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対決 2
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美和なんて、私の前では言わなかった。
演技のためか私の前では<さん>を付けて呼んでいたのに。
一歩、二歩、後ずさりをして、孝介!から距離を取った。
その時――。
私のスマホが鳴った。
誰?
電話に出られる状態じゃない。
孝介から目線を外すことができない。
しかしコールは鳴りやまなかった。
すると
「おい、うるせーな。誰だ、電話の相手」
孝介が電話の方へ意識を向けてくれた。
震えそうになる手で、近くに置いてあったバッグの中からスマートフォンを取り出す。
着信の相手は――。
「加賀宮……社長からだよ」
迅くんだった。
どうしたんだろ。孝介が家に居る時は、かけてくることなんてなかったのに。
「出ろ」
孝介が私に指示をした。
画面をタップし
「お世話になっております」
あくまで仕事のように対応した。
<逃げろ>
迅くんがとても低い声でそう言った。
「えっ?」
聞き取れるかどうかの小さな声だ。
孝介に聞かれないように配慮してくれてる?
予想もしなかった言葉に思わず素で返事をしてしまった。
<このまま電話をした状態で外に出て>
もしかしてこの状況、迅くんは知っているの?
孝介は私を睨みつけたままだ。
<俺と電話してるって、孝介はわかってるだろ?この状況で手を出してくることはない。スマホを持ったまま、外に逃げろ>
迅くん、この状況、カメラで見ているの?
「ええ。はい。わかりました」
私はバッグを持ち、外に出ようと玄関に向かう。
が――。
「どこ行くんだよ」
真後ろに孝介が立ち、肩を掴まれる。
どうしよう。
この距離なら迅くんの声も聞こえちゃうかもしれないし、なんて言えば。
ドクンドクンと心臓の鼓動が聞こえる。
呼吸も上手くできない。
立ち止まり、動けずにいた時だった。
孝介のスマホが鳴った。
彼はポケットからスマホを取り出し、相手を確認している。
「父さん?」
お義父さん!?このタイミングで?
誰でもいい。お願い、電話に出て!
「もしもし?どうしたの?」
孝介が電話に出た瞬間、私は走り出し、玄関から飛び出した。
靴など履いていられない。
「おいっ!!」
孝介が私を呼び止める声が聞こえたが、無視をした。
エレベーターを使わず、階段をかけ下りる。
「迅くんっ、助けて」
電話がまだ繋がっているため、彼に思わず助けを求めた。
<わかってる。今向かっているから。とりあえず、孝介に見つからないようなところへ隠れて>
息が切れる。
後ろを振り返る勇気がなかった。
マンションのエントランスから外へ出て、近くの公園まで走る。孝介が追ってくることはなかった。
「はぁっ……はぁっ……はぁ……」
呼吸を整えようと、深く息を吸ったり吐いたりするので精一杯だ。
<大丈夫か?今、どこにいる?>
あっ、まだ電話繋がったままだ。
「近くのっ……。公園にいるよっ」
<もうすぐ着くから>
迅くんからそう言われた数分後、見たことのある車が近くに停まった。
「大丈夫か!?」
迅くんと亜蘭さんが迎えに来てくれた。
「大丈夫」
「とりあえず、車に乗ってください。あっ!美月さん、足、どうしたんですか?」
「慌てて出てきたから。靴も履けなくて」
そういえば、足裏が痛い。
「暴れんなよ?」
「キャッ!」
迅くんが私を抱えてくれた。
「ちょっ、迅くん。大丈夫!歩けるから!もしかしたら孝介が近くにいるかもしれないしっ……」
私を追いかけて、近くにいるかもしれない。
「別に見られても問題ない。靴履いてないって言えばいい」
そのままの理由でいいの!?
彼に抱えられたまま、亜蘭さんが運転する車に乗った。
「とりあえず、俺のオフィスに行くから。そこでいろいろ説明する」
「わかった」
逃げるように出てきてしまった私を、孝介はどんな風に思ってるんだろう。
私が帰った時の孝介の取り乱し方、尋常じゃなかった。
何があったの?迅くんなら何か知ってるのかな。
「足、大丈夫かよ。見せて?」
渋々迅くんに見せる。
「ところどころ擦り切れてる。オフィス着いたら、足洗って消毒だな」
「大丈夫だよ、これくらい」
「ダメ」
彼は私に対しては過保護。
あれ……。なんか安心したら、涙が出てきた。
迅くんも、亜蘭さんも居て、安心したから?
