アイテム使いの最強山賊

たまゆら

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012 丁半博打

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 下腹、腰、太腿……。
 下半身を舐められながら目を覚ます。
 最初は驚いたが、数日経てば慣れたもの。

「キュウ、今日もありがとう――って、うお!?」
「おはようございます、リュート様」

 下半身を舐めるキュウに挨拶をしようと、掛布団を上げる。
 そうして視界に入ってきたのは、エルザの姿だった。
 驚いたことに、彼女も俺の身体を舐めていたのだ。
 寝ぼけていたからか、全く気が付かなかった。

「エルザ、どうしてお前まで舐めているのだ?」
「キュウさんに、リュート様がお喜びすると聞きましたので」
「エルザさんには上をお願いしたなのです、下はキュウの担当なのです」

 顔を僅かに横へ動かすと、キュウが見えた。
 俺の両足の間にちょこんとすわり、太腿に手を添えている。
 そして、身を乗り出し、下腹の辺りを、チロチロ、ペロペロ。

「気持ちいいなのです?」
「ああ、今日も気持ちいいよ」
「よかったなのです! 嬉しいなのです!」

 キュウは尻尾を振り、より激しく舐めだした。
 それを見たエルザが、俺に訊いてくる。

「リュート様、エルザのはいかがでしたか?」

 正直、エルザのペロペロは気づかなかった。
 しかし、そのことを正直に話すわけにはいかない。

 ここ数日の経験から、女のことを多少は理解してきた。
 仮に「分からなかったわ! ガハハ!」なんて言うとどうなるか。
 エルザは見る見るうちに顔を曇らせ、果てには目に涙を浮かべる。
 だから、俺は違う言葉を口にした。

「すごくいいよ」
「本当ですか!?」

 エルザの表情が、パッと明るくなる。
 やはり、これが正しい回答だった。
 俺は笑みを浮かべ、コクリと頷く。

「ああ、最高だ」
「では、今後もお舐めしますね!」
「えっ? お、おう、ありがとう」
「はいぃ!」

 エルザは喜び、ペロペロを再開した。
 俺の左で四つん這いになり、舌を出して、身体を下から上に動かす。
 俺の胸部を、左から右に、何度も何度も舐め続けた。
 それを見て、俺は疑問を口にする。

「エルザは、どうして横から舐めるのだ?」
「どういうことですか?」
「キュウみたいに、正面に構えたほうが舐めやすいだろ」

 エルザが俺の右半身を舐める時、体勢がきつそうだった。
 もはや四つん這いというより、俺に乗っかる形になっている。
 豊満な胸は、俺の胸板に押し潰され、むぎゅぎゅとなっていた。

「たしかにそうですが……」
「なら何故、俺に跨らない?」
「跨りますと、私のお尻がキュウさんに……」
「ああ、なるほど、当たってしまうのか」
「はい」

 実際のシーンを想像すると納得できた。
 もしも跨るなら、場所は下腹の辺りになる。
 それより上だと、舐めるのが苦しくなるのだ。
 身体をグッと曲げなければ、胸部を越えてしまう。
 しかし、そこに跨ると、尻がキュウの頭に当たる。

「それなら仕方ないな」
「せっかくのご提案なのに、すみません」
「気にすることないよ」

 こうして、今日の活動が始まった。

 ◇

 一昨日は海賊を狩り、昨日は山賊を狩った。
 そして三日前は、冒険者の大量虐殺だ。
 いかんせん、ここ最近は働きすぎている。
 こんなの、俺らしくない。

 キュウに「この街で生活するなら何をしたい?」と訊いたことがある。
 その時の答えは、「適度に働き、たまにぐうたら」というものだった。
 これは、清く正しい労働者の模範的な回答だ。
 一方、俺みたいな怠け者は、回答内容が反転する。
 たまに働き、基本はぐうたら。それが俺だ。

 そんなわけで、今日は戦闘を控えることに決めた。

「で、やってきたのがここだ」
「ここは何なのです?」
「賭場だよ」

 二人が「賭場?」と首を傾げる。
 どうやら、賭場が何かを知らないようだ。
 俺はふっと笑い「遊ぶ場所だよ」と答えた。

「さ、金を持って入るぞ」
「分かりました」

 マジックバッグから、三十枚の金貨を取り出す。
 それをエルザと折半してから、中に入った。

 賭場とは、お金を賭けてゲームをする場所だ。
 内装は、どの国・どの街でも大差ない。
 二階はなく、入ってすぐに広い廊下の一本道。
 左右には、ゲーム名の書かれたふすまがいくつか。

 襖の文字を見て、遊ぶゲームを決めたら、中に入る。
 中に入ったら、最低でも一度は遊ばなければならない。

「丁半にするか、これが一番簡単だ」

 数あるゲームの中で、俺は丁半を選ぶ。
 襖を開けると、中には多くの人間が居た。
 中央に居るのは、ピンクの法被はっぴを着た男。
 他の人間は、その男を半円状に囲んでいた。

「真ん中に居るピンクの服を着た男を『親』と呼ぶ」
「親ですか」
「で、俺達を含む客のことを『子』と呼ぶんだ」
「親子なのです」
「ははは、そういうこった」

 ルールを説明しながら、俺達は腰を下ろした。
 座った場所は半円状に展開する『子』の端だ。
 親から見ると、ほとんど真横に位置する場所。

「で、そのルールだけど――」

 まず、親が手元にある布の下に手を突っ込む。
 この時、『丁』または『半』の字が書かれた札を置く。
 子は、布の下にある札が丁半のどちらなのかを予測する。
 予測したら、予め渡される回答札を前に出す。
 回答札とは、親が忍ばせたものと全く同じ札だ。
 最後に、出した回答札の上に賭け金を置けば終了である。
 回答札と親の札が同じなら、賭け金の倍が払い戻される仕組みだ。
 もちろん、外れていたら、賭け金は没収される。

「つまり、丁か半を予測して、金を賭けるだけさ」
「なるほどなのです」
「分かりました。ところで、あれは?」

 エルザが指したのは、親の横にある札だ。
 十枚の札がずらりと並べられている。

「あれは、直近十回の出目を表した札だよ」
「すると、あの札を参考に予測するわけですか」
「そういうことだ。丁半は親と子の心理戦だよ」

 ちなみに、この札を『履歴札』と呼ぶ。

「実際にやってみよう」
「分かりました」

 俺達は、回答札を持って親を見る。

「入れます」

 親の男が、札をそっと布に忍ばせた。
 手を乗せて、文字を見えなくしている。

「丁、丁、丁ときたし、ここは半だな」
「アホだなぁ、そう見せといて四度目の丁だろ」
「それこそ相手の思うツボよ」

 子は口々に自分の考えを披露していく。
 その様を見ながら、俺達も回答を考える。

「私は丁に賭けます」
「悩むかと思ったが、即決だったな」

 エルザの動きは速かった。
 スッと丁の札を取り出し、金貨を一枚乗せる。

「キュウはどうする?」
「うむむむ、なのです」

 俺は、膝の上に座っているキュウに尋ねた。
 キュウは、両手を耳に乗せ、考え込む。
 十秒後、意を決して口を開いた。

「キュウも、キュウも丁にするなのです」
「オーケー、じゃあ、札を出してくれるか?」
「はいなのです!」

 俺は、丁の回答札をキュウに渡した。
 キュウはそれを両手で持ち、前に置く。

「あと、これもよろしく」
「任せてくださいなのです」

 同じ要領で、札の上に金貨を乗せる。
 それらを済ませると、キュウが戻ってきた。
 テクテク歩き、ひょいと膝にのり、ちょこんと座る。

「丁でいいのか? まだ変えられるぞ」
「そうなのです?」
「親が終了の合図を出すまでは、自由に変更可能だ」
「なるほどなのです。でも、大丈夫なのです!」

 回答する時間は、約二分。
 親が札を忍ばせるまでに一分と、その後に一分。

「開きます!」

 親が声を張る。
 これが終了の合図だ。
 もう回答の変更は出来ない。
 それどころか、回答札に触ることも禁止だ。
 もしも触れば、その時点でハズレ扱いになる。

「なんだか緊張しますね」
「ワクワクなのです、ワクワクなのです」

 親の手が、布の端を掴んだ。
 それをゆっくりと横に動かし、めくっていく。
 そうして現れた札は――。

「丁!」

 四連続の丁だった。
 エルザとキュウは、正解したのだ。

「また丁かよー!」
「よーし、大金ゲットゥ!」

 子達の声が、場に響いた。
 喜ぶ者と悲しむ者がくっきり分かれる。
 正解したキュウとエルザは、喜ぶ側だ。

「やった、当たった!」
「わーいなのです、当たりなのです!」

 嬉々とする二人を見て、俺もにこやかになる。
 幸先の良いスタートだ。

「お客さん方、おめでとうございます」

 俺達の回答札が、親に回収される。
 そして、払い戻し金を乗せて、戻された。

「入ります!」

 全員の精算が済むと、休むことなく次に進んだ。

 ◇

 結局、二時間近くも賭場で過ごした。
 最終的な金貨の数は、二人合わせて三十五枚。
 エルザが二十枚で、キュウが十五枚だ。
 長々と遊んだ割には、大して変わりない。
 賭け金が常に金貨一枚だったからだろう。

「初めての賭場はどうだった?」
「すごく楽しかったです!」

 嬉しそうに声を弾ませるエルザ。
 一方、キュウはやや不機嫌そうだ。

「たくさん頑張ったのに、増えなかったなのです」
「いいじゃないか、減らなかったんだし」
「でも、キュウは悔しいなのです」

 俺は声を上げて笑った。
 その後、キュウの頭を撫でて言う。

「賭場は遊ぶ場所であって、金を稼ぐ場所じゃない」

 実際、賭場で大きく稼ぐのは不可能に近い。
 なぜなら、親がイカサマをしているからだ。
 具体的には、魔法を使って出目を操作している。
 だから、一度に大きく賭けたら、反対の結果が出やすい。

 実のところ、丁半博打は親と子の心理戦ではない。
 親の心を読み、更に、他の子を監視するゲームなのだ。

「さて、休憩がてら酒場でメシでも食うか」
「はいなのです!」
「そういえば、お腹が空きました」

 俺達は酒場へ――向かおうとした。
 その時だ。ゴブちゃんの声が脳に響いた。

『リュート、大変ゴブ!』
『どうした?』
『変な男が、リュートに手紙を置いていったゴブ!』
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