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とりあえず、異世界ものは、主人公が死なないとね

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 俺は武田丈。ひょんなお決まりで、死んでしまった俺は、異世界に転生して、女神様からチートをもらえることになったのであった。

 え? なんで死んだとか先に説明しロッテ? 
 残念ながら、こんな物語にそんな説明を求める方が間違いなのである。そんなこと言い出したら女神様がなんで存在するのとか、そこから説明しなくちゃいけないのである。

「ブサイクでなんの取り柄も無いあなたにチートとかあげる理由あります?」

 超巨乳で、インフィニットドレス姿の超美人な女神様が、赤色の血の一つさえ籠らない感情で俺にそう言いました。
 これからの異世界転生に胸を躍らせる俺は、生前の貧乏生活から脱却できると思い、感動して涙を流していました。

 前世の俺はまさに底辺動画投稿主で、炎上しても全く再生数を増やすことができなかった真の底辺であったのです。そんな俺に、まさか異世界転生が巡ってくるだなんて思いもよらない幸運でした。

「ありがとうございます女神様! 俺を転生させてまさかチートまでくれるなんて!」
「いや、だから話きいてます? 輪廻転生の決まりで生まれ変わるのは決まってますけど、人間にすらなれるかも怪しいのですのよ」

 転生したらチートで無双して、可愛い女の子とちゅっちゅして、ぐへへへ。

「だから、話をきけ!」
「あびゃ!」
 脳天チョップをくらった俺は、痛みに転がりました。なんで女神なのに魔法とか使わず、物理攻撃をしてきたのでしょう。痛みより、そっちの方が驚きです。

「良いですか? 今時、誰も彼もが輪廻転生で人間に生まれ変われるだなんて思い込んですけど、人間になれるともかぎらないのですよ!」
「え……」

 真実を知った俺は愕然として、力が抜けて膝から崩れ落ちてしまいました。

「さて、生前、あなたは人様に散々迷惑をかけて生きていました。それほどの罪を来世で償うには何百年もかかることでしょう。本来は地獄行きですが、今は人口が増えすぎて地獄もいっぱいになっているので、来世で償ってもらいます。とりあえずあなたの来世はミジンコです」

「そんな! 待ってください! ミジンコでどうやって罪を償うのですか!?」

 俺は、女神様の服を引ん剝くほど力の限り縋り付きます。
 あとちょっと……、あとちょっとで見える……。

「やめなさい! 悪いことをしない。他者を助けをする。それだけです!」

「しかし! 人が生きるということは、誰かの犠牲の上によって成り立つものです! 悪いことの区別なんてどうしたら良いのですか!? ミジンコだけは嫌です! 人間にしてください!」

「ええい! 面倒な奴です! だったらそれ以上に他者を助けなさい!」

「じゃあ、その助けた人が殺人鬼だったらどうするんですか!? それはもう、殺人に加担したのと同じ理由ではありませんか!?」
「ぐっ……、確かに……」

 女神様が急に黙りました。なんだか痛いところを突かれたようなそんな感じです。あれ? もしかしたら、女神様って人間の尺度でしか物事を考えていない可能性があるようです?

「お願いです! それならもっと人助けをします! だから人間に生まれ変わらせてください!」

「ダメです! みんな最近は誰も彼もが人間が良いと言って、それで人口が増えすぎています。だから、しばらくは人間はなしです!」

「じゃあ、エルフとか!」

「ああ、それならできないことも無い……。みんな異世界に行って人間としてチートだなんて言うから……。他の人型種族には興味もくれなくなった……」

「じゃあ! イケメンエルフに!」

「なんて言うか!! 転生先はランダムですう!! エルフになれる保証なんてありませーん! いつまでも服を引っ張るな! この変態が!!」

 それはもう見事に、女神様は服に縋り付いている俺にローキックをかましました。
 俺を嘲笑うかのような視線を向けてきて、飛んでいく俺を見送ります。

「そんな……」

「そもそも極悪なお前に転生など身の丈に合わぬ贅沢よ。せめてしばらくミジンコの姿で反省しろ」

「炎上したからってそんなの酷すぎますよ! つか、ミジンコ確定じゃないんでしょ!!」

「顔がミジンコっぽい」

「ふざけんな! 生まれた時から頭も悪くていじめられて、それでみんなを見返そうと思って頑張って動画とか撮ってたけど、全然売れなくて、それでむしゃくしゃしてたらいつの間にか炎上して、俺にはもうどうにもできなかったんです! じゃあ、転生しないっていうのはダメなんですか!?」

「そんな制度はない」

「クソッ……!」

 こうなったら、生き返った瞬間自殺して、リセマラを繰り返すしかない……!
 この記憶を持って絶対に生まれ変わってやる! 俺はそう決めました!

「じゃあ、とっととミジンコにでもなれ」

「クソッ! クソッ! この世界はなんてクソなんだ! 救いなんてどこにもねえじゃねえかよ!」

 俺は絶対にリセマラしてやる……! そして、超絶美少年に生まれ変わったら、今度こそ周りを見返すのだ……! そして、幸せそうな奴らに天誅を下すのだ……。思い知りやがれ人間どもめ!!

 俺が必死に記憶を保とうとしていると、女神様は何か慌てた様子になって、俺の肩を揺らそうとします。

「おい! 記憶を保とうとするな! そんなことをしたらうまく転生できなくなる!」

「けっ! 誰が転生なんか望むかよ! だったらひと思いに完全に俺のことを消滅させや――」
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