Love Potion

煉彩

文字の大きさ
6 / 66

魔法のカクテル 4

 久し振りにアルコールを飲んで、急に走ったからか足元がふらつく。
 
 エレベーターから降り、もう一度
「すみません。ありがとうございました。本当にここで結構ですので」
 加賀宮さんから強引にバッグを奪い、駅方面へ歩き出そうとした。

 数歩歩いたところで溝にヒールがはまり、転びそうになったところを加賀宮さんが腕を引っ張り助けてくれた。

「あ……りがとうございます。すみません」

 どうして?
 カクテル二杯飲んだだけでこんなに。
 相当お酒に弱くなってる。

「大丈夫ですか?」
 加賀宮さんはそのまま腕を支えてくれた。

「ちょっと休んだ方がいいと思います。僕のオフィスが近くにあるんで、そこで休憩しましょう」

 オフィス?休憩?

「あのっ」

「そんな状態の女性を一人で帰せませんよ。ケガでもして、旦那さんに怒られたら困るでしょ?」

 何も言えなかった。
 酔って転んだなんて言ったらどうなるか。
 でもこの状況はマズい。
 知り合いにでも見られたりして、孝介にバレたら。一人で帰らなきゃ。

「大丈夫です!」

「ちょうど車が来たので」

「えっ」
 目の前に黒いセダンが止まった。

「お疲れ様です」
 運転席から一人の男性が降りて来た。
 私と加賀宮さんと同じくらいの年齢。
 髪の毛は襟足まであって、目は大きくて可愛らしい顔立ちをしている。

「お疲れ様。ごめん、彼女を車に乗せるのを一緒に手伝ってくれる?酔ってしまったみたいで」

「かしこまりました」

 彼は、加賀宮さんの言葉に何も疑問を抱いていないようだった。

「えっ!ちょっと!」
 二人がかりで強引に車に乗せられた。

「加賀宮さん!」

「運転しているのは、僕の秘書なんだ。怪しい人じゃないから安心してください」
 
 この状況で安心なんてできない。
 どうしよう、ここからドアを開けて無理やり降りるわけにもいかないし。
 あたふたしているうちに、どこかのビルの地下駐車場に車は駐まった。

「着いたよ」
 そう言われ、車から降りる。
 
 ここ、どこ?
 後部座席にはスモークがかかっていて、外があまり見えなかった。
 
 そんなに走ってないから都内のはずだ。
 土地勘がない。
 無理やりここまでして連れて来るって、もしかして危ない人?逃げた方がいいの?
 
 相手は男性二人だ、逃げられる自信がない。
 さっきまでは良い人だと思っていたのに。
 不信感と恐怖が生まれる一方だ。

「そう怖がらないで」

 加賀宮さんに腕を引かれ、オートロックの建物の中に入る。
 エレベーターに乗り、秘書さんが二十五階のボタンを押した。
 他に誰も乗ることはなく、二十五階で止まり、三人で降りる。
 いくつか部屋があったが、とある一室の前に案内され、秘書さんが数字を入力し、部屋のカギを開けた。
 
 三人で入るのかと思っていたけど
「ありがとう。亜蘭あらん。ここで大丈夫だから。夜遅くに申し訳なかった」

「いえ。では、失礼いたします」
 亜蘭と呼ばれた秘書さんは扉を締めた。

 加賀宮さんは一体どういうつもりなの?
 彼の考えていることが全然わからない。

 部屋をよく見ると、大きなソファとパソコン、デスクが二つ、オフィスにしては物が少ないけど、本当に社長室みたいな雰囲気の部屋。

「歩ける?ちょっとこっちに来て。ここの窓から見る夜景がとても綺麗なんだ」

「夜景!?」

 夜景なんて見ている場合じゃ。
 予想もしていなかった言葉に驚きながらも、彼のあとをついていく。
 大きな窓から見える景色は
「キレイ……」
 そう呟いてしまうほどネオンで輝いていた。

