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3章

勇者 その18

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 空気が淀んでいた洞窟から外に出て深呼吸をすると、MP切れで鈍い痛みがした頭が少し楽になった気がした。

「お師匠様、ケヴィンさんが戻られるまで少しお座りになって休んでいてください」
キャリーさんがそう言って後ろから肩に手を置く。

俺は言われるままに丁度いい大きさの岩に腰かけた。

口から溜息が出る。

自分で思っているより身体に負担がかかっているらしい。このまま寝てしまいそうになる。
ウトウト仕掛けた時ケヴィンさんが洞窟から出てきた。
「オーイ、移動するなら言ってくれよ。テレポートして皆いないから焦ったよ」
元気に話しながら小走りでやって来る。

この人もテレポートだの戦闘だのでMP使いまくってるのに元気だよな?体力の差か?
そう考えながら自分とケヴィンさんにMP回復の魔法フレッシュをかけた。

「おお、ありがとうヒデ君。調子悪そうだけど大丈夫かい?」
「ハハ、ちょっとMPの使い過ぎですから少し経てば治りますよ」
「そうかい?それならいいけど。まあ、今から行く街はこの領で一番大きな街なんだけど、そこは領主の回復士達が総出で街の人達を診ているらしいから出番はないかもね」

 ブノワさんが頑張ってくれているのだろう。

今回の一番の幸運はブノワさんと会えたことだな。

そんな事を考えていたらケヴィンさんがそこにいる人達全員に声をかける。
「さあ、行くよ。森の周辺の街や村はそこが最後だ。他からは同じ様な状況の報告は上がって無いから、はっきりはまだ言えないけど次が最後のはずだ」

そう言うとみんなを見回してから軽く頷く。その言葉と行動に何やら気力がわいてくる。

 流石と言うかPTのリーダーと言うのはこういった細かい事にもキチンと気を配れる人がなるものなのだな。
まあ、この人はこの世界でただ一人の女神様が選んだ勇者なのだから当然か。

言った後あのジト目の女神サマが思い浮かんだが首を強く振って打ち消した。

そんな事を考えていたせいでテレポートをかけたのに気付かず腰かけたままの体制で街のど真ん中にテレポートしてきた。そして見事にお尻を石畳の上に打ち付ける。

「イテテ、ここは?ケヴィンさんがさっき言っていた街かな?」

立ち上がりながら周りを見渡すと、広場の一角に大きな倉庫のような建物の扉が大きく開けられ人がひっきりなしに出入りをしていた。

「ケヴィンさんあそこは?」
「あの場所であの呪いにかかった人達の情報や回復士を向かわせたりしているよ。もうかなり沈静化してきたらしいけど」

話ながら歩いていると中からブノワさんが飛び出してきた。

「おお、ヒデ殿。貴方のお陰で領主様のご子息は元気になりました。街の人達も順調にいってますぞ。今のところ数字が一の人は見つかっていません。先ほどケヴィン様にお聞きしたところヒデ殿は一になった患者を治したと聞きました。その辺をよろしければ詳しくお聞きしたいのですが」
ブノワさんは俺の手を握りしめ、一気に話し出した。

 俺と勇者様一行はブノワさんに建物の奥に連れていかれた。

ブノワさんからは街に戻ってから今までの経緯を話してくれた。

 街に戻って直ぐに領主様のご子息を治すのを弟子たちに見せ。簡単な手ほどきをしてからこの場所を本拠地にして、地区ごとに効率よく治療をしていったらしい。
ほぼ、終わりらしいのだが、どの街にも必ずあると言ってもいいスラム街一角がまだ手付かづでいるらしい。
 
 俺の方からはこれまでの事と病魔の呪いについてわかった事、呪いの数字がゼロになった時、次に呪いにかかる人はその人がかかってほしくないと思う人である事。

そしてもう一つ付け加える。スラム街に呪いの患者がどれだけいるかわからないが治療できないとまた広がり今度は呪いがどこに飛んでいくのかが予想がつかなくなる事。

「ヒデ殿今の話は本当ですか?いや、ヒデ殿がいうのだから間違いないのでしょう。これはまずい事になった」
「ん?どうしたのですか?スラム街が危険なら衛兵とかと一緒に行けばいいのでわ?」
「うーん、ここのスラム街はちと厄介でして」と切り出して話してくれたが要約すると。

 今の領主様の先代が十数年位前にこの街のスラム街を排除しようとして、兵を使って力押しにした結果失敗に終わり、それ以来スラムの人達と街の人達で対立してしまっているらしい。さらに暗黙の了解で不可侵条約みたいなものが出来ているので簡単にスラム街に立ち入れないらしいのだ。

 俺達に説明してくれたブノワさんは席を外して領主様に報告に行った。

ブノワさんが退室した途端、机の上に足を置いて椅子を傾けて揺らしているマローマさんが呟く。
「アレだね?スラム街だけ呪いを治さないでスラム街だけ潰す計画とか立ててたのかな?」
「マローマ、言っていい冗談じゃないぞ?」
ケヴィンさんが即座にマローマさんに向けて言う。

マローマさんは肩をすくめておどけた声では話す。
「はーい、ボスの仰せのままに」

少し空気が悪い中で待たされているとブノワさんが戻って来た。
「お待たせしました。スラム街の長と話し合いが出来るように何とかします。話が決まり次第、私が代表者として行ってきます」
ブノワさんは神妙な顔つきで話している。

 しかし、今回の説得で適した人物は、この病気について詳しい人、武力を持たない人、そしてこの街の部外者である事が一番適しているだろう。

俺はゆっくりと立ち上がるとブノワさんに向かって話す。

「いや、俺が行きます。俺ならこの街とは部外者だし、この病気に一番詳しい。それに弱そうだしね。誰も警戒しないよ」
「お師匠様が行くんでしたら私もついて行きますわ」
キャリーさんが急いで立つ。

うーん、確かに見た目は良家のお嬢様だけど、見る人によっては強さがすぐわかっちゃうしなー。
その事を悩んでいたらブノワさんが急いで反対をしてきた。

「いやいや、何を言っておる。ヒデ殿はまだお若い、それにきっとこの世界において活躍なさる人じゃ。何が起こるかわからんしな、ここはこの老いぼれにお任せくだされ」
「いえ、この街の部外者が行く方が話が早いはずです。それにキャリーさんがいてくれれば安全ですし、治療も出来ますから」
「しかしそれでは……」
すんなりと引き下がらないブノワさんにケヴィンさんが話す。

「大丈夫ですよ。我々がコッソリとついて行きますから心配するような事は起きませんよ」
その一言でやっとブノワさんが引き下がった。
でも最初の交渉の時は絶対に行きます。と付け加える。

俺の頭の上では三人の守護獣が大暴れしている。
「俺達が守るから大丈夫だよ」
「僕がいれば平気だし」
「私もやるわよ」
ハハ、まあ、いざとなったら守ってもらおう。




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