「ごめん。なんか二人が居ると思ったら。安心したからか、涙が出てきちゃった」
目を擦るけど、止まらない。
「怖かったよな、大丈夫だから」
迅くんは車の中でそっと肩を抱き寄せてくれた。
「お姫様抱っことおんぶ、どっちがいい?」
オフィスに着き、車から降りる時にそう訊ねられた。
<裸足でも大丈夫>なんて言っても<絶対ダメ>って言われるよね。
抱っことおんぶ、どっちも恥ずかしいけど……。
「おんぶ」
一言返事をする。
迅くんはフッと笑い、背中をかしてくれた。彼の背中に掴まった。
あっ、子どもの頃も迅くんにおんぶしてもらったことがあるような気がする。
「ねぇ。昔も私が転んだ時におんぶしてくれたよね?」
「よくそんなこと覚えてるな」
やっぱりそうだ。
彼は昔から私を守ってくれた。
今日だって、迅くんがいなかったら私は……。
ギュッと彼の肩にしがみついてしまった。
「もう大丈夫だよ」
迅くんがそう言ってくれた。
また戻って来ちゃった。
さっきまでここのソファに座っていたのに。
ソファに座らせてもらい、タオルで足を拭き、消毒をした。
迅くんがほとんどやってくれたから<消毒してもらった>が正解かもしれないけど。
「迅くん、カメラで見てたの?孝介の様子」
あの窮地にタイミングよく電話をかけてくれたってことは、リアルタイムで見てたってこと?気になっていたことを素直に彼に聞いた。
「まぁ……な」
あっれ?
歯切れが悪い返事。
「加賀宮さん、美月さんには話しておくべきです。九条孝介が取り乱した理由。美月さんがここに避難して来ている時点で、もう帰宅できる状態ではありません。あの人に何をされるかわかりませんよ。証拠は揃ったんです。結局は、あの家政婦の証言も利用しなきゃいけないんですから」
亜蘭さんは知ってるんだ。
「あー。わかったよ。二人になりたいから、亜蘭、美月の靴買ってきて?」
えっ。どうしよ。
手持ちのお金、いくらあったっけ?
お財布の中を確認しようとすると
「金は要らない」
迅くんに止められる。
「わかりました」
亜蘭さんはオフィスから出ていき、迅くんと二人きりになった。
「こんなに話が進むと思わなくて、予定が狂った」
「どういうこと?」
しばらくの沈黙。
私に言いにくいこと?
「不倫の確実な証拠を集めるために、美和に近づいた」
「えっ」
あの女って、美和さんのこと?
「別宅として借りているマンションの家政婦に一時的になってもらった。それで、気のあるような素振りをして、食事に誘い、俺を信頼させた。孝介との関係については、全部吐いてもらったよ。もちろん録音済みだ。あの女、簡単に落ちたよ、俺に」
頭の中で整理する。
それはつまり、ハニートラップってこと?
演技のためか私の前では<さん>を付けて呼んでいたのに。
一歩、二歩、後ずさりをして、孝介!から距離を取った。
その時――。
私のスマホが鳴った。
誰?
電話に出られる状態じゃない。
孝介から目線を外すことができない。
しかしコールは鳴りやまなかった。
すると
「おい、うるせーな。誰だ、電話の相手」
孝介が電話の方へ意識を向けてくれた。
震えそうになる手で、近くに置いてあったバッグの中からスマートフォンを取り出す。
着信の相手は――。
「加賀宮……社長からだよ」
迅くんだった。
どうしたんだろ。孝介が家に居る時は、かけてくることなんてなかったのに。
「出ろ」
孝介が私に指示をした。
画面をタップし
「お世話になっております」
あくまで仕事のように対応した。
<逃げろ>
迅くんがとても低い声でそう言った。
「えっ?」
聞き取れるかどうかの小さな声だ。
孝介に聞かれないように配慮してくれてる?
予想もしなかった言葉に思わず素で返事をしてしまった。
<このまま電話をした状態で外に出て>
もしかしてこの状況、迅くんは知っているの?
孝介は私を睨みつけたままだ。
<俺と電話してるって、孝介はわかってるだろ?この状況で手を出してくることはない。スマホを持ったまま、外に逃げろ>
迅くん、この状況、カメラで見ているの?
「ええ。はい。わかりました」
私はバッグを持ち、外に出ようと玄関に向かう。
が――。
「どこ行くんだよ」
真後ろに孝介が立ち、肩を掴まれる。
どうしよう。
この距離なら迅くんの声も聞こえちゃうかもしれないし、なんて言えば。
ドクンドクンと心臓の鼓動が聞こえる。
呼吸も上手くできない。
立ち止まり、動けずにいた時だった。
孝介のスマホが鳴った。
彼はポケットからスマホを取り出し、相手を確認している。
「父さん?」
お義父さん!?このタイミングで?
誰でもいい。お願い、電話に出て!
「もしもし?どうしたの?」
孝介が電話に出た瞬間、私は走り出し、玄関から飛び出した。
靴など履いていられない。
「おいっ!!」
孝介が私を呼び止める声が聞こえたが、無視をした。
エレベーターを使わず、階段をかけ下りる。
「迅くんっ、助けて」
電話がまだ繋がっているため、彼に思わず助けを求めた。
<わかってる。今向かっているから。とりあえず、孝介に見つからないようなところへ隠れて>
息が切れる。
後ろを振り返る勇気がなかった。
マンションのエントランスから外へ出て、近くの公園まで走る。孝介が追ってくることはなかった。
「はぁっ……はぁっ……はぁ……」
呼吸を整えようと、深く息を吸ったり吐いたりするので精一杯だ。
<大丈夫か?今、どこにいる?>
あっ、まだ電話繋がったままだ。
「近くのっ……。公園にいるよっ」
<もうすぐ着くから>
迅くんからそう言われた数分後、見たことのある車が近くに停まった。
「大丈夫か!?」
迅くんと亜蘭さんが迎えに来てくれた。
「大丈夫」
「とりあえず、車に乗ってください。あっ!美月さん、足、どうしたんですか?」
「慌てて出てきたから。靴も履けなくて」
そういえば、足裏が痛い。
「暴れんなよ?」
「キャッ!」
迅くんが私を抱えてくれた。
「ちょっ、迅くん。大丈夫!歩けるから!もしかしたら孝介が近くにいるかもしれないしっ……」
私を追いかけて、近くにいるかもしれない。
「別に見られても問題ない。靴履いてないって言えばいい」
そのままの理由でいいの!?
彼に抱えられたまま、亜蘭さんが運転する車に乗った。
「とりあえず、俺のオフィスに行くから。そこでいろいろ説明する」
「わかった」
逃げるように出てきてしまった私を、孝介はどんな風に思ってるんだろう。
私が帰った時の孝介の取り乱し方、尋常じゃなかった。
何があったの?迅くんなら何か知ってるのかな。
「足、大丈夫かよ。見せて?」
渋々迅くんに見せる。
「ところどころ擦り切れてる。オフィス着いたら、足洗って消毒だな」
「大丈夫だよ、これくらい」
「ダメ」
彼は私に対しては過保護。
あれ……。なんか安心したら、涙が出てきた。
迅くんも、亜蘭さんも居て、安心したから?
「ごめん。なんか二人が居ると思ったら。安心したからか、涙が出てきちゃった」
目を擦るけど、止まらない。
「怖かったよな、大丈夫だから」
迅くんは車の中でそっと肩を抱き寄せてくれた。
「お姫様抱っことおんぶ、どっちがいい?」
オフィスに着き、車から降りる時にそう訊ねられた。
<裸足でも大丈夫>なんて言っても<絶対ダメ>って言われるよね。
抱っことおんぶ、どっちも恥ずかしいけど……。
「おんぶ」
一言返事をする。
迅くんはフッと笑い、背中をかしてくれた。彼の背中に掴まった。
あっ、子どもの頃も迅くんにおんぶしてもらったことがあるような気がする。
「ねぇ。昔も私が転んだ時におんぶしてくれたよね?」
「よくそんなこと覚えてるな」
やっぱりそうだ。
彼は昔から私を守ってくれた。
今日だって、迅くんがいなかったら私は……。
ギュッと彼の肩にしがみついてしまった。
「もう大丈夫だよ」
迅くんがそう言ってくれた。
また戻って来ちゃった。
さっきまでここのソファに座っていたのに。
ソファに座らせてもらい、タオルで足を拭き、消毒をした。
迅くんがほとんどやってくれたから<消毒してもらった>が正解かもしれないけど。
「迅くん、カメラで見てたの?孝介の様子」
あの窮地にタイミングよく電話をかけてくれたってことは、リアルタイムで見てたってこと?気になっていたことを素直に彼に聞いた。
「まぁ……な」
あっれ?
歯切れが悪い返事。
「加賀宮さん、美月さんには話しておくべきです。九条孝介が取り乱した理由。美月さんがここに避難して来ている時点で、もう帰宅できる状態ではありません。あの人に何をされるかわかりませんよ。証拠は揃ったんです。結局は、あの家政婦の証言も利用しなきゃいけないんですから」
亜蘭さんは知ってるんだ。
「あー。わかったよ。二人になりたいから、亜蘭、美月の靴買ってきて?」
えっ。どうしよ。
手持ちのお金、いくらあったっけ?
お財布の中を確認しようとすると
「金は要らない」
迅くんに止められる。
「わかりました」
亜蘭さんはオフィスから出ていき、迅くんと二人きりになった。
「こんなに話が進むと思わなくて、予定が狂った」
「どういうこと?」
しばらくの沈黙。
私に言いにくいこと?
「不倫の確実な証拠を集めるために、美和に近づいた」
「えっ」
あの女って、美和さんのこと?
「別宅として借りているマンションの家政婦に一時的になってもらった。それで、気のあるような素振りをして、食事に誘い、俺を信頼させた。孝介との関係については、全部吐いてもらったよ。もちろん録音済みだ。あの女、簡単に落ちたよ、俺に」
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