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ヤクザ警察発足➁

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 新しい朝が来た。

 お仕置き部屋の扉が開かれ、痛いほどの眩しさに目を閉じて、恐る恐る目を開けると、院長が私を見下ろしてる姿があった。

「反省しましたか?」

「そうか。反省か。忘れていたよ」

「もう一日増やしてもいいのですよ?」

「その前に聞きたいことがある。相手はどうなった?」

「あの子は治療を受けて、今も畑作業に従事しています」

「なぜ、あいつが罰を受けないのだ?」

「簡単なことです。あの子が男だからですよ」

 あぐらをかく私の体に、はたきを使って院長が埃を落してくれる。

「そうか。男だからか。それが社会の常識であるなら、私はこの国の法となろう。いつか仕返しをしてやることに決めた」

「いい加減になさい。私も悔しいですが、この世に女性として生まれたからには、男性様に尽くさねばならないのです。でなければ、酷い目に合いますよ。あなたほど美しい容姿があるならば、良い男を捕まえて庇護を約束してもらうのが一番です」

「そんな生ぬるい生活に屈する私ではない。悔しくないのか? こんなにも女性が辱められて?」

「言ったはずですよ。悔しいと。けれども、いずれは大人になる日が来るのです。男を捕まえたら必ず子供を作りなさい。そうすれば、相手も逃げにくくなります」

「まあ、子供を作るのは構わないが、気に喰わないのだ。差別を受けることが」

「戦地に赴くのはいつだって男性です。私たちは媚を売っていれば良いのです」

「全くこれでは話にならなんな。気が済むまで私を閉じ込めれば良いさ。今の私は男よりも強いのだからな」

「魔力で男性に勝てるはずがないのですよ」

「それはどうかな?」

 私は見せつけるように部屋中に、肥育の魔法をかけた。
 芽を生やし、私の体を覆う。そうすると、数秒のうちに部屋中が草木でうめつくされた。


「やめなさい!」

「どうして?」

「院を壊されたらたまったものではありません!」

「壊す気ならもっと早くにやっている。私の実力を認めないからだ」

「それならもうとっくに認めています! いつだてあなたの畑仕事だけで全員分を賄えたのですよ! それ以上に何を望むのですか!?」

「それなら、文句をつけるな。それでも文句をつけるというなら、私は早々に独り立ちすることにしたよ」

「分かりました……。そんなに上を目指したいのなら、知り合いにお願いをしてあなたの素養を確かめてもらいます」

「知り合い?」

「ええそうです。女性の身でありながら教師の補佐を任されている人です。あなたの素養を見抜く目も持ち合わせているでしょう。とにかく、今は生やした芽を片づけておきなさい。それでお仕置きは終わりです。良いですか? あなたは私にとっても大事な子どもなんです。あなたのことを特別可愛く思わない日なんてないのですよ。あまり他人をいじめないようになさい。あなたが損をするだけですよ」

「あまりか……。しかし、了承した。その……。すまなかったな。私はてっきりあなたから嫌われていると思っていたよ」

「何を言うんですか。同じ女の身でありながら軽蔑することなんてありませんよ。さっ、片付けが終わったら食堂に来なさい。スープを温めておきますから。もうお仕置きは終わりです」

「分かったよママ」




 片づけを終えて食堂に向かうと、その道中女児たちが私を見つけてきて、一斉に取り囲んできた。


「アーシャ様! お体は大丈夫ですか!?」

「あんな奴相手に大した傷なんて負っていない。しかし、心配をかけたな。すまない」


 取り巻きの女児たちの頭を軽くそれぞれ叩いていく。


「そんな! 謝らないでください! なんにもお力になれず、とても申し訳なく思っています!」

「君たちは相変わらず可愛いな。どうだ? 強くなりたいか?」

「はい!」

「では、30分後に玄関に集合してくれ。悪いがこれから食事なんだ」


 女児たちがざわつき、私は食堂へと向かう。
 スープを受け取り、席に着くと、空腹も相まってすぐに啜り始めることにした。

 院長が前の席に座って私の顔をじっと見てくる。
 何も感情が無い様子だが、不思議と嫌な感じはしなかった。
 この人は、感情というものを表に出さない人なのだろう。
 しかし、確かに私のことを愛してくれている。確かにそう思えた。

 食事を終えた私は洗い物を済ませ、女児たちを指導し、魔力量を上げる訓練を指導する。しかし、飽きたの疲れたのだのとあまりにも根性がない奴が多かった。
 やはり、差別は受けるものの、一定の守られる立場に甘えていたのだろう。
 そんな中で、アリスは目を見張るほどの努力をしていた。
 私が指示すれば、喜んで土も食べるし、煮沸したものではあるが、虫だって構わずに食べる。それはもう盲目なほどに、私の言うことには何でも従ってくれた。

 そんなアリスに対して、私は恋心を寄せ始めていた。自分の言いなりになってくれる相手というのはそれほどまでに気分が良いものだ。

 ところで、そろそろペットを紹介しておこうか。
 人間をペットにするなど悪趣味ではあるが、これがたまらなく楽しい。しかも、その男の顔が良いときたら文句のつけようなどないだろう。

「よおポチ。私に対する敬意の言葉はどうした?」

 四つん這いの状態で俯く男の顔を警棒で持ち上げると、男は情けない顔をして私から視線を逸らした。

 男は私の差し出した泥まみれの靴を舐めまわす。

「あっ……、アーシャ様……。今日も私にお声をかけてくださりありがとうございます……。あなたは今日も一段と美しい……」

「そろそろ反省したか?」

 私をいじめた男の髪を掴み上げ、警棒で鼻面を何度も軽く叩く。

「はい……。私は愚かにもアーシャ様に歯向かい、完膚なきまでに倒されました。もう二度と歯向かうことはいたしません」

「それだけではない。女性も男性も同じように力がある。これから先、女性もいじめないと誓うか?」

「はい誓います」

「よかろう。なら、これでペット生活は終わりだ。せっかく首輪も用意したのだが、必要なくなったな」

「あの、アーシャ様。これから先も私はペットを続けてもよろしいですか……?」

 男が寂しそうに、そして、物欲しそうな顔をして私を見る。
 やはり、こいつも私と同じようにマゾヒストだったか。

「ダメだ。お前は自律するんだ。いくら私のペットになったところで、お前の恋が報われることはないぞ」

「それでも良いんです! 服従をさせられた時、今まで心の奥底で燻っていたものが、ようやく、解放されたのを感じたんです! 女性に服従している時こそが一番の幸せだとようやく気が付いたのです!」

「年下の私に服従するとはよほどの変態だな。しかし、何を言われようとも私の気は変わらん。私のペットになりたければ、もっと魅力的な男になってから出直せ。強くて優しくて、私のことだけを思う人間にな」

「はい……」

 実のところ、完全に惚けた男の顔に、私はすっかりあてられていた。
 幼い私の体が少しずつ目覚めようとしているのを感じる。

 しかし、それも仕方がないというもの。

 相手は私の理想に近い顔をしている。妖精のように白い肌と女のように可愛らしい顔だ。捨てておくのも勿体ない。

 しかし、14歳の子供に手を出すなど、私の道理に反しているからな。お互いに関わらない方が身のためだ。

 
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