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3章

勇者 その21

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 詐欺だ――!

もちろん声に出してないよ。頭の中で叫んだんだけど。
心配顔の美女の目がジト目の見慣れた目になると俺を支えていた手をパッと放して脳に直接語りかけてきた。

”詐欺じゃないですー。ヒデさんはそこで休んでてください。”

 俺は支えが無くなって咄嗟に足を踏ん張ろうとしたが、足に力が入らず尻もちをついてしまった。
まあ休んでいろと言われるまでもない、立てもしないからここで座っていますよ。

そこに、ケヴィンさんがチョロイ……ゴホン、女神エリルの前に膝をついて話し出した。
「女神エリル様、ご無沙汰しております。ケヴィンです」
「……久しいですね。勇者ケヴィン」

何か今変な間がなかったか?まさか女神様忘れてたのか?

”忘れてないですー。ケヴィンのこれまでの行いを見返してたんです。断じて誰だっけ?とか思ってません”

わ、解りましたから。脳に直接話しかけるのやめて下さいよ。何か頭をかきむしりたくなるような感じがするので勘弁してください。

 暫らく見慣れたジト目でこちらを睨み付けていたが、ケヴィンさんに再び話しかけられたので急いで微笑を浮かべケヴィンさんの方に向いた。
「あ、あのエリル様?」
「ゴホン、勇者ケヴィン、数々の難しい事件をこの世界の為によくぞ解決してくれました。今回の事もよく考えあきらめないで行動しました。そして、最善の答えであるヒデさんにたどり着きましたね。勇者ケヴィン、やはり貴方に決めて良かった」
「ありがとうございます。しかし、私一人では何事も成し遂げなかったでしょう。仲間がいたおかげです」
ケヴィンさんはそう言って自分の後ろで膝をついて頭を下げている仲間達に振りかえる。
「フフ、そうですか。ではその者達にも祝福を」

 そう言っていつもの杖を小さく振るとドイルさん、マローマさん、ビャッカさん、それにキャリーさんも身体がほんのり光った。

 そこで初めて気が付いたんだけど、周りにいたスラムの人達とかブノワさんと数人のお供の人達とか、全員ケヴィンさん達みたいに片膝じゃなくて土下座の様になってる。俺だけ体育座りしてる。
いや、だって身体動かないんだもんしょうがないよね。

そんなアホな事を考えていたらスラムの人達の中から、顔を上げずに震えてはいたが大きな声で話しかけてい来た。
「め、女神エリル様、な、何故、私の兄を救ってくれなかったのですか?」

その質問に周りの人達が驚きながらも、誰も止めようとしない所を見ると、みな同じ事を訊きたいのかもしれない。

女神様は真面目な顔になってゆっくりと近づいて行き、スラムの人達の目の前まで行くと話し出した。
「我が子。ベン、そして、ジム、リーアム、カドル、私はこの世界に直接手を出す事は出来ません。だから、せめてあなた方の苦しみを和らげましょう」

 そう言って今度は杖で地面をコンコンと小さく叩く。するとそこに四つの火の玉?が現れた。その玉は赤ではなく青白い光を放っている。

 女神様が今度は杖を小さく振るとその火の玉が半透明な人の形になった。

それを見ているとスラムの人から最初に名前を呼ばれたベンさんかな?が声を上げた。
「に、兄さん?兄さんかい?ああ、また会えるなんて、信じられない」
「ん?ベンか?おお、なんだよデカくなったなー、いや少し老けたな。ハハ」
「本当に兄さんなんだよね?」
「おお、俺だよ。そんな事より女神様から聞いたぞ。俺の事で復讐をしようとしてるんだって?まったく、お前は昔から考えすぎなんだよ。そんな事考えてないでお前の夢だった料理人になれよ。俺はお前を守れて満足してるんだぜ」

他の四人も同じ様にみんな話をしていた。

カドルさんが大柄の女性と話している。
「スマン。守れなかったな」
「ハハハ、何言ってんだい。あの時スラムのみんなお守ったじゃないか。わたしゃ今でもアンタを誇りに思っているよ」
「しかし……」
「そんな事より。女神様に聞いたよ、こんな事して何やってんだい。あの時のみんなを守ったアンタはどこ行ったんだい?守るべきスラムのみんなを危険にするなんて。しっかりしとくれよ」
その言葉にカドルさんは下を向いたまま答える。
「スマン。スマン、ワシはもうあの時の様には出来ん。あの時はお前がいてくれたから出来たんじゃ」
「出来るよ。アンタなら出来る。アンタ一人で出来ないならここにいる奴らに力を借りな。みんな死ぬ気だったらしいじゃないか。だったら死ぬほど頑張りな。そうだろみんな?」

カドルさんの奥さんはまさに肝っ玉母さんって奴だな。その奥さんがみんなに声をかけると半透明の人達が笑いながら答える。
「おう、そうだそうだ。ベンお前少しでもスラムのみんなの生活が良くなればってよく言ってたじゃないか。カドルさんに手をかしてやれよ」
他からも同じ様な声がかかる。

 その時半透明の人達が足元からキラキラと砂の様に崩れていく。

「おっと、もう時間だね。アンタ、みんなの事を頼んだよ。あんたがこっちに来た時また話を聞かせておくれ」
「ああ、ああ、もちろんじゃ。必ずやり遂げてそっちでまた惚れ直させるくらいの話してやるからな」
「ハハハ、頼もしいねー。じゃあ楽しみにしてるよー」

カドルさんは初めてあった時とはまるで別人のような目をしていた。

他の人達も同じ様にイキイキした目をしている。

 カドルさんがみんなを代表してさっきと同じ様に膝をついて深く頭を下げながらお礼を述べていた。

「女神エリル様、このような奇跡を我らの為にありがとうございました」
「「「ありがとうございます」」」

「良いのです。あなた達に思い出してほしかっただけですから」
そう言って微笑む。

おお、なんか女神様っぽい。

”女神です”

くっ、また脳に直接……

++++++++++++++++++++++++++++
遅くなって申し訳ありません。

ちょっと仕事がゴタゴタしていて間隔があいてしまいました。

それと今月の終わりにこの世界の平均寿命を頑張って伸ばします。の三巻が発売されますーー。
今回も結構加筆しましたので話が加算されてますよー
それと私自身大好きなブルースさん、スミーさんと院長先生の話が載ってますのでとても嬉しいです。
しかも、かわすみ様のキャラクターデザインが秀逸です。チョーーカッコイイんですよ。
ブルーさんとかスミーさんが想像以上の渋さと言ったら。ため息が出ちゃうほどカッコイイんですよ。

ビッグホーンとかホーンラビットとかもう凄くカッコイイですし。

読んでいただきありがとうございました。_(_^_)_

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