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第002話 小石集め
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転移先はどこぞの海岸だった。
背後には砂浜があり、綺麗な紺碧の海がザーザーと揺れている。前方から右方にかけては大草原が広がっており、左方約50メートルの距離には森林が見えた。また、目の前にはどこかの誰かによって舗装された道があり、左・前・右の三方向に枝分かれしている。道の広さは大人が5から6人程度並んで歩けるほどだ。
「さて、と」
どうしたものかと周囲を眺めて、アリシアが目に付く。
彼女は俺の後ろに居て、こちらに向かって跪いていた。
「アリシア、俺に対して跪く必要はない。出来れば立っていてくれ」
「かしこまりました、マスター」
アリシアを立たせてから、改めて考える。
「衣食住を確保しに取りかかるか」
女神の前でアレコレとイメージしたことで、必要な情報は揃っている。
500mlのペットボトル飲料は水材1個又はCP25で作れるし、食事にしてもCP50から100程度で作成することが可能だ。家もこぢんまりとした平屋であればCP3000前後で作成出来ることを確認済み。
「素材を入手していきたい所だが……」
素材の入手方法は二つ。
一つは、素材となる物に攻撃すること。例えば左方にそびえる森林に向かって、適当な木にドロップキックでもかましてやれば、木材が手に入るわけだ。与えるダメージが多いほど、得られる素材の量が増えるらしい。細かいことは実際に試してみないと分からない。
もう一つは、素材となる物を手で持ち【収納】することだ。これにより、持っていた物が手から消えてコンソール画面の『所有素材』に追加される。注意するべき点は、収納した素材を取り出すことは出来ないということ。
「おっ、ちょうどいい物を発見したぞ」
足下に転がる小石を発見。
小石は他にもあちらこちらに点在している。
これらが素材になるなら、とてもありがたいことだ。
記憶だと石材のCPは、木材の2倍に相当する100だった。
「試してみるか」
小石を拾い【収納】と念じてみる。
その瞬間、手に持った石が消えて視界の上部に文字が表示された。
『<石材>を1個入手しました』
期待通りの結果だ。
俺は「よし!」とガッツポーズ。
アリシアが「おめでとうございます」と祝ってくれた。
「どうせだから【還元】も試してみよう」
コンソール画面を開き、『所有素材』から石材を選択。
石材の下に、個数を入力するボックスが表示された。面白半分で、試しに100と入力してみる。案の定、1個しか持っていないので1に変更された。
個数の入力が終わったので、画面の下部にある【還元】を押す。
すると、確認画面がポンッと表示された。
===============
【還元する素材】
石材:1個
【合計獲得CP】
50
===============
問題ないので、承諾して【還元】を行った。
コンソール画面の『所有素材』から石材が消える。
代わりに、画面右下の隅にある所有CPの欄が0から50になった。
「この調子なら寝床とメシの確保は容易そうだ」
小石はそこら中に転がっている。
その数は大量で、優に100個は超えるだろう。
アリシアと手分けして集めれば、かなりのCPを稼げるぞ。
「アリシア、そこらに転がっている小石をここに集めてくれ」
アリシアが「かしこまりました」と命令を実行に移す。
持っていたランスを背中に装着して、迅速かつ黙々と動き始める。
俺はどうやってランスを固定しているのか、少しだけ気になった。
「これほど楽しい小石拾いは人生で初めてだな」
俺はウキウキしながら石を拾っては【収納】する。
小石の大きさに多少の差異はあるけれど、コンソール画面に収納すれば、平等に1個の石材として扱われた。
「これで20個……っと」
腰が痛くなって来たところで、アリシアの成果を確認する。
俺が指定した場所には、100個近い小石がまとめられていた。
さすがは俺の想像によって創造された強力な女騎士だ。
