Love Potion

煉彩

文字の大きさ
19 / 64

真実 8

しおりを挟む
 そろそろ孝介が戻ってきてもおかしくはない。

「加賀宮さん、離して。そろそろ帰って来ると思う」

「キスしてくれたら離す」

「はっ?」
 彼の顔を見上げる。
 冗談……じゃないみたい。
 彼の眼がそう言っていた。

 キス。加賀宮さんとはキス以上のことをしているけど、改めて言われるとすごく恥ずかしい。

 その時――。
<ガチャン>
 玄関のドアが開く音がした。

 孝介が帰ってきたんだ。
 しかし――。

「ちょっと!加賀宮さん!」
 小声で抵抗するも、彼は離してくれない。
 廊下を歩く音が聞こえる。
 
 マズいっ!
 私は観念して背伸びをし、彼の頬にチュッとキスをした。
 彼は唇を一瞬指差したが、孝介がリビングに戻る前に私をしてくれた。


「すみません。お待たせしました。あれ?どうしたんですか?」

 リビングに立っている加賀宮さんを不思議そうに孝介は見つめた。
 重そうなコンビニの袋を持っている、何本かお酒が見えた。

「美月さんにトイレを案内してもらったんです。お酒、ありがとうございます」

「ああ。そうだったんですね」

 孝介は彼の返答に納得し
「どうぞ座ってください」
 声をかけた。

 良かった。見られてない。
 ふぅと胸を撫で下ろす。

 が――。

「九条さん。帰ってきて早々申し訳ないんですが、ビジネスのご相談をしたくて」

 缶ビールを開けながら
「はい。何でしょう?」
 ビジネスの話と聞いて、その動きがピタッと止まった。

「今、うちの会社でカフェを数店舗経営しているんですが、社員が新メニューに悩んでいるみたいなんです。何度か試食しているんですが、僕も納得いくようなものが作れていなくて。今度の新メニューのコンセプトが家庭料理なんです。先程、美月さんにはさせていただきましたが、もし良かったらにメニューを監修してほしいんです。今日作ってもらった美月さんの料理は見事でした。残っている僅かな食材で数品作り、短時間で提供できるなんて。ことは、孝介さんが一番よく知っていると思いますけど」

「えっ」

「ええっ」

 孝介と同時に声が漏れてしまった。
 そんなこと何も聞いてない!料理?監修?

 それ、本気で言っているの?

「そんなっ!嬉しいお話ですが、美月は社会に出たことがあまりないんです。皆さんに教える立場になるなんて、ご迷惑をかけてしまうんじゃないかと心配です」

 予想外のことに孝介もアタフタしている。
 私が社会に出たことがないなんて、嘘だ。高校生の時からアルバイトをしてたし、あなたと結婚する前まで普通にOLしてたけど。

「美月は?まさか、簡単にお願いしますなんて言ってないよね?」
 彼は視線で断れという合図を送ってくる。

「孝介さんに相談しないと答えられないってまだ返事をもらえていないんですよ。もちろん、これはビジネスですから。報酬はお支払いしますし、サブスクとこのカフェをきっかけに、九条グループの皆様と仲良くさせていただきたいと思っています。もし不安に思うところがあるのなら、僕の方から社長であるお父様の剛史さんにお話をさせていただいても構わないのですが」

 お義父さんなら、喜んで受けろって言いそうな気がする。
 義父にまで交渉しようとするなんて、加賀宮さん本気なんだ。孝介はお義父さんの名前を聞いて、反応している。
 勝手に断って怒られるのは孝介だもんね。

「ありがとうございます。申し訳ございません。父に、僕の方から相談しても良いですか?」

「ええ。もちろん」

 私を抜きにして勝手に話が進んでいる。
 私には決定権がないから、何とも言えないけど。

「このお話は後日でも……」
 孝介が提案したが
「明日、九条社長とお会いする予定なんです。そこでお話できたらと思っていたんですが。あっ、そうですね!やっぱり、から社長にお話した方が良いですよね、明日お会いするんだし……」

