Love Potion

煉彩

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真実 7

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「美月はとても一生懸命な女性で。家事や料理も上手で、自慢の妻なんです」
 
 ウソウソウソ!そんなこと思ってないくせに。
 美和さんの方が……とか、心の中で思っているんでしょ!?どうしてそんなに見栄を張るの。

「容姿だけじゃなく、内面も素晴らしいんですね」
 加賀宮さんはフッと笑った。

 その笑いは何?

 二人の会話に心の中で突っ込みを入れる。

「美月さんの作った料理、食べてみたいです。僕は、性格が悪いからか、何年も彼女はいませんし、食事もいつも外食だから。たまには手料理とか食べてみたいなって、憧れるんです」

 加賀宮さんは、そう言って孝介に微笑んだ。
 孝介の眉間がピクッと動いたのを私は見逃さなかった。

「すみません。今日は急だったから。彼女も準備していなかったみたいで。酒のつまみもろくなものがありませんね」

 孝介は私が料理が下手だと思い込んでいる。悔しい。

「私、作ります」

「はっ?」
 孝介が一瞬、素になった。
「美月、無理しなくて良いよ。食材も揃っていないだろ」
 
 どうしても私に作らせたくないのね。
 不味いものをお客様に食べさせたら、顔が立たないもの。「料理上手な妻」で通っているから。

 でも――。

「大丈夫です。私、作ります」
 ちゃんと作れるってところ、孝介に見せてやりたい。

「本当ですか?それは楽しみです」

 加賀宮さんがそう言ってくれたおかげで
「じゃあ、お願いするよ」
 孝介も渋々承諾してくれた。

 私がキッチンに立っている間、二人は楽しそうに会話をしていた。
 表面上だけなんだろうな、二人とも。


「お待たせしました」
 私は作ったおつまみを二人の前へ運んだ。
 卵焼き、塩昆布とキャベツの和え物、ツナと玉ねぎのピリ辛和え。

 イジメかっていうくらい、冷蔵庫には何もなかった。
 もっと材料があれば。
 私の作った料理を見て、孝介は表情が明らかに歪んでいる。

「加賀宮さん、すみません。もっとオシャレなモノ、妻は作れるんですが。今日は冷蔵庫に何もなくって。見栄えが悪いですよね。美月も無理して作るから。から、どこかコンビニでも行って、おつまみ買って来てくれないかな?」

 孝介は私に視線を合わせる。眉間にはシワが寄っている。すぐわかる、怒っている。

「いえ。とても美味しそうじゃないですか?僕はいただきますよ」
 そう言って加賀宮さんは、私の作った卵焼きをパクっと食べた。

「あっ、加賀宮さん。無理しなくても……」
 孝介が引き止めるも、もう彼は飲み込んだ後だった。
 
 なんて言うのかな。
 今更になって緊張してきた。

「すごく美味しいです。中身はふわっとしていて、だけど、表面はパリッとしていて。他のおつまみもいただきます」

 ニコッと笑って、加賀宮さんは他のおつまみも食べてくれた。

「どれも美味しい。材料がない中でパッと思いついて、すぐ作れて、味も美味しい。僕の理想の女性ですよ」

 何よそれ、褒めすぎで気持ちが悪い。そして嘘っぽい。
 だけど
「僕、お腹空いてたみたいで。九条さんが食べないなら、全部食べても良いですか?」
 そう言ってくれた。

「え……ええ。良かったら」
 孝介の顔が引きつっている。

 そんな不味そうに見えるの?
 いや、私のこと生理的に受けつけないんだろうな。

「すみません、あまりにもおつまみが美味しくて。お酒も進んでしまいました」

 孝介も負けじとお酒を飲んでたけど、加賀宮さんのペースについていけなかった。彼が一人で飲んでいた瓶ビールがあっと言う間に空になってしまった。

「美月、新しいお酒持って来て」
 
 孝介にそう言われたが、お酒のストックがない。
 お客様用の瓶ビールもないし、最近孝介が家に居なかったこともあり、缶ビールも買っていない。そもそも買い物はほとんど美和さんがしてくれてる。