「うおお! あれも、これも、それも、何もかも【収納】だ!」
アリシアの集めた小石を全て【収納】していく。
その間もアリシアは小石集めをしていたが、俺はストップさせた。既に近辺の小石を拾いきっており、俺との距離が開きはじめていたからだ。あまり離れられると、ボディガードの意味がなくなってしまう。未知の世界だし、それは不安だ。
「アリシア、戻ってきてくれ」
アリシアが「かしこまりました」と戻ってくる。
悠然と歩く金髪の女騎士は、美しさ以上の格好良さがあった。
思わず「カッケェ……」と呟いてしまう俺。
「全部で135個か」
コンソール画面に表示された石材の数を言う。
全てをCPに【還元】すれば6750になる。最初に還元した1個も含めると、合計CPは6800だ。CPの獲得効率が想定していたよりも良いと思う一方で、アリシアの作成時に要求された1億CPは桁違いだと感じた。
「とりあえず家を持ちたいが……」
付近を見渡す限り、村や街は見られない。
すぐに夕暮れが訪れそうな気配もないので、しばらくこの周辺を散策してみるのも良いだろう。しかし、女神によるとこの世界には凶暴な生命体が多く存在するとのことだから、生まれてから死ぬまでの20年と少しを日本という平和な国で過ごした俺には不安だ。アリシアはきっと強力だろうけれど、最強という保証はない。
「見た感じこの辺りは平和そうだし、とりあえずここに拠点を構えるか」
アリシアは何も言わない。
俺は彼女の考え気になったので、「どう思う?」と尋ねた。
「私はリュート様の判断に従うだけのこと。どのような場所でも厭いません」
「そのリュート様こと俺が判断に悩んでいるんだ。よかったら賛成か反対で答えてくれないかい?」
アリシアは即答を控えた。
しばらく悩んだ後、「賛成です」と言う。
「その理由は?」
「この場所は平和だからです。敵らしき者も見当たりませんし、見渡しも良いですから、仮に魔の手が及んだとしても迅速に対処することが可能です」
「そう聞いて安心したよ。ここに家を建てよう」
俺はすぐさま家の作成に取りかかった。
コンソール画面を開き、10畳程度の平屋をイメージする。
最低限の快適さがあればいいから、材質は木にしておいた。
===============
木材:50個
又は
CP:2500
===============
小さな平屋だから必要な木材もかなり少ない。
今の所持CPであれば、何の問題もなく建設可能だ。
俺は直ちに【作成】ボタンを押した。
すると、視界の上部に半透明の文字が表示される。
『設置場所を指定してください』
アリシアの時には出なかった表示だ。
建造物が大きいから出たのだろうか。
親切心に感謝しつつ、俺は小石の無くなった砂辺を指す。
脳内で「海を向いている状態で!」と念じておく。
「おお!」
指定した通りの場所に、念じた通りの向きで家が出現した。
玄関扉は海を向いているが、草原側の裏手にも出入り口がある。
窓が四方に付いており、そこから中の様子が見えた。
何も考えていなかっただけのことはあり、内装はぶち抜きのワンフロアだ。
本当に何もない。風呂やトイレさえも。あとで別の場所に設置しよう。
「あとは家具をこさえて、とりあえずメシを食うか」
呟いたことで、ふと思う。
俺に創造されたアリシアは、ご飯を食べるのだろうか。
変な質問だとは分かっていたが、その旨を尋ねてみた。
「私は飲食をせずとも生きられます。空腹といった概念は存在しません」
「なるほど。食費が節約できるわけだ」
「はい」
「そうは言っても、アリシアを隅に置いて一人で食べるのも気が引けるから、実際には二人分の飲食物を用意するけどね」
「ありがとうございます、マスター」
アリシアの食事をカットするのは緊急時だけだ。
今のCP獲得効率が持続する限り、緊急時は起こりそうにない。
「よし、家の中で休憩するか」
「かしこまりました、マス――」
アリシアの言葉が止まる。
何かを察知したようで、彼女は右方の草原に目をやった。
「どうかしたのか?」
アリシアに尋ねながら、俺も同じ方向を見る。
そして、彼女が何に気づいたのかを察知した。
「馬車が――」
