現役DKアイドルと契約恋人〜超人気イケメンアイドルの正体は執着ストーカー?!

べーこ

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スーパーアイドルは執着ストーカーでした!

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「俺と桃さんの愛の城ですよ。桃さんと一緒に住むために買ったんです」

 連れてこられたのはテレビでしか見たことのない立派なマンションの1室だった。
 俗にタワマンと呼ばれる高層マンションの最上階だ。眺望を優先しているためか窓がものすごく大きい。

 広々とした空間に豪奢な家具が置いてある。
 光沢のある床に、高そうな壁面に、高い天井は高級ホテルのスイートルームのようだ。

 そこは綺麗すぎて生活感を感じられない。
 ネットの画像でしか見たことのない部屋は私のワンルームのアパートの数倍の広さを誇る。
立派すぎる部屋はなんだか居心地が悪い。

「桃さんと2人で暮らすために用意した部屋なんです。桃さんに快適に過ごしてもらうためにいっぱいこだわりを詰めました」

 シオンは私は腰に手を回し、さりげなく抱き寄せる。
 慌てて抵抗するけど、シオンの身体はびくとも動かず、シオンに抱き寄せられたままだった。

「かっ帰る! シオンと私はそんな関係じゃない! だって契約恋人でしょ! シオンのドラマも大成功したし、もう終わりにしよう!」
「帰さない。契約恋人の言葉を本気で信じてたんですね。桃さんって騙されやすいんですね。あんなの桃さんとお近づきになる口実ですよ」

 そしてシオンは私をお姫様抱っこして、部屋の奥へと向かっていく。そして白い扉を開けるとそこは寝室だった。

 扉を開けた瞬間にいい香りが漂う。石鹸のような清潔感のある優しくも洗練された香りだ。
 お姫様が住むような部屋の内装は映画や漫画でしか見た事がない。

 全体が淡いピンクと白で統一されている。
 壁紙もベッドも家具も桜色だ。ベッドは天蓋のついたキングサイズのもので、ピンクのレースカーテンがかかっている。
 そしてピンク色のクマのぬいぐるみがベッド横のサイドチェストに置かれている。

 ふかふかのベッドに降ろされて、シオンに抱き寄せられる。細身に見えるシオンの身体は意外と大きく、私の身体はすっぽりと収まるように抱き止められる。
 シオンの体温が直に伝わってきて不思議な感じだ。

「可愛い。まどろっこしい手段なんか使わないで最初からこうすれば良かったんだ。俺、最高に満たされている」

 幸せそうにシオンが呟く。そして、シオンの身体が淡い紫の光に包まれる。

「本性が出ちゃいました」

 そう言ったシオンは虹彩が紫水晶のような色へと変化していた。すごく深い紫色だけど透明感も同時に感じる不思議な色合いの瞳だった。乱れていた髪の毛も綺麗な艶のあるものに変化する。
 そして元々の美貌にさらに磨きがかかり魔性染みた色気はもはや人間では無く妖魔と呼ぶにい相応しい。
 顔の作りは何も変わっていない。それなのに纏う雰囲気のせいか、問答無用で人間を魅了し籠絡する圧倒的な美の化身だ。

 シオンの瞳の色と雰囲気が変わると同時に重苦しい空気が漂う。なんというか嫌な感じでピリピリと空気がひりつくようだ。今すぐにここから逃げたい気分だ。

「何これ……」
「俺、桃さんのせいでこんなになっちゃいました。責任取ってください」

 シオンは大きなベッドに私を押し倒して恍惚とした目で語りかける。手首はガッチリと抑えられて抵抗しても解けそうにない。
 触れられた所から力が抜けていく。

 シオンは吐息が掛かるくらいに顔を近づけてくる。紫色の瞳は覗き込めば吸い込まれて2度と戻れないのではないかというくらいに深い色をしている。

「ずっと何をしても満たされなかったんです。勉強でトップをとっても、スポーツで結果を出しても、アイドルで成功しても満たされなかった。桃さん、どうしてだと思いますか?」

 シオンが早口で捲し立てるように喋る。
 逃げたいけれど、シオンの瞳な覗き込まれるように見つめられると身体に力が入らない。
 そもそもシオンの手首を掴む力が強くて到底振り解けそうにない。

「な、なんでもすぐに上手くいくから?」
「違いますよ。本当に欲しいものがないからずっと飢えていたんです。全てを投げ打ってでもどうしても欲しいものがたった1つありました」

 シオンの声はゆっくりと言い聞かせるようなものだった。そしてじっと私を見つめる。言いたいことわかりますよね?と問いかけている。

「それが私……なの?」
「そうですよ。いい事教えてあげますよ。アイドルになったのもあなたのいる東京へ行くきっかけが欲しかったから」

 そう語る怪物の瞳は甘く蕩けている。

「意味がわからない。そもそも貴方は最初から人間じゃなかったの?」 

 訊きたい事がたくさんある。だけど今の現実とは思えない展開に私の頭は混乱していた。

「元々は普通の人間でしたよ。だけどある日を境にこうなりました。桃さんに出会う数ヶ月前の話です。番組を収録していた楽屋に変な本があったんですよ」
「そ、それで?」
「何かと思って何も知らずに近づいたら勝手に本が開いて、こんなふうになってました。目の色がカラコンを入れたような色になっていて不思議な力が使えるようになっていました」

