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願い 1
加賀宮さんの頭の下に氷枕を置いた後――。
キッチンに立ち、食事の準備をしていた。
そういえば、加賀宮さんって嫌いな食べ物とかあるのかな?
念のため聞きに行こうとしたら、もう彼は寝ていた。
せっかく眠れたのに起こしちゃうのも可哀想だと思い、しばらく何もせず近くに座っていた。
彼の顔をチラッと見る。
「綺麗な顔……」
思わず呟いてしまったが、なんだか苦しそうだ。
声、かけた方が良いかな。
「加賀宮さん、大丈夫?」
小声で訊ねるも、彼はまだ寝ている。
苦しそう、大丈夫かな。
起こそうか悩んでいると、彼がパッと目を開けた。起きたみたいだ。
私が水を渡した後も顔色が悪い。
風邪とか熱とかじゃなくて、悪夢ってやつのせい?
「ねぇ、大丈夫?そんなに怖い夢見たの?嫌な夢は、人に話した方が良いってどこかで聞いたことある。迷信かもだけど。私で良かったら聞くよ」
きっと話してくれない。
「大丈夫」加賀宮さんならそう言うと思っていた。
でも彼は
「昔の夢。子どもだった頃の」
そう教えてくれた。
加賀宮さんの子どもだった頃の夢?
どんな子だったんだろう。
「うん。それがどうして悪夢?」
「話したら、美月に嫌われる」
子どもの頃の話なのに、どうして私が加賀宮さんのことを嫌いになるの?
嫌われるって、そんなことを言う彼は、本当にいつもの彼らしくない。
自信満々で、何でも知っていて、強気で、仕事もできる加賀宮さん。
身体はもちろん、精神的にも疲れてるのかな。
加賀宮さんには酷いことされたけど、結局はいつも助けてくれて。
悪い人じゃないって、それだけは今わかるから――。
「どうして嫌いになるの?あんなことされて、許せないって思ってたけど。今は加賀宮さんに感謝してる。だから教えて?あなたのこと、知りたい」
ふぅと彼は一呼吸したあと
「子どもの頃、血は繋がっていない母親に性的虐待を受けてた。父親はアルコール依存症で。結局、母親に行為を強要されてた時に、酔った父親が帰ってきて。父親は母親じゃなく、俺を責めて。ボコボコになるまで殴った。様子がおかしいって近所が通報してくれたおかげで俺は助かったけど。それから保護されて、施設で育った。体調が悪い時はいつも悪夢を見るんだ」
えっ……。
彼は淡々と話す。私は内容を頭で整理するのが精一杯だった。
加賀宮さんのこと知りたいって思って聞いた。
私が触れても良かったのか?そう考えさせられる過去に、言葉が出てこない。
「ごめんなさい。そんな辛いこと」
「いや。なんでだろうな。話すつもりなかったのに」
あーと加賀宮さんは声を出し
「過去のせいにしちゃダメだけど、だからどうやって人を愛せば良いのかわからない。愛情表現が歪んでるんだ、俺」
私はなんて答えてあげれば良いの?
少しでも彼の気持ちを楽にしてあげたい。
「美月、今日はもう帰って大丈夫だよ。あと、もうここに来なくていい」
「えっ?」
突然のさよならとも言える発言に混乱する。
「どうして?」
ドクンドクンと心臓が鳴っているのがわかる。
それは大好きな人との別れのように、嫌だって身体が反応しているんだ。
私、加賀宮さんのこと……。
「ここに来たら俺は美月の身体を……。美月の全部を求めちゃうから。もう傷つけたくない」
彼と二人で会えなくなる?
こうやって普通に話せなくなるの?
「なっんで……?そんなこと言うの。私、迅くんと話すの楽しいのに」
身体が自然と動いた。
私は加賀宮さんを後ろから抱きしめていた。
あれ?どうして名前で呼んじゃったんだろ。
「美月?」
加賀宮さんも戸惑っている。
「夢の中と同じ美月だな」
「えっ?」
夢の中の私?加賀宮さんの夢の中に私も出てきたの?