「申し訳ございません。お酒がなくなってしまって。今すぐ買ってきますので、お待ちください」
 私が声をかけると
「美月さん。もう夜遅くですし、女性一人が買い物なんて何かあったら困ります。僕が買ってきますよ」
 加賀宮さんが席を立とうとした。

「いえ!俺が買ってくるんで。ちょっと待っててくださいね。準備不足で本当すみません」

 ハハっと笑いながら孝介は席を立ち、急ぎ足で出て行った。
 妻想いの旦那を演じるため、自ら近くのコンビニにでも行くのだろう。

 ふぅと息を吐く。肩の荷が下りた気がした。
 と思ったが――。
 いけない、いろいろ聞かなきゃいけないことがある。

「どうしてここに居るのよ!」
 そのまま何事もなかったかのように座っている加賀宮さんを怒鳴りつけた。

「どうしてって。今度、って言っただろ?それに、あとで話は聞くって伝えた」

 さっきって私が電話をかけた時、もう加賀宮さんはうちに来る予定だったの?

「美月、料理上手いんだな。美味しいって言ったのはお世辞じゃないよ」
 彼はフッと笑った。

「あ……りがとう」
 なんでお礼を伝えてるんだろ。
 これじゃ、いつものようにまた加賀宮さんのペースに巻き込まれてしまう。

「ねぇ!いい加減、教えてよ。何考えてるの?孝介が言っていることは本当?あなたが九条グループと提携するって?」

「あぁ。本当だよ。俺っていうよりは、俺の会社と業務提携を結ぶことになったって話だけどな」

 加賀宮さんの会社ってどのくらいの規模なの?
 やっぱり、BARのオーナーだけじゃなかったんだ。
 ていうかそんなに凄い人なのに、どうして私なんかとあんな契約を?私じゃなくても良かったんじゃ。

「美月は昼間何かあったの?電話くれただろ。今は旦那も居ない。話を聞くって約束したから」

 今は私の相談なんてしている場合じゃない。

「なんでも……ない」

 はぁと彼は溜め息をつき
「命令。話さないと、旦那が帰って来た時に全部バラすよ?」
 
 バラす……。この前の動画、私があんなお酒さえ飲まなければ――。

「孝介が……。家政婦さんと浮気してたの!それもうちのベッドで。あんなところで毎日寝ていたかと思うと気持ち悪くて。今日は排水溝に私の髪の毛が落ちてたからって、突き飛ばされて……。親に離婚したいって相談したけど、待ってほしいって言われて、辛くて。話を聞いてほしいって思い浮かんだのが、あなただったの!バラすって……。少しでもあなたのことを優しい人だって思った私がバカだったわ!どうせあなたもっ……」

 孝介の浮気もDVも、離婚できない現実も全て私のせいで、加賀宮さんのせいじゃないのに。言葉が止まらなかった。

 彼はスッと立ち上がって
「ごめん。俺が悪かったから。落ちついて」
 私をギュッと抱きしめた。

 彼の胸を押し返そうとした。
 けれど――。

「突き飛ばされた時、ケガ、してない?」

 彼の一言に、堪えていた涙が溢れ出してしまった。

「してない」

「嘘だろ?」

 あぁ、どうして彼にはわかってしまうんだろう。

「擦りむいただけ」
 素直に答えてしまう私がいた。
 信じちゃいけない人なのに、私を利用しようとしているだけの人かもしれないのに。
 期待してしまうようなことをする、加賀宮さんは本当にズルい人。

「今度、全身チェックする」

「えっ?」

 全身チェックって。

「バカ!変態!」
 彼の胸の中から咄嗟に逃れようとした。
 が、離してはくれなかった。

 しばらく彼に抱きしめられていた。
 悔しいけど、不思議と嫌じゃなかった。
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