「だな、こちらに向かってきている」
一台の馬車が、俺達の方に近づいているのだ。
背後には砂浜があり、綺麗な紺碧の海がザーザーと揺れている。前方から右方にかけては大草原が広がっており、左方約50メートルの距離には森林が見えた。また、目の前にはどこかの誰かによって舗装された道があり、左・前・右の三方向に枝分かれしている。道の広さは大人が5から6人程度並んで歩けるほどだ。
「さて、と」
どうしたものかと周囲を眺めて、アリシアが目に付く。
彼女は俺の後ろに居て、こちらに向かって跪いていた。
「アリシア、俺に対して跪く必要はない。出来れば立っていてくれ」
「かしこまりました、マスター」
アリシアを立たせてから、改めて考える。
「衣食住を確保しに取りかかるか」
女神の前でアレコレとイメージしたことで、必要な情報は揃っている。
500mlのペットボトル飲料は水材1個又はCP25で作れるし、食事にしてもCP50から100程度で作成することが可能だ。家もこぢんまりとした平屋であればCP3000前後で作成出来ることを確認済み。
「素材を入手していきたい所だが……」
素材の入手方法は二つ。
一つは、素材となる物に攻撃すること。例えば左方にそびえる森林に向かって、適当な木にドロップキックでもかましてやれば、木材が手に入るわけだ。与えるダメージが多いほど、得られる素材の量が増えるらしい。細かいことは実際に試してみないと分からない。
もう一つは、素材となる物を手で持ち【収納】することだ。これにより、持っていた物が手から消えてコンソール画面の『所有素材』に追加される。注意するべき点は、収納した素材を取り出すことは出来ないということ。
「おっ、ちょうどいい物を発見したぞ」
足下に転がる小石を発見。
小石は他にもあちらこちらに点在している。
これらが素材になるなら、とてもありがたいことだ。
記憶だと石材のCPは、木材の2倍に相当する100だった。
「試してみるか」
小石を拾い【収納】と念じてみる。
その瞬間、手に持った石が消えて視界の上部に文字が表示された。
『<石材>を1個入手しました』
期待通りの結果だ。
俺は「よし!」とガッツポーズ。
アリシアが「おめでとうございます」と祝ってくれた。
「どうせだから【還元】も試してみよう」
コンソール画面を開き、『所有素材』から石材を選択。
石材の下に、個数を入力するボックスが表示された。面白半分で、試しに100と入力してみる。案の定、1個しか持っていないので1に変更された。
個数の入力が終わったので、画面の下部にある【還元】を押す。
すると、確認画面がポンッと表示された。
===============
【還元する素材】
石材:1個
【合計獲得CP】
50
===============
問題ないので、承諾して【還元】を行った。
コンソール画面の『所有素材』から石材が消える。
代わりに、画面右下の隅にある所有CPの欄が0から50になった。
「この調子なら寝床とメシの確保は容易そうだ」
小石はそこら中に転がっている。
その数は大量で、優に100個は超えるだろう。
アリシアと手分けして集めれば、かなりのCPを稼げるぞ。
「アリシア、そこらに転がっている小石をここに集めてくれ」
アリシアが「かしこまりました」と命令を実行に移す。
持っていたランスを背中に装着して、迅速かつ黙々と動き始める。
俺はどうやってランスを固定しているのか、少しだけ気になった。
「これほど楽しい小石拾いは人生で初めてだな」
俺はウキウキしながら石を拾っては【収納】する。
小石の大きさに多少の差異はあるけれど、コンソール画面に収納すれば、平等に1個の石材として扱われた。
「これで20個……っと」
腰が痛くなって来たところで、アリシアの成果を確認する。
俺が指定した場所には、100個近い小石がまとめられていた。
さすがは俺の想像によって創造された強力な女騎士だ。
「うおお! あれも、これも、それも、何もかも【収納】だ!」
アリシアの集めた小石を全て【収納】していく。
