熊ちゃん配達員を食べたい腹ペコな私 清純なのは見た目だけ!とにかくおとなしく食べられなさい!

あさひれい

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できないことに気づくのは新しい一歩を踏み出したとき

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食器を下げながら、シンクのそばに自然に集まったお義兄さんと光さんにそっと話しかけた。

「あの、今日はこんな機会を設けてくださってありがとうございました」

「いやいや、むしろこんな引っ越し準備してるようなとこに呼び出してごめんねって感じだよ。まぁでもさ、家族なんだし、もう余計な敷居とかいいかなって思ったりもしたんだよね」

「え、もうそこまで進んでるの?」

慌てて玲奈さんに俺達の会話が聞こえていないか確認して、ぶるぶると首を振った。

「お、俺としてはもちろん、その、したいんですけど…まだ準備が整っていないというか…」

「ははは。ちがうちがう。結婚とかそういうことじゃなくてさ。玲奈が一緒にいたいと心から思える人ができたなら、もうそれは俺達の家族ってことだよって話」

お義兄さんは皿を洗う手を止めずに俺を見てウインクをした。やめてください。玲奈さんに似た顔でそんな。

「ねー、玲奈ー。蓮人が熊野君誘惑してるけどー」

「えーだめーっ」

テーブルに残っていたトングなんかを持ってきた玲奈さんが俺の腰に抱きついてきた。

「蓮人がウインクしてたよ」

「なんでお兄ちゃんそんな気軽にウインクしちゃうの。変な勘違いされたこと何度もあるでしょ」

「癖だからかな」

「いやー、この天然陽キャ!」

玲奈さんが俺の顔を両手で挟み込んで自分のほうに向かせたかと思ったら、同じようにウインクをしてきた。

どすどすどす

心臓に矢が突き刺さる音が重低音で響いた。この威力はやばい…
抱きしめたい。お義兄さんの前だろうと、ご両親の前だろうと、このかわいらしさを前に自制するのは難しい。

「はい、じゃあ、くまちゃんも私にウインクしてみて?」

「…はい?」

ウイ…ンク…を俺に…しろと…?

「今しがた玲奈さんがしたあれをですか?」

「そうそう。やってみせて?」

片目をつぶる行為だというのはわかっている。しかし、俺の人生でウインクをする羽目になったことは一度たりともない!
恥ずかしい。なぜ、こんな玲奈さん以外の人もいる前でやらなければならないのか。首を何度も横に振った。

「光さんのウインクは色気っていうか、かっこいいんだよ?」

ほらっと言って、視線を移すと光さんがこともなげにやってみせる。

「うちのお父さんとお母さんも時々やってる…って言う前から、あの二人はもう二人の世界に入ってるね」

お義兄さんが出したワインを楽しみながら、玲奈さんのご両親はソファで肩を寄せ合っている。

玲奈さんのキラキラの瞳からして決して諦めてくれないようなので、意を決してウインクをしてみることにした。

「…くまちゃん?それは瞬き。片目だけ閉じてみて?」

「こうですか?」

「また両方閉じちゃってる」

なんと俺はウインクができないことをこの日初めて知った。俺は片目をつぶっているつもりなのに、どうやら両目が閉じてしまってるようだ。

「え、ウインクできない人初めて見た。ちょっと練習してみようか、熊野君」

くくくっと笑いをこらえたような震える声で俺を呼び、ローテーブルの前に俺を座らせた。
おもしろがっているのか、本当に嬌声しようと思っているのか、お義兄さんと向かい合って座らされ、イケメンのウインクを見せつけられる。
いや、玲奈さんが代わりに前でやっても自制が効かなくて困るなとは思いますけれども、お義兄さんの男としての格の違いを見せつけられるようなウインクの応酬でもうこのまま目を閉じていたいです。
こんな新しい発見をさせられるなんて思ってもみませんでした。もう許してください。
玲奈さんは玲奈さんで俺の横にクッションを抱えたまま横になって、こうやるんだよ~とパチパチとウインクを見せてくれますが、それは逆効果です。襲い掛かる衝動を抑える訓練を受けている気分です。
なぜあなた方兄妹はこうも俺をいたぶって楽しむんですか。

「熊野君!それもうウインクでも瞬きでもないから!瞑想しちゃってるから!」

お義兄さんの声を遠くに感じつつ、心を無にしていた。
家族になるというのは色々な初体験を重ねていくものなんだな…と思いながら。
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