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3章
勇者 その6
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あの後勇者ケヴィンと若様、ギルマスの三人で話をする事になった。俺も加わってかまわないと言われたがなんか面倒事の匂いがするのでお断りしておいた。
なので、冒険者達がクエストに向かって閑散としていた酒場なのだが、何か所かに分かれて話しをしているので何か賑やかだ。
内訳はさっき言った、ケヴィンさん、若様、ギルマス。子供達と守護獣達とビャッカさん。俺とドイルさん。そして、キャリーさん、シオンさん、マローマさんだ。この三人の話の端々が聞こえてくるのだがなんか、「セメ」だの、「ウケ」だの、と主にマローマさんの声が聞こえてくる。
絶対地球の文化を持ち込んだ先代様がいるな。二人に変な影響がなければいいけど‥‥‥。
「なんだ?嬢ちゃん達の事が気になるのか?」
ドイルさんが俺のとなりでお茶を飲みながら話しかけてくる。
「え?いや、話の内容が何かヤバそうな感じがしたんで、キャリーさんやシオンさんに変な影響がなければいいなーとか思っているだけです」
「ガハハハ、マローマのアレはもうダメだな。ありゃあ病気だ、本人は上手く隠しているつもりらしいがな」
ドイルさんにしては珍しく。スッゴイ小声で話している。小声なので耳を近づけて訊いているとまた、離れた席からあの声が聞こえてきた。
「ウホッ」
確かにアレはもうダメだな。完全に腐っちまってる。放っておこう。
俺が疲れた顔でため息をついていたら普通の声でドイルさんが話しかけてきた。
「そんな事よりこの件を引き受けてくれてありがとうな」
「いえ、お礼を言いたいのはこちらですよ。教えてもらわなかったらきっと知らないままになってしまったかもしれないのですから」
この世界にはテレビやラジオもない。大きな事件は後になって噂になって伝わって来る、しかし、正確に伝わって来る事は少ないのだ。
ドイルさんは俺の話に嬉しそうに笑いながら話した後真面目な顔になって続けた。
「ガハハ、ありがとうよ。ヒデの事だ、多分気が付いていたと思うが、病気を広めない為の処理をあいつ自分から言い出したんだ」
「自分で?その国の王様に言われたとかじゃなくてですか?」
「まあ、あいつが言わなくても多分王様が頼んできただろうけどな。勇者なんて言われてるがやってる事は誰も引き受けたがらない危険な仕事をこなせる奴の事なんだよ」
ドイルさんは最後の方は苦虫を噛み潰したような顔をしながら話している。その後、ため息をついてケヴィンさんの方を見ている。
俺はその行動を見て自然とこんな事を訊いてしまった。
「ドイルさんってケヴィンさんと組んで長いんですか?」
「ん?そうだな。長いぞー、なんせアイツが勇者様なんて呼ばれる前からだからな」
「そういうのって生まれた時から決まってるものじゃないんですね?」
「そうだな。どんな選び方をしているのかは知らんが女神様の天啓があって選ばれるんだ」
あのチョロイン女神サマがねー。俺は何となくあのチビっちゃいジト目の女神様がサイコロを転がして決めてる場面を思い浮かべた。
いやいや、流石にそれはないだろ?
