば何だってできるんだから」
「坊やはどんな魔法が欲しいの?」
「どんな……」
いざ考えてみるとパッと出てこない。
ファンタジー系の本を読むと魔法陣とか
出てくるけど、そこまで大規模な魔法は
望んでいないし、かと言って空を飛ぶと
か瞬間移動とかありきたりな魔法が欲し
いわけでもない。なんか、あまりないよ
うな……特別なものが欲しい。でも、そ
れが何なのか、言葉にはできない。
「他の人にはないような魔法、とか?」
「へぇ~!なんかいいね、かっこいい」
魔女様は手を合わせて言った。なんとな
く言ってみただけだけど、褒められてい
るような感じで少し嬉しかった。
残りのシュークリームは箱に入れて持た
せてくれた。魔女様はいつも2階の窓か
ら帰る僕を見送ってくれている。たまに
手を振ると微笑みながら手を振りかえし
てくれる。
家に居るときよりも学校にいるときより
も魔女様と過ごすあの時間が1番好きか
もしれない。この町に来てから、あの場
所で過ごすことが僕の楽しみの一部にな
っている。まだまだ知りたいことはある
し、魔女様とお話したい。楽しいことは
この先もたくさんある。
魔女様が持たせてくれたシュークリーム
は見つからないように冷蔵庫の奥にしま
い、次の日に親が家を出てからこっそり
朝食後のデザートとして食べた。
そして、僕は今日も学校へ行く。
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