 いや、キレイだけど。
 こんなところで夜景なんて見ている場合ではない。

「加賀宮さん、もう本当に大丈夫ですから。ありがとうございました」
 私は彼に一言伝え、部屋から出ようと振り返った。
 
 が――。
 彼に腕を引かれ、止められた。

「加賀宮さん?」

「今日は帰さないよ」

「はいっ?」

 彼はクスっと笑ったかと思うと
「もうこんな演技止めるね」
 そう言ってメガネを外し、近くのデスクの上に投げた。

「こんな風に会えると思ってなかった。まぁ、のことなんて覚えてないと思うけど……?」
 
 私、加賀宮さんと会ったことがあるの?
 彼に私の名前を伝えてない……よね!?
 だけど、美月って知っている。
 ていうか、さっきと話し方とか全然違う。

 加賀宮さんが私との距離を詰める。
 右手の手首を彼に掴まれていて、離してはくれない。
 
 一歩下がるごとに、壁際に追い込まれていく。
 ついに壁に背中がついてしまった。
 近距離で視線が合う。
 目を逸らすと、顎を掴まれ
「んんっ……」
 強引にキスをされた。

 片手で彼を押し返そうとするも、彼の身体は動かない。
「はっ……。んっ……」
 息ができない。力も入らない。

「俺がさっきに飲ませたカクテル、Love Potionってカクテルなんだ。媚薬とか惚れ薬とか……。そんな風に言われてる。その効果は酒と一緒でしばらく続くから。ね?キスだけで身体がもう反応してるだろ?」

 なに、それ。
 媚薬とか……。惚れ薬とか……。
 そんなの現実に存在するわけがない!

「そ……んなの……。ウソよ……。あるわけがない」

 彼は私の耳朶をカプっと噛んだ。
「んぁ……!」
 なんでこんなにゾクゾクするの?
「ほら?」
 耳元で彼が一言囁いた。
 声と息が耳に残り、それだけで力が抜ける。

「抵抗できなくなった?」
 私の手はもう彼を押し退けていなかった。
 それどころか、彼にしがみついている。

「止めて」

「止めていいの……?ま、止めないけど」
 彼は再び唇を合わせてきた。

 舌が入ってきて……。
「ふっ……。ん……」
 どうして?怖くない。
 押さえられている手首も痛くはないし、キスだって強引だけど、どこか優しい。

「はっ……」
 どのくらいの間、キスをしていただろう。
 身体は抵抗することも止め、彼を受け容れていた。
 
 気づいたら彼のワイシャツを掴み、自分から少し顔を上げ、加賀宮さんにキスを求めていた。

「んん……」

 本当に媚薬とか、惚れ薬とか、この世に存在するのかな。
 これは彼にそんなカクテルを飲まされたから。薬の効果なんだ。

 だからこんなに――。

「も……。ダメ……。立ってられない」
感想 6

あなたにおすすめの小説

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す

花里 美佐
恋愛
榊原財閥に勤める香月菜々は日傘専務の秘書をしていた。 専務は御曹司の元上司。 その専務が社内政争に巻き込まれ退任。 菜々は同じ秘書の彼氏にもフラれてしまう。 居場所がなくなった彼女は退職を希望したが 支社への転勤(左遷)を命じられてしまう。 ところが、ようやく落ち着いた彼女の元に 海外にいたはずの御曹司が現れて?!

俺様上司に今宵も激しく求められる。

藤白ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

4番目の許婚候補

富樫 聖夜
恋愛
愛美は家出をした従姉妹の舞の代わりに結婚することになるかも、と突然告げられた。どうも昔からの約束で従姉妹の中から誰かが嫁に行かないといけないらしい。順番からいえば4番目の許婚候補なので、よもや自分に回ってくることはないと安堵した愛美だったが、偶然にも就職先は例の許婚がいる会社。所属部署も同じになってしまい、何だかいろいろバレないようにヒヤヒヤする日々を送るハメになる。おまけに関わらないように距離を置いて接していたのに例の許婚――佐伯彰人――がどういうわけか愛美に大接近。4番目の許婚候補だってバレた!? それとも――? ラブコメです。――――アルファポリス様より書籍化されました。本編削除済みです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン