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対決 5
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次の日――。
「お待たせしました。行きましょうか」
ホテルのエントランスで待っていると、亜蘭さんが迎えに来てくれた。
「はい」
今から緊張している。
大丈夫だと心の中で何度も自分に言い聞かせた。
迅くんのシリウスに到着し、亜蘭さんの後ろをついて行く。
この前とは違う、狭い会議室に通された。
そこには迅くんが座っていた。
孝介とお義父さんの姿は見えない。
「よろしくお願いします」
私が迅くんに頭を下げると、彼はハハっと笑って
「緊張してるな。美月らしく言いたいこと、言えばいいよ。俺は俺でやりたいことやるから」
至って迅くんはいつもの迅くんだ。
迅くんは私に近づき
「これが終わったら嫌だって言うくらい、美月のこと愛したい」
そう耳元で囁かれた。
ゾクっとして、肩に力が入り、身体が反応する。
「今それ、言う!?」
大きな声を出してしまったが、近くにいた亜蘭さんが笑っている。迅くんも余裕そうに笑っていた。
二人のおかげで緊張が解けた気がする。
そんな時、亜蘭さんのスマホが鳴った。
「社長、先方が到着したようです」
「わかった。ここへ案内するように伝えて。美月は、座ってていいよ。向こうから何か言われても返事はしなくていい。俺が合図するから、そこで話して」
「はい」
ここからが勝負だ。
「失礼いたします」
ノックをした後、社員さんだろうか。男性がドアを開けた。
すると――。
その後ろから
「失礼します」
お義父さんと孝介が現われた。
目の前にいる私を見て
「っ!美月?どうしてここに!?」
孝介が声を上げた。
「美月さんがいてもおかしくないだろ。加賀宮さんのカフェを手伝っているんだ。今日は大切な話と聞いているから、彼女が関わっていてもおかしくはないはずだ」
お義父さんは、良い話だと勘違いしているみたい。
「どうぞおかけください」
亜蘭さん以外の全員が座ったあと、まず口を開いたのはお義父さんだった。
「お世話になっております。それで今日のお話とは?息子の孝介と一緒に、ということでしたが」
加賀宮さんは「ええ」と軽く口角を上げたあと
「今日はご相談したいことと、あるお取引きをさせていただきたいと思っております」
そう告げた。
「相談と、取り引きですか」
お義父さんは考えるように首を傾けた。
「はい。九条社長もお忙しいと思いますし、簡単に要件をお伝えしますと、シリウスと九条グループの業務提携のお話を一旦白紙にさせていただきたい。あと、九条孝介さんと美月さんの離婚を承諾してほしいんです」
「なっ!!」
「はぁ!!?」
二人とも個々に驚きの声を上げた。
「ちょっ、それはどういうことですか?業務提携はともかく、僕と美月との離婚って。なぜそういった話になるんでしょうか!?」
孝介が声を大きくした。
「私も突然そのようなことを言われ、理解できません。説明をお願いします」
お義父さんも眉間にシワを寄せている。
「まずは、僕宛てに一種の告発が入ったのがキッカケでした。提携を結ぼうとしている九条グループ社長のご子息である孝介さんが会社のお金を横領していると」
「はっ!?」
孝介の顔色が変わった。
「例を言えば、接待交際費、備品等の改ざん。また、会計係と共謀して給料とは別に会社の資金を自分の口座に振り込ませていたようです」
そんなことしてたんだ。私でも知らなかった事実に驚く。
「証拠はあるんですか?」
お義父さんが冷静に問いかけた。
「もちろんです。佐伯、映像を」
「かしこまりました」
亜蘭さんがパソコンを操作すると、ある映像が映し出された。
そこには旅館のようなところに映っている孝介と――。
孝介の隣には女の人もいる。
あれ、この女の人って。美和さん!?
<すみません。領収書をお願いします>
映像の中の孝介は、フロント係の人にそう伝えている。
「これは、普通に出張に行った時ですよ」
目の前の孝介は弁解をしているけれど……。
<孝介さん、すごい。会社のお金を自由に使えるって、さすが次期社長だね。これからもいろんなところ旅行に行こうね>
美和さんが孝介の右腕を掴みながらそう言った。
<うん。行こうね。こういう時、親が一流企業の社長って楽だよな。領収書なんて深く詮索されないし。ま、したくても怖くてできないんだろ?>
映像の中の彼は<ハハハハハッ>と楽しそうに笑っていた。
「いや、これは……。あのっ」
言い訳が見つからないのだろうか、言葉に詰まっている。
次に映し出されたのは、数人の男性と孝介が夜の街で歩いているところだ。
<今日は俺の奢りだから。って言っても、会社の金だけど。接待交際費で落とすから、どんどん飲んで?あ、この後、風俗行かない?それも俺が出すよ。それも会社の金だけどな>
映像の中の孝介はお酒を飲んでいるのだろうか、多弁だ。
<え、風俗も会社の金で落とせるんですか?>
<風俗っぽくない店の名前ならわからないって。社員なんて、何千人もいるんだぜ。但し書き、飲食代としてって書いてもらうし、店が飲食店っぽい名前ならわからないよ。わかっても父さんの力でなんとかしてもらうけど>
<さすがっすね!>
お金をかけずに遊ぶことができる、社員らしき人も上機嫌のようだ。
「あっ、これは……。冗談ですよ、冗談。あとで自分で払いましたからっ!」