「それ、本気で言ってる?俺と話すの楽しいって」
「うん。本当」
彼はフッと笑って
「じゃあ、さっきの言葉は撤回な?関係は終わらせない」
彼の言葉を聞き、ホッとした自分がいた。
「うん」
返事をしたものの、罪悪感が残る。
私、結婚してるのに。男の人に自分から抱きついてる。
それに、加賀宮さんとの関係を終わらせたくないって思っちゃった。
「美月、なんか腹減った」
彼の言葉でハッと我に返る。
あっ、そうだ。ご飯作る途中だ。
「ごめん、今すぐご飯作るね」
彼から離れ、キッチンへ向かう。
「いただきます」
私が作ったうどんを彼が一口食べる。
「あっつ!けど美味い」
食欲もあるようだし、顔色もさっきより良いみたい。
彼が箸を止めることはなかった。
「はい、薬飲んで」
お水と薬を彼に渡す。
「ありがとう」
「食器、片付けてくる。休んでて良いからね」
私が食器を片付けて戻ると、加賀宮さんはまだ起きていた。
「もうちょっと起きてて、薬が効いてきたら軽くシャワー浴びて寝るよ。汗かいたし」
私は帰宅することにした。
早く治すには、ゆっくり休むのが一番だと思う。
大丈夫だって言っているのに、玄関先まで加賀宮さんが見送ってくれた。
「今日はありがとう。治ったら何かお礼するから」
「いいよ。加賀宮さんにはいろいろお世話になってるから。ちゃんと休んで、早く良くなってね」
「ああ」
タクシーから降り、自宅マンションに帰ろうとした時だった。
マンション前を大型犬が散歩していた。
ちょっと苦手、なんだよな。大きなワンちゃん。
可愛いって思うんだけど、触りたいとは思えない。
それは、私が小さい時に犬に噛まれそうになったことがあるからだって、昔お母さんが教えてくれた。
私の横を通り過ぎる時――。
急にわんちゃんが私に飛び掛かってきた。
「うわぁっ!」
びっくりして、思わず叫んじゃった。
飼い主さんがリードを引っ張り、わんちゃんを止めてくれた。
尻尾を振っていて、私に敵意なんてないのに。酷い反応しちゃった。
「すみません」
飼い主さんが謝ってくれた。
「いえ、こちらこそすみませんっ!」
深くお辞儀をして謝る。
あれっ、なんか気持ち悪い。
何だろう、この感覚。頭の中がモヤモヤしてる。
急に頭の中に何かの映像が浮かんできて、小さい頃、大きな犬に襲われそうになった時――。
助けてくれたのは、大人?じゃない――。
男の子?
キッチンに立ち、食事の準備をしていた。
そういえば、加賀宮さんって嫌いな食べ物とかあるのかな?
念のため聞きに行こうとしたら、もう彼は寝ていた。
せっかく眠れたのに起こしちゃうのも可哀想だと思い、しばらく何もせず近くに座っていた。
彼の顔をチラッと見る。
「綺麗な顔……」
思わず呟いてしまったが、なんだか苦しそうだ。
声、かけた方が良いかな。
「加賀宮さん、大丈夫?」
小声で訊ねるも、彼はまだ寝ている。
苦しそう、大丈夫かな。
起こそうか悩んでいると、彼がパッと目を開けた。起きたみたいだ。
私が水を渡した後も顔色が悪い。
風邪とか熱とかじゃなくて、悪夢ってやつのせい?
「ねぇ、大丈夫?そんなに怖い夢見たの?嫌な夢は、人に話した方が良いってどこかで聞いたことある。迷信かもだけど。私で良かったら聞くよ」
きっと話してくれない。
「大丈夫」加賀宮さんならそう言うと思っていた。
でも彼は
「昔の夢。子どもだった頃の」
そう教えてくれた。
加賀宮さんの子どもだった頃の夢?
どんな子だったんだろう。
「うん。それがどうして悪夢?」
「話したら、美月に嫌われる」
子どもの頃の話なのに、どうして私が加賀宮さんのことを嫌いになるの?