 加賀宮さんはすみませんと言いながら、やんわりと孝介に圧力をかけた気がした。社長じゃないと判断ができないのか。そんな風に。

 孝介のプライドが傷ついたのか
「いや……。ぜひ……。ぜひ、そのお話受けさせていただきます!美月も自分の趣味が役に立てて嬉しいと思います。な、美月?」
 
 加賀宮さんの話が本当だとして、確かにこの家にずっと一人で居るより、美和さんと顔を合わせるより、良いかもしれない。

「私でお役に立てるのであれば」
 そう答えた。

「嬉しいです!ありがとうございます!」
 
 加賀宮さんは手をパッと合わせ、喜んでいるように見えた。
 彼が仕事モードだと本当に「良い人」に見えてしまう。

「美月さんとの契約書については、後日準備させていただきます。あと、報酬の件は……」

「報酬なんて、ボランティアでも良いくらいですよ。お役に立てるのであれば、何よりです!」
 
 孝介は腹を括ったのか、態度を一変させた。渋っていたのが嘘みたいだ。

「詳細が決まり次第、すぐご連絡させていただきます。美月さんの連絡先を伺ってもよろしいでしょうか?何かとご連絡させていただく機会が増えると思いますので」

「そ……うですよね。もちろんです。美月、スマホを持っておいで?加賀宮さんと交換しなさい」

 加賀宮さんと連絡先の交換?
 本当は知っているけど……。なんて言えるわけない。
 

「はい。わかりました」

 私はで加賀宮さんと連絡先を交換した。

「美月さんには、カフェに来ていただく日取りが決まりましたら、ご連絡いたします。その前に本社でいろいろとご相談をさせていただきたいと思っていますが」

「はい。よろしくお願いいたします」
 私は軽く頭を下げた。

 その後、孝介と加賀宮さんは二人で雑談をしながらお酒を飲み、私はただ近くでその光景を見学していた。

 仕事の話をすることになったって帰ってきたけど、ただの雑談じゃない。
 私をカフェ事業へと誘ってくれたのは、今日思い付いた、ただの気まぐれなの?監修の話はそもそも本当?
 
 加賀宮さんのことを信じ切れていない私は、モヤモヤしながら過ごしていた。

 孝介が酔いが回ってきたようで、多弁になった。目もうつろだ。
 そろそろ止めなきゃ。

「あなた、大丈夫?お酒はそろそろ控えた方が……」

「だいじょうぶ……だよ!お前は黙ってろ。今日はとっても良い日なんだ……」

 そう言って机にうつ伏せになると、孝介から寝息が聞こえてきた。

「ちょっと!起きて!」
 肩を揺らすも起きそうな気配はない。

 なんて失礼な人なんだろう、お客様の前でこんな姿になって。
 飲み会とかでもこうなのかしら。

、寝室はどっち?孝介こいつを運ぶから」

 の加賀宮さんの口調だ。

「えっ。あっちだけど……」

 加賀宮さんは席を立ち、孝介を抱え、私が指差した寝室へと連れて行こうとした。

「あっ。ちょっと待って。重いでしょ?」
 
 私も身体の半分を支え、ベッドへと寝かせた。
 一瞬唸ったが、しばらくすると寝息が聞こえた。

 加賀宮さんと二人でリビングに戻る。
 
 彼はふぅと息を吐いた後
「酒飲むと寝るって情報は本当なんだな」
 そう呟いた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

あなたが初めて

はなおくら
恋愛
お見合いをしたマリー、出会った青年と話すうちに次第に弾かれていくのだが、突然その相手からもう会わないと言われて…。

睡蓮

樫野 珠代
恋愛
入社して3か月、いきなり異動を命じられたなぎさ。 そこにいたのは、出来れば会いたくなかった、会うなんて二度とないはずだった人。 どうしてこんな形の再会なの?

【完結】あなたに恋愛指南します

夏目若葉
恋愛
大手商社の受付で働く舞花(まいか)は、訪問客として週に一度必ず現れる和久井(わくい)という男性に恋心を寄せるようになった。 お近づきになりたいが、どうすればいいかわからない。 少しずつ距離が縮まっていくふたり。しかし和久井には忘れられない女性がいるような気配があって、それも気になり…… 純真女子の片想いストーリー 一途で素直な女 × 本気の恋を知らない男 ムズキュンです♪

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

甘い束縛

はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。 ※小説家なろうサイト様にも載せています。

お見合いから本気の恋をしてもいいですか

濘-NEI-
恋愛
元カレと破局して半年が経った頃、母から勧められたお見合いを受けることにした涼葉を待っていたのは、あの日出逢った彼でした。 高橋涼葉、28歳。 元カレとは彼の転勤を機に破局。 恋が苦手な涼葉は人恋しさから出逢いを求めてバーに来たものの、人生で初めてのナンパはやっぱり怖くて逃げ出したくなる。そんな危機から救ってくれたのはうっとりするようなイケメンだった。 優しい彼と意気投合して飲み直すことになったけれど、名前も知らない彼に惹かれてしまう気がするのにブレーキはかけられない。

フリーランスエンジニアの優しすぎる無償の愛

春咲さゆ
恋愛
26歳OLの木崎茉莉は人生のどん底にいた。上手くいかないことに慣れ、心を凍らせることで自分を守る毎日に絶望した茉莉は、雨の夜に思わず人生の終わりを願ってしまう。そんな茉莉に手を差し伸べたかっこいい彼。茉莉は、なぜか無償の愛のような優しさをくれる不思議な男性に少しずつ救われ、前を向いていく。けれど、疑ってしまうほど親切な彼には、親切であり続ける理由があって……。雨の夜の出会いがもたらした、優しくも切ない物語。

逃げる太陽【完結】

須木 水夏
恋愛
 黒田 陽日が、その人に出会ったのはまだ6歳の時だった。  近所にある湖の畔で、銀色の長い髪の男の人と出会い、ゆっくりと恋に落ちた。  湖へ近づいてはいけない、竜神に攫われてしまうよ。  そんな中、陽日に同い年の婚約者ができてしまう。   ✩°。⋆☆。.:*・゜  つたない文章です。 『身代わりの月』の姉、陽日のお話です。 ⭐️現代日本ぽいですが、似て非なるものになってます。 ⭐️16歳で成人します。 ⭐️古い伝承や言い伝えは、割と信じられている世界の設定です。

処理中です...