❲完結❳乙女ゲームの世界に憑依しました! ~死ぬ運命の悪女はゲーム開始前から逆ハールートに突入しました~

四つ葉菫

文字の大きさ
35 / 105

34.事件発生

しおりを挟む
悪い知らせがもたらされたのは、お茶会の前日。
イリアスに呼び止められた私は廊下で振り返った。

「明日のお茶会だが、行けなくなった。すまない」

そう告げたときのイリアスの暗く沈んだ眼差しに、私の胸はざわざわした。

「私は構いませんけど、何かあったんですか?」

「ああ。フェリクスの弟が行方不明になった」

「え?!」

「いなくなってから、数日経つ。フェリクスはその間、出席していない。今日もあちこち探しているだろう。俺も明日あいつの領地に行って、何かできないか聞いて、一緒に探してくるつもりだ」

「そうですか……」

ゲーム通りになってしまった。
私は居たたまれない気持ちになる。

「心配ですね……。無事に見つかりますように――」

ゲームでは何の成果もでなかった。けれど、それがわかっていたとしても、希望を口にしてしまうのは、人としての当然のさがだろう。

「ああ。頑張って探してくる」

「はい。お気をつけて――」

もうこれで話は終わりかと思ったが、イリアスがその場を立ち去らず、言葉にしようかどうか躊躇っている気配を見せた。

「どうかしました?」

「その、三日前、どうしてあんなことを言ったんだ?」

「それは……」

アルバートに一度も会ったことのない人間が、あんなことを口走ったら、変に思って当然。気にするなと言うほうが無理だろう。
でも、ゲームで知っていたなんて言えない。
私が黙っていると、イリアスが逆に口を開いた。

「アルバートがいなくなったことと、お前は何か、関係しているのか?」

「まさかっ!!」

私は勢いよく顔を上げる。そんなこと万が一にもない。でも、私は悪女。その事実が私の枷になる。信じてほしい気持ちが懇願にも近い表情を作っていたのかもしれない。私の顔をしばらくじっと見ていたイリアスが、表情を柔らかくほぐす。

「そうか。それならいいんだ」

信じてくれた?
悪女の言葉なのに?
私は茫然とイリアスを見上げる。

「お前のその表情を見れば、嘘かどうかくらいわかる。お前くらいわかりやすい人間いないだろう? 一体何年、婚約者してると思ってるんだ」

また『婚約者』って言葉が出たわ。
私は呆けたように、いつもより柔らかな表情のイリアスを眺める。

「それじゃ。もう行く」 

静かな口調で言うと、イリアスは去っていった。
なんだか、まだ夢を見ているみたい。イリアスが私のこと信じてくれたなんて。
去っていく後ろ姿をぽかんと眺める。ありえないことが起こったせいか、こんな状況なのに相変わらず姿勢が良いなと変なことに目がいってしまう。
そんなことよりアルバートの心配よね。私ははっと正気に戻る。
今頃、フェリクスや両親の心痛はどれほどだろう。
何より攫われた本人の恐怖を思うと、胸が痛い。
そう、アルバートは攫われたのだ。
事件を解決して、真実は初めて明かされる。
私は拳をぎゅっと握った。
許さない、犯人め!!
まだ幼い少年を私利私欲のために攫い、あまつさえ捜索の手を逃れるために、もうひとりの少年の命を奪った卑劣なやり方!
ヒロインが助けに入る二年後など待っていられるか。
グッドエンドをなくすことになるかもしれないけど、どうか許して。それに恋に落ちる相手とはどうやったって恋に落ちるものよ。障害があろうとなかろうと。ヒロインなら大丈夫でしょ。
私はイリアスとは反対のほうにくるりと向きを変えた。
廊下を歩きながら、拳を固める。
待ってなさい!! この悪役中の悪役、カレン・ドロノアが、本気をだしたらどうなるか――。
あんたたちなんか、私の足元にひれ伏させてやるわ!
眼前を睨み据えながら、私は足音荒く進んでいったのだった。


しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームのヒロインですが、推しはサブキャラ暗殺者

きゃる
恋愛
 私は今日、暗殺される――。  攻略が難しく肝心なところでセーブのできない乙女ゲーム『散りゆく薔薇と君の未来』、通称『バラミラ』。ヒロインの王女カトリーナに転生しちゃった加藤莉奈(かとうりな)は、メインキャラの攻略対象よりもサブキャラ(脇役)の暗殺者が大好きなオタクだった。 「クロムしゃまあああ、しゅきいいいい♡」  命を狙われているものの、回避の方法を知っているから大丈夫。それより推しを笑顔にしたい!  そして運命の夜、推しがナイフをもって現れた。   「かま~~~ん♡」 「…………は?」    推しが好きすぎる王女の、猪突猛進ラブコメディ☆ ※『私の推しは暗殺者。』を、読みやすく書き直しました。

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

悪役令嬢はSランク冒険者の弟子になりヒロインから逃げ切りたい

恋愛
王太子の婚約者として、常に控えめに振る舞ってきたロッテルマリア。 尽くしていたにも関わらず、悪役令嬢として婚約者破棄、国外追放の憂き目に合う。 でも、実は転生者であるロッテルマリアはチートな魔法を武器に、ギルドに登録して旅に出掛けた。 新米冒険者として日々奮闘中。 のんびり冒険をしていたいのに、ヒロインは私を逃がしてくれない。 自身の目的のためにロッテルマリアを狙ってくる。 王太子はあげるから、私をほっといて~ (旧)悪役令嬢は年下Sランク冒険者の弟子になるを手直ししました。 26話で完結 後日談も書いてます。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

悪役令嬢の品格 ~悪役令嬢を演じてきましたが、今回は少し違うようです~

幸路ことは
恋愛
多くの乙女ゲームで悪役令嬢を演じたプロの悪役令嬢は、エリーナとして新しいゲームの世界で目覚める。しかし、今回は悪役令嬢に必須のつり目も縦巻きロールもなく、シナリオも分からない。それでも立派な悪役令嬢を演じるべく突き進んだ。  そして、学園に入学しヒロインを探すが、なぜか攻略対象と思われるキャラが集まってくる。さらに、前世の記憶がある少女にエリーナがヒロインだと告げられ、隠しキャラを出して欲しいとお願いされた……。  これは、ロマンス小説とプリンが大好きなエリーナが、悪役令嬢のプライドを胸に、少しずつ自分の気持ちを知り恋をしていく物語。なろう完結済み Copyright(C)2019 幸路ことは

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

処理中です...