目の前に居る孝介は、汗をかき始めている。
「お待たせしました。行きましょうか」
ホテルのエントランスで待っていると、亜蘭さんが迎えに来てくれた。
「はい」
今から緊張している。
大丈夫だと心の中で何度も自分に言い聞かせた。
迅くんのシリウスに到着し、亜蘭さんの後ろをついて行く。
この前とは違う、狭い会議室に通された。
そこには迅くんが座っていた。
孝介とお義父さんの姿は見えない。
「よろしくお願いします」
私が迅くんに頭を下げると、彼はハハっと笑って
「緊張してるな。美月らしく言いたいこと、言えばいいよ。俺は俺でやりたいことやるから」
至って迅くんはいつもの迅くんだ。
迅くんは私に近づき
「これが終わったら嫌だって言うくらい、美月のこと愛したい」
そう耳元で囁かれた。
ゾクっとして、肩に力が入り、身体が反応する。
「今それ、言う!?」
大きな声を出してしまったが、近くにいた亜蘭さんが笑っている。迅くんも余裕そうに笑っていた。
二人のおかげで緊張が解けた気がする。
そんな時、亜蘭さんのスマホが鳴った。
「社長、先方が到着したようです」
「わかった。ここへ案内するように伝えて。美月は、座ってていいよ。向こうから何か言われても返事はしなくていい。俺が合図するから、そこで話して」
「はい」
ここからが勝負だ。
「失礼いたします」
ノックをした後、社員さんだろうか。男性がドアを開けた。
すると――。
その後ろから
「失礼します」
お義父さんと孝介が現われた。
目の前にいる私を見て
「っ!美月?どうしてここに!?」
孝介が声を上げた。
「美月さんがいてもおかしくないだろ。加賀宮さんのカフェを手伝っているんだ。今日は大切な話と聞いているから、彼女が関わっていてもおかしくはないはずだ」
お義父さんは、良い話だと勘違いしているみたい。
「どうぞおかけください」
亜蘭さん以外の全員が座ったあと、まず口を開いたのはお義父さんだった。
「お世話になっております。それで今日のお話とは?息子の孝介と一緒に、ということでしたが」
加賀宮さんは「ええ」と軽く口角を上げたあと
「今日はご相談したいことと、あるお取引きをさせていただきたいと思っております」
そう告げた。
「相談と、取り引きですか」
お義父さんは考えるように首を傾けた。
「はい。九条社長もお忙しいと思いますし、簡単に要件をお伝えしますと、シリウスと九条グループの業務提携のお話を一旦白紙にさせていただきたい。あと、九条孝介さんと美月さんの離婚を承諾してほしいんです」
「なっ!!」
「はぁ!!?」
二人とも個々に驚きの声を上げた。
「ちょっ、それはどういうことですか?業務提携はともかく、僕と美月との離婚って。なぜそういった話になるんでしょうか!?」
孝介が声を大きくした。
「私も突然そのようなことを言われ、理解できません。説明をお願いします」
お義父さんも眉間にシワを寄せている。
「まずは、僕宛てに一種の告発が入ったのがキッカケでした。提携を結ぼうとしている九条グループ社長のご子息である孝介さんが会社のお金を横領していると」
「はっ!?」
孝介の顔色が変わった。
「例を言えば、接待交際費、備品等の改ざん。また、会計係と共謀して給料とは別に会社の資金を自分の口座に振り込ませていたようです」
そんなことしてたんだ。私でも知らなかった事実に驚く。
「証拠はあるんですか?」
お義父さんが冷静に問いかけた。
「もちろんです。佐伯、映像を」
「かしこまりました」
亜蘭さんがパソコンを操作すると、ある映像が映し出された。
そこには旅館のようなところに映っている孝介と――。
孝介の隣には女の人もいる。
あれ、この女の人って。美和さん!?
<すみません。領収書をお願いします>
映像の中の孝介は、フロント係の人にそう伝えている。
「これは、普通に出張に行った時ですよ」
目の前の孝介は弁解をしているけれど……。
<孝介さん、すごい。会社のお金を自由に使えるって、さすが次期社長だね。これからもいろんなところ旅行に行こうね>
美和さんが孝介の右腕を掴みながらそう言った。
<うん。行こうね。こういう時、親が一流企業の社長って楽だよな。領収書なんて深く詮索されないし。ま、したくても怖くてできないんだろ?>
映像の中の彼は<ハハハハハッ>と楽しそうに笑っていた。
「いや、これは……。あのっ」
言い訳が見つからないのだろうか、言葉に詰まっている。
次に映し出されたのは、数人の男性と孝介が夜の街で歩いているところだ。
<今日は俺の奢りだから。って言っても、会社の金だけど。接待交際費で落とすから、どんどん飲んで?あ、この後、風俗行かない?それも俺が出すよ。それも会社の金だけどな>
映像の中の孝介はお酒を飲んでいるのだろうか、多弁だ。
<え、風俗も会社の金で落とせるんですか?>
<風俗っぽくない店の名前ならわからないって。社員なんて、何千人もいるんだぜ。但し書き、飲食代としてって書いてもらうし、店が飲食店っぽい名前ならわからないよ。わかっても父さんの力でなんとかしてもらうけど>
<さすがっすね!>
お金をかけずに遊ぶことができる、社員らしき人も上機嫌のようだ。
「あっ、これは……。冗談ですよ、冗談。あとで自分で払いましたからっ!」
目の前に居る孝介は、汗をかき始めている。
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