 シオンは、はははと乾いた笑いを浮かべる。
 あまりにも非現実的な出来事に呆然とする。

「信じられないって顔してますね。俺だって最初は信じられなかった。気がつけば人間の生気を啜らないと生きていけない化け物になってました。だからコンサートや握手会に来た人から少しずつ生気を分けてもらって生きてました。俺たちのライブに来ると疲れるでしょ? それは俺が会場のファンから少しずつ生気をもらってたから。安心してください。他の3人は普通の人間ですよ」
「なにそれ……」

 私は信じられないという目でシオンを見上げる。

「それで桃さんが来たライブでも生気をいただいていたんです。その時に今までに無いくらいにとっても美味しい生気の持ち主がいて気になって見に行ったんですよ。そしたらそこに桃さんがいたんです」

 ファンサをしながらシオンは獲物を探していたと言うことか。
 つまりシオンにとって私は美味しいご飯という事だろうか。それは恋ではなく食欲的な意味での好意だ。

「それは恋じゃなくて食欲的な好意じゃない! 美味しい女だったから側に置いておきたいだけじゃん!」
「違う! 桃さんだから美味しく感じたんですよ。周りがみんな紫の中で桃さんだけペンライト赤いしすぐ覚えられました。何より俺と桃さんって俺がアイドルになる前に1回出会っているんですよ」

 シオンは何を言っているのだろうか?
 私とシオンが出会っている? そんなはずはない。だってシオンほどの美形なんて一度見たら忘れられない。

「それきっと気のせいだよ! だってシオンみたいな美形と出逢ったら絶対に忘れなんかしない」
「そう。覚えてないんだ。後でいっぱい思い出話しましょうね。時間はいくらだってありますから」
「え?」
「桃さんはずっとここで暮らすんですよ。衣食住はもちろん、叶えられる範囲でならなんだってしてあげる。好きな人のためなら俺はなんだってできる」

 力強くはっきりと言い切るシオンの声は決して大きくないのに私の中に強く響く。

「桃さんはコウ君を推していたみたいだけど、歌もダンスもパフォーマンスも正直俺の方が上だからきっかけさえあれば振り向いてもらえると思ってたんですよ。だから桃さんの事をいろいろ調べて、わざとお財布落としてお近づきになりました」

「ど、どうやって私の住んでいる場所がわかったの⁉︎」
「それはお財布拾った時に教えていただいたじゃないですか。アイシャドウを送るからって理由で」

 そういえばそんな事があった。だけど問題はその前だ。

「そうじゃなくて私の住んでいる地域の特定はどうやったの? 財布をワザと落とすにしても私の行動範囲がわからないと意味ないじゃない!」
「ライブでの俺のファンサ覚えていますか?」
「私の席で勝手にペンライトの色変えたやつのこと?」
「そうです。その時にペンライトに魔力を込めて、桃さんのペンライトをGPSみたくしたんです。後はそのペンライトの場所を辿れば桃さんの住んでいる大体の地域がわかるってわけ」

 シオンと私の出会いは全部仕組まれていたものだったのだ。

「なのに桃さんはコウ君、コウ君ってばかり言って全然俺に興味を持ってくれないんですもん。すごく嫉妬しちゃいました。ズルい手を使っても上手く行かないですし」
「ズルい手……?」
「握手会の時にコウ君の列に並んでいたのに嫉妬して悪魔の力でちょいちょいって細工しました。空間をいじって俺のブースに来てもらいました」

 怪奇現象の正体が判明した。あれは私が間違ってシオンのブースに入ったわけではなく、シオンに呼ばれたのだ。

「それからは色んな手を使って桃さんとお近づきになろうと頑張ったんですよ。桃さんの会社が出版している雑誌のインタビューも俺が提案しました。そこからドラマで演じる役の気持ちがわからないから役作りのための恋人になって欲しいと頼んだのも桃さんと少しでも接点が欲しかったから」

 偶然なんかではなく全て仕組まれた出会いだったのだ。

「本当は普通の恋人になりたかった。だから桃さんを本気で落とそうとかなり頑張ったんですよ。でもまた7年前みたいに俺の元から去っていくんですね。桃さんって酷い人。2回も俺に別離の苦痛を与えるなんて」
「知らない! そんなの知らない! シオン、お願いだからやめて! 私とシオンは別れないと駄目なの! シオンのアイドル生命をこんな事で壊したくない」

 シオンに訴えかけるように大声で叫ぶ。

「俺と別れるなんて言わないで。ここで暮らせば桃さんは生活の心配なんてしなくていいんですよ。俺を愛してくれればなんでもあげますよ。お金も、綺麗な洋服も、美味しい食べ物も、好みの化粧品やジュエリー、雑貨も全部俺があげます。その代わり桃さんは俺だけを見てください」

 国民的アイドルである彼の瞳孔は大きく開き、息も乱れて興奮しているのが伝わってくる。
 その表情は爽やかさなど一切ない。甘く蕩けてながらも情欲に濡れた瞳と弧を描く口元、そしてはだけた洋服は色気に溢れている。

 ガチャガチャと音を立てて私の足首に足枷をつけていく。

「それにアイドルCieloよりも俺は桃さんと一緒にいる方が大事なんです。桃さんは俺がアイドル辞めたらずっと一緒にいてくれる?」
「そ、それは……」

 アイドルじゃないシオン……。もしシオンと私がお互いに一般人として出会ったらどうだったのだろうか。
 私がもしもの可能性を思考して沈黙しているとシオンはそれを否定の意と解釈したようだ。

「そっか。結局は離れていくのか。桃さん、ごめんね。俺どんな手を使ってでも桃さんを手放したくないんだ。今からちょっと酷いことするけどその分今まで味わった快楽より数倍気持ちよくしてあげるね」

 そう言ったシオンの顔は紛れもなく男の顔だった。
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