その間もアリシアは小石集めをしていたが、俺はストップさせた。既に近辺の小石を拾いきっており、俺との距離が開きはじめていたからだ。あまり離れられると、ボディガードの意味がなくなってしまう。未知の世界だし、それは不安だ。
「アリシア、戻ってきてくれ」
アリシアが「かしこまりました」と戻ってくる。
悠然と歩く金髪の女騎士は、美しさ以上の格好良さがあった。
思わず「カッケェ……」と呟いてしまう俺。
「全部で135個か」
コンソール画面に表示された石材の数を言う。
全てをCPに【還元】すれば6750になる。最初に還元した1個も含めると、合計CPは6800だ。CPの獲得効率が想定していたよりも良いと思う一方で、アリシアの作成時に要求された1億CPは桁違いだと感じた。
「とりあえず家を持ちたいが……」
付近を見渡す限り、村や街は見られない。
すぐに夕暮れが訪れそうな気配もないので、しばらくこの周辺を散策してみるのも良いだろう。しかし、女神によるとこの世界には凶暴な生命体が多く存在するとのことだから、生まれてから死ぬまでの20年と少しを日本という平和な国で過ごした俺には不安だ。アリシアはきっと強力だろうけれど、最強という保証はない。
「見た感じこの辺りは平和そうだし、とりあえずここに拠点を構えるか」
アリシアは何も言わない。
俺は彼女の考え気になったので、「どう思う?」と尋ねた。
「私はリュート様の判断に従うだけのこと。どのような場所でも厭いません」
「そのリュート様こと俺が判断に悩んでいるんだ。よかったら賛成か反対で答えてくれないかい?」
アリシアは即答を控えた。
しばらく悩んだ後、「賛成です」と言う。
「その理由は?」
「この場所は平和だからです。敵らしき者も見当たりませんし、見渡しも良いですから、仮に魔の手が及んだとしても迅速に対処することが可能です」
「そう聞いて安心したよ。ここに家を建てよう」
俺はすぐさま家の作成に取りかかった。
コンソール画面を開き、10畳程度の平屋をイメージする。
最低限の快適さがあればいいから、材質は木にしておいた。
===============
木材:50個
又は
CP:2500
===============
小さな平屋だから必要な木材もかなり少ない。
今の所持CPであれば、何の問題もなく建設可能だ。
俺は直ちに【作成】ボタンを押した。
すると、視界の上部に半透明の文字が表示される。
『設置場所を指定してください』
アリシアの時には出なかった表示だ。
建造物が大きいから出たのだろうか。
親切心に感謝しつつ、俺は小石の無くなった砂辺を指す。
脳内で「海を向いている状態で!」と念じておく。
「おお!」
指定した通りの場所に、念じた通りの向きで家が出現した。
玄関扉は海を向いているが、草原側の裏手にも出入り口がある。
窓が四方に付いており、そこから中の様子が見えた。
何も考えていなかっただけのことはあり、内装はぶち抜きのワンフロアだ。
本当に何もない。風呂やトイレさえも。あとで別の場所に設置しよう。
「あとは家具をこさえて、とりあえずメシを食うか」
呟いたことで、ふと思う。
俺に創造されたアリシアは、ご飯を食べるのだろうか。
変な質問だとは分かっていたが、その旨を尋ねてみた。
「私は飲食をせずとも生きられます。空腹といった概念は存在しません」
「なるほど。食費が節約できるわけだ」
「はい」
「そうは言っても、アリシアを隅に置いて一人で食べるのも気が引けるから、実際には二人分の飲食物を用意するけどね」
「ありがとうございます、マスター」
アリシアの食事をカットするのは緊急時だけだ。
今のCP獲得効率が持続する限り、緊急時は起こりそうにない。
「よし、家の中で休憩するか」
「かしこまりました、マス――」
アリシアの言葉が止まる。
何かを察知したようで、彼女は右方の草原に目をやった。
「どうかしたのか?」
アリシアに尋ねながら、俺も同じ方向を見る。
そして、彼女が何に気づいたのかを察知した。
「馬車が――」
「だな、こちらに向かってきている」
一台の馬車が、俺達の方に近づいているのだ。
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