ドイルさんは俺が急に首をブンブン振り出したのに少し驚いてからちょっと懐かしそうな顔をして話し出す。
「ガハハ、しかし、ヒデはあいつに似ているな。いや、素の方のな」
「あ、やっぱりあのキャラクター作ってるんですか?」
「ああ、そうだな。どの国も勇者のバカみたいな戦闘能力を欲しがるからな。ああやってバカな振りでもしてないとやっていけないそうだ」
「ん?じゃあ、キャリーさんに抱き着こうとしたのも演技なのかな?」
ドイルさんは楽しそうに笑って俺の背中をバンバン叩きながら話し出す。
「ガハハ、答えから言うと多分そうだ。それでな何でそんな感じになったかっていうのを話してやるよ」
そう言って話し出したドイルさんの話は大体こんな感じだ。
さっき言ったように勇者を自国に取り入れようとしてくるので、王族や貴族のパーティーなんかは極力断ってはいるのだがどうしても断れない事もあるらしい。
その時もその一つで国の依頼でモンスターの討伐をした勇者PT全員が呼ばれた。
そして、その時PTに臨時で入っていたキャリーさんもいたそうだ。
いつもの様に勇者ケヴィンが女性たちに囲まれてあのキザッタらしい喋り方でいなしていたらしい。そして、押しても引いても何も引っかからないとなると今度はいつも一緒にいるPTメンバーの同性に嫌味を言いに来ると言うのが通例らしい。
まあ、ビャッカさんはあんな感じだから大体がマローマさんに向くそうだ。
マローマさんは、ある程度は我慢するのだが、面倒くさくなるとそこら中に殺気をばらまくらしい。
勇者PTにいるような人の殺気をまともに受けたお嬢様が平気なはずもなく、大体が気絶するか怯えて失禁をしてしまうというまさに地獄絵図になるらしい。
たが今回の標的はキャリーさんに絞られた。
まあ、キャリーさんのあの外見だしそうなるだろうな。
しかし、そこは流石の元公爵令嬢だ。完璧な作法、話し方、しぐさなど非の打ち所がなかったらしい。しかもキャリーさんは王族の教育まで熟していた人だ。そこいらの貴族など簡単にあしらっていたようだ。
その姿を見てケヴィンさんがキャリーさんに突然抱き着いてきた。
突然の事にキャリーさんは反射的にケヴィンさんの顔面をはたいたそうだ。それからキャリーさんの一撃で何か扉が開いたと言い出し、それ以来キャリーさんに叩かれたいとか言いだして、各国の良い寄って来る女性達を相手にもしなくなったそうだ。
まあ、今までの話を訊いていると。その時ケヴィンさんが一計を案じての行動だったのだろう。
あの抱き着いたのもどこに間者がいるか解らないからだそうだ。
そんな訳だから安心してくれ。ドイルさんはそう言って話を締めくくった。
よかった、キャリーさんが逃げ回らなくても良いようだ。
しかし、本気で怯えてたキャリーさんを見れたのは貴重な体験だったなー。
++++++++++++++++
お読みいただきありがとうございました。
さてこの場をお借りして少しご報告をさせていただきます。_(_^_)_
この世界の平均寿命を頑張って伸ばします。の二巻が七月の下旬に発売決定になりましたー。
これもすべて皆様のおかげです。
私のつたない文章を読む辛抱強さ。そして、卓越した読解力をお持ちの皆様のおかげです。
本当にありがとうございます。
近況ボードにも書いておきますのでお手隙の時にでもお読みください。
_(_^_)_
なので、冒険者達がクエストに向かって閑散としていた酒場なのだが、何か所かに分かれて話しをしているので何か賑やかだ。
内訳はさっき言った、ケヴィンさん、若様、ギルマス。子供達と守護獣達とビャッカさん。俺とドイルさん。そして、キャリーさん、シオンさん、マローマさんだ。この三人の話の端々が聞こえてくるのだがなんか、「セメ」だの、「ウケ」だの、と主にマローマさんの声が聞こえてくる。
絶対地球の文化を持ち込んだ先代様がいるな。二人に変な影響がなければいいけど‥‥‥。
「なんだ?嬢ちゃん達の事が気になるのか?」
ドイルさんが俺のとなりでお茶を飲みながら話しかけてくる。
「え?いや、話の内容が何かヤバそうな感じがしたんで、キャリーさんやシオンさんに変な影響がなければいいなーとか思っているだけです」
「ガハハハ、マローマのアレはもうダメだな。ありゃあ病気だ、本人は上手く隠しているつもりらしいがな」
ドイルさんにしては珍しく。スッゴイ小声で話している。小声なので耳を近づけて訊いているとまた、離れた席からあの声が聞こえてきた。
「ウホッ」
確かにアレはもうダメだな。完全に腐っちまってる。放っておこう。
俺が疲れた顔でため息をついていたら普通の声でドイルさんが話しかけてきた。
「そんな事よりこの件を引き受けてくれてありがとうな」
「いえ、お礼を言いたいのはこちらですよ。教えてもらわなかったらきっと知らないままになってしまったかもしれないのですから」
この世界にはテレビやラジオもない。大きな事件は後になって噂になって伝わって来る、しかし、正確に伝わって来る事は少ないのだ。
ドイルさんは俺の話に嬉しそうに笑いながら話した後真面目な顔になって続けた。
「ガハハ、ありがとうよ。ヒデの事だ、多分気が付いていたと思うが、病気を広めない為の処理をあいつ自分から言い出したんだ」
「自分で?その国の王様に言われたとかじゃなくてですか?」
「まあ、あいつが言わなくても多分王様が頼んできただろうけどな。勇者なんて言われてるがやってる事は誰も引き受けたがらない危険な仕事をこなせる奴の事なんだよ」
ドイルさんは最後の方は苦虫を噛み潰したような顔をしながら話している。その後、ため息をついてケヴィンさんの方を見ている。
俺はその行動を見て自然とこんな事を訊いてしまった。
「ドイルさんってケヴィンさんと組んで長いんですか?」
「ん?そうだな。長いぞー、なんせアイツが勇者様なんて呼ばれる前からだからな」
「そういうのって生まれた時から決まってるものじゃないんですね?」
「そうだな。どんな選び方をしているのかは知らんが女神様の天啓があって選ばれるんだ」
あのチョロイン女神サマがねー。俺は何となくあのチビっちゃいジト目の女神様がサイコロを転がして決めてる場面を思い浮かべた。
いやいや、流石にそれはないだろ?
ドイルさんは俺が急に首をブンブン振り出したのに少し驚いてからちょっと懐かしそうな顔をして話し出す。
「ガハハ、しかし、ヒデはあいつに似ているな。いや、素の方のな」
「あ、やっぱりあのキャラクター作ってるんですか?」
「ああ、そうだな。どの国も勇者のバカみたいな戦闘能力を欲しがるからな。ああやってバカな振りでもしてないとやっていけないそうだ」
「ん?じゃあ、キャリーさんに抱き着こうとしたのも演技なのかな?」
ドイルさんは楽しそうに笑って俺の背中をバンバン叩きながら話し出す。
「ガハハ、答えから言うと多分そうだ。それでな何でそんな感じになったかっていうのを話してやるよ」
そう言って話し出したドイルさんの話は大体こんな感じだ。
さっき言ったように勇者を自国に取り入れようとしてくるので、王族や貴族のパーティーなんかは極力断ってはいるのだがどうしても断れない事もあるらしい。
その時もその一つで国の依頼でモンスターの討伐をした勇者PT全員が呼ばれた。
そして、その時PTに臨時で入っていたキャリーさんもいたそうだ。
いつもの様に勇者ケヴィンが女性たちに囲まれてあのキザッタらしい喋り方でいなしていたらしい。そして、押しても引いても何も引っかからないとなると今度はいつも一緒にいるPTメンバーの同性に嫌味を言いに来ると言うのが通例らしい。
まあ、ビャッカさんはあんな感じだから大体がマローマさんに向くそうだ。
マローマさんは、ある程度は我慢するのだが、面倒くさくなるとそこら中に殺気をばらまくらしい。
勇者PTにいるような人の殺気をまともに受けたお嬢様が平気なはずもなく、大体が気絶するか怯えて失禁をしてしまうというまさに地獄絵図になるらしい。
たが今回の標的はキャリーさんに絞られた。
まあ、キャリーさんのあの外見だしそうなるだろうな。
しかし、そこは流石の元公爵令嬢だ。完璧な作法、話し方、しぐさなど非の打ち所がなかったらしい。しかもキャリーさんは王族の教育まで熟していた人だ。そこいらの貴族など簡単にあしらっていたようだ。
その姿を見てケヴィンさんがキャリーさんに突然抱き着いてきた。
突然の事にキャリーさんは反射的にケヴィンさんの顔面をはたいたそうだ。それからキャリーさんの一撃で何か扉が開いたと言い出し、それ以来キャリーさんに叩かれたいとか言いだして、各国の良い寄って来る女性達を相手にもしなくなったそうだ。
まあ、今までの話を訊いていると。その時ケヴィンさんが一計を案じての行動だったのだろう。
あの抱き着いたのもどこに間者がいるか解らないからだそうだ。
そんな訳だから安心してくれ。ドイルさんはそう言って話を締めくくった。
よかった、キャリーさんが逃げ回らなくても良いようだ。
しかし、本気で怯えてたキャリーさんを見れたのは貴重な体験だったなー。
++++++++++++++++
お読みいただきありがとうございました。
さてこの場をお借りして少しご報告をさせていただきます。_(_^_)_
この世界の平均寿命を頑張って伸ばします。の二巻が七月の下旬に発売決定になりましたー。
これもすべて皆様のおかげです。
私のつたない文章を読む辛抱強さ。そして、卓越した読解力をお持ちの皆様のおかげです。
本当にありがとうございます。
近況ボードにも書いておきますのでお手隙の時にでもお読みください。
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