嫌われるって、そんなことを言う彼は、本当にいつもの彼らしくない。
自信満々で、何でも知っていて、強気で、仕事もできる加賀宮さん。
身体はもちろん、精神的にも疲れてるのかな。
加賀宮さんには酷いことされたけど、結局はいつも助けてくれて。
悪い人じゃないって、それだけは今わかるから――。
「どうして嫌いになるの?あんなことされて、許せないって思ってたけど。今は加賀宮さんに感謝してる。だから教えて?あなたのこと、知りたい」
ふぅと彼は一呼吸したあと
「子どもの頃、血は繋がっていない母親に性的虐待を受けてた。父親はアルコール依存症で。結局、母親に行為を強要されてた時に、酔った父親が帰ってきて。父親は母親じゃなく、俺を責めて。ボコボコになるまで殴った。様子がおかしいって近所が通報してくれたおかげで俺は助かったけど。それから保護されて、施設で育った。体調が悪い時はいつも悪夢を見るんだ」
えっ……。
彼は淡々と話す。私は内容を頭で整理するのが精一杯だった。
加賀宮さんのこと知りたいって思って聞いた。
私が触れても良かったのか?そう考えさせられる過去に、言葉が出てこない。
「ごめんなさい。そんな辛いこと」
「いや。なんでだろうな。話すつもりなかったのに」
あーと加賀宮さんは声を出し
「過去のせいにしちゃダメだけど、だからどうやって人を愛せば良いのかわからない。愛情表現が歪んでるんだ、俺」
私はなんて答えてあげれば良いの?
少しでも彼の気持ちを楽にしてあげたい。
「美月、今日はもう帰って大丈夫だよ。あと、もうここに来なくていい」
「えっ?」
突然のさよならとも言える発言に混乱する。
「どうして?」
ドクンドクンと心臓が鳴っているのがわかる。
それは大好きな人との別れのように、嫌だって身体が反応しているんだ。
私、加賀宮さんのこと……。
「ここに来たら俺は美月の身体を……。美月の全部を求めちゃうから。もう傷つけたくない」
彼と二人で会えなくなる?
こうやって普通に話せなくなるの?
「なっんで……?そんなこと言うの。私、迅くんと話すの楽しいのに」
身体が自然と動いた。
私は加賀宮さんを後ろから抱きしめていた。
あれ?どうして名前で呼んじゃったんだろ。
「美月?」
加賀宮さんも戸惑っている。
「夢の中と同じ美月だな」
「えっ?」
夢の中の私?加賀宮さんの夢の中に私も出てきたの?
「それ、本気で言ってる?俺と話すの楽しいって」
「うん。本当」
彼はフッと笑って
「じゃあ、さっきの言葉は撤回な?関係は終わらせない」
彼の言葉を聞き、ホッとした自分がいた。
「うん」
返事をしたものの、罪悪感が残る。
私、結婚してるのに。男の人に自分から抱きついてる。
それに、加賀宮さんとの関係を終わらせたくないって思っちゃった。
「美月、なんか腹減った」
彼の言葉でハッと我に返る。
あっ、そうだ。ご飯作る途中だ。
「ごめん、今すぐご飯作るね」
彼から離れ、キッチンへ向かう。
「いただきます」
私が作ったうどんを彼が一口食べる。
「あっつ!けど美味い」
食欲もあるようだし、顔色もさっきより良いみたい。
彼が箸を止めることはなかった。
「はい、薬飲んで」
お水と薬を彼に渡す。
「ありがとう」
「食器、片付けてくる。休んでて良いからね」
私が食器を片付けて戻ると、加賀宮さんはまだ起きていた。
「もうちょっと起きてて、薬が効いてきたら軽くシャワー浴びて寝るよ。汗かいたし」
私は帰宅することにした。
早く治すには、ゆっくり休むのが一番だと思う。
大丈夫だって言っているのに、玄関先まで加賀宮さんが見送ってくれた。
「今日はありがとう。治ったら何かお礼するから」
「いいよ。加賀宮さんにはいろいろお世話になってるから。ちゃんと休んで、早く良くなってね」
「ああ」
タクシーから降り、自宅マンションに帰ろうとした時だった。
マンション前を大型犬が散歩していた。
ちょっと苦手、なんだよな。大きなワンちゃん。
可愛いって思うんだけど、触りたいとは思えない。
それは、私が小さい時に犬に噛まれそうになったことがあるからだって、昔お母さんが教えてくれた。
私の横を通り過ぎる時――。
急にわんちゃんが私に飛び掛かってきた。
「うわぁっ!」
びっくりして、思わず叫んじゃった。
飼い主さんがリードを引っ張り、わんちゃんを止めてくれた。
尻尾を振っていて、私に敵意なんてないのに。酷い反応しちゃった。
「すみません」
飼い主さんが謝ってくれた。
「いえ、こちらこそすみませんっ!」
深くお辞儀をして謝る。
あれっ、なんか気持ち悪い。
何だろう、この感覚。頭の中がモヤモヤしてる。
急に頭の中に何かの映像が浮かんできて、小さい頃、大きな犬に襲われそうになった時――。
助けてくれたのは、大人?じゃない――。
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