151 / 185
3章
勇者 その14
しおりを挟む俺は一番近くの布団に横になっているおばあさんと、おそらく旦那さんであろうおじいさんに近づいて話しかける。
「俺は回復師のヒデです。おばあさん、具合はどおですか?」
「ん?首の所に数字が出てる以外何ともないんだけどね?なんか兵隊さん達が、これは死んじまう病気だからここで休んでいろって言うからいるけど本当なのかい?」
横にいるおじいさんは心配そうにしているが当人のおばあさんは半信半疑で聞いてくる。
「うん、首の数字が減っていって三とか二になったら動けなくなるくらいになっちゃうんだよ。おばあさんの首の数字はいくつですか?」
「四じゃよ。この病気は治るのかのう?」
俺の問いに隣にいるおじいさんが先に答えた。
そのおじいさんに向かってニッコリと笑ってから答える。
「はい、治りますよ。じゃあ、おばあさんは横になって楽にしていてね」
そう言ってから俺の斜め後ろにいるブノワさんに声をかける。
「ブノワさん、このおばあさんのお腹の辺りを魔力を込めて見てもらえますか?」
「ん?魔力を込めるように?」
ブノワさんが不思議そうにこちらを見てきたので、もう少し説明を付け足した。
「あー、こう、注意深く見る感じで。いつもは糸が見えるんですが今回のは少し太い感じの紐っぽいのが見えると思うのですが‥‥‥」
「ムムム、ん?おお、見えたぞなんとなく禍々しい感じがするのう」
「はい、見えたらその紐のようなものに手を添えて「ブレイクスペル」と呪文を唱えます。イメージ的にはこの紐の中に自分の魔力を注入する感じです。そこからこの魔力事破壊する感じで」
「ふむ、わかった。やってみよう」
暫らく目を瞑って集中しているとゆっくりした口調で呪文を唱える。
「ブレイクスペル」
しかし何も起きなかった。
「ふむ、魔力の同調が少し難しいのう。しかし今ので感じは掴めたぞ。もう一度だ」
そう言ってもう一度同じ様にやり始める。すると今度は上手くいき呪いが壊れていった。
寝ているおばあさんの首筋の数字も消えている。
「おお、ばあさんの首の所の数字が消えたぞ」
おじいさんが大喜びで大きな声を上げる。
俺が一応診断スキルで確認したところ問題なく解呪出来ていた。
ブノワさんがあごに手を当てて考えていたが急に興奮したように話し出した。
「うむー、素晴らしい。単純だが直接魔力干渉するだけで破壊してしまうとは……むう?そうか、光属性か、なるほど、ふむふむ。ヒデ殿この魔法は素晴らしいですな。多少魔力コストはかかるが魔力の入れようで強力な呪いも解呪できるかもしれない。素晴らしい」
「チョ、チョット落ち着きましょう。まだ患者さんはいますので皆さんを治してから話をしましょう」
「おっと、そうだった。つい年甲斐もなく浮かれてしまった。申し訳ない」
それから二人で集会場にいる患者さんを治していく。
患者さんの中に小さな子供達も数名いた。ゲン達よりも小さい子達だ。
首の数字がまだ四や五なので自覚症状もない。加えて友達が集会場に集められてお泊りのような状態に浮かれて大騒ぎしている。母親たちが言い聞かせてもその場は治まるのだが、またすぐに走り回りだす。
見ていて微笑ましいのだがジッとしてないので治療が出来ない。ブノワさんもチビっ子を追いかけているが逃げ回っていて、遊んでもらっている感覚のようだ。しまいには隠れてしまった。
まあ、大きいといっても隠れる場所なんかあまりないしゴソゴソと動く音や話声がするので何所にいるかはすぐわかる。
母親たちが見るに見かねて子供達を叱ろうとしていたが、良い事を思いついたので任せてほしいと言って、子供達が隠れているだろ場所に近くまで行く。
そこで俺の頭の上で外で騎士アラットと同じ顔発言でぐったりとしている、ライジンとミズチに声をかける。
「二人共子供達の気を引いておいてくれないか?その間に子供達の治療をしちゃうから」
その言葉にライジンとミズチが素早く反応して立ち上がる。
「主殿のご命令なら喜んで」
「待ってましたー。私に任せてよねー」
ライジンとミズチはそう言うと子供達が隠れている木箱の前に飛んでいく。
「さあ、子供達、私の魔法を見せてあげるわよー」
ミズチがそう言うと自分の周りに子供の拳ぐらいの水玉を沢山出すと、そこら辺の空間をランダムに飛び回させる。
「よし次は俺の番だな」
ライジンがそう言うと空中に向かってガウッと短く叫ぶと、ミズチの出した水玉が色々な色に光り出した。
ミズチの出した水玉で、一番小さな子が嬉しそうに飛び出して来て水玉を掴もうとしている。
他の子もウズウズしていたが、ライジンの魔法で綺麗に光り出した水玉を見て、他の子共達が全員飛び出てきて水玉に夢中になっている。
ミズチが子供達を一か所に集める様に水玉を誘導してくれているので、そのスキをついてブノワさんと二人で子供たち全員の解呪も完了させた。
その後ライジンとミズチは子供達に引っ張り回されていた。
「回復師様、ありがとうございます」
「ありがとう」
「「「回復師のお兄ちゃんありがとう。おじさんもありがとう」」」」
「「「「精霊ちゃん達もまた着てねー」」」」
解呪した村人たちがお礼を言ってくる。
「皆さんは症状が軽かったので身体の負担は少ないと思いますが、身体の調子の悪い人は言ってくださいね」
皆にそう言ってからブノワさんと話す。
「流石ですねー直ぐに覚えてしまいましたね」
「ハハ、この魔法の構造が極限までに簡易化されているおかげですな。それと、とてもイメージしやすい説明のおかげですよ。しかし、本当に見返りは良いのですか?この魔法おそらくヒデ殿のオリジナル魔法であろう?」
「え?いや、そう言われるとどうだろ?まあ、それよりこの魔法をしっかり広めて下さいね。それと、今回の病気はまだまだ広がっていると思います。俺も勇者様が戻られたら、この森の周辺の村や集落を回りたいと思っています」
ブノワさんが俺の言葉に少し厳しい顔になった。
「わしも同意見じゃ。ワシはこのまま領主様がいる街まで戻って弟子たちに今の魔法を教え、街に治療に出ようと思う」
おお、弟子とかいるのか回復師の数が増えるのは助かる。
「わかりました。街の方はお任せします。俺も周辺の村や集落が終わったらそちらに行きます」
「はい、お待ちしていますぞヒデ